首なし西瓜(八)完
この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。
その人面ナメクジ(人臉蛞蝓)は這い続けていた。いや、這うというよりは、黒い粘液を滴らせながら「蠢いている」という表現が正しい。無数の人面が浮かび上がるその塊からは、毛もよだつような哀号が響き渡る。だが、あまりに長い間それを聞かされていた孫大隊長は、ついに「うるさくて敵わん」と、郁佑の右腕から手を離した。
すると、あのおぞましい怪物は一瞬で視界から消え去った。大隊長は「ほう、不思議なもんだ」と感心し、再び刺青に触れる。また怪音が響き、ナメクジが現れる。離せば消え、触れれば現れる。まるで故障した映写機のように、怪物は断続的に姿を見せていた。
黄郁佑は恐怖で完全に硬直していた。大隊長が支えてくれていなければ、今頃腰が抜けて床にへたり込んでいただろう。彼は必死に自分に言い聞かせた。
(落ち着け郁佑、あんなナメクジ大したことない。休みの日にネットで見た『人頭西瓜』の動画の方が、血を流して首を斬る狂人が出てきてよっぽど怖かったじゃないか。……今は、怪我をした閣下と一緒に、一刻も早くここを脱出して、プロに任せるのが一番だ)
だが、プロとは誰だ? 柯一等陸尉か、小珺班長か、あるいは四番哨舎の幽霊の先輩か? もし彼らでも解決できなかったら? 徐寶学長を身代わりに置いていくのか? いや、そんなことのためにここまで来たわけじゃない!
郁佑がパニックで思考を巡らせていると、隣で信じられない光景が目に入った。なんと大隊長が服を脱ぎ始めたのだ。上半身裸になり、脱いだ運動着を無造作に引き裂いている。
「閣下! こんな時に何してるんですか! 幽霊に裸を見せてどうするんです!」
「バカ野郎! 血が止まらねえんだよ、このままだと俺が天に昇っちまう。二等兵の分際で突っ立ってないで、包帯を巻くのを手伝え!」
大隊長は落ちていた刺刀(銃剣)を拾い、運動着を布切れに変えると、手際よく自分の傷口を縛り上げた。郁佑も慌てて手伝い、止血を終えた大隊長は、裸の上半身に運動用短パンという、まるでボクサーのような格好になった。血を止めた彼は、ためらうことなくナメクジの方へ突き進もうとした。
「閣下! 方向が逆です! 出口はあっちですよ!」
「出口だと? この俺にこれほど恥をかかせたナメクジ野郎だ、二、三発殴ってやらんと気が済まん」
「殴るって、閣下には見えてないじゃないですか!」
「だからお前がついてくるんだよ! 立て、行くぞ!」
「嫌です! 行くなら一人で行ってください!」
郁佑は必死に抵抗した。負傷しているとはいえ、大隊長の筋肉質な腕力は凄まじい。鉄の決意を崩さない郁佑に対し、大隊長は崩れた毛布の山を指差した。
「いいか、あの怪物を倒さない限り、毛布の下で気絶している徐寶を助け出せないんだ。あいつを助けるには、あのナメクジを越えるしかない。分かったか!」
「……徐寶学長を助けなきゃいけないのは分かってますけど、今行っても返り討ちに遭うだけです。柯一等陸尉や小珺班長を探して……あ、あの人たちなら、きっと何とかしてくれます!」
「高く評価してくれて嬉しいよ、黄郁佑」
不意に、郁佑の頭を撫でる手が現れた。
柯魁晉だ。郁佑は生まれて初めて、この食えない上官の登場を心から喜んだ。そして、重そうなバックパックを背負った苗筱珺も姿を見せた。郁佑の胸に、ようやく希望の光が差し込んだ。
柯一尉が黄色い符咒を取り出すと、小珺班長が郁佑と大隊長を後ろへ下がらせた。大隊長が不安げに彼女に尋ねた。「……あいつで大丈夫なのか?」
「やるしかないわ。ああ見えて、あいつだって緊張してるのよ。あいつが使うのは正統な道術じゃなくて、低級な霊や鬼を操る『陰廟』の邪術……いわゆる茅山術よ。でも、今回はあいつの独壇場にはさせないわ。私もあの幽霊にはムカついてるの。どいて、準備を始めるわよ!」
苗筱珺はバックパックから、独特の文様が刻まれた敷物を取り出して座り、木箱を開けた。中には火箸、ビンロウの布、琉璃玉、松ぼっくり、バナナの葉、竹の枝など、郁佑には用途不明の道具が詰まっていた。
彼女が皿の上で数種類の粉末を燃やし、その煙をバナナの葉に纏わせながら呪文を唱え始めると、不思議なことが起きた。あの人面ナメクジが放っていた、あの不快な叫び声が、次第に小さくなっていったのだ。
これは偶然か、それとも彼女の「巫女の力」によるものなのか?
最前線に立つ柯魁晉が、符咒を手にその異形の塊へと歩み寄った。不意に、彼は背後の郁佑に問いかけた。
「……黄郁佑、君の目にはその鬼がどう見えている?」
「え、黒くてドロドロした塊に、不気味な顔がたくさん浮いてて……とにかく吐き気がするほど気持ち悪い代物ですよ」
「へえ、なかなかに具体的な描写だね」
柯一尉は感心したように言ったが、実は彼の目には郁佑が言うような具体的な形は見えていなかった。彼の視界にあるのは、空間に漂う無数の凄惨な人面だけであり、実体としての「ナメクジ」は捉えきれていない。これほどの道行にあっても、生まれつきの「陰陽眼」が持つ生々しい視覚情報には及ばないのだ。それは苗筱珺も同様で、彼女にはただ霧のような影と、頭皮が痺れるような怪音が聞こえるだけだった。もちろん、孫大隊長に至っては、郁佑の刺青に触れていなければ何も見えない。
この怪物の正体(本尊)を真に捉えているのは、天性の目を持つ黄郁佑ただ一人だった。
柯一尉が呪文を唱え、指に挟んだ符を人面ナメクジの一角へ振り下ろすと、鬼の顔が悲鳴を上げて白い煙となり消え去った。郁佑は初めて見る「本物の除霊」に目を輝かせたが、隣の大隊長は「あいつは空気に向かって何を踊ってるんだ?」と怪訝そうに尋ねる。
郁佑は大隊長の手を自分の刺青に押し当てた。大隊長はその光景を目にするや否や、「おおっ!」と声を上げて興奮し始めた。二人は先ほどまで刺刀で追い回されていた恐怖も忘れ、その術式に見入っていた。
しかし、その優勢は長くは続かなかった。
柯一尉の呼吸は次第に荒くなり、座り込んで祈祷を続ける苗班長は軍服が絞れるほどの大汗をかいていた。孫大隊長はその異変を鋭く察知し、郁佑の腕を掴む手に力がこもる。
「……閣下? 痛いですよ」
「……状況がまずい。これだけやっても、あの化け物が退く気配がまったくない」
大隊長は刺刀を握り直し、戦闘態勢を整えた。その言葉通り、人面ナメクジは柯一尉の攻撃を浴びながらも、次々と新しい顔を再生させていた。
その時、ナメクジの中から一つの中飛ぶ鬼の顔が、柯一尉に向かって弾丸のように飛び出した。
「――しまっ……!」
柯一尉は咄嗟に身をかわしたが、肩をかすめた衝撃で数歩後退した。さらに鬼の顔は苗班長を強襲し、彼女の祈祷道具をなぎ倒した。空中に舞った人面は、次なる標的を黄郁佑に定め、猛スピードで突っ込んでくる。郁佑は恐怖で目をつむり、顔を庇うように両手を突き出した。
数秒後。衝撃は来なかった。
郁佑が恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景があった。
孫大隊長が、飛んできた鬼の頭を鷲掴みにしていたのだ。 大隊長の巨大な手の中で、鬼の頭はバスケットボールのようにひしめき、逃げようともがいている。だが、大隊長が指に力を込めるたび、鬼の顔は苦悶に歪み、なす術もなく封じ込められていた。
「……何ボサッとしてる。柯一尉!」
大隊長の怒鳴り声で我に返った柯一尉は呆然と笑い、苗班長は慌てて倒れた道具の中から除霊の粉末を掴み取ると、大隊長が掴んでいる鬼の顔に浴びせかけた。鬼の頭は蒸発するように消え去った。
「……さて、誰か教えてくれ。次に何をすればいい?」
孫大隊長が低い声で尋ねた。
状況は最悪だ。大隊長は負傷し、除霊の専門家二人は消耗しきっている。郁佑は見えるだけで何もできず、徐寶はまだ毛布の下だ。そして何より、目の前の悪霊は依然として健在だった。
柯一尉と苗班長は顔を見合わせ、そして同時に大隊長を見た。
「……なんだ。その目は。……まさか、こいつは除霊できないのか?」
「……『除霊』というのは少し語弊があるな。僕はただ、霊を追い払っている(駆逐している)だけで、消滅させているわけじゃない。茅山術は陰界の力を借りる術だ。霊を完全に打ち砕くには、施術者もそれ相応の代償を払わなきゃならないからね」
「つまり、怖がらせて追い払っているだけで、仕留めてはいないということか」孫大隊長が確認する。
「その通りだ」柯魁晉は頷いた。
苗筱珺は乱れた道具を整え、再び除霊の陣を敷き直した。しかし今度は、大量の粉末を床一面に撒き散らし始めた。
「これは私の部族に伝わる、動物の骨の粉末と薬草を調合したものよ。……これで少しは時間を稼げるはず」
本来の計画では、柯一尉が前線で次々と現れる孤魂野鬼(浮遊霊)を退治し、苗班長が後方から干渉を抑え、呪いの中心を叩くはずだった。だが、想定外の事態が起きていた。
「……呪術に引き寄せられた霊の数が、多すぎるわ」
苗班長が汗を拭う。二人はすでに満身創痍だった。
「呪術の威力を低く見積もりすぎていたようだ。集まった霊体は、動物霊や低級霊を含めて数百は下らない。数に押されて体力を削られる一方だね」
「班長、さっき僕の時みたいに、一気に除霊できないんですか?」郁佑が尋ねる。
「あれは応急処置よ。……部族の巫女は本来、お祓いや守護を司る神媒なの。鬼の力を使う茅山術とは違う。私たちは祖霊の庇護を請うのであって、戦うための術じゃない。……今は一匹ずつ追い払うしかないわ」
三人が打開策を議論していると、不意に孫大隊長の姿が消えた。見れば、彼は苗班長のバッグを勝手に漁り、粉末の瓶を次々と取り出していた。
「閣下! 何してるんですか! 人の道具を勝手に……!」
苗班長が慌てて駆け寄り、瓶を回収しようとした。だが大隊長はその腕を掴み、鋭い眼光で彼女を見つめた。
「……苗筱珺。さっき私が掴んだあの気味の悪い頭に、お前が何かを振りかけたら、そいつは消えたな。その粉はどれだ? あのナメクジ野郎の面にぶっかけて、泣きっ面にしてやりたいんだが」
「……何が泣きっ面よ! あれは今撒いた粉の強化版で、もう一瓶しかないわ。……あ、ちょっと!」
大隊長は彼女の制止を無視し、その大瓶を抱え上げると、郁佑の前で立ち止まった。
「……持て」
言われるがままに瓶を受け取った郁佑が困惑していると、次の瞬間、彼は大隊長の背中に担ぎ上げられた。
「……か、閣下!?」
「しっかり捕まってろ。その瓶を離すなよ。……反撃開始だ!」
有無を言わさぬ迫力で、大隊長はナメクジの方へと歩み出した。苗班長が止めようとしたが、柯一尉がその肩を掴んで制止した。
「……追わなくていい。言っただろう、彼は僕の『切り札』なんだ」
一方、大隊長の背中で郁佑は半狂乱になっていた。目の前にはあの悍ましい人面ナメクジが迫っている。
「降ろしてください! 死んじゃいます! もういい、こんなことが終わったら僕、絶対にストライキしてやりますからね! 伝令なんか辞めてやる! 普通の軍隊生活を送らせてくださいよ!」
罵詈雑言を並べ立てる郁佑に対し、大隊長は平然と言った。
「……言い終わったか? 少しはスッキリしたか?」
大隊長の足取りは一切乱れない。手には奪い返した研ぎ澄まされた刺刀(銃剣)を握り、戦闘態勢を維持している。
「黄郁佑二等兵。……返事は?」
「……報告します……落ち着きました」
理気を取り戻した郁佑が、震える声で答える。
「……いいか郁佑。一人で行けるなら、わざわざお前を担いで体力を使うはずがない。……残念なことに、俺の目には今、化け物なんて一匹も見えねえんだ。見えるのは毛布の山だけだ」
(そうか……。閣下には、幽霊が見えないんだ……!)
孫大隊長は前を見据えたまま、一度も振り返らなかった。黄郁佑は、この上官が何をしようとしているのかを察し、覚悟を決めて深く息を吸った。
「……閣下、あのナメクジまであと三十歩です」
「ふん、察しがいいな。さすがは俺の選んだ伝令だ。……いいか郁佑、あの粉の瓶は飾りじゃないぞ。お前が敵の顔の位置を報告し、俺が捕まえるか斬るかした瞬間、容赦なくその粉をぶっかけろ! 分かったか!」
「了解しました!」
二人の間に、戦場さながらの奇妙な連携が生まれた。
(……ちょっと、何なのあの滅茶苦茶な戦い方は……信じられないわ……)
後方で支援していた苗筱珺は呆然とした。柯一尉のサポートで手一杯になるかと思いきや、大隊長は刺刀を手に、迷うことなく鬼の顔の群れに突き進み、時には素手で霊体を引きずり出していた。そこへ郁佑が祖霊の加護を受けた獣骨の粉末を浴びせ、低級霊たちを次々と消滅させていく。
苗班長が驚いたのは、大隊長の「速さ」だった。柯一尉が慎重に間合いを測っているのに対し、大隊長は一切の躊躇なく主導権を握っている。怪異たちの方が、むしろ彼を恐れて近づけないようだった。
「……あいつ(柯一尉)が、この二人を見て変態みたいに笑う理由が分かったわ」
苗班長は琉璃玉を並べた木条を手に、次の段階へ移った。彼女の本領は、事物を見通す「占い」にある。精神を集中し、祖霊に問いかけると、暗闇の中に一つの光景が浮かび上がった。
「見つけたわ! 一番奥! 幾つもの顔に囲まれた、長い……布のようなもの! それが呪いの原型よ!」
彼女の声が倉庫中に響き渡る。
「……おい、聞いたか郁佑!」
「はい!」
大隊長の腕の傷は、すでに包帯を真っ赤に染めていた。限界が近いのは明白だったが、彼は強がって足を止めない。郁佑は黒い粘液の渦の中心を指差した。
「閣下、あそこです!」
大隊長が踏み込む。そこには異様に醜悪な顔が集まっていた。郁佑はその顔を凝視し続けるうち、幼少期に見た公園の幽霊の顔が脳裏にフラッシュバックし始めた。
――パチン!
柯一尉が郁佑の額に符を貼り付けた。
「……低級霊といえど、この怪談を媒介にした呪いは侮れない。顔を長く見るな、君の心の恐怖を引きずり出されるぞ」
「黄郁佑! 寝てんのか! 位置を言え!」
「は、はい! ――今です!」
大隊長の一撃が、郁佑の指した方位の毛布の山を正確に貫いた。その瞬間、人面ナメクジは断末魔の叫びを上げ、花火のように霧散した。
静寂を取り戻した倉庫で、大隊長が刺刀を引き抜くと、そこには一枚の「姓名條(名札)」が突き刺さっていた。
そこに記されていた名は――「周裕邦」。
事件後。
行方不明だった徐寶学長は無事に保護されたが、大隊長を負傷させた罪(憑依されていたとはいえ)により、十四日間の外出禁止を言い渡された。
「人頭西瓜」の噂は相変わらず囁かれ続けているが、柯一尉は笑ってこう言った。「実体のない噂こそが、最も恐ろしい幽霊を生み出すんだよ」
郁佑は、何かを忘れている気がしていた。
数日後、苗班長に問い詰められてようやく思い出した。自分たちが倉庫に行った本当の目的は、徐寶の捜索ではなく、あの**《青土山鬼話》**という手記を回収することだったのだ。
しかし、その後の再捜索でも、あの本は見つからなかった。
さらに苗班長は、戦慄すべき事実を郁佑に告げた。
あの「周裕邦」という人物は、すでに五十代で病死しており、軍でのいじめとは無関係だったこと。そして、あの名札の裏には、鮮血で描かれた五芒星の陣が縫い付けられていたこと。
「……誰かが、意図的にこの呪いを仕組んだのよ」
ある夜。
郁佑は週例の報告のために営長室(大隊長室)を訪れた。返事がないため、こっそり中に入ると、主のいないデスクの上に――。
ずっと探し続けていた**《青土山鬼話》**が、まるでそこにあるのが当然であるかのように置かれていた。
郁佑が震える手でその本を手に取ったその時、背後のドアが開き、孫大隊長が入ってきた……。




