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首なし西瓜(二)

この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

テクノロジーパークの昼休み。 莊駿佐ジャン・ジュンズォは自分のデスクで弁当をかき込みながら、愉快な手つきでキーボードを叩き、午後の休憩を謳歌していた。


客観的に見て、駿佐の容姿は悪くない。シャープな輪郭に整えられた髭、笑うと今流行りの韓国アイドルのような風貌になる。 このイケメンエンジニアが数ヶ月前に入社して以来、他部署の女性社員たちの注目を集め、男ばかりのエンジニア部門には珍しく、異性からのアプローチが絶えなかった。


時代は変わり、今の女性は実に積極的だ。 秘書課の清楚な女性社員が、早速駿佐に猛攻を仕掛けたのだが……。 結果は、無残な敗北だった。


「ひゃあああああ!」


エンジニア部門の紅一點、陳宇潔チェン・ユージェは、またしても他部署の女性が顔を真っ青にして逃げ出していくのを目撃した。彼女は溜息をつき、隣に座る駿佐を眺めた。


當の本人は、不気味なホラー動畫を眺め、コメディ映画でも見ているかのような満面の笑みを浮かべている。宇潔は改めて確信した。 (彼女のいないイケメンは、大抵どこか病んでいるわね……)


「……そういうところよ、あんたに彼女ができない理由は」


宇潔が声をかけると、駿佐のモニターではちょうど女靈がヒロインの足首を掴み、叫ぶ彼女を闇の深淵へと引きずり込んでいる特寫が流れていた。なかなかにエグい映像だ。先ほどの彼女が悲鳴を上げて逃げたのも無理はない。


「彼女なんて必要ないね」


駿佐はヘッドホンを外し、平然と言い放った。宇潔は心の中で盛大に白目を剥き、皮肉たっぷりに返した。


「はいはい、そうね。あんたは郁佑ユーヨウとデキてればいいわよ。いつか郁佑に彼女ができたら、あんたのその趣味に誰が付き合ってくれるか見ものね」


「おいおい、手厳しいな。ホラー映画の研究がそんなに悪いかよ? 人の趣味を腐す前に、あんたの趣味はどうなんだ? 高校時代、エロ漫畫ばっかり読んで俺と郁佑を勝手にカップリングしてただろ。どっちが攻めでどっちが受けだとか、橫でニヤニヤしやがって。そっちの方がよっぽど神経疑うぜ」


「エロ漫畫の何が悪いのよ! 腐女子で何が悪いっていうのよ! あんたには関係ないでしょ! 私が愛しているのは瑞々しい美少年なの。あんたみたいな『古びた酸っぱい肉』に目をつけた当時の私はどうかしてたわ」


「誰がこんなブスに惚れるかよ!」 「反論してくる奴が、そうだって決まってるのよ!」


この駿佐と顔を合わせるたびに喧嘩をする女性、陳宇潔は、郁佑と駿佐の大學時代の後輩であり親友だった。 當時は黒縁メガネをかけた大人しい文化系女子に見えたが、一度スイッチが入ると駿佐に劣らぬ奇策を繰り出す曲者だ。


意外なことに、大學三年の時に郁佑から告白されたことがある。 だが、彼女は「ダメよ! あなたは駿佐と一緒にいる方がお似合いだわ!」という荒唐無稽な理由で郁佑を振った。


「あんたのあの冗談のせいで、郁佑が一週間も俺を無視したんだぞ」


「冗談じゃないわよ! 私は本気で二人がお似合いだと思ってるんだから。……ふふん、今も郁佑が休暇で戻ってきたら、あんたは『可愛い嫁』みたいに彼にべったりなんでしょ? 一緒に飯を食って、バスケして、家に帰って、お風呂に入って……郁佑のベッドに潜り込んで、それから二人は――」


「おいおい! 止めろ! 行き過ぎだ!」


二人の痴話喧嘩が止まった時、駿佐のチャットツールに通知が届いた。 ネット上の怪談コミュニティの仲間からのメッセージだ。宇潔も興味を惹かれて畫面を覗き込む。ダイアログボックスには、短い一言とリンクが貼られていた。


『――頼まれてた資料、見つけたぞ』


宇潔は駿佐の返信を待たず、勝手にリンクをクリックした。 表示されたのは、古い雑誌の誌面をカメラで複寫した、黒背景のウェブページだった。黃ばんで破損した紙面だが、書かれている文字は辛うじて判読できた。


雑誌の誌面には、大きな見出しが踊っていた。 【軍旅の闇!? 禁じられたタブー――】


「……こんなの調べて、どうするつもり?」


「俺じゃない、郁佑に頼まれたんだ。あいつ、最近なぜか怪異に熱心でさ。休暇中も軍の怪談『人頭西瓜じんとうすいか』のことをしつこく聞いてきたんだ。……まあ、夜中にトイレに行くのに俺を連れて行くヘタレなのは変わってないけどな。でも、進歩したと思わないか?」


「あんたに毒されただけじゃない。……でも、莊駿佐。この記事、幽霊とは全く関係ないわよ。何段か読んだけど、当時の軍で揉み消された不祥事についてのレポートだわ」


宇潔の表情から冗談が消えた。


「確かに當時はセンセーショナルだったんでしょうけど……最近じゃ女子の私だって軍の闇が深いことくらい知ってるわ。ほら、これはただの刑事事件じゃない。……この記事を見て」


宇潔が指さした先には、衝撃的な一文があった。


『――哨所での兵士の首吊り自殺、他殺の疑い浮上。一部の知情者が意図的に隠蔽か……』


「……首吊り? どの一段だ?」


「ここよ。見て、三枚目の寫真に色ペンで囲んである場所があるでしょ? こう書いてあるわ。 『――南部の某軍営において数年前、兵士が哨所で情死(自殺)を遂げる軍事案件が発生した。この事件により、現在も営舎内では怪談が絶えないが、当時の関係者が匿名で語ったところによれば、その兵士の死は他殺の疑いがあるという。一部の知情者が意図的に真相を隠蔽しており、こうした部隊内での死亡真相の隠蔽は、全国で毎年数十件にものぼる……』」


陳宇潔チェン・ユージェが読み上げる記事を聞きながら、莊駿佐ジャン・ジュンズォは以前、青土山せつざん軍営について調べていた際に見かけた、小さな新聞記事を思い出していた。 タイトルはたしか「軍の兵士、失恋により首吊り自殺」。内容は、彼女の心変わり(兵變)に絶望した兵士が哨所で命を絶ったというものだった。


(……あまりにも符合しすぎている。この雑誌が追っている南部の事件と、あの新聞記事が。それに、郁佑ユーヨウの言っていたことも……)


「『……自殺案件について、ある匿名者は、死者は本来楽天的な性格であり、失恋による落ち込みはあったものの、決して自殺するような人間ではなかったと漏らしている。証拠こそないが、これは実質的に他殺であると筆者に何度も強調した……』」


宇潔が赤枠の段落を読み終えようとしたその時、駿佐の脳裏に電光石火の閃きが走った。 休暇中の郁佑が語った、あの軍中での奇妙な遭遇。哨所に現れる、うっとうしいけれど怖くはない、居眠りしている後輩を気遣ってくれる面白い幽霊の話。


「……幽霊(鬼)の先輩か!」


駿佐は考えれば考えるほど興奮し、椅子を蹴るようにして立ち上がった。その勢いに、後ろで原稿を読んでいた宇潔は驚いて数歩後ずさった。 駿佐は謝りもせず、そのままオフィスを飛び出そうとする。宇潔は激怒して後を追いかけ、大声で罵った。


「ちょっと白目佐バイム・ズォ! いきなり立ち上がって、心臓が止まるかと思ったじゃない! 待ち分さいよ! どこへ行くつもり? 昼休みはあと十分しかないのよ!」


「腹を壊したから医者に行ってくる! 午後は課長に休暇の申請をしといてくれ!」


「嘘おっしゃい! 私が今読んだ記事で、何か掴んだんでしょ!?」


「あんたには関係ない! 黙って仕事に戻れ!」


「私だってお腹(生理)が痛くて動けないわ! 休みを取るわよ!」


仮病を理由に休みを宣言し合う二人は、言い合いをしながらも結局、駿佐の車に乗り込んだ。 助手席に座った宇潔は、スマホで欠勤のメールを送りながら、駿佐に事情を問い詰めた。駿佐は説明を面倒がり、「首を突っ込むなら覚悟しろ。手伝わないなら今すぐ降りろ!」と突き放した。


だが、宇潔はさらに一枚上手だった。事情も聞かずに「最後まで付き合ってやるわよ!」と豪快に快諾したのだ。


車は図書館へと急行した。 二人は一目散にバックナンバーの保管室へ向かい、軍事案件に関するあらゆる報道や雑誌を山のように積み上げた。南部で起きた「失恋による自殺」というキーワードが含まれる記事を、一つずつ精査していく。


机の上の資料が高く積み上がっていく中、二人は死の海の中から、わずかな手がかりさえも見逃さぬよう、必死に言葉を拾い集めた。


ここなら、きっと見つかるはずだ。 郁佑が語った、あの青土山の「幽霊の先輩」が、本当はどうして死んだのか。その真実の欠片が――。





※※※※





二兵の黄郁佑ファン・ユーヨウにとって、それが幸運か不幸かは分からなかった。休暇を終え、山へ戻るためにタクシーを拾おうとしたその時、同じく帰隊するスン大隊長の車と鉢合わせしてしまったのだ。山の下のバス停は人通りが少なく、丸刈りの軍人は郁佑一人。大隊長に気づかれないはずもなく、郁佑は半ば強制的に閣下の愛車へと押し込まれた。


「閣下……この車、すごく綺麗ですね」


「当たり前だ! 私にとっては妻も同然だからな!」


車内は見事なまでに整頓され、バックミラーや窓はピカピカに磨き上げられていた。シートには工場出荷時のビニールカバーがそのまま被せられている。営舎の外でも、孫閣下の徹底した軍人気質は健在だった。落ち着かない空間ではあったが、どこか憎めない部分もある。不思議なことに、コー一等陸尉の車には神仏の護符が溢れていたが、大隊長の車には交通安全のお守り一つすら見当たらなかった。


車が山道に差し掛かる頃には、辺りは夕闇に包まれていた。旅の疲れからか、郁佑は自分でも驚くほど安穏と後部座席で眠りにつき、そのまま青土山せつざんの門前まで運ばれた。大隊長は車を停めてエンジンを切ると、熟睡している小兵を揺り起こそうと手を伸ばし、無意識に郁佑の右腕にある刺青に触れた。


その瞬間、孫閣下の掌に熱い電流のような感覚が走り、遠くから奇妙な音が響いてきた。


その音は、彼がかつて軍学校時代に耳にした、いじめられた後輩たちがトイレに閉じ込められ、殴る蹴るの暴行を受けていた際の悲鳴に似ていた。だが、あの時は一人の声だったが、今は何十もの声が重なり合い、旋回するように近づいたり遠のいたりして、全身の毛を逆立たせた。大隊長が郁佑から手を離すと、その不気味な響きは嘘のように消え去った。


(……一体、何なんだ?)


孫閣下は無防備に眠り続ける郁佑を見つめた。この新兵が細工をしているとは考えにくい。何より、今の音は車内から響いたものではなかった。 (なぜ、この二兵に触れるたびに不可解なものが見え、聞こえるようになるんだ? これが世間で言う「幽霊」なのか? だが、テレビで見る幽霊とは似ても似つかぬ、あの黒い蠢く塊は何なんだ……)


孫閣下は郁佑が起きるのも構わず、彼が隠し持っている「秘密」を暴こうと服を捲り上げ、あちこちを弄り始めた。その無礼な感触に飛び起きた郁佑は、寝ぼけた頭で「変質者だ!」と直感し、反射的に拳を突き出した。その一撃は、あろうことか孫大隊長の右目にクリーンヒットした。


痛みに悶え、顔を押さえてうずくまる大隊長を見て、郁佑は真っ青になった。


「クソッ……! 貴様、黄郁佑! 大隊長を殴るとは何事だ!」


「ほ、報告します! 閣下、それは……いいえ、違います!」


郁佑が慌てて駆け寄り、閣下の顔を覗き込んだ。大隊長が手を離すと、そこには見事な「パンダの目」のような青アザが出来上がっていた。郁佑は一瞬固まり、それから必死に笑いを堪えたが、口元がプルプルと痙攣するのを止められなかった。


「黄郁佑……貴様、笑うな。笑ったらタダでは済まさんぞ!」


「ほ、ほ……ぷっ、報告……ぷぷっ……」


大隊長は二兵にパンダにされた屈辱に震えながらも、必死に深呼吸をして自分を落ち着かせた。ふと、郁佑の右腕の袖が捲れているのが目に入った。そこから何かが覗いている。


「……黄郁佑、その右腕のものは何だ?」


「え? ああ、これはお守りの刺青タトゥーです」


郁佑が袖を捲り上げると、そこには腕を覆うほどの経文がびっしりと彫られていた。大隊長は(これか……原因はこれだったのか)と確信し、アザの痛みも忘れて郁佑の腕を力強く掴んだ。先ほどと同じ熱い感覚が掌に伝わり、同時にあの不気味な悲鳴が再び室内に満ちた。


「……貴様、何か聞こえないか?」


「聞こえる……? 何がですか?」郁佑は困惑して聞き返した。


「奇妙な音だ。いや、いくつもの声が聞こえる」


「閣下、脅かさないでくださいよ! 僕はそういうのが一番苦手なんです。以前、柯一尉も言ってました。なぜか閣下が僕に触れると霊が見えるようになるって。……何か見えてるんですか!? でも、僕には何も見えませんよ!」


「……私が触れると見えるようになる。なぜその重要なことを私に言わなかった?」


「それは……」


「……ほう。もし私がその事実を知れば、貴様を心霊スポットの奥深くまで連れて行くとでも思ったか? 図星だな、黄郁佑」


「……図星だな」 スン大隊長に全てを見透かされ、郁佑ユーヨウは冷や汗が止まらなかった。 (自分のバカ。なんであんなに喋っちゃったんだ。これで終わりだ。僕の平穏な軍隊生活、さようなら……)


絶望する郁佑を見て、大隊長は溜息をついた。 「おい。貴様、私が幽霊を探せと言った意味を、最初から勘違いしているんじゃないか?」


「……一番凶悪で、兵士が泣いて母親を呼ぶような幽霊を探せって言ったじゃないですか」


「言ったさ。だが、探して何をするか、それも言ったはずだぞ」


「……幽霊と、交渉する」


「その通りだ。なら聞くが、前回の大寝所にいた、あの正体不明の黒い塊と交渉ができると思うか?」


郁佑は力なく首を振った。


「だろう? 幽霊は『最凶』であるべきだが、前提条件として『話が通じること』が必要だ。わけも分からず命を狙ってくるような奴は、ただの酔っ払いと同じで交渉の余地などない! いいか、私が求めているのは、この営舎キャンプの中でもレベルが高く、理性を持ち合わせた幽霊だ。分かったか?」


「閣下……。僕を死なせようとしてるわけじゃ、なかったんですね」


「当たり前だ! 貴様に死なれたら私の進退に関わる。私を失脚させたいのか! ……いいか、私が寛大だからいいものの、大隊長を殴るなど本来なら禁錮きんこ行きだ。もし今日のことを誰かに言いふらしてみろ、その時は本当に幽霊の餌食にしてやるからな」


「報告します! 閣下、死んでも口外しません!」


営舎の門をくぐると、門番の衛兵たちが直立不動で敬礼した。大隊長は軽く手を挙げて応え、大股で坂を登っていく。郁佑はその後ろを、ひたすら俯いて歩いた。不用意に顔を上げれば、この乱葬崗(無縁墓地)跡地の景色の中に、何を見てしまうか分かったものではない。


中隊の建物に戻ると、階段から誰かが降りてくる音が聞こえた。罵声が混じっている。 見れば、阿江アジャン先輩と、営部連(大隊本部中隊)の徐寶シュ・バオ、そして第一中隊(一連)の齊瑋チー・ウェイの三人だった。掃除用具を手に、どこかへ向かうところらしい。


「どうしたんですか?」郁佑が尋ねる。


「気にするな。こいつ(徐寶)が旧倉庫の掃除をサボったのがバレたんだよ。運悪く俺たちも一緒にタバコ吸ってたもんだから、道連れにされたのさ」


阿江が忌々しげに答える。 「公文書を届けた帰りだったのに、人数合わせで連行されるなんて……」と齊瑋はすでに悟りを開いたような表情だ。


「おい、俺だってわざとじゃないって! 掃除は終わったと思ってたんだよ。頼むよ、俺たち『好兄弟(ハオ・ションディ:親友)』だろ?」 必死に言い訳をする徐寶に、阿江が爆発した。


「『好兄弟(あっちの友人)』にでも言ってろ! 深夜の旧倉庫がどれだけ陰気が強いか知ってるのか! クソが!」


郁佑が手伝おうかと申し出たが、阿江は首を振って耳打ちした。 「……バカ言うな。俺は文句を言ってるだけだ。あそこは冗談抜きでヤバい場所だ。お前の体質じゃ、行けば腰を抜かすぞ。お前は今日帰隊(收假)したばかりだろ。中隊の中は人が多くて安全だ、ゆっくりしてろ」


阿江たちが去った後、郁佑は大寝所で自分の荷物棚に向かった。軍服に着替えながら、深い溜息をつく。 外の自由な世界への未練もあるが、ここでの戦い相手は長官だけではない。あちら側の住人たちにも神経を削らねばならないのだ。


消灯時間が近づき、寝所内は賑やかだった。学長(先輩)たちと休暇の土産話を楽しんだ後、郁佑が顔を洗いに廊下へ出ると、突如、背後から襟首を強く掴まれた。


「黄郁佑。……四日間の休暇は、楽しめたかしら?」


第一中隊の女班長、苗筱珺ミャオ・シャオジュンが微笑んでいた。その手は逃がさないと言わんばかりに襟を締め上げている。 美しい笑顔を見た瞬間、郁佑の脳内にあの不吉な言葉が蘇った。 (……人頭西瓜!)


「あ、あの……小珺シャオジュン班長、お疲れ様です……」


「休み前に、私と何を約束したか覚えてるわね?」


「お、覚えてます。……でも班長、一つだけ聞いてもいいですか?」


「何?」


「……どうして『人頭西瓜』なんて、あんな気味の悪いものを探しているんですか?」


郁佑の問いに、苗班長の笑顔がスッと消えた。初めて哨所で会った時の、あの氷のように冷徹な瞳に戻り、抑揚のない声で言い放った。


「……来なさい。無駄口を叩く余裕があるなら、二度と休みが取れなくなってもいいということね?」


「は、班長! もうすぐ点呼(晚點名)が始まります!」


「その心配はいらないわ。あなたの所の小鋼砲(陳班長)には話をつけてある。『今夜、郁佑は私の好きにしていい』とね」


(……死ね小鋼砲! 一生ハゲてろ!)


郁佑は心の中で絶叫し、引きずられるように闇の中へと連行された。


苗筱珺ミャオ・シャオジュンは多くを語らず、郁佑ユーヨウを半ば引きずるように連れ去った。哀れな郁佑は、宝物のような休暇と、班長(小鋼砲)に売られた色恋沙汰への代償として、大人しく彼女に従うしかなかった。 しかし、その一連のやり取りを、影からじっと見つめている男がいた。


「ふむ。あの女、郁佑に目をつけたか。座視するわけにはいかんな。ちょうどいい、私からも彼女にいくつか聞きたいことがあったところだ」


物陰に隠れたコー一等陸尉は、顎を撫でながら手の中にある丸まった紙屑を見つめた。その紙には、幽霊を呼び寄せる「招鬼しょうき紙紮しざ」が描かれていた。最初は単発の嫌がらせかと思っていたが、最近、連舎の至る所でこの呪符がバラ撒かれているのだ。 柯一等陸尉の知る限り、この術を知り得るのは三人しかいない。彼自身と、大隊輔導長、そして第一中隊(一連)の苗筱珺だ。


彼は、この三、四年前に着任した女性班長のことがずっと気にかかっていた。営内には彼女より古参の班長はいくらでもいるが、直感的に「一筋縄ではいかない女だ」と感じていた。彼女は何か、決して人に知られたくない秘密を隠している。


(……二等兵・黄郁佑は閣下の伝令だ。念のため、大隊長には報告しておくべきだろうな) 柯一尉はそう考えると、遠慮のかけらもなく大隊長室のドアを叩いた。


柯魁晉コー・クィジン! ここをどこだと思っている! 私の部屋は貴様の家の庭か! 勝手に入ってきおって! 中隊長を呼べ! 輔導長としての教育をどう受けてきたのか問い詰めてやる!」


スン大隊長は風呂上がりで、軍用アンダーウェアにハーフパンツ、足元は青白のサンダルという格好で公務に当たっていた。最も顔を見たくない男の登場に、怒りを爆発させる。 だが、柯一尉は「連帯責任で処罰するぞ」という脅しにも動じず、ヘラヘラと笑いながら告げた。


「閣下、閣下の伝令が苗中士に連れて行かれましたよ」


「班長が兵を公務に連れ出すのに、いちいち報告などいらん!」


「――**『人頭西瓜じんとうすいか』**ですよ」


「……何? 西瓜スイカだと?」


「閣下もご存知でしょう。我が軍に伝わる、最も有名な老兵たちの怪談を」


「ふん、あのくだらんスイカの話か。聞いたことはある。まさか貴様、あんなデタラメを信じているわけじゃないだろうな? 人の頭をスイカと間違えて叩き切るなど、子供騙しの作り話だ」


「ははっ、流石は閣下。では、その物語がどこの場所から始まったかはご存知ですか?」


大隊長の手が止まった。彼は冷淡に言い放つ。 「退屈な連中が作り上げた噂話だ。出所など誰が知るか」


「――青土山せつざん営舎です」


その言葉に、大隊長はペンを置き、柯一尉を凝視した。柯一尉の顔からふざけた笑みが消え、珍しく真剣な眼差しがそこにあった。


「この怪談のオリジナルは、ここ、青土山営舎の物語なんです」


「我が営舎だと? ふん、馬鹿馬鹿しい。もしこれほど凄惨な血案が起きていれば、新聞の一面を飾り、大騒ぎになっているはずだ。第一、物語の舞台は平屋の寝所だろう。三階建てのこの建物とは辻褄が合わん」


「現場はこの中隊ビルではありません。**『旧倉庫』**ですよ」


「旧倉庫……。駐車場の裏にある、あの廃倉庫か?」


「左様です。あそここそが、物語の舞台となった出土地(現場)なのです」


青土山営舎には二つの倉庫がある。 大隊長が思い浮かべたのは、東側に独立して建つ、駐車場と砲車場の裏手にある古びた平屋だった。 現在、部隊で使用する備品は西側の新倉庫に集約されており、東の旧倉庫には長年使われていないガラクタや廃棄待ちの器具が積み上げられているだけだ。


さらに大隊長は、今日郁佑を車で送ってきた際、駐車場の近くで耳にした、あの総毛立つような悲鳴を思い出した。


(……あの音が、使い古された『人頭西瓜』の怪談と本当に関係があるというのか?)


「怪談に付き合っている暇はない。時間も遅い、私にはまだ片付けるべき公文(書類)がある……」


苗筱珺ミャオ・シャオジュンは、黄郁佑ファン・ユーヨウを連れて『人頭西瓜じんとうすいか』を探しに行きましたよ」


「…………分かった。貴様は中隊に戻れ」


コー一等陸尉が去った後、大隊長は公務に戻った。だが、頭の中は「女班長が伝令を連れて怪談の現場へ向かった」という事実で占領され始めた。筆を動かしてはいるが、書類の内容など微塵も頭に入っていない。


(……まさか、本当に『人頭西瓜』などというものが存在するのか?)


(いや、あり得ん!)


あまりにも荒唐無稽な話だ。軍学校出身の彼からすれば、支給品のあんななまくらな銃剣じゅうけんで、人間の首を易々と切り落とせるはずがない。ましてや一人で何十人も、疲れも見せずに斬り続けるなど、物理的に不可能だ。


(……だが、あの駐車場で聞いた異様な悲鳴は何だったのだ?)


考えれば考えるほど、疑念は膨らんでいく。 気づけば孫大隊長は、青白サンダルを鳴らしながら、旧倉庫へと続く道へと足を進めていた。


ちょうどその時、スピーカーから費玉清フェイ・ユーチンの『晩安曲(おやすみの歌)』が流れ始めた。営舎キャンプの消灯時間を告げる合図だ。 その音とともに、営内の灯りが一斉に落ちる。大隊長は自分が懐中電灯も持たずに出てきたことに気づいたが、引き返すことはしなかった。 物悲しく響く鎮魂歌のようなメロディを背に、彼は月明かりだけを頼りに、闇に沈んだ旧倉庫への道を一人、手探りで進んでいった。

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