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鳥少年。

作者: 田中かなた
掲載日:2025/11/29


鳥が空を羽ばたく。

バタバタ、バサバサと翼を振る。

僕は幼い頃に真似をしたが空に羽ばたけやしなかった。

鳥になりたい。

この思いはあれ以来変わる事はない。

僕は大空を羽ばたいていたい。

雲を掻っ切って自由を掴みたい。

そして僕はこう言いたいんだ。


自由()っていいなぁ!」


壁がないそれこそが自由だ。

僕は鳥になりたい。

僕は空が好きだから。

自由が好きだから。

翼が欲しい。


夏休み。

僕は自分を見つける旅に出る事にした。

自分を見つけて僕は翼を得るんだ。

僕は寂れたパパの部屋から登山具を取り出した。


「母さん、僕、少し自分を探す旅に出るよ…学校が始まる頃には帰るよ」


母はあんたにはまだ早いよと嘲笑った。

だけど僕はもう決めたから。

家の扉を鳥籠の中から僕は飛び出した。

羽の無い僕はただ自転車で導かれるままに走った。

風を浴びる。

気持ちいい。


「必ず見つけ出す。」


僕はワクワクで口角が上がった。

自分探しの旅が今始まる。

二時間程漕いで時間は夕暮れとなった。

小波の音が心地よく懐かしかった。

砂浜に座り思い出す。

瞳にこびり付かせる。


「懐かしいね…パパ…」


海岸で今も父が手を振ってる気がする。

僕は瞑想した。

自分を探す。

ありがとうパパ。

少し分かったよ。


「ふぅ…じゃあまたね。」


僕は手を振って別れる。

自転車に跨り、次の場所を目指した。

通り過ぎて行く車の風は涼しく気持ちが良かった。

海の風。

温かく癒してくれた。

鳥はこんな温風に癒されて飛ぶのか…鳥に産まれたかったな。

群れを為して鳥は自由に羽ばたく。

人の手では届かない空という自由を掌握している。

僕は手を広げて飛ぶ真似事をした。


「僕は羽ばたけるかな…見ててねパパ…」


日は沈み夜になった。

夜の森には虫の演歌が響めいていた。

夜の森を登る。

公園に着いた。


「変わってないな…この公園は。」


小さい頃の僕が父の手を引っ張りながら通り過ぎて行く。

僕のあの瞳は輝いていた。

僕は後を追いかける。


「懐かしいなこの滑り台…パパ……パパ…」


頬に何かが伝う。

僕は拭い微笑んだ。


「うん…何となくだけど少し分かったよ。」


僕はベンチで横になった。

月は静かに冷徹に僕を見詰めていた。


「月って近くで見たらどれだけ大きいんだろう…」


僕は月を掴もうと手を伸ばし、抑えきれず手で目を覆い隠す。


「もう寝よう…」


目を瞑り虫の演歌が睡魔を誘ってくれた。

朝。

ベンチをバシバシと叩く音で目を覚ます。


「風邪引くぞ」


齢七十辺りのお爺さんが僕に話しかけてきた。

僕はすいませんと謝り立ち退き踵を返そうとすると静止された。


「待ちんさい。お前みたいな若造がこんな所で寝とるんじゃ何か訳でもあるんじゃろ。爺で良ければ話を聞いてやるぞ」


僕は頷いた。


「じゃあ僕のお話少し聞いてもらいます。」


僕が今旅をしている話と旅の目的を話した。


「そうか。お前みたいな若いもんが自分探しの旅か…色々あったんじゃろ…旅の果てにお前は何を求める?」


僕は答えた。


「そうか…」


僕は逆に聞いた。

お爺さんは何者なのかを。


「儂もお前さんと同じで何かを求めて彷徨う旅人じゃ。今尚見つけられぬ哀れなな。」


お爺さんは呆れた様な笑った。

このお爺さんは僕と近い何かを感じた。

きっと…この人は………そうか僕も同じだったんだ。


「お爺さんありがとう。少し自分が分かったよ。僕は旅の果てに辿り着いてみせるよ。」


お爺さんはふっと笑って健闘を祈ると太陽の果てを見詰めていた。


「行ってきます。」


お爺さんは何も言わなかった。

だけど伝わったよ。

僕は森を下りて自転車に跨り次の場所まで向かった。

次は遠い為、ぬるくなったお茶を飲み自転車を漕ぐ。


「散らばった自分をだいぶ見つけれたな…ふふ。」


僕は久しぶりに喜びと言う感情を抱けた。

パパ…お爺さん…僕は導かれているのかもしれない。

見ててね。

僕の旅の果てを。

待っててね。

僕の帰りを。

行こう。

行って知るんだ。

僕は………べきかどうかを。


「懐かしい景色だ。」


次に来た場所は犬のジゾーを埋めた場所だ。

お地蔵さまの近くで横たわっていた所を僕が連れ帰った。

だから名前はジゾー。

可愛かったなぁ。


「久しぶり、ジゾー。」


僕に教えてくれ。

君は僕をいつだって導いてくれた。

南西からジゾーの声が聞こえた。


「ありがとう。僕はもう少し旅をするよ。」


僕は立ち上がり鞄からジゾーの好きだったソーセージをお供えした。


「次はあそこだな。」


僕は自転車を漕ぎ向かった。

その先は。


「昨日ぶりだね」


霊園だ。

僕は草を毟り買ってきた花をお供えした。


「綺麗でしょ。パパ。」


僕は腰を下ろして手を併せた。

僕を見守っていて下さい。

風が頭を僕の頭を撫でた。

温かい。

懐かしい大きさだ。


「ありがとう。心強いよ。」


目尻が震え頬に涙が伝う。


「行ってきます。」


僕は立ち上がり霊園を後にする。

次に向かう場所はとあるカフェだ。

扉を開けるとガランガランと鈴の音色が鳴る。


「いらっしゃ…随分と久しぶりだな。大きくなったな。すっかりお父さんに似てきやがった。」


僕はカウンターに座りブラックコーヒーを頼んだ。


「ブラック飲めるのか?」


僕は格好付けさせてよと巫山戯るとおじさんははいよと微笑んだ。


「苦い…」


おじさんはだろうなと背もたれに身を流しタバコを吸う。


「客が居るのにタバコを吸うから人気がないんだよ。」


おじさんはうるせえと鼻で笑った。

懐かしいなこの会話。

パパが居たらきっともっと楽しかったな。


「お邪魔したよ。久しぶりに…楽しかった。」


おじさんは何かを察したのか僕を制止しようとしたが僕はもう店を出た。

久しぶりに会話の楽しさを思い出したかった。

自分探しの旅の寄り道だ。


僕は次に寂れた廃病院にやってきた。

おばあちゃんを看取った場所だった。

風が僕に抱き着いた。


「ふふ、ありがとう。やっぱり見てくれてるんだね。」


おばあちゃんは僕に囁いた。

ちゃんと見ていると。

幼い頃の僕が廃病院の窓を叩いていた。

僕が手を振るとニッコリと笑い消えていった。

廃病院の窓から皆が手を振っている。

僕は手を振り返して踵を返した。

自分の感情や想いが心臓に巡り巡ってくる。

旅の終わりは近い。

僕はただ…しかったんだな。

その感情を殺して僕は彷徨った。

…が欲しかった。

この空白を埋めれば旅は終わる。

この空白は心の奥で理解しているのかもしれない。

見つけよう。

後二人だ。


次は。


「すっかり寂れたな。」


来た場所は。

僕と父の最も色濃く残る場所だ。

狭い公園だ。

幼い僕はここで彷徨っていた。

母と喧嘩して飛び出し一人帰り道が分からず僕は座り込んでいた。

そんな時に父の声がした。

今は迎えに来ては………そうか。


「なるほどな……」


空白が一つ埋まった。


「…行くか。」


僕は父に抱き着く幼い僕を通り過ぎて振り返るのを我慢した。

次の場所は。


「母さん…」


次の場所は…

河川だ。

母さんが幼い僕を抱き締めて子守唄を歌っていた。

僕は駆け寄り抱き着こうとするが煙の様に儚く消えた。


「あぁぁぁあぁあ!」


もう来ない一瞬に絶望した。

僕は自分を見つけた。

最後の目的地に僕は向かった。


「羽を休めよう。」


僕は自転車を駐輪場に置き電車に乗った。

好きだった音楽を聞いて、好きだった弁当を食べて。

駅から下りて僕は近くの公園で就寝した。

翌朝になり僕は目的地まで向かう。

目で見えている最終地点。

旅の果ての場所は。

富士山だ。


「後は登るだけだ。」


僕は山を登る。

頂きを目指して。

旅最期の難所だ。


「パパが登りきれなかったこの山を。御殿場を僕は越えてみせる。」


パパが最期に着た登山具を纏い山を登る。

樹海には流されないよ。

僕は頂きを目指し山を登る。


あれから暫く経った。

頂きへと至った。


「これが頂き…」


静寂の中に僕を呼ぶ声がする。

振り返ると父さんが立っていた。


『お前は自慢の息子だ。』


ありがとう迎えに来てくれて。


『ワンっ!』


ありがとう…迎えに来てくれて。

僕は手を広げた。


「母さん…俺にはまだ早いって言ったけど…良かったよ。俺やれてさ。これが俺なんだ…!俺はやっと翼を得たんだ。やっと飛べるよ。」


この浮遊感。

俺は今羽ばたいているんだ。


「空っていいなぁ!」


『これが旅の果ての景色…こんなにも美しいのか…』


蝶の群れが俺を癒す。


『旅の果てに何を求める?』


『僕の求めるものは自由と……賑やかな静寂です。』


母は帰ってきた数十年ぶりに息子の頭を撫でて可笑しそうに呆れたように震えた声でこう言った。


「馬鹿な子だね、あんたは…」


一匹の雛が巣から旅立った。


「ピィピィ」


と幼く鳴く雛は成鳥となり羽ばたき空と言う果てしなく広い世界を飛び回る。

一匹の渡り鳥の幕は閉じられた。


最後までお読み頂きありがとうございました。

面白いと思って頂けましたら是非是非レビューや評価宜しくお願いします。

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