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四哨の先輩(一)

この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

軍隊を経験した者なら誰もが知っている。軍の食事がいかに不味いかということを。 日課の清掃を終えた阿江アジャンは、今日の朝食を嫌悪のまなざしで見つめていた。 キュウリの漬物、筍の漬物、またキュウリの漬物。


「ふざけんな! これが三品おかずかよ!」


阿江は、蒸し器の中で硬くなったままの饅頭を齧る方がマシだと思った。缶詰を開けただけの漬物など食べたくもない。怒りに任せ、厨房の横を通りかかった兵士に悪態をついた。


「おい! 手を抜きすぎだろ! 肉はねえのかよ!」


「あるぞ。ほらよ」


厨房の兵士は無造作に、手に持っていた袋の中身を阿江の口に突っ込んだ。阿江が一口噛むと、それは硬くて筋張っており、味が染み出した瞬間に吐き出した。 「おい! 売店の棚の奥で化石になってる豚肉ジャーキーじゃねえか! 食べるどころか噛むことすら至難の業だぞ!」


「文句言うな。先週ずっと雨だったろ? 今日ようやく晴れて業者のトラックが山に登ってこれたんだ。青土山せつざんは雨が降れば道が沼地になる。どこの業者がタイヤを泥に沈めてまで食材を運ぼうとするんだよ。缶詰で我慢しろ。昼は肉が出るぞ。鰻の缶詰とサーディンの缶詰、豪華なダブルメインディッシュだ。最高だろ?」


「最高なわけねえだろ!」 阿江は心の中で呪いながら、冷めた粥と漬物に向き合った。箸を動かした拍子に、隣に座る郁佑ユーヨウに腕が当たった。


謝ろうとして顔を向けると、郁佑は虚ろな目で鉄製の器を持ち、機械的に粥を口に運んでいた。生気が全く感じられない。


「おいおい……阿佑アヨウ。お前、また何かに取り憑かれてるんじゃねえだろうな?」


前回の「憑依事件」が頭をよぎり、阿江は慌てて郁佑の肩を揺さぶった。郁佑は阿江に視線を向け、力なく苦笑いした。あの大寝所の事件から一ヶ月半、大部隊と行動を共にし、時折視界の端に「見てはいけないもの」が映る以外は、平穏な日々を送っていたはずだった。


それなのに……。


「大隊長伝令? お前が?」


阿江が怪訝な表情を浮かべる。郁佑は肩をすくめ、自分の意思ではないことを示した。


午後の点呼(五査)が終わった後、武器庫(軍械室)で銃を運んでいた際に郁佑はその経緯を話した。数日前、大隊輔導長に呼び出され、自分が大隊長伝令になることを告げられたのだ。伝令とは、上官の身の回りの世話や命令の伝達を行う兵士のことだ。それを聞いた瞬間、郁佑は呆然とした。


あのスン大隊長の伝令になるなど、いつ爆発するか分からない時限爆弾を身に纏うようなものではないか。平穏な兵役生活を望む郁佑は、即座に首を横に振った。


「決まったことだ。しっかりやれ」


だが、大隊輔導長は郁佑の恐怖など全く目に入らない様子で、彼を部屋から追い出した。


「『老臣(ラオチェン:あの輔導長)』か……あいつに何を言っても無駄だぞ。上官の顔色しか伺わないタイプだからな。噂じゃ、どこかの偉いさんに睨まれてここに左遷されたらしい。ここに来てから怪異に遭遇しすぎて、毎日占いと神頼みに明け暮れてる神経質なジジイだよ」


前回の和解以来、二人はすっかり仲良くなっていた。阿江は義理堅い性格で、青土山の軍営内の事情に精通していた。郁佑は彼から少しずつ情報を得ていた。


阿江の言う「小鋼砲(しょうこうほう:小さな大砲)」とは、郁佑が所属する砲班の班長、陳偉成チェン・ウェイチェンのことだ。小柄だが筋肉質な体格と、坊主頭の形からそう呼ばれていた。もっとも、本人はそのあだ名を嫌っており、不用意に呼んだ兵士が訓練で徹底的にしごかれたのは有名な話だ。


「それにしても、新しく来た孫大隊長は本当に大したもんだよ。『幽霊など存在しない』と言い切って、怪異を幽霊のせいにする悪習を正すって息巻いてたからな。前の大隊長が幽霊を見て狂い、軍病院送りになったのを見てる連中は、みんな閣下が失脚するのを待ってたんだ。だが今のところ、金縛りどころか閣下が幽霊を見たって話すら聞かない」


二人はそれぞれ七丁の銃を背負っていた。この軍営は三個中隊合わせても二百人に満たない小規模な部隊だ。


「で、具体的に何をするんだ? 被布を畳んだり、靴を磨いたり、ラブレターの代筆とかか?」


「伝令ってそういう仕事なんですか?」郁佑は困惑した。


「俺が聞いた話じゃ、伝令は上官の飼い犬みたいなもんだ。主人が良ければ美味い飯にありつけるが、外れを引けば家畜以下の生活が待ってる」


「……そんなに過酷なんですか」


「当たり前だろ。だいたい、なんで閣下はお前を伝令に選んだんだ? 以前の伝令はみんな志願兵(志願役)だったし、連隊の雑用を一切免除されるから、みんなの羨みの的なんだ。お前が選ばれたなんて知れたら、やっかみが凄いぞ」


「……実は、大隊長閣下にも直接会ったんです」


「閣下に? 何て言われた?」


「……『伝令というのは名目だ。書類の処理がある時だけ来ればいい。それ以外は通常通り部隊のスケジュールに従え』って」


「なんだ、ただの肩書きか。てっきり新兵のお前が特権を手に入れたのかと思ったぜ」


「名目上の伝令だ。書類がある時だけ来ればいい――周囲にはそう言っておけ」


あの日、大隊長室で孫閣下はそう告げた。 郁佑はなぜ自分が選ばれたのか問い詰めようとしたが、閣下は郁佑の心を読み透かしたかのように、先に疑問を口にした。


「……お前は今、こう考えているはずだ。『なぜ自分が伝令に? 静かに残りの日数を数えて除隊したいだけなのに』とな」


「う……」 見透かされた。郁佑ユーヨウは顔をしかめた。


「実を言えば、私に伝令など必要ない。二十一世紀にもなって、これほど旧時代の遺物は淘汰されるべきだと思っている」


(な、ならどうして……?)


「私には、見えないからだ」


「え?」


「幽霊が見えん! この数ヶ月、柯魁晉コー・クィジンにこの營區(営舎)で最も『出る』という場所の地図を作らせ、毎晩のように一人でそこを訪ね歩いた。だがな、どこへ行っても何も起きん! 見えるどころか、気配すら感じんのだ。貴様らが言う幽霊がどこにいるのか、私にはさっぱり分からん。……だから、貴様が必要だ。私と一緒に、幽霊のいる場所へ行け」


「報告します閣下! お断りします! 拒絶します!」


孫大隊長が言い終わる前に、郁佑はそれが自分にとって最悪の任務であることを察知し、即座に拒絶の声を上げた。 大隊長は言葉を止め、数秒間の沈黙が流れた。室内の空気が一気に冷え込み、郁佑はその鋭い眼光を見て「終わった」と悟った。


「黄郁佑。貴様の階級は何だ?」


「……二等兵です」


「では、私の職位は何だ?」


「……大隊長閣下です」


「ならば貴様は、この……!」


孫大隊長は大声で怒鳴りつけようとしたが、その瞬間、脳裏にあの柯一等陸尉の言葉が響いた。 ――『もし新兵一人も御せないようでは、誰も貴様を真の大隊長とは認めませんよ』 喉まで出かかった怒号を飲み込み、大隊長は大きく深呼吸をして、怯える郁佑を凝視した。


「……いいだろう。最後まで話を聞け。口を挟むのはそれからだ。さもなくば処罰する」


「は、はい……!」


先日の第二中隊での事件を経て、孫大隊長の幽霊に対する考え方は少し変わっていた。 あの時見た黒い影が、世間で言うところの「妖怪」や「幽霊」なのかはまだ半信半疑だったが、一つだけ確信していることがあった。あの黄郁佑という兵士の右腕を掴んでいれば、自分にもあの不可解なものが見えるということだ。


ならば、そいつが本物なのか、どんな姿をしているのか、どこにいるのかを知るには、この小兵を連れて行けば全て解決する。


(解決するって、何がだよ! この大隊長、頭がおかしいんじゃないのか!?)


郁佑は心の中で激しく毒づいた。虎がいると分かっている山に、自ら突き進む馬鹿がどこにいる。幽霊が見えると分かっていて、わざわざ会いに行くなんて正気の沙汰ではない。 ……そう憤慨した直後、郁佑は自分が子供の頃、初めて幽霊を見た時に自ら三人の子供の霊に駆け寄ったことを思い出した。 (ああ……袋小路に突っ込む馬鹿は、僕だった……)


「以上の理由で、私には伝令が必要なのだ。分かったか?」


「わ、分かりました!」


郁佑が大声で答えると、孫大隊長はようやく満足げに笑みを浮かべた。 閣下の機嫌が上向いたのを見て、郁佑は「伝令」としての運命を受け入れつつ、自分がこれから仕えるこの「寺」が、聖なる場所なのか邪悪な場所なのかを確かめたくなった。


「報告します、閣下。……一つ、質問してもよろしいでしょうか?」


「ああ、構わん。言ってみろ」 孫大隊長は、郁佑が予想もしなかったほど爽快な口調で答えた。


「あの……閣下はどうして、それほど幽霊を見たがるのですか? 閣下は今まで一度も見たことがないし、金縛りにも遭っていない。……僕は子供の頃から見えるせいで、散々な目に遭ってきました。幽霊に脅され、人には気味悪がられ、良いことなんて一つもなかった。見えないままの方が、ずっと幸せだと思うんです」


また怒鳴られるかと思ったが、意外なことに大隊長は郁佑を座らせ、コップ一杯の水を差し出した。郁佑は戸惑い、目を丸くして閣下を見つめた。


「幽霊そのものに興味があるわけではない」 大隊長は水を一口飲み、続けた。 「だがな、交渉(交渉)するには、まず相手の姿が見えねば始まらん。そうだろう?」


「交渉? 誰とですか?」


「決まっているだろう、幽霊どもだ! ここは軍事機密を扱う重要拠点だ。生身の人間と軍人だけが存在を許される場所だ。そこを勝手な住み家にしている連中に、出て行けと通告せねばならん。強硬な態度で臨まねば、奴らはいつまでも居座り続けるからな!」


「閣下……本気で言ってるんですか?」


「本気以外の何物でもない! だからこそ、幽霊が見えるお前を伝令にするのだ。招かれざる客の正体を見極め、私の営舎キャンプから一匹残らず叩き出してやる」


「あの……それなら、道士を呼んで除霊してもらうとか、他に方法は……」


「馬鹿を言え! ここをどこだと思っている。軍事要塞に得体の知れない部外者を自由に出入りさせられるか! 道士だか詐欺師だか知らんが、そんな連中に頼るのは軍人の誇りに関わる問題だ。いいか、もし青土山が大掛かりな除霊をしたなんて噂が広まってみろ。他の中隊や大隊から笑いものにされるぞ! 貴様は、我が大隊を笑い種にするつもりか!」


「い、いえ! そんなつもりはありません!」


郁佑ユーヨウがどれほど説得を試みても、スン大隊長が「幽霊との交渉」を諦めることはなかった。 大隊長は、コー一等陸尉が作成した営舎キャンプ内の「怪異発生地点マップ」を広げた。いくつかの地点に星印が付けられているが、郁佑は推測するまでもなく、そこが最悪の心霊スポットであることを悟った。その中の一つは、まさに自分たちの第二中隊の大寝所を指していたからだ。


それを思うと、郁佑の心は沈んだ。 幽霊と交渉? 孫大隊長は一体何を考えているのか。しかも、部屋を出る際、この計画を誰にも、特に柯一等陸尉には漏らすなと厳重に口止めされた。そして伝令としての最初の任務が下された。「各地の幽霊がどのような姿をしているか調査せよ」というものだ。


「そんなの、柯一等陸尉に聞くのが一番早いだろ。なんで俺に聞くんだよ? お前、怪談は嫌いじゃなかったのか?」


阿江アジャンは、郁佑が突然営舎の幽霊について尋ねてきたことを不審に思った。郁佑も気まずかったが、今の自分にとって最も信頼できるのは阿江先輩しかいない。怪談など死んでも聞きたくないが、大隊長への報告書をまとめなければならないのだ。


「い、いえ! ちょっと気になっただけです。ほら、どんな幽霊がいつ出るか分かっていれば、事前に避けることができるじゃないですか」


「まあ、一理あるな……。おっ、そういえば、お前も着任して一ヶ月以上経つ。今日から立哨りっしょうが始まるな」


「ええ。小鋼砲(陳班長)が、今夜から哨番に入れると言っていました」


「やっぱりか!……四番哨しばんしょうの夜番にされたんだろ?」


「はい、四番哨です。阿江先輩、あそこには何か……」


「……出るぞ」


阿江が重々しく頷くと、郁佑の背筋に冷たいものが走った。やはり逃げられない。今朝の陳班長の嫌味な笑顔を思い出し、確信した。あの男、わざと新兵を「いん」の強い哨所に放り込んだのだ。阿江は郁佑の絶望を察したのか、肩を叩いて慰めるように言った。


「実はな、四番哨の幽霊はそれほど怖くないんだ。……というか、むしろ『付き合いやすい』方だぜ」


「……はい?」 付き合いやすい? 幽霊が?


「なんて言えばいいかな……これには少し話があるんだ。


青土山せつざん営舎は広くないが、最も厄介なのは営内と営外を合わせて十二もの哨所しょうじょがあることだ。昔は全ての哨所で心霊現象が起きたという噂だが、今は三つが取り壊され、四つが廃哨となった。現在も使われているのは二番、四番、七番、八番、そして十二番の五つだ。どれも『出る』が、出る方法がそれぞれ違う。


その中でも最も有名なのが、お前が今夜行く四番哨だ。 昔、脱走の常習犯だった老兵ラオビンがいた。彼は入隊前から彼女と仲睦まじく、ここへ配属されてからも彼女を想うあまり、何度も無断外出や脱走を繰り返し、禁固きんこ処分を受けていた。だが最後には彼女との関係がこじれ、いわゆる『兵変(ビンビェン:入隊中の失恋)』に遭ってな、四番哨で首を吊って自殺したんだ。夜番の立哨中だったが、発見された時にはもう手遅れだった。


数日後、その老兵の同期や友人が彼の声を聞き始めた。やがて同期だけでなく、上哨じょうしょうする全ての兵士がその『同僚』の存在に気づいたんだ。 生前の彼は新兵の面倒見が良かった。お前も知っての通り、ここは人数が少ないから一日に二回哨番が回ってくることもある。二時間の立哨は退屈で、どうしても眠くなるだろ? 巡察の将校はそこを狙ってきて、居眠りを見つかれば評価会議で休暇を全没収だ。


眠っちゃいけない時に眠くなる苦しみ、お前にも分かるだろ? その幽霊の先輩はとても親切でな、巡察の長官が近づいてくると、居眠りしている哨兵を起こして罰を受けないようにしてくれるんだよ」


「なんだ!……いい人じゃないですか」 郁佑が少し安心すると、阿江は首を横に振った。


「信じろ。あの『起こし方』を経験したら、二度と眠りたいなんて思わなくなるぜ」 阿江の真剣な表情を見て、郁佑は生唾を飲み込んだ。


「えっ? まさか、夢の中に現れて脅かしてくるとかですか?」


「いや……それよりずっとタチが悪い」 阿江が苦い顔をしたのを見て、郁佑は彼もその洗礼を受けたのだと悟った。


「とにかく、寝なければいいんですよね? 簡単ですよ」


「そうだ。……あと、四番哨には必ず『リンゴパン』を持って行け」


「リンゴパン(蘋果麵包)ですか?」


「四番哨の幽霊先輩の大好物だ。パンで賄賂わいろを贈っておけば、少しは手加減してくれるかもしれないぞ」


「は、はい……了解しました……」


夜。哨番しょうばんの時間が近づき、郁佑ユーヨウは重い体を引きずってベッドから這い出した。鉄帽テッパチを被り、装具を整えて完全武装で入り口へと向かう。そこには、四番哨まで連れて行ってくれる当直の下士官を待つ先客がいた。


入り口の安全士官(安官)が、意外にも郁佑に声をかけてきた。郁佑も応じるが、その顔には見覚えがあった。


「その顔……忘れたか? お前が着任した日、階段のところで挨拶しただろ。張梁寬ジャン・リャンクァンだ。みんなからは小寬シャオクァンって呼ばれてる。あの時、お前がぶつかってきたんだぞ」


「ああ! 食器(鉄碗)を落とした人だ!」 ぶつかった時の記憶が鮮明に蘇り、郁佑は声を上げた。


「そう、その『食器を落とした奴』だ」 小寬は苦笑いしながら言った。


「あの時は本当にすみませんでした」


「はは、気にするな。……それより、これから哨番か。どこだ?」


「四番哨です」


「四番哨か……。あそこには、例の……」


「ええ、幽霊の先輩がいるんですよね。阿江アジャン先輩に、これを持って行けって言われました」


郁佑がポケットから「リンゴパン」を取り出すと、小寬は「やっぱり、みんなそれを持って行くんだな」と小さく呟いた。


「やっぱり?」


「どうして幽霊の先輩がリンゴパンを欲しがるか知ってるか? ……あの中吊り自殺した先輩にとって、リンゴパンは生前、彼女が一番好きだった食べ物だったらしいんだ。本当か嘘かは分からんがな。 昔、除隊間近の先輩が立哨中にタバコを盗み吸いしていたら、火をつけた瞬間にタバコが異常な速さで燃え尽きた。慌てて残りのタバコを全部その先輩に供えたら、その晩、彼は居眠りをしてしまったのに一度も起こされず、交代の兵に揺り起こされるまで爆睡していたそうだ。しかも、その間一度も巡察の長官が通らなかった。それが営内キャンプで有名になって、一時期はみんなタバコを供えてたんだが……ある時から、いくらタバコを供えても先輩はへそを曲げて受け取らなくなった。それで結局、みんなリンゴパンに戻ったんだよ」


上哨じょうしょうするのか、無駄口を叩くのか、どっちだ。盛り上がってるな、張梁寬」


班長室から野太い声が響いた。今週の週番班長、通称「小鋼砲しょうこうほう」ことチェン班長だ。彼は眠そうな目をこすりながら安官デスクまで歩いてきた。


「何の話だ?」


「四番哨の幽霊先輩について話してました」と小寬が答える。


「ふん、そんなもん実際に行けば分かることだ。幽霊先輩が手厚く『お世話』してくれるさ。感謝しろよ、黄郁佑。わざわざ一番良い哨所をお前に割り振ってやったんだからな」


(幽霊の世話になるのを感謝しろなんて、よく言えるよ!)郁佑は心の中で毒づいた。


あの大寝所の事件以来、目撃した安官たちに箝口令が敷かれたものの、噂は広まっていた。今や営内のほぼ全員が「黄郁佑には霊感がある」と知っている。さらに尾ひれがついて、阿江に取り憑いた霊を追い払ったことから、コー一等陸尉と同じく「除霊のできる異能者」だというデタラメな話まで出回っていた。幸い、中隊長は笑い話として聞き流し、柯一尉も適当に誤魔化してくれた。何より孫大隊長に聞きに行こうとする命知らずはいなかった。


青土山の哨所は、どこも石段を登った高い場所にある。四番哨は営舎の外れにあり、周囲は人の背丈ほどの雑草が生い茂っていた。修理の追いつかない点滅する哨灯しょうとう、野良犬の遠吠え、野良猫の不気味な鳴き声。墓地の前の哨所にも劣らぬ恐怖指数だ。


陳班長はスマートフォンのライトを懐中電灯代わりに使い、郁佑を先導した。連集合場を抜け、草に埋もれた小さな階段をかき分けて進む。


石段の途中で、四番哨が目前に迫った時、陳班長が振り返って郁佑に言った。


「おい、見てろよ。……そろそろ『先輩の世話』が見られるはずだぞ」


「見てろよ」と言ってニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべるチェン班長。郁佑ユーヨウがその笑いの意味を測りかねていると、生い茂るすすきをかき分ける直前、静寂に包まれた青土山に「ガコン!」という重い衝撃音が響き渡った。 何かが床に落ちたような大きな音に、郁佑がビクッとして周囲を見渡すと、隣の陳班長が楽しそうに鼻を鳴らした。「やっぱり居眠りしてやがったな」


二人が四番哨の下にたどり着くと、間もなくして完全武装の兵士が一人、哨所から降りてきた。その顔は土気色で、鉄帽テッパチは無残に横に傾いている。彼は力なく班長の前に立った。


「いい度胸だな、爆睡か?」陳班長が皮肉を飛ばす。


「勘弁してくださいよ、班長。頭が割れそうに痛いんです……今日の『あの人』、力が半端じゃなかった。鉄帽被って寝てたのに、床まで叩き落とされたんですよ」


「自業自得だ」


「しょうがないじゃないですか。哨所の中は蒸し暑いし、椅子に座ってるとどうしても意識が飛ぶんです」


下哨げしょうする学長(先輩)と班長がそんなやり取りをしながら、郁佑に装備を引き継いでいく。郁佑は会話の内容が完全には理解できなかったが、一つだけ確信した。この「幽霊先輩」は……物理的に殴ってくる。彼は無意識に自分の鉄帽のアゴ紐をきつく締め直した。 班長たちが戻ろうとした時、郁佑は不安げに、初めての哨番で何をすべきか尋ねた。


「何をするかって? 哨所の中に立って……それから……」


「立って……それから……?」


「ぼーっとするんだよ」と先輩が言う。


「おい! 変なことを教えるな。居眠り報告して評価会議にかけてやるぞ。新兵! お前はあの中に立って、不審な奴が通らないか監視しろ。要は『見張り』だ。何かあれば三七機(無線)で戦情室に連絡しろ。衛哨守則えいしょうしゅそくは暗記してるか?」


「ま、まだです……」


「ならちょうどいい。立ってる間、壁の守則を暗記してろ。そうすれば寝落ちせずに済む」


陳班長は郁佑の鉄帽を軽く叩くと、下哨の先輩を連れて雑草の中へと消えていった。 現場には、チカチカと点滅する古い哨灯の下、郁佑がたった一人取り残された。


怖くないと言えば嘘になるが、やるしかない。郁佑は一段ずつ石段を登り、哨所の中へ入った。中は意外にも清潔だったが、すぐに一角に視線が吸い寄せられた。そこにはお菓子が山積みにされていたのだ。リンゴパン、チョコ、ポテトチップス……全て未開封のまま、コーナーに積まれている。


「本当に……タバコがある……」


驚いたことに、菓子山の隣には「白長寿(台湾の定番タバコ)」の箱が置かれ、中には数本のタバコと、あろうことか「檳榔ビンロウ」の袋まで詰め込まれていた。さらに壁には、ペンや修正液で書き殴られたメッセージが並んでいる。


『幽霊先輩、無事に除隊させてください』 『先輩、大寝所のあいつらに「もう金縛りにするな」って伝えてください!』 『クソ中隊長を呪い殺してください!』 『班長死ね! 今夜あいつのところへ出向いてください!』


その多様性は、もはや街の小さな廟(神社)と変わらない。郁佑は持ってきたリンゴパンをそっと山の上に置き、マジックで「幽霊先輩へ」と記した。そして心の中で必死に祈った。 (先輩、どうか出てこないでください。僕はただの通りすがりです。幽霊は本当に苦手なんです。どうか、どうか現れないでください!)


そうして二時間の立哨が始まった。壁の「用銃時機(銃の使用条件)」を暗記しようとしたが、四番哨の中は驚くほど快適だった。蚊の多い軍営のはずが、ここには虫一匹おらず、窓からは涼しい夜風が吹き込んでくる。 (……これじゃ、みんな寝ちゃうよな……) 椅子に腰掛けた郁佑は、思わずあくびをした。次第にまぶたが重くなり、頭が船を漕ぎ始める。意識が暗闇に溶けかけようとしたその時――。


耳の後ろで、微かな囁き声が響いた。


――『……また、リンゴパンか』――


「えっ?」


声を聞いた郁佑ユーヨウは、弾かれたように振り返った。だが、哨所しょうじょの中には自分一人しかいない。 (まさか、幽霊先輩が現れたのか!? でも、僕はまだ寝てなんていないぞ!) 郁佑は神経を尖らせ、生きた心地もせずに周囲を見渡したが、特に変わった様子は見られなかった。


――『どいつもこいつも、菓子ばっかり供えやがって要求が多いんだよ! 中隊長を消せだと? 俺は幽霊だ、殺人犯じゃねえっつうの!』――


まただ! 郁佑には今、はっきりと声が聞こえた。それは成人男性の声で、どこか独特の地方訛り(なまり)が混じっているような、妙に人間味のある響きだった。 郁佑が息を殺して周囲をうかがい、何も起きないことに安堵して、ふと無意識に天井を見上げた。その瞬間、彼の心臓は跳ね上がり、椅子から転げ落ちた。


そこには、古めかしい国民兵時代の軍服を着た軍人が、哨所の天井からぶら下がっていた。


郁佑は恐怖のあまり声も出せず、逃げようとしても足がすくんで動けない。宙吊りになった軍人は、じっと郁佑を見下ろしていた。しかもその口には……「リンゴパン」を咥えている。袋には郁佑の筆跡で『幽霊先輩へ』と書かれていた。


「あ……それ、僕のリンゴパン……」


――『えっ? お前、見えるのか? おいおい! 俺が見えてるのか!?』――


郁佑の言葉を聞くやいなや、首を吊っていた先輩は縄から飛び降り、ひっくり返った椅子を足場にして郁佑の目の前に着地した。その顔は驚きと期待に満ちあふれている。青白い巨大な顔が急接近し、郁佑は恐怖のあまり顔を背けた。


「いいえ! 幽霊なんて見えません! ここには僕一人しかいません!」


――『嘘つけ! お前、絶対に見えてるだろ!』――


幽霊先輩は業を煮やし、郁佑の襟元を掴んで揺さぶった。


「なんなんですか! 出てこないでって言ったじゃないですか! 僕は幽霊が一番苦手なんです! リンゴパンもあげたのに、わざと脅かして!」


襟を掴まれ続けた郁佑は、ついに恐怖が怒りに変わり、幽霊に向かって言い返した。言い終えた瞬間、彼はハッとした。幽霊に逆らってしまった。どんな報復を受けるか分かったもんじゃない。今すぐ謝るべきか? 慌てて口を開こうとした郁佑だったが、先輩の方が早かった。 幽霊先輩は満面の笑みを浮かべ、郁佑を力いっぱい抱きしめ、大声で叫んだ。


――『この営舎キャンプで幽霊になって二十年以上……ようやく、ようやく! 俺を見える奴が現れたぞ!』――


幽霊に抱きつかれた郁佑は、全身に凍りつくような寒さを感じた。体は石に押し潰されたように動かず、呼吸すらままならない。 「は……な、離して! ……死んじゃう!」


――『ああっ!? 悪い悪い、忘れてた。生身の人間に近づきすぎると、陽気を吸い取っちまうんだった』――


先輩は慌てて手を離し、頭を掻きながら謝った。郁佑は解放されると、激しく咳き込みながら酸素を求めた。改めて目の前の幽霊を観察する。旧式の軍服、青白い顔、そして首にある生々しい縄の跡。それ以外は生きている人間と大差ない。今まで郁佑が遭遇してきた邪悪な怪異とは明らかに違う。


「……本当に、幽霊なんですか?」


――『幽霊っていうか、ただの地縛霊みたいなもんだな』――


「幽霊って、人に触れないんじゃなかったんですか?」


――『ああ、触れねえよ。だからいつも「プレス」をかけてるんだ! 見本を見せてやるよ!』――


先輩は再び天井の縄に登ると、哨所の最上部から郁佑に向かってダイブした。郁佑の腕を突き抜ける瞬間、まるで鉄拳で殴られたような激痛が走り、郁佑は再び床に叩きつけられた。


――『こんな感じだ。居眠りしてる奴がいるときに巡察が来ると、親切に起こしてやってるのさ。だが最近のガキどもは寝たら最後、何しても起きやしねえ。たまに逆ギレする奴までいるからな。頭にきたから「圧」をかけて叩き起こしてやってるんだよ、ヘヘッ! お前は特別だな、触れるし抱きしめられる。温かい人間に触れたのは何年ぶりだろうなあ』――


「僕は何もしてないのに! なんで殴るんですか!」郁佑が抗議する。


――『すまんすまん! 見える奴がいるのが嬉しくてついな!』――


幽霊先輩は楽しそうに空中で座り込み、おきあがりこぼしのように郁佑の周りをふわふわと漂っている。郁佑はズボンの砂を払いながら立ち上がった。目の前の存在が信じられなかった。自分に襲いかかってこない幽霊、言葉が通じ、謝罪まで口にする幽霊。 もし、この先輩が協力してくれるなら……。


大隊長のあの「幽霊との交渉」という荒唐無稽な話も、あながち不可能ではないのかもしれない。


――『なあ、少年。名札を見たぞ、お前、黄郁佑ファン・ユーヨウって言うんだな? 一つ聞きたいんだが、最近哨番に来る奴らが持ってる、あの四角くて平べったい、光る箱は何だ? 新型の手電筒(懐中電灯)か? テレビみたいに中を映像が動いてるしよ。みんな持ってるだろ、ありゃ一体何なんだ?』――


「四角くてテレビみたいに映る……懐中電灯?」


――『さっきの班長も持ってただろ! あの光るやつだよ!』――


「ああ、スマートフォン(智慧型手機)のことですか?」


――『すまーとふぉん?』――


「ええ。……簡単に言えば、昔の『大哥大(ダーゴーダー:携帯電話)』が進化したものですよ」


――『あのデカい大哥大が、今じゃあんな形になってるのか! あんなに薄いのにか!』――


幽霊先輩は驚愕のあまり声を上げ、信じられないといった様子で郁佑を見つめた。その眼差しには、郁佑に対する尊敬の念すら混じっている。


(これ、本当に話がまとまるかもしれない……)


最新の携帯電話に羨望の眼差しを向ける幽霊先輩。郁佑は、この先輩が意外にも友好的で好奇心旺盛なことに気づき、勇気を出して対話を続けてみた。


案外、可能かもしれない。


幽霊が人間にスマートフォンのことを尋ねられるのなら、人間が幽霊に「脅かさないでほしい」と交渉することだって、不可能な話ではないはずだ。

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