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第12話「王都からの使者」

 それから数カ月が過ぎたある日。

 店に、明らかに場違いな身なりの男が現れた。

 仕立ての良い服に、嫌味なほど光る装飾品。王宮の使いだ。


 男は店内を見回し、鼻をつまむ仕草をした。


「なんというむさ苦しい店だ。ここに、元宮廷料理人のガンツがいると聞いてきたのだが」


「俺だが」


 俺が包丁を置いて答えると、男は俺を見てニヤリと笑った。


「おお、生きていたか。国王陛下がお呼びだ。王都へ戻る許可が出たぞ」


「は?」


 男の話によると、こうだ。

 俺がいなくなってから、王宮の食事は味気ないものになり、兵士たちの士気も下がってしまった。

 最近、北の辺境で兵士たちが異常なほど強化されているという噂を聞き、王が調査させたところ、俺の料理が原因だと判明したらしい。


「あの『野蛮な肉料理』が、軍事的に有用だと再評価されたのだ。喜べ、王宮に戻れば料理長にしてやると仰せだ」


 男は恩着せがましく言った。

 俺はため息をついた。

 王は何もわかっていない。俺の料理は、兵器ではない。

 美味いものを食わせてやりたい、その一心で作るからこそ、力が宿るのだ。


「断る」


「なっ……正気か!? こんなド田舎で一生を終えるつもりか!」


「ここには、俺の料理を心から待ってくれる客がいる。それに、俺自身がここの暮らしを気に入っているんだ」


 俺は鉄板の上で焼いていたハンバーグをひっくり返した。

 香ばしい匂いが立ち昇る。

 使者の男が、思わずゴクリと喉を鳴らしたのを俺は見逃さなかった。


「帰って伝えてくれ。俺はここで、世界一美味い定食屋をやると」


 男は顔を真っ赤にして何か言いかけたが、周囲の客――屈強な冒険者たちがギロリと睨みつけたため、すごすごと逃げ帰っていった。


「いいんですか、ガンツさん? 料理長になれたのに」


 セリアが心配そうに聞いてくる。


「興味ないね。俺にとっての栄誉は、お前らが『ごちそうさん』と言ってくれる、その一言だけだ」


 俺が言うと、店中の客が一斉にジョッキを掲げた。


「違いない!」

「ガンツの飯は世界一だ!」


 俺は照れ隠しに、鍋を力強くかき混ぜた。

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