第九話 イベント:第一種接近遭遇
ようやく物語が動き始めます。
というかここまで物語の中ではまだ一日も経ってないんですよね……。
空は太陽の光が燦々と煌めき、遠くの方ではカモメが編隊飛行を行っている。
そんな中、大海原を漕ぎ出す一隻の船があった。艶のないグレーの塗装が施され、表面にはハニカム状の格子が張られている。
よく見るとその周りにもまるでその艦艇の傍に控えるように、ピッタリと左右後方に引っ付いて移動している二隻の艦艇の姿も見える。
彼女らは『アズマ王国』から派遣された大陸派遣艦隊だ。
先頭を進むのが[敷島級駆逐艦]1番艦【敷島】、その左右にいるのがそれぞれ補給艦【遊星丸】と[敷島級駆逐艦]2番艦【羽島】である。
因みに現在のアズマ王国海軍には補給艦は存在しない。【遊星丸】はこの大陸派遣艦隊を編成する際に民間との交渉の末、貸し出してもらっている。
また、ハルマゲドンによって艦艇が消滅したアズマ王国海軍は現在急ピッチで再建を進めており、アズマ王国唯一の軍艦であるこの[敷島級駆逐艦]は同型艦が5隻しか存在しない。
そんな貴重な戦力を5分の2を編成して大海原を航海している彼女らの艦橋では……
「おかしい」
「おかしいですね」
「マジでどうなってんだ……」
「戦闘指揮所、レーダーに反応は?」
『依然として確認されず』
「艦長、これって……」
「ああ……」
「「遭難「ですか?」だな」」
そう、見事に遭難していた。本来なら半日で着く距離。いくらハルマゲドンによって惑星を丸ごと覆ったケスラーシンドロームにより惑星測位システムが機能停止し、世界中の物流に深刻な問題が出ているとは言っても「すぐそこに行って、様子を見て帰ってくる」という簡単な任務のはずだったのだ。
「なんだけどなぁ〜」
「どうしましょうか艦長」
「ん〜、艦載機飛ばせ」
「艦載機って……【ワタリドリ】ですか?」
キ13式無人戦闘機【ワタリドリ】───今から5年前、つまり灰天歴895年に設計されたこの機体は元は無人偵察機として作られるはずだったが、速度と航続距離を犠牲にすることで攻撃能力を獲得した。
「それ以外ねぇだろ、他になんか持ってきてんのか?」
「いえ……ですがこんなとこで使っても回収できません。この船、空母じゃないのでカタパルトで射出したらもう海に捨てるしかないんですよ」
「知ってるよ。ほんと、なんで垂直着陸ができない駆逐艦の艦載機がどこにいるってんだ」
「この艦の艦載機ですね。【羽島】も無理です」
「……まあいいか。よし、ワタリドリの武装を外して偵察用の装備に換装しろ。そうすりゃ多少は長く飛べるはず」
「わかりました……副長より整備班に通達、ワタリドリを飛ばす準備をしろ」
『ラジャ、30分でやる』
「了解……艦長、30分で飛ばせると」
「30分もかかんのか〜?長えぞ緊急時には絶対間に合わねぇだろ」
「仕方ないですよ。装備を換えて、甲板にカタパルトを組み立てて……ってしてると時間は掛かります。諦めてください」
どうやらしばらく待たなければ状況は改善しなさそうだ。彼らはコンパスと机の上に広げた航海図を見ながらどこで間違えたのか議論する。本来ならとっくに付いているのだ。多少ズレていたとしてもいつかは何処かしらの陸地が見えてくるはずである。
だと言うのに見えてくるのは海、海、海。何処までも行っても海。緑なんて何処にも見当たらない。
1週間前、周辺国との連絡が途絶え、海外とのネットワークも途絶。おまけに宇宙空間になんの人工物も観測できなかったことを天文台が報告したことで「まるで時や空間が別のものに変えられたかのようだ」と呼ばれ、【時空災害】の呼称で世間に公表された。この発表に対する人々の反応は一つである。
「どっかの誰かがなんかヤバい兵器でも起動させたんだろ」
流石全面核戦争の生き残り、全く動じない。
これじゃあ、本当に別の星に来たみたいだ。そう現実的にあり得ない現象を出して、実際にあり得ない状況で遭難中の彼らは冗談交じりに言い合う。一応、今来た海路を引き返せば帰れはするので遭難ではないのだが。
『……』
「……ん?どうした?何かあったか?」
『……こちらは、……休憩中だ。だったんだが……前の方に何か見えないか?』
「戦闘指揮所、もう一度聞くがレーダーは?」
『ネガティブ』
「だ、そうだが。お前どこにいる?」
『外だ。なんか……海の色が違う……茶色?』
「……ッ!!【シキシマ】、観測機器を起動。前の方だ」
《了解しました。取得した映像を投影します。艦橋でよろしいですね?》
「ああ」
副長がそう言うと艦橋の窓にはシャッターが降り、暗くなった艦橋内で一つのホログラムが投影された。艦艇管制用人工知能【シキシマ】によるものだ。
「なんだ?どうせ流木だろ?気にすることはないだろ」
「流木だからこそ、です。何処かの陸地から波にさらわれてきたのなら、波の動きから逆算すればおおよその位置が割り出せます」
「なるほど」
《艦橋内の会話から「流木」のキーワードを確認。関連する情報を処理しますか?》
「ヨロシク」
ホログラムは即座に鮮明な艦の前の映像を映し出し、次いで流木のような漂流する物体の検出を進める。やがて処理が完了したのか、【シキシマ】は一つの結果を報告する。
《僅かな漂流物を検知、該当のものと思われます。》
「拡大しろ」
《了解しました。》
そう【シキシマ】が返答すると、艦橋内に投影されるホログラムの一部が拡大される。なるほど確かに茶色だ。カメラの精度と距離の遠さのせいで解像度は低いが、その映像も【シキシマ】によって徐々に形が把握できるまでに鮮明化されていく。そして、彼らは驚くこととなる。
「【シキシマ】、【羽島】と【遊星丸】に連絡しろ。『我、漂流者を発見、救助を行う。尚、対象の生死は不明。』」
彼らが見たのは、長方形に加工された木の板と───それに掴まったままぐったりとして動かない人間だった。
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ゲームの設定資料
●海軍艦艇
[敷島級駆逐艦]
基準排水量:4,500トン
全長:約145 m
最大幅:約16 m
主機:小型原子炉
補機:水素動力エンジン
推進:ウォータージェット、スクリュープロペラ併用方式
速力:最大30ノット以上
乗員:50名程度(最低15名)
兵装:遠隔操作型機銃 ✕6丁
:電磁投射砲 ✕1門
:垂直発射装置 ✕32セル
:魚雷発射管 ✕4基
:対空レーザー ✕2基
:対潜迫撃砲 ✕1台
搭載機:キ13式無人戦闘機【ワタリドリ】
▶説明:最終戦争後に設計・建造された最新型の国産駆逐艦。
戦後、消滅した海軍を早急に再建するために「短い工期」「単艦性能に特化」というコンセプトで兵部省統合参謀本部が運用する戦略策定用人工知能【ミネルヴァ】、兵部省技術局が運用する自動設計機構【ヘパイストス】によって設計された。
1番艦【敷島】は灰天歴893年に如月重工によって建造された。灰天歴900年現在、同型艦は5隻存在する。
艦艇管制用人工知能を搭載することで省人化に成功している。
また、小型原子炉を動力としているため、物資の運搬さえ出来れば、理論上は航続距離限界が存在しない。