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首なし西瓜(一)

この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

幽霊からは逃げられない! 怪談は俺に語らせろ!


「視聴者の皆様、こんばんは。本日の『不思議事件簿:軍営怪談スペシャル』へようこそ。さて、いよいよ幽霊たちの門が開く七月、あちら側の住人が最も活発になる季節がやってきました。病院、学校、海辺、そしてあなたの家……。至る所に『あいつら』は潜んでいます。今夜お届けするのは軍隊の怪談! 夏らしく涼しくなりましょう。お迎えするのは、最高にキュートな心霊美少女、ヴィヴィアンちゃんです!」


「司会者さん、視聴者の皆さん、こんばんは! 不思議少女ヴィヴィアンです! 私、軍隊には入ったことはありませんけど、今日は皆さんに最高の恐怖をお届けします。最初にお話しするのは、いつの頃からか、すべての老兵ラオビンたちが耳にしてきたという、古い軍隊の怪談です」


――物語の舞台は、南部にある古びた軍営。数多くの怪談がそこから生まれたと言われています。 当時の南部は今ほど繁栄しておらず、ましてやその軍営は山の中腹にある、鳥も通わぬような僻地でした。新兵たちがそこへの配属を引き当てれば、それはまさに世界の終わりのようだったと言います。


部隊の訓練は過酷を極めました。山間部ゆえに、移動のたびに繰り返される急な上り下りは、兵士たちの体力を容赦なく削っていきました。そんな部隊に、農村出身の一人の小兵がいました。皆からは「アバン」と呼ばれていました。


アバンは上官からは「のろま」だと罵られ、その実直で不器用な性格ゆえに、連隊の老兵(先輩兵)たちからは格好のいじめの標的にされていました。


アバンの実家は果樹園を営んでいました。そのため、彼は暇さえあれば同期の仲間に実家の果樹園の話をして聞かせていました。除隊して家に帰る日を一日千秋の思いで数えていたのです。 しかし、あまりに望郷の念が強すぎたせいか、アバンは寝ている間に夢遊病のような行動をとるようになり、うわ言を漏らすようになりました。それを知った連隊の連中は、アバンへのいじめをさらにエスカレートさせました。自分より年下の後輩までもが、彼を笑いものにする始末でした。


そんな彼を、唯一見捨てずに話を聞いていたのが同期の男でした。アバンが父親と共に汗を流した果樹園の話をする時だけは、彼は驚くほど生き生きとして見えました。 しかし、夜に隣で寝ている同期も、連日の重労働で疲れ果てていました。隣から聞こえてくるアバンの望郷の呟きや、いじめに怯える悪夢のうなされ声は、安眠を妨げる不快なノイズとして、次第に彼の中にも苛立ちを募らせていきました。


ある日のこと。訓練中の一行は、裏山の弾薬庫周辺の環境整備に駆り出されました。容赦なく照りつける太陽の下、兵士たちは滝のような汗を流しながら作業を続けていました。 アバンは作業をしながら、同期の男に実家の西瓜スイカ畑の話をしていました。アバンは欠けた門歯を見せながら、無邪気に笑って言いました。


「西瓜はね、甘くて美味しいのを選ばなきゃダメなんだ。大きいだけじゃ意味がない。熟しているのが一番美味しいんだよ。……こうやって、西瓜をコンコンって叩いてみるんだ。一番いい音がするのはね、人間の頭を叩いた時みたいな音なんだよ」


アバンはニカッと笑いました。二人で西瓜の話をしている間は、過酷な疲れも少しだけ和らぐような気がしていました。 しかし、その様子を、疲れ果てて虫の居所の悪かった老兵(先輩)たちが見逃しませんでした。アバンが話し終えるか否かのうちに、突然、背後から彼の頭に強い衝撃が走りました。


アバンは悲鳴を上げて頭を抱えました。同期の男は驚いて後ずさりし、数人の老兵たちがアバンを幾重にも取り囲みました。


「クソが! 疲れ死にそうな時に西瓜の話だと? 俺たちを馬鹿にしてんのか、あぁ!? ……ははっ、頭を叩けば甘いかどうかわかるんだっけ? なあアバン、お前のそのデカい西瓜が甘いかどうか、俺たちにも確かめさせてくれよ!」


そう言うと、男たちは一斉にアバンの頭を殴りつけました。アバンは痛みに耐えかねて頭をかばい、泣きながら許しを請いました。同期の男は声を上げようとしましたが、老兵の一人に鋭く睨みつけられ、恐怖でその場に立ちすくむことしかできませんでした。


「何をしてやがる! 仕事もせずに固まって何だ貴様ら!」


ほどなくして、班長の怒鳴り声が近づいてくるのが聞こえると、老兵(先輩)たちは一斉に蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。 後に残されたのは、殴打され、鼻水と涙で顔をぐちゃぐちゃにして泣きじゃくるアバンだけだった。


同期の男が駆け寄り、アバンを支えて「大丈夫か」と声をかけた。 アバンは軍用下着の裾で涙を拭うと、彼に笑みを向けた。 「大丈夫だよ。殴られるのには慣れてるから」


笑って仕事に戻るアバンの背中を、同期の男は一瞬、呆然と見送った。 ほんの一瞬――本当に一瞬だけ、アバンの顔が形容しがたいほど恐ろしいものに見えた気がしたからだ。 だが、見直すとアバンはいつも通りだった。何が変なのか、言葉では言い表せなかった。


その日の弾薬庫の整備に加え、夜間訓練まで重なり、アバンと同期の男は死んだように眠りについた。 だが、同期の男は眠りの途中で揺り起こされた。 目をこすると、自分の哨番しょうばんの時間がやってきていた。


午前二時の立哨りっしょう。 誰もが忌み嫌う時間帯だ。深く眠っているところを叩き起こされ、山間の冷たい風に吹かれに行かねばならない。 不満を飲み込みながら、同期の男は装備を整え、持ち場へと向かった。


深夜の営舎キャンプは、嵐の前の静けさのような、不気味なほどの静寂に包まれていた。 その静けさが、かえって肌を粟立たせる。 なぜか、今夜の彼はどうにも落ち着かなかった。


昔の軍営は平屋が主流で、彼の立ち位置は大寝所の入り口からほど近い小さな哨所だった。 何度も経験した場所のはずなのに、今夜は妙に緊張する。 男は腕時計を確認した。あと三十分もすれば、温かい布団に戻れるはずだ。


そう思った瞬間、妙な音が響いた。


コンッ……ズサッ!


その音に、緩みかけていた神経が再び張り詰めた。 周囲を見渡すが、闇に包まれた営内には何一つ動くものはない。 すると、立て続けに二度、音が響いた。


コンコンッ!


そして、再び何かが引きずられるような音がした。 「ズサッ……」 男の緊張はピークに達した。不審者が侵入したのか。


哨所から踏み出し、今度ははっきりと、高く響く「コンッ」という音を聞いた。 彼は歩槍(小銃)を構え、震える足で音の正体を探った。 最後に再び「ズサッ」という音が聞こえ、彼は真っ暗闇の中で、その異音の発生源を突き止めた。


(……大寝所?)


あのおぞましい音は、自分たちが眠っているはずの寝所の中から聞こえてくるのか。 同期の男は一歩、また一歩と寝所に近づいていく。 近づくにつれ、音はより鮮明になり、何事かを呟くような、か細い話し声まで聞こえてきた。


こんな夜中に、誰が、何をしているのか。 男の鼓動は激しく打ち鳴らされた。 この営舎には、多くの不可解な事件が伝わっている。


(本当に出るのか……見てはいけないものに、会ってしまうのか!)


同期の男は恐怖に震えながら寝所へ踏み込み、手にした懐中電灯の光を中へと向けた。 ――だが、照らさなければよかった。 光の先に広がっていた光景に、男は言葉を失った。激しい吐き気がこみ上げ、その場に崩れ落ちて胃の中のものをぶちまけた。


そこには、至る所に血が飛び散り、転がる「人頭」があった。 首のない死体が無造作にベッドの上に投げ出され、切断面からは血が絶え間なく溢れ出し、噴き出しては迷彩服や白いシーツ、枕を赤黒く染め上げていた。 男は腰が抜け、這い上がることすらできない。手から滑り落ちた懐中電灯が床を転がり、狂ったように光を走らせる。その光の中に、二つの影が浮かび上がった。 正確には、一人がもう一人を引きずって歩く影だ。


その人影が近づくにつれ、輪郭がはっきりとしてくる。 男は絶望した。返り血を浴び、死体を引きずっていたのは、自分の隣で寝ていたはずのアバンだった。 アバンが掴んでいたのは、今朝彼を執拗にいじめていた老兵(先輩)の一人だった。その老兵は喉をアバンの手に強く締め上げられ、声も出せずに必死で抵抗していた。アバンのもう片方の手には、歩槍(小銃)から外された銃剣じゅうけんが握られていた。


「ア……アバン……?」


アバンは自分のベッドに腰を下ろすと、まるで宝物でも愛でるように学長の頭を優しく撫で、微笑みながら言った。 『……いい西瓜スイカだ』 学長の顔がどれほど恐怖に歪んでいようとお構いなしだ。学長は同期の男に助けを求める視線を送ったが、男は震えが止まらず、立ち上がることさえできなかった。 アバンは満足げに笑うと、学長の頭を拳で二度、軽く叩いた。


コンコンッ! 高く、澄んだ音が響く。


『……このうりは、もうれてる』


そう言うと、アバンは右手の銃剣を高く振り上げ、同期の男の目の前で、老兵の喉元へ突き立てた。 鮮血が四方八方に飛び散る。アバンは突き刺した刃を左右にえぐり回し、最後は「ズサッ」という音とともに、学長の首を完全に切り落とした。


「あああああああああああ!」


その光景を目にした同期の男は、絶叫しながら必死で後ずさった。 悲鳴に気づいたアバンが、光源にいる男をじっと見つめる。そして、ふらふらと彼の方へ歩き出した。その顔に浮かんでいた笑みは、昼間に弾薬庫で見せた、あの理解しがたい不気味な表情そのものだった。


「ア……アバン! アバン! 僕だ! 同期だろ!」 「覚えてるよね? 僕は、君をいじめてなんてない! いつも話し相手になってたじゃないか! アバン! 僕だよ!」


アバンは足を止め、少し考え込むような仕草を見せた。そして再び笑って言った。 『そうだ……一番大きくて熟れた西瓜を、いつも世話になってる同期にあげなきゃ』 軍刀(銃剣)を提げたまま、アバンはさらに距離を詰めてくる。あと数歩というところで、男の体は背後から数人の力によって強く引き戻された。騒ぎを聞きつけて起きてきた他の兵士たちだった。


「クソッ! あいつ狂ってやがる! 逃げろ!」


兵士たちは腰の抜けた男を抱え上げ、出口へと走った。そこへ、巡察中だった班長と二人の衛兵が駆けつけた。午前四時を回ろうとしていた。 重装備の彼らも、寝所内の光景を目にするなり激しく嘔吐した。部屋には血の錆びた臭いと、兵舎特有の悪臭が混じり合い、外へと漏れ出していた。


「アバン! 正気に戻れ! 何てことをしたんだ!」


騒ぎは拡大し、他の中隊の兵士や高官たちまでもが次々と集まってきた。血塗れの地獄絵図に、誰もが呆然と立ち尽くし、吐瀉物の山が築かれた。 同期の男は地面にへたり込み、頭の中が真っ白になっていた。あの大人しくて実直なアバンが、なぜこんな大殺戮を引き起こしたのか信じられなかった。彼は全力を振り絞り、部屋の中にいるアバンに叫んだ。


「アバン! 目を覚ませ! ここは実家の西瓜畑なんかじゃないんだ! 頼むから目を覚ましてくれ!」


その叫びを聞いた瞬間、アバンの動きがぴたりと止まった。不気味な笑みが消えた。 アバンが周囲を見渡す。死体と首が散乱する地獄のような光景を見て、彼自身も短い悲鳴を上げ、その場にへたり込んだ。 白い下着は、すでに返り血で真っ赤に染まっている。アバンは自分の血塗られた手と銃剣を見つめ、入口で恐怖に怯える人々を交互に見た。 やがて、アバンの目から涙が溢れ出した。彼は泣きながら、狂ったように呟き始めた。


「僕は殺してない、僕は殺してない、僕は殺してない、僕は殺してない、僕は殺してない、僕は殺してない、僕は殺してない、僕は殺してない、僕は殺してない、僕は殺してない……」


そう繰り返しながら、彼は銃剣を自分の首筋に当てた。


「アバン! よせ……!」


同期の男が制止するよりも早く、アバンは一気に刃を突き立てた。衆人環視の中、彼は自らの命を絶った。 静まり返った寝所には、いつまでも「僕は殺してない」という虚ろな残響が木霊こだましていた。


「…………」


「……ね? 面白い話だろ? え、どうしたんだよ郁佑。トイレにでも行きたいのか?」


ドカッ!


その言葉が終わるか終わらないかのうちに、郁佑ユーヨウの拳が荘駿佐ジャン・ジュンズォの脳天に突き刺さった。コンコンと叩くような生易しいものではなく、渾身のストレートだった。


軍から四日間の休暇(放假)をもらい、黄郁佑ファン・ユーヨウは朝八時に営舎キャンプを出て山を下った。最寄りの駅から北行きの列車に揺られ、客運バスを乗り継いで実家の停留所にたどり着いた頃には、すでに夜の六時半を回っていた。 停留所では、久しぶりに会う母・黃素娥ファン・スオと、彼女が運転する車の助手席でニヤつく悪縁の幼馴染、莊駿佐ジャン・ジュンズォが待っていた。


帰宅後、隣の家に住んでいるはずの駿佐は、当然のように郁佑の部屋へと居座った。 郁佑は分かっていた。このオカルト狂がわざわざやってきた目的は、自費出版された幻の怪談本『青土山鬼話せつざんきわ』についての調査報告をしたいからだ。


だが、郁佑は先手を打った。この数週間、自分が軍隊で幽霊たちと繰り広げた「ファンタジーな旅路」を聞きたくないかと持ちかけたのだ。 案の定、心霊ネタに目のない駿佐は、狂喜乱舞して郁佑に縋り付いた。郁佑は慎重に言葉を選びながら、小出しに話を始めた。


(……さすがに、大親友の阿江アジャン先輩が最初は自分を幽霊に生贄に捧げようとしていたなんて言えない。それに、スンとかいう狂った大隊長に「もっと凶悪な霊を探せ」と命じられていることも、一等陸尉のコーが怪異の玄人すぎて気味が悪いこともだ。さらに最悪なのは、蛇蠍だかつのような美人の苗筱珺ミャオ・シャオジュン班長に、休み明けに『人頭西瓜』を探しに行こうと誘われていることだ……)


人頭西瓜じんとうすいか!」


その単語が出た瞬間、駿佐が異様に興奮し始めた。郁佑はベッドに潜り込んだまま、不機嫌そうに聞き返した。 「……何だよ。その話、知ってるのか?」


「軍隊じゃ超有名な怪談だぜ? お前、聞いたことないのかよ!」


郁佑が首を振ると、駿佐は「これだから素人は」と言わんばかりの呆れ顔を見せた。郁佑はムッとしてベッドを飛び出し、パソコンを立ち上げて検索エンジンで『人頭西瓜』の正体を調べ始めた。


「……結構、可哀想な話なんだぜ」と駿佐が呟く。


(可哀想……か) 郁佑はふと、四番哨の幽霊・勇斌ヨンビン先輩のことを思い出した。 (あの先輩は、自分が死んだことを悲しんだことがあるんだろうか。失恋した彼女や家族のことを思い出したりするんだろうか……)


脳内が感傷的な映画モードになりつつあった郁佑だが、駿佐に促されるまま、ある動画を再生した。それは『不思議事件簿』という、怪奇事件を再現ドラマで紹介する深夜の人気バラエティ番組だった。


――結果から言えば、再生しなければよかった。 人頭西瓜の物語を見終えた郁佑は、パソコンの前から逃げ出し、毛布の中に丸まった。予算不足のせいで血も死体も安っぽいホラー映画のように偽物臭かったが、郁佑を恐怖のどん底に突き落とすには、それで十分すぎるほどだった。


「僕が悪いのかよ!? 見たいって言ったのはお前だろ、人のせいにするなよな!」


駿佐が戦争映画の嫌味な上官のような口調でからかってくる。その物真似が妙に似ていたせいで、郁佑は怒り心頭に発し、旋回蹴り(まわしげり)を食らわせた。 二人はベッドの上でもつれ合い、プロレスごっこのさながらに相手を抑え込もうと暴れ回った。


「下でピンピン跳ねてる音がすると思ったら、また二人で遊んでるのね。もう何時だと思ってるの! ほら、夜食(點心)を持ってきたわよ。食べたらすぐお風呂に入って寝なさい」


母の素娥が、切ったフルーツを盆に乗せて入ってきた。いい歳をした男二人がベッドで取っ組み合っているのを見て、彼女は「若いって元気ね」と笑った。 夫を亡くし、郁佑が兵役に出てから、この家はいつも冷え冷えとしていた。だが、こうして駿佐が遊びに来る時だけは、息子が生き生きとして見え、素娥はようやくここが「家」なのだと実感できるのだった。


素娥は駿佐を自分の息子のように思っていた。彼女が郁佑の部屋を見渡すと、ふとパソコンの画面に目が止まった。


「あら、佑佑ヨウヨウ。ホラー映画なんて見てるの? あなた、一番苦手だったじゃない」


「『ヨウヨウ』だってよ! ほら、離せよヨウヨウ! お母様がお呼びだぜ!」


抑え込まれていた駿佐が、わざとらしく郁佑の小名を真似た。郁佑は怒りのあまり、彼をベッドから蹴り落とした。 母に「人前でその名前で呼ぶな」と言おうと振り返った瞬間、素娥は好奇心から再生ボタンを押してしまった。画面に大写しになった人頭西瓜の特写と、おどろおどろしい効果音――。


「ひぃぃっ!」 郁佑は真っ青になり、再び毛布に潜り込んだ。


「もう! 佑佑、こんな偽物の幽霊にビビってどうするの。そんなんじゃ、亡くなったおじいちゃんに顔向けできないわよ。軍隊に入ったんだから、もっと男らしくしなさい」


「……怖いもんは怖いんだよ! それにおじいちゃんと何の関係があるんだよ!」


「おじいちゃんは昔、除霊や『収驚ショウジン』で有名だったのよ。腕前はそりゃすごかったんだから! 知り合いはみんな『ファン師父』って呼んでたわ。佑佑ヨウヨウも覚えてるでしょ? 中学生の時、夜遊びして怒られたの。あの時も悪い霊に憑かれてたから、おじいちゃんが収驚して追い払ってくれたのよ。忘れちゃったの?」


「……そんな昔のこと、覚えてないよ」


郁佑は口を尖らせて答えた。彼は自分が幽霊に怯えていた過去を掘り返されるのが大嫌いだった。それを思い出すと、幼い頃の恐怖や……おじいちゃんの葬儀の記憶まで蘇ってしまうからだ。


「伯母さん、黄おじいちゃんって本当に除霊ができたんですか? すげえ! なんで今まで教えてくれなかったんですか!」


除霊と聞いて身を乗り出したのは駿佐ジュンズォだ。フルーツを頬張りながら興味津々で尋ねる。郁佑も内心では、あれほど凄腕だった祖父が、なぜ自分にはその技術を一切明かさなかったのか不思議でならなかった。


素娥スオは二人の好奇心に満ちた瞳を見て、くすりと笑った。 「お父さんが生きてる間は口止めされてたけど、あなたたちももう大人だし、話してもいいわよね……」


「私たち黄家には、昔からそういう血筋があるの。先祖が大陸から台湾へ渡ってきた時代、今みたいに自由じゃなくてみんな隠れて渡ってきたんだけど、その頃から副業として祈祷や除霊を始めたそうなの。 お父さんが言うには、子供の頃は兄弟みんな幽霊が見えてたんですって。でも大人になるにつれて見えなくなる人もいた。お父さんは大人になってもあっち側の友達が見えたから、自守のために符の書き方や除霊、霊との対話術を教わったのよ」


「自守……?」郁佑が母を見つめる。


「ええ、自分を守るためよ。今はもう誰もその仕事は継いでいないけれど、それでも見えてしまう人はいる。だから身を守る術が必要だったの。お父さんは佑佑が幽霊に見入られて連れて行かれないようにって、知り合いのびょうの神職にお願いして、あなたの『天眼てんがん』を封じてもらったのよ」


「えっ? でも郁佑は今も……むぐっ、むぐぐ!」


「とにかく! 僕には術の才能がなかったってことでしょ。駿佐、お前は黙ってろ。母さん、僕たちお風呂入ってくるね!」


郁佑は駿佐の余計な口を塞ぐと、そのまま彼を引きずるようにして部屋を出た。


「……フルーツ、残ってるわよ?」 「明日! 冷蔵庫に入れといて、明日食べるから!」 「タオルの替えは棚よ! 髪はちゃんと乾かしなさい、風邪引くわよ!」 「分かってるって!」


浴室に入ってようやく解放された駿佐が、文句を言おうと口を開くより早く、郁佑は服を脱ぎ捨てて彼を急かした。裸でいると夜風が冷える。二人は狭い浴室に身体を押し込み、お互いの存在が邪魔だと言い合いながらシャワーを浴びた。


「お前のその口が余計なことを言わないように見張ってるんだよ! シャンプー貸せよ、早く!」


「なんだよ、今使い始めたばっかりだろ。戦闘浴(せんとうよく:軍の超短時間入浴)じゃないんだから急かすなよな」


駿佐が適当に投げ渡したボトルを郁佑が頭に擦り付けると、妙な感触がした。ラベルを見ると「ハンドソープ」と書いてある。


「……ところでさ、なんで伯母さんに言わないんだ?」


「何をだよ」


「幽霊だよ。刺青の封印が解けて、また見えるようになったってこと」


「封印が解けたんじゃない。コー一等陸尉の話じゃ、スイッチが入っただけだ」


郁佑は、営舎で輔導長から聞かされた話を駿佐に伝えた。祖父が施した刺青は、陰陽眼を制御するためのスイッチのような概念なのだという。本来ならオフになっているはずのそのスイッチが、何者かの手によって再びオンにされてしまった。そのせいで、郁佑の瞳は以前にも増してあらゆる怪異を捉えてしまうようになっていた。


「……あそこは幽霊だらけの営舎だ。また見えるようになったなんて知れたら、母さんは僕のことを心配しすぎて倒れちゃうよ。だから絶対に内緒だぞ」


「じゃあどうするんだよ? おじいちゃんの言ってた廟に行って、もう一回閉じてまらうか?」


「それは……」


(自分がどうやって死んだのか、自分でも分からないんだ)


ふと、勇斌ヨンビン先輩の寂しげな言葉が頭をよぎった。もし天眼を閉じてしまったら、あの先輩がなぜ地縛霊になったのか、どうすれば救えるのかを突き止める術がなくなってしまう。孫大隊長が言うように、自分には関係のないことかもしれない。けれど、あの先輩のために何かできることがあるのではないか――。


「……駿佐、お願いだ。青土山での『兵士の自殺事件』について、もっと詳しく調べてくれないか?」


「いいけど……お前、あんなに怖がってたのにどうしたんだよ? まさか軍隊の美人にでも頼まれたのか? おおっ! 佑佑ヨウヨウがついに再始動か! 大学生の時に振られ、浮気され、年上の女性に『子供ね』って言われたあの佑佑が!」


「うるさい! 再始動とかじゃない! 僕は今、軍人なんだぞ! たとえ女性隊員がいたとしても……」


(休み明けに、私のところへ来なさい)


……しまった。 休暇が楽しすぎて、第一中隊の苗筱珺ミャオ・シャオジュン班長との約束を忘れていた。もし「人頭西瓜じんとうすいか」の伝説が本当なら、自分は首のない幽霊の群れや殺人鬼と対峙しなければならない。番組の恐ろしい映像を思い出し、郁佑は震えを止めるために熱いシャワーを浴び続けた。


浴室から戻り、明かりを消してベッドに潜り込んだ二人。 寝静まった頃、郁佑は不意に駿佐を揺り動かした。またホラー番組のせいで眠れなくなったのかと、駿佐は呆れ半分で向き直った。


「なあ……さっき見た『人頭西瓜』のことだけど、お前、他に何を知ってる?」


「……郁佑、お前やっぱり変だぞ。軍隊で何かあったんだろ?」


「……何でもないよ。母さんの心配性がうつったのか? ただの好奇心だよ」


幼馴染の目は誤魔化せなかったが、郁佑は適当にはぐらかした。今は駿佐の持つ「オカルト知識のデータベース」だけが頼りだった。 駿佐は情報の真偽を問わずあらゆる噂を収集する天才だ。郁佑は、彼が語る『人頭西瓜』のディテールを一つも漏らさぬよう耳を傾け、やがて重くなったまぶたを閉じて、深い眠りへと落ちていった。

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