首なし西瓜(四)
この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。
「――えっ!? 人間じゃないのかよ!」
阿江が驚きのあまり声を張り上げた瞬間、周囲から何本もの手が伸びて彼の口を塞いだ。何人分もの手が阿江の顔を覆い、鼻と口を完全に封じ込める。阿江がもがいて白目を剥きかけたのを見て、郁佑が慌てて制止し、ようやく解放された。 新鮮な空気を吸い込んだ阿江は床に座り込み、大声で喘いだ。幽霊に殺される前に、仲間に殺されるところだった。
「声が大きすぎるのよ、バカ」小珺班長が低く罵る。
「だってよ……幽霊ってのは普通、人間が化けるもんだろ。それが人間じゃないなんて言われたら、誰だって驚くぜ」 阿江が同意を求めて郁佑を見ると、郁佑は純粋にこっくりと頷いた。
間に挟まれた斉瑋が溜息をつく。 「……魂を持つのは人間だけじゃない。動物、植物、人形やぬいぐるみだって不浄なものに憑依される。幽霊=人間っていう認識は捨てろ」
「そっか。……じゃあ、班長の言ってた『食人精鬼』ってのは何なんだ?」
「人間の『精気』を吸って転化した邪霊のことよ。仏教や道教の概念ね。でも私の考えでは、万物には霊が宿り、自然そのものを崇拝する原始信仰こそが本質よ。私たちが気づかないうちに、あるべきではない場所に『霊性』が宿ってしまう……これは避けられないことなの」
懐中電灯の光を頼りに、一行は「神隠し」に遭ったと思われる徐寶を求めて倉庫の奥へと進む。 旧倉庫の中は木屑と埃にまみれていた。ここはかつて木造の軍舎だった建物をコンクリートで覆って改築したものだという。窓はすべて密閉され、長年換気もされていない。かつての封印の紙(封條)も、今では厚い埃に覆われていた。
旧倉庫はT字型の構造をしており、前段・中段・後段に分かれている。正門から入れば中段に行き着き、左右の分かれ道が前後の区画に繋がっている。それぞれの境界には鉄門があり、正門は通常、担当の班長しか鍵を持っていない。 ましてや裏門は、小さな鉄の扉に太い鎖まで巻き付けられており、明らかに「開けるな」という意思表示がなされていた場所だった。
「……さて、中に入った以上、説明してもらいましょうか。私たちが来る前に、ここであんたたちが何をしたのかをね」
前を歩く苗教官が、後ろの二人に鋭い視線を向けた。阿江は「さあ……」ととぼけた顔をしたが、斉瑋は冷静に答えた。 「徐寶は、おそらく一番奥の区画にいるはずです」
「なぜそう言い切れるの?」
「あそこで『招鬼の呪符(紙紮)』を見つけたからです。あそこには大量に落ちていた。……まあ、徐寶の自業自得な部分もありますが。あいつはあそこに閉じ込められて、出られなくなっているんだと思います」
「あんたたち、あんなに『開けるな』って雰囲気だった門を、どうして無理やりこじ開けたのよ!」
「徐寶のバカを放っておけなかったんですよ。清点の時に備品が足りなくなったら、俺たち三人の責任になるし、国に弁償なんて真っ平ですから」
二人が言い争いを始めると、ただでさえ耳鳴りに苛立っていた小珺班長が、懐中電灯を自分の顔の下から照らし、鬼のような形相で一喝した。 「あんたたちの無駄口はどうでもいいわ! 事実を整理しなさい! ……まず、あの裏門の鍵はどこから手に入れたのよ?」
徐寶、阿江、斉瑋の三人は、青土山営舎において「問題児三人組」として知られていた。 斉瑋こそ通常の補充兵だが、阿江と徐寶は他部隊で持て余され、この「幽霊営舎」へ支援という名目で島流しにされてきた連中だ。気が合った三人は、性格は違えどいつも一緒に行動していた。
その夜、徐寶が掃除の手抜きで罰を受け、旧倉庫の整理を命じられた際、運悪く一緒にいた阿江と斉瑋も連帯責任で引きずり込まれた。 三人が旧倉庫の裏門にたどり着いた時、厳重に鎖が巻かれた門を見て、阿江と斉瑋は正門へ回ろうとした。だが、徐寶が二人を引き止めた。
「おい、どこへ行くんだよ?」
「どこって、正門だよ。裏門は鍵がかかってて入れないだろ」
「へへっ、待てよ。俺にはこれを開ける方法があるんだぜ」
徐寶は自信満々に、軍用パンツのポケットから一本の古びた鍵束を取り出した。錆びついた四本の鍵。阿江がどこで手に入れたのか聞く前に、徐寶は嬉々として裏門の錠前に鍵を差し込み始めた。
「……おいおい、班長に見つかったらまた怒られるぞ」 阿江は呆れながらも、徐寶が鍵をガチャガチャと試すのを眺め、タバコに火をつけた。三本目の鍵でも開かず、徐寶が最後の四本目を手に取った時、斉瑋が尋ねた。
「その鍵、どこで拾ったんだ?」
「どこだっていいだろ。それより、旧倉庫の夜は陰気だって有名じゃないか。せっかく鍵があるんだ、掃除なんかより『探検』しようぜ!」
斉瑋は溜息をついた。掃除を嫌がっていたかと思えば、次は「幽霊屋敷探検」という突拍子もないことを言い出す。これだから、前の部隊の中隊長も必死になって彼をこの青土山へ追い出したのだろう。
だが、驚いたことに、最後の鍵が重い錠前を解いた。 ガチャン、と錠前が地面に落ち、徐寶は歓声を上げた。錆びついた取っ手を力一杯引き、阿江と斉瑋も加わってようやく扉が開いた。
扉の向こうからは、数十年分のカビと埃の臭いが立ち込め、阿江は激しく咳き込んだ。 その先は、懐中電灯の光すら吸い込むような、完全な沈黙と暗闇だった。
「……本当にここから入るのか?」斉瑋が聞いた。
「当然だろ! 苦労して開けたんだ、入らなきゃ損だぜ」
「でも、中にも門があるはずだぞ。外から施錠されてる門を、どうやって開けるんだよ」
「ははっ、阿江はバカだな。だから鍵を四本持ってきたんだよ。どれかは合うはずだ。さあ行こうぜ、斉瑋! お前がライトを持って先導してくれ!」
徐寶は斉瑋の肩を押し、「お前が最初に行け」と促した。斉瑋は徐寶を睨みつけると、逆に彼の袖を掴んで一緒に旧倉庫の闇の中へと引きずり込んだ。阿江は二人が中に入ったのを見届け、タバコを足で踏み消すと、最後尾から後に続いた。
通常、青土山の班長が兵を連れて旧倉庫を整理するのは、決まって朝の早い時間帯だ。夕方以降にここへ近づく者など誰もいない。旧倉庫にまつわる不気味な噂はどの連隊でも囁かれているが、実際に日が暮れてから確かめに来るような物好きは、この三人組をおいて他にいないだろう。
三人は一列になって奥へと進む。斉瑋の懐中電灯が周囲を照らすと、そこには廃棄された古い内務櫃が延々と並んでいた。大小さまざま、歪んだロッカーが整然と両脇を固め、曲がりくねった小径を形作っている。その光景は異様なほどに不気味だった。 阿江と斉瑋は刺激しないよう慎重に歩いていたが、徐寶は違った。彼は面白半分にロッカーの扉を次々と開け、中に「お宝」が残っていないか探し始めた。錆びついた扉が立てる耳障りな音が響き渡り、ついに阿江が痺れを切らして怒鳴った。
「おい、白目寶! 遊んでないで早く正門の方を片付けて帰るぞ。零時過ぎまでこんな所にいたくねえんだよ! ……おい! 聞いてんのか! ……うわぁぁぁ!」
阿江が徐寶を突き飛ばすと、振り返った徐寶の顔が「人間ではない何か」に変わっていた。阿江は悲鳴を上げて尻餅をついたが、それは徐寶が仕掛けた悪戯だった。徐寶が爆笑する中、斉瑋が阿江の頭を叩いて言った。 「……ただの鏡だよ」
「……この野郎、ふざけんなよ!」 汚れを払いながら立ち上がった阿江が罵るが、徐寶は悪びれる様子もなく、今しがた遊びに使った姿見(鏡)をロッカーに戻した。
「吠えるなよ。探検なんだから面白いものを見つけなきゃ損だろ。班長連中はいつも正門付近しか掃除させないし、ロッカーの方には近づかせない。絶対、酒かタバコでも隠してんだぜ。じゃないと、お前のとこの小鋼砲(ハゲ班長)が、あんなに高い洋タバコを吹かせるわけないだろ」
そう言いながら、徐寶は次のロッカーを開けた。それは他の歪んだものとは違い、妙に新しく、扉もしっかりしていた。徐寶が迷わず開けると、彼は数秒間、固まった。 「……おい。二人とも、ちょっと来い」
阿江と斉瑋が「また下らない物で見つけたんじゃねえだろうな」と毒づきながら歩み寄ると、徐寶が再び扉を開いた。その中身に、二人は言葉を失った。
ロッカーの中は、赤黒い文字で埋め尽くされていた。冥紙(めいし:死者への供え物)や、デタラメに貼られた符咒が散乱している。赤い文字はどれも呪詛に満ちていた。 『死ね』『役立たず』『この売女が!』……目を背けたくなるような罵詈雑言の中でも、ひときわ大きく書かれていたのは**「幹」**という一文字だった。
そして最も異常だったのは、その中に吊るされていた、一着の真新しい迷彩服だ。その存在が、空間の不気味さを一層際立たせていた。
「……うわ、何だこれ……」 阿江は絶句し、ただ汚い言葉を漏らすことしかできなかった。 斉瑋は無言で背を向けようとしたが、徐寶が彼を呼び止めた。
「待てよ、斉瑋。そのライトで軍服を照らしてくれ。名札がまだ付いてるみたいだ」
「よせ、徐寶。……冒険は終わりだ。帰るぞ」
「なんだよ、ビビりすぎだろ。服を見るくらい減るもんじゃないし。いいよ、お前が照らさないなら俺がスマホで見るから。誰の名前が書いてあるか……」
徐寶が軍服を裏返そうと手を伸ばした瞬間、阿江がその腕をひっ掴み、力任せに彼を後ろへ突き飛ばした。 ガコンッ! 激しい音を立てて、ロッカーの扉が閉まる。
「いい加減にしろ、このバカ! 触るなって言ってるだろ! 悪いもんに憑かれたら、お前一人置いていくからな! 行くぞ! 次に変なことしたら、その腕切り落としてやる!」
阿江は徐寶に掃除用具を押し付け、彼を先頭へと追いやった。斉瑋もライトを振り、早く先へ進めと促す。徐寶は不満げに手を振りながらも、ロッカーの迷路を抜け、さらに奥へと進んだ。
三人がたどり着いたのは、T字型倉庫の突き当たりにある重厚な扉だった。この扉の向こう側が、普段彼らが使っている備品庫のはずだ。
「……やっぱり開かないな」 徐寶がラッチを回すが、古いノブはびくともしない。徐寶は例の鍵束を取り出し、一本ずつ試し始めた。 その傍らで、斉瑋が阿江を肘で突き、耳元で小声で囁いた。
「……おい。今日の徐寶、何かおかしくないか?」
「さあな。いつものことだろ、あのバカ。だから班長たちからも目をつけられるんだ」
「……目を離すなよ。何かあったら……まあ、見えればの話だがな」
扉が開いた。徐寶はためらうことなく、勢いよく庫内へと足を踏み入れた。斉瑋と阿江がその後に続く。斉瑋が懐中電灯で周囲を照らすと、そこは見慣れた旧倉庫の備品庫だった。 左を見れば正門、右を見れば廃棄された機材とコンクリートの壁。いつも通りの光景に二人は安堵し、本来の目的である掃除に取り掛かることにした。 中庭の備品庫は唯一電気が生きており、彼らがスイッチを入れると、微弱なタングステン電球が放つ黄色い光が、懐中電灯の光と混ざり合って庫内をぼんやりと浮き彫りにした。
徐寶は不承不承掃除を始めたが、積もり積もった埃のせいで鼻炎が爆発し、数分もしないうちにやる気を失った。「つまんねえな」と独り言を漏らしながら、適当に箒を振り回していると、彼の目の前に、もう一つの閉ざされた扉が現れた。
それは、T字型倉庫の左側に位置する小部屋だった。そこは古くから固く閉ざされ、誰一人入ったことがない場所だ。兵隊たちが「中には何があるんですか?」と尋ねようものなら、上官たちは決まって「質問が多いぞ! 志願兵にでもなりたいのか!」と怒鳴り散らし、煙に巻いてきた場所である。
徐寶は大扉の前で立ち止まった。その視線は、埃にまみれた「型板ガラス(曇りガラス)」に釘付けになっていた。 徐寶は耳を澄ませた。ガラスの向こう側で、何かが動いているような気配がする。微かな話し声のようなものが聞こえるが、何を言っているのかは判別できない。ただ、ガラス越しに揺れる黒い影だけははっきりと見えた。まるで誰かが中を歩き回っているかのようだ。 徐寶がガラスの埃を手で拭うと、その確信はさらに強まった。
「……おい、斉瑋、阿江……」
「なんだよ、白目寶。また何かやらかす気か?」
「……中に、誰かいる」
徐寶がそう言った瞬間、場が静まり返った。ガラスの向こうの影がぴたりと止まり、ゆっくりと沈み込むように消えていく。 徐寶が鍵束を取り出し、その禁断の扉を開けようとした時、阿江が慌てて彼の腕を掴んだ。 「誰かいるわけねえだろ! バカ言うな! ここには俺たち三人しかいないんだ。余計なことせずに早く帰るぞ!」
「いや、本当にいたんだ。ちょっと中を見てくる」
「いい加減にしろ、徐寶様! 頼むからもう問題を起こさないでくれ!」
二人が扉の前で押し問答をしていると、二人をなだめようと近づいた斉瑋が、目を見開いて硬直した。 扉のガラス越しに、黒い物体がゆっくりと現れ、人間が歩くような動作で反対側へと通り過ぎ、消えていったのだ。
「……阿江」
「なんだよ斉瑋! お前からもコイツを……」
「……今、見えなかったか?」
斉瑋の声が震えていた。阿江の動きが止まる。徐寶なら「見間違い」で済ませられるが、冷静な斉瑋まで見たとなれば話は別だ。この扉の向こうに、本当に「何か」がいるのか? 阿江の背筋に冷たいものが走った。
――カチャリ。
止める間もなく、徐寶が扉を解錠した。 阿江が制止するより早く、徐寶は中へと消えていく。阿江には中へ入る勇気などなかったが、斉瑋もまた、その場から動けずにいた。二人が顔を見合わせ、一歩を踏み出せずにいた時、中から徐寶の声が響いた。
「……なんだよ、ただの『大寝室』じゃないか。誰もいないぞ」
(大寝室……?)
その声に少しだけ安心した二人が中を覗くと、そこには確かにかつての兵舎の寝室が広がっていた。二段ベッドが向かい合わせに並び、上下の段には今も緑色のシーツと枕が整えられている。埃を被ってはいるが、ロッカーや鉄製ヘルメット、雑多な備品、さらにはベッドの下のサンダルまでが、まるで**「時が止まったまま」**そこに残されていた。
「……おい、何してるんだ。さっさと出てこい!」 阿江は入り口で叫んだが、斉瑋は磁石に引き寄せられるように中へと歩を進めた。 なぜ他の部屋は倉庫に改築されたのに、ここだけが当時のまま残されているのか? 今も誰かが使っているのか? いや、この埃の厚さは数ヶ月やそこらで積もる量ではない。
部屋の奥、開いたロッカーの前に徐寶が座り込み、一冊の「黒褐色の古い本」をめくっていた。
「俺が開けたんじゃないぜ。入った時から開いてたんだ。勝手に動かしてないからな」 徐寶は先手を打って言い訳をしたが、斉瑋はその本を指差した。 「勝手に動かしてないって、お前が持ってるそれは何だよ」
「ああ、これ? 『大兵日記(兵隊日記)』だよ。超古臭いぜ! ほら、縦書きだ。これ持って帰ったらウケるだろうな。……それに、何か書いてあるんだ。昔ここで服役してた兵隊が残したやつだろうけど、倉庫の昔話でも書いてあるかもな」
「……置いていけ。変なものを持ち出すな。もう十時過ぎだ、早く戻らないと点呼に遅れるぞ」
斉瑋が本を取り上げようとした時、徐寶がその日記の一節を朗読し始めた。
『――退役まであと一ヶ月。この二年間、俺はずっと考えていた。なぜこの営舎にはこれほど幽霊が出るのか? ただの噂なのか、それとも真実なのか……俺にはもう分からない。 ……あの時の出来事が、ずっと脳裏に焼き付いて離れない。恐ろしい。もしこれが公になれば、輔導長や中隊長どころか、大隊長との面談だけで済む話じゃない。どれほどの外出禁止も禁閉処分も、この悍ましい事件を覆い隠すことはできないだろう……。 ……だから俺は、この予備の日記帳に、あの日に起きた「本当の経緯」を記すことに決めた。……あいつは死ぬはずじゃなかったんだ! 本当に、俺は……』
「……徐寶、何をしてるんだ?」
「適当に選んで読んでみただけだよ。つまんねえな、兵隊が別の兵隊に宛てた謝罪文みたいだ。お前も見てみろよ、何か面白いこと書いてないか」
徐寶は日記を斉瑋に押し付けた。斉瑋はそれを投げ捨てようとしたが、あるページで目が止まった。 そのページには広大な空白が広がり、その中央に、赤い筆跡で大きく四文字だけが記されていた。
** 首 な し 西 瓜 **
「……ん?」
斉瑋が日記をめくった際、ページの間から一枚のメモが滑り落ち、ベッドの下へと吸い込まれた。斉瑋が屈み込んで覗き込むと、驚いたことにベッドの下のトレイには、軍靴と鉄製の洗面器が当時のまま整然と並べられていた。 斉瑋がトレイを引き出すと、そこにはおぞましい光景が広がっていた。慌ててトレイを元の場所へ押し戻す。
(……洗面器の中に『招鬼の呪符(紙紮)』が!? それに……)
隣のベッドのトレイも引き出してみたが、結果は同じだった。全てのトレイにあの不気味な紙人形が貼り付けられていたのだ。 斉瑋が周囲を見渡すと、そこには依然として不気味なほどの静寂が広がっていた。遠くの入り口からは、自分たちを待っている阿江の懐中電灯の光が漏れている。斉瑋は**バカ宝**こと徐寶の肩を叩き、「もう行くぞ」と促した。徐寶はロッカーの中を食い入るように見つめたまま、一歩も動かずにいた。
「徐寶?」
斉瑋が強く揺さぶると、徐寶はようやく我に返った。斉瑋が「遅くなれば班長に殺されるぞ」と言うと、徐寶は大人しく彼の後に続いた。 部屋を出る間際、斉瑋は最後に一度だけ中を振り返った。開いたままのロッカー、そして無数の呪符。……扉を閉める一瞬、彼は自分の目を疑った。ロッカーの前のベッドに、依然として誰かの影が座っているように見えたからだ。
「……なんてこと。あんたたち、本当にやってくれたわね!」
斉瑋と阿江の話を聞き終えた苗筱珺は、今にも叫び出したいのを必死に堪えていた。 禁じられた部屋に入り、陰宅の品々を荒らし、正体不明の日記を朗読する……。これらはすべて、怪異を引き寄せるための「最高の餌」だ。 呪いと恨みで埋め尽くされたロッカー、当時のまま残された大寝所、日記、そして招鬼の呪符。
阿江たちの愚かな行動が事態を加速させたのは事実だが、苗班長には別の確信があった。何者かが裏で糸を引き、この状況を仕組んだ者がいる。 (……誰かがこの罠を張り、獲物がかかるのを待っていたのね。あんたたちか、私か、誰が最初に来てもこうなっていた。徐寶は運悪く、その『身代わり(スケープゴート)』にされただけよ)
「……班長。それで、徐寶は見つかるんですか?」
「保証はできないわ。……もし見つけられなければ、あいつは本当の意味で終わりね」
「終わり……って、どうなるんですか?」
郁佑の問いに、苗班長の視線が鋭く突き刺さる。郁佑は思わず身を縮めた。
「……万物には霊魂がある。死ねば霊気となって肉体を離れるけれど、実体のない『概念』が偶然にも意志を持ち、生物のように魂を形成し始めたら、そいつが最初に何を求めると思う?」
「えーっと……ご飯とか?」
あまりにも間抜けな郁佑の答えに、苗班長は盛大に白目を剥いた。
「――依り代となる肉体よ。 どんな手段を使ってでもね」
「……それって、つまり……乗っ取り(憑依)?」
「ええ。それも極めて暴力的な方法でね。だから邪霊と呼ばれるの。おそらくこの邪霊は、人々の間に流布された『人頭西瓜』という偽りの怪談から生み出された『人造の怪異』だわ。私が長年調査してきた結果では、そもそも人頭西瓜なんて事件は……」
「……存在しない?」
孫大隊長の脳裏に疑問符が浮かんだ。 怪力乱神を地で行く柯一等陸尉が、今回の件を「作り話だ」と切り捨てたことが意外だったからだ。てっきりもっともらしい伝説の由来でも聞かされると思っていたのだが。 柯一尉は頷き、言葉を続けた。
「人頭西瓜の怪談は、ただの『手段』ですよ」
「手段だと?」
「――いじめの抑止です。」
「……この怪談が、軍内のいじめを防ぐために作られたと言うのか?」
「ええ。軍学校出身の閣下なら、当時の先輩・後輩関係がいかに過酷だったか、私以上に身に染みているはずです。……『人頭西瓜』の中で、後輩をいじめた先輩たちが首を刈られ、最後に後輩が自ら命を絶つ……。この物語のフローは、軍内のいじめがいかに破滅的な結末を招くかという警告そのものです。『目には目を、歯には歯を』。これこそが軍が最も忌み嫌う状況ですからね。……そうでしょ、閣下?」
ヘラヘラと笑いながら軍の暗部を突く柯一尉に、孫大隊長は深い不快感をあらわにした。
「ふん。しょせんは作り話だというのなら、これ以上語ることは何もない」
大隊長が切り捨てたが、柯一等陸尉は皮肉な笑みを浮かべたまま続けた。
「それこそが重要なのですよ。元々は『いじめの抑止』という善意から生まれた教訓が、いつしか怪談として一人歩きを始めた。偽りの物語が広まるにつれ、人々はこう考え始めたのです。『この話は本当じゃないか?』『軍のどこかで実際に起きたことじゃないのか?』と。いわゆる『三人成虎』ですよ。そうして『人頭西瓜』は、全軍の兵士が知る本物の怪談へと変貌を遂げたのです」
「……偽りが、真実へと転化するのか」
「馬鹿馬鹿しい! ただの噂に過ぎん」
「……ですがね閣下。いじめという醜悪な現実は、この軍隊という閉鎖空間では掃いて捨てるほど転がっていますよ。……例えば、このロッカーのように」
柯一尉の懐中電灯が、旧倉庫に並ぶ一つのロッカーを照らし出した。孫大隊長が中を覗き込むと、そこには冥紙(死者への金)が詰め込まれ、低俗で目も当てられない罵詈雑言と、呪詛の赤い文字がびっしりと書き殴られていた。だが、それ以外には何も残されていない。
一方、その光景を少し離れた場所から見ていた阿江は、目を見開いて絶叫した。
「……う、嘘だろ!? ありえねえ! さっき俺たちが開けた時は、中に一着の軍服(迷彩服)が吊るしてあったんだぞ!」
空っぽのロッカーを前に、阿江は混乱し、隣の斉瑋を見た。斉瑋もまた、青ざめた顔で力強く頷いた。確かに、数分前までそこには血生臭い雰囲気を纏った軍服があったはずなのだ。その服は一体、どこへ消えたというのか?
苗筱珺の耳に、キーンという鋭い耳鳴りが響き渡る。その音は先ほどよりも遥かに大きく、激しくなっていた。事態は彼女が最も恐れていた「最悪のシナリオ」へと、加速度的に突き進んでいる。




