第八話 国家方針:銭ゲバ達の陰謀論
【】とかルビとかの使い方を模索中です。
その当たりの表記が揺れて、少し読みにくいかもしれません。
「陛下、朝の会議ぶりですわね」
なんでいるんだろう?取り敢えず挨拶はしとこう。
「ん、さっきぶり」
「陛下、そこの部外者は放っておいて大丈夫です。こちらの席にどうぞお座りください」
「陛下、ワタクシの隣にどうぞ。ほらそこのハゲ頭、どきなさい。そこは陛下の席ですわ。」
「陛下」
「ハゲ頭……」
「陛下」
「「陛下」」
「ハゲ頭……(小声)」
なに?ケンカしてるの?そんなバチバチにやり合わなくていいじゃん。やめて、ボクの席のために争わないで。ほらそんなに睨み合わないでさ。視線に稲妻が走ってるて。バァ゙チバチィ゙ッ゙ッ゙って。
「どこいけばいい?」
「陛下こちらに」
そう言ってきたのはさっき民部卿にハゲ呼ばわりされた柳井さん。【六大企業】の一つ、アズマ産業複合体の現最高経営責任者だ。
スラックスと白いワイシャツを着たハg───禿頭?ツルツル?とにかく男の人。背丈は高い。幾らなのか目測は苦手だから分からないけど、目を見て話そうとすると首が真上に向いてしまう。
縦だけじゃなくて横にも大きい。筋骨隆々(アズマ人基準。アズマ人は細身の人間が多いのだ。)の肉体がワイシャツ越しにも一目で分かる。つまり、ピッチピチワイシャツ。ふんっ!ってしたらボタンが弾け飛びそう。いつかやってほしい。
因みにここにいるメンバーの中では年少の部類に入る。まだ40代らしいからね。寿命の長いアズマ人にとっては社会人に成り立ての感覚だ。
「ありがとう」
「いえ、お気になさらず」
二人の醜い言い争いに呆れたのか黙って自分の席を譲ってくれた。
ボクが席を決めたことに気付いたのか、二人もケンカを辞めて席に着く。民部卿の隣がボク、その隣にボクの座るはずだった席に座った柳井さん、そのさらに隣に本田さん。
他にも【六大企業】の最高経営責任者達が列席している。
沈黙が降り立った会議室で7人14対の視線がボクに向く。みんな怖いんだけど。黙って見るのやめてよ。……あっ、ボクが始めるのか。
「かいぎをはじめる」
ボクの言葉をきっかけにみんなが一斉に机の上に置かれたファイルを広げ始める。しばらくみんな黙ってファイルをパラパラ捲って目線を忙しなく動かしている。
ボクも見ておこう。マル秘の印が押されたファイルを中身が散らばらないように、上で留められたクリップを外す。
ふむふむ……なるほ……ど?よくわからない、どうでもいいや。
それより気になってたんだけど
「すずき」
すずき───鈴木民部卿がこっちを向く。背丈はあんまりボクと変わらないけど、身に着けた指輪やネックレスからザ・上流階級の貴族令嬢って感じが伝わってくる。
整った顔には下品にならない程度に化粧が施され、ボクの瞳とあまり変わらない色の金髪。そして顔の左右にある───ドリルヘッド。そう、ドリルヘッド。触ったことあるけどめっちゃ硬い。あのグルグルの先っぽで資料に穴をあけてたのを前に見たことがある。
「どうかしましたか、ですわ」
いやなんでいるんだろうって思ってね。本来ならその席は【光鎧国司】のものでしょう?
「なんで」
「簡単ですわ。ちょっとオハナシしたところ今日の会議は自分の代わりに出てくれと頼まれただけですわ」
やってるね。絶対に
「ふん、どうせこの小娘が脅しただけだろう。国司殿も可哀想にこんなじゃじゃ馬に目を付けられるなんて」
「あら、小娘は事実ですから認めるとしても、言うに事欠いてじゃじゃ馬ですか。
知ってますか本田様、馬と言うのは蹴る力がとても強くてですね、よく不用意に近付いたせいで蹴られて亡くなることがあるらしいですわ。あなたも近付きすぎで蹴られないように気を付けてくださいな」
売り言葉に買い言葉。ケンカするほど仲が良いとは聞くが、これはその例えが適応されるのだろうか。柳井さんの方を見ると彼もやれやれと言わんばかりに肩を竦めている。
しばらく二人の言い争いを観戦していると決着がついたのか、徐々に声のトーンを落としていく。
「まあ、いいですわ。でも、実際に今日の案件は彼では処理できなかったと思いますわ」
「それについては同意だ。あのただ安穏と禄を食んでいるだけの人間にこの件の責任が持てるとは限らない。……ただ小娘が来る必要はなかったのではないか?」
「いえ、彼を国司に任命したのは民部省ですから。彼が業務をこなせないと言うなら民部卿であるワタクシの責任ですわ」
「なるほど、しかし推薦したのは【貴族院】だろう?責任ならそちらにも有るのではないか?」
「それは無いですわ。いくら貴族院の推薦した人物を任命することが国司選出の伝統とは言え、やはり決定権を有するのは我々民部省ですわ。……それに貴族院の皆様も全員が国司の候補を正確に把握しているわけではありませんわ。彼らも忙しい身の上ですから。」
「ふむ……」
そう言ってチラッとこっちを見てくる。なんだよ。政治だろ?ボクを巻き込まないで。絶対者のボクが下手に政治に手を突っ込んだらめちゃくちゃになるよ?
「で、あるならば民部卿。彼は誰に判断されて候補に選ばれたのかね?私は時々貴族の方々を招いて共に知見を共有する機会があるのだが、彼らがそのような愚かな決断を下すとは思えないのだ」
あっ、こいつやりやがった。今の言葉を翻訳機に通すとこんな風になる。
「私は時々貴族の方々を招いて共に知見を共有する機会があるのだが、彼らがそのような愚かな決断を下すとは思えないのだ」
(訳:あの無能な国司を推薦した奴知ってるよ。よく賄賂を渡して色々と便宜を図ってもらうんだ。)
「あら、そのようなことをされていたのですね。ワタクシ共も誰が候補に挙げたのか調査を進めてはいるのですがなかなか……」
(訳:誰なんだよ。どうせソイツらの内の誰かだろ。さっさと吐け。でないとガサ入れするぞ。テメェの痛え腹を探ってやろうか?)
「まあ若い内はそういうこともある。実はそれとは別件で交流を持っている者がいてな。失敗してもそれをバネに一歩ずつ前進していく立派な若者がいるのだよ」
(訳:この件に関わった人間は教えよう。だから代わりにこちらの推薦する候補をそちら側で任命して欲しい)
「それは今時珍しいですわね。はぁ……その一部でもいいので彼にも見習って欲しいですわ。頭が痛くなってきましたわ。頭痛薬でも処方してもらうべきでしょうか?」
(訳:仕方ねぇ。今回はその条件を呑んでやるよ。あと陛下、今回の件に関わった貴族、そして現【光鎧国司】の粛清許可を貰えませんか?)
やめろこっちに話を振ってくるな。政治には興味ないし、見たくもないんだよ。
「すずきだいじょうぶ?この都市でみてもらう?」
(訳:いいよ勝手にしなよ。ソイツらが死んでもどうでもいい。ただ、後処理含めて【光鎧府】の中で片付けなよ。【桜都】でやると妨害が入ると思うよ。)
「そうですわね。この都市の技術は世界最先端と言いますしね。一度刑部卿も誘って健康診断でも受けてみましょうか。陛下もご一緒にどうですか?」
(訳:許可をくださりありがとうございます。今回の件が片付き次第、【国家保衛庁】も動員して徹底的な【六大企業】の調査をやろうかと思いますわ。陛下の【近衛騎士団】も借りれませんか?)
「ボクはいい。あたま痛いの、ほうっておけば勝手になくなるから」
(訳:近衛騎士団?ボクの制御下にないんだよね。あと、【六大企業】を敵視するのは辞めなよ。今回の件では協力してもらえたでしょ。)
「実は最近、医療用のナノマシンの開発に成功しましてな。未だに制御が難しく、予期せぬ動作を起こすことがあるのでまだ本格的には使えませんが、健康診断程度であれば問題なく行えるのですよ」
(訳:調べてもいいけど表面だけだ。どれだけ調べようと問題は見つからないが。違うか?)
もういいでしょ。この辺が妥協点だよ。
「はなしながい。まだ?」
(訳:さっさと本題に移れ。そんな小物、いつでも始末できるでしょ。そう言うのはボク抜きで話して。)
「ん゙っん゙……、ではこの辺にして……皆様資料はご覧になられましたか?……なられましたね。それでは【時空災害】による定期船の未帰還報告とそれによる今月の製造ノルマの下方修正について──」
はぁ……めんどくさい。
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ゲームの資料設定
●アズマ王国の身分制度
『アズマ王国』は国王・貴族・平民の三階級が存在する。
権力的には国王>貴族>平民の順だが、国王は余り政治に干渉しないため、貴族が政治を行っている。
●貴族
『アズマ王国』の特権階級。
数ある特権の中でも大きなものが不逮捕特権と武器の携帯許可。
不逮捕特権は器物破損などの軽犯罪から殺人などの重犯罪まであらゆる罪に問われなくなる。
しかしやり過ぎるとある日事故死することになる。
武器の携帯許可は文字通り武器を保持できるということ。
【国家再建法】が制定されるまではどちらも強力な特権であった。(今は殺人を取り締まる警察はいないし、武器も一般に流出している)
『アズマ王国』の要職は貴族でないと就くことができない。鈴木民部卿をはじめとした各省の大臣たちも貴族である。
因みにこの国の貴族は領地を持たない。貴族は地方の統治者ではなく、国家運営に直接関わる政治家や官僚なのだ。ただし、世襲は行われる。政治家一族や官僚一族のような存在。
●貴族院
実権の持たない立法機関。(最終的な決定権は国王の委任を受けた枢密院が持つ。)
貴族によって構成。議長は宰相が担当。凡そ百議席。
日本の国会的なポジションの組織。
●平民
昔は貴族と企業に搾取されていた愛すべき社会の歯車だったが、【国家再建法】によって妙に元気になった。今では徹底的な教育を受け、国家に忠誠を誓う公務員を除いて、サイバーでパンクなヒャッハー精神で日々を生きている。
●名前
実は貴族と平民を一発で判断する方法がある。それが名前である。
貴族は「姓」+「メイ」。
平民は「メイ」のみである。
つまり姓名を持つ【六大企業】の本田と柳井は貴族である。因みに他の最高経営責任者も貴族だ。彼らは企業の創設から運営に携わり、影響力を拡大して企業を掌握した者達の当事者か、後継者である。
経営にかまけて貴族院に出席してないので中央の政治からは置いていかれている。