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1話:転生魔王

 コツコツコツと真夜中の歩道に足音が車の走行音と混じり、響く。

 年齢は25。見た目は普通。身長体格も。卒業した中高大も、入社した会社やその会社での成績、役職も何もかもが普通。

 良く言えば安定した人生だが、逆に安定しすぎて価値や意義が見いだせなくなってくる。


「いつまでたっても普通のまま、かぁ……」


 そう呟きながら、信号のランプが緑に変わった横断歩道を渡る。

 こういうのが漫画やアニメであれば急な事故で死んで異世界に転生。そしてハーレムを築いて、無双するのだろうか。俺も、あぁなれるのであればなりたい。何も考えずに気楽に、自由に、唯我独尊で行きたいものだ。


『いいだろう。その願い、この我が叶えてやろう』


 はぁ?何言ってんだ?てか、どっから話しかけてんだよ。

 声がした後ろを振り向く。だが、そこには誰一人として居なかった。まさか……霊の類とか言わないよな?


『まぁ、似たりよったりだね。それに、こういうのは"対面して"話した方がいいよね』


 その声は前後左右からではなく、上から。空から聞こえた。それと同時に体に何かがぶつかり、意識が途絶えた。










「さぁ、さぁ、ようこそ。我が精神空間へ」


 先程、空から聞こえてきた声で目を覚ます。痛む体を無理に動かし、状態を起こすと、そこには黄色の短パンにアロハシャツ、その上に黒いマントを羽織った、青年。いや、変人が居た。


「…………」


「おっとぉ。オレの御神体に惚れ込んだか?今ならブロマイドを売ってやらなくもないぜぇ?」


「要らん。というか!誰なんだよ、アンタ!」


 頭が追いつかず、変人から煽られているように感じ、怒りに任せて怒鳴る。変人は「釣れないねぇ」と残念がりながら、羽織っていたマントを脱ぎ、俺の目を見た。


「オレは悪神。名前は言ったところで分からないだろうし、最近の悪神はオレくらいしか居ないから短縮だ」


「悪神?って事は、神なのか?」


「そうそう、わっる〜い神様さ」


 悪神という名の通り悪い神様なのか。だとしても、ここに呼んだ理由が分からない。それに願いを叶えてやる、なんて発言も。俺に自殺願望なんて微塵もないからな。


「君にはやってもらうことがある。気になるぅ?」


「あ、あぁ………」


「ならよし。この悪神様がお前に命じてやろう」


 上から目線なのが少し腹立つが、悪神の思わせぶりな言い方に思わず息を呑む。


「そーれーはー………」


 悪神は焦らすように為、どこからかドラムを持ってきて、叩き始めた。

そして悪神は大きく振りかぶり、シンバルを叩くと同時に口を開いた。


「神様と、その神様が転生させたチート野郎を殺してもらいまぁす!」


「………はぁ?」


 神様とチート野郎を殺せだぁ?そのチート野郎はさて置き、神を殺せ?俺が?一般会社員の俺が?到底無理な話だろう。


「まぁまぁ、続きはちゃーんとあるから。ね?」


 そうして悪神は立ち上がり、話を続けた。


「最近あった善神と悪神の争いでオレやその他悪神は負けて、大怪我を負った。今じゃ本気の3割程度しか出せない。だから、君にはその代行をしてもらう為に、最強になってもらう。わかった?」


「わかってたまるか!」


「残念。でも、最近の善神は調子に乗ってるんだよ。自分達の方が強いだの。絶対的支配者だの。悪神よりもよっぽどタチが悪い。でも、実力があるのもまた事実。結果、オレたちは負けちゃったんだし。だからこそ、君にはオレたちの代わりに神殺しをする代行、フィクサーになってもらうんだよ」


 なんとなく話は見えてきた。だからと言ってする気なんざこれっぽっちも無い。まず持って、3割程度しか力を出せないやつが転生させたやつと、バカ強い神様が転生させたやつの力なんて歴然の差だろう。確かに安定以外で刺激が欲しいとは言ったが、負け戦はやりたくはない。


「へぇー。そーなんだー。その転生者、異世界でハーレム作ってるけど?」


「やらせてもらおう」


「そう来なくっちゃね」


 まぁ、仕方がない。やってやろうじゃないか。決してやましい心なんてない。そんな、ハーレムが羨ましい、妬ましいなんて理由でする訳が無いだろう。本当だからな?


「はいはい。そえかよ、そうかよ。とりあえず、君には異世界を支配する魔王になってもらう。それ以降は加護を与えられないから気をつけてねー。でも、ちゃんとナビゲートはするから」


「悪神って言ってたけど、案外しっかりしてんだな」


「えー、なにぃー?告白ぅー?」


「やっぱ辞めさせていただきます」


「待って待って待って、冗談!ね?!ジョークジョーク!だから待って!ホントお願い!」


 悪神は涙目になりならすがりついてきた。こいつほんとに神様か?


「んんっ。それで、これが君がこれから殺すチート野郎の情報」


 そうして悪神が俺に1枚の神を渡した。そこには顔写真と文章が記されていた。


「えーっと、"小宮(こみや) (しげる)"38歳。固有能力(ユニークスキル)が"妨害王(デバフ・マスター)"、物真似の極地(アーク・コピー)全ての道標ユア・グレイブマーカー?それでハーレムを作って、女を誑かしてると。てか、そんな事しておいて本番もしてねぇのか」


 よく分からんけど、この年でその所業はキツイな。着いて行ったら方々も"勇者"って肩書きに惚れたんだろうな。


「そう。最初から順に、相手のステータス云々を超絶弱体化。相手の技を99.9%コピー。何をすれば良いかがお告げですぐに分かる」


「まぁ、チートって言っても、勝てなくは無さそうだけどな」


「こいつの1番面倒なところはステータスの高さとスキルの多さだ。スキル概要なおそらく他のスキルで隠蔽されてる」


 うっわ、いっちゃんめんどくせぇやつじゃん。でも、殺らなきゃ気がすまねぇ。どーせ、神様のコネで転生すんだ。殺したところで気にする事でもなかろうよ。


「それじゃ、君を今から転生させる。こっちもできるだけサポートするから。後はよろしくー」


「わかった。こっちもできるだけ頑張ってみるさ」


 そうして、空間にヒビが入り、周りは粉々に崩れる。俺は真っ暗闇の中に飲み込まれ、意識が消えた。

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