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第11話「辺境に響く幸福の咀嚼音」

 祭りの翌日。

 街は平和な朝を迎えていたが、俺の店「食堂ガンツ」の前には、開店前から長蛇の列ができていた。


 昨日の戦いで俺の肉の味を知った兵士や冒険者、そして噂を聞きつけた一般市民たちだ。

 店の修理もまだ終わっていないというのに。


「押すな押すな! 並べって!」

「昨日のステーキ、忘れられなくて……」

「俺なんか、夢にまで見たぞ」


 客たちは目を血走らせて開店を待っている。

 完全に餌付けされてしまったようだ。


 俺は苦笑しながら、仕込みを急いだ。

 昨日のスタンピードで大量の食材が手に入ったため、在庫は潤沢だ。

 今日はキングブルの余った部位を使った「牛すじ煮込みカレー」と、サイクロプスの舌を使った「厚切りタンシチュー」を出す予定だ。


 開店と同時に、店は満席になった。

 セリアが休日返上で手伝いに来てくれている。彼女の手際も良くなってきた。


「はい、タンシチューお待ち!」


 ドン、と置かれた深皿。

 デミグラスソースの海に、巨大なタンが鎮座している。

 スプーンで触れるだけでホロリと崩れるほど、じっくりと煮込んだ逸品だ。


 客が一口食べる。

 店内に静寂が訪れる。

 そして、深いため息と共に、はぁぁぁ……幸せだ、という声が漏れる。


 俺は厨房からその様子を眺め、静かに頷いた。

 これだ。

 俺が見たかったのは、この顔だ。


 王宮では、王の顔色をうかがい、音を立てずに食べることがマナーだった。

 だが、ここでは違う。

 誰もが大きな口を開け、咀嚼音を響かせ、皿まで舐める勢いで食べる。

 そこには、生きる喜びが詰まっている。


「ガンツ、我の分はまだか?」


 ルルが調理場の裏口から顔を出す。

 すっかり街の人気者になった彼女だが、俺の前ではただの食いしん坊だ。


「わかってるよ。特盛だ」


 俺は鍋の底から一番大きな肉をすくい上げ、ルルの皿に入れた。

 ルルは尻尾をブンブンと振りながら、ハフハフとシチューを平らげていく。


 この騒がしくも温かい場所が、俺の新しい居場所だ。

 もう、どこへも行く気はなかった。

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