第五話 イベント:牛丼と列車と食料事情
『アズマ王国』。
ボクが国王をやってるこの国は高緯度に位置する島国だ。
惑星軌道上から見れば左右に長軸が延びている楕円の……ってなんかイメージしにくいな。
そうだなぁ、アイスランド島をイメージしてほしい。というかアレと殆ど同じ形だ。
面積は北海道と同じ、つまり10万平方キロメートル。
火山や温泉が多く、地震や噴火といった自然災害が時折発生する。
地形は島の北半分が山地、南半分が平野。
気候は、暑すぎず寒すぎず、1年中安定した降水量……アレなんて言うんだっけ、ええっと……あっ!そうだ思い出した。西岸海洋性気候!!高緯度の割に生活しやすい気候なんだよね。
ただしそれは南半分の平野に限る。北半分の山地に行けば、ちゃんとここが高緯度国家なんだと思い出させてくれる。
……さて、なんでボクがいきなり地理の解説を始めたのか。理由は簡単、今ボクが向かっている都市【光鎧府】について解説するためだ。
第二都市【光鎧府】。
【桜都】が厳格に管理されたディストピア都市なら、【光鎧府】は無秩序に彩られたサイバーパンク都市だ。
光と闇、進歩と退廃、繁栄と没落、勤勉と堕落……etc。
挙げればきりがないほどの矛盾を抱えたこの都市は、【六大企業】によって支配される都市である。
【桜都】が政治と軍事を司るなら【光鎧府】は工業と経済を司る都市と言えるだろう。
この都市の歴史は結構浅い、具体的には10年ぐらいだ。というより、『アズマ王国』の都市は【泉原郡】(これを都市と言っていいかは微妙だが)を除いて基本的に10年以内にできている。
理由は勿論、【ハルマゲドン】。なんの戦略的価値も持たない都市にさえ、取り敢えず人がいっぱい住んでるところに片っ端から撃ち込んでおきましたと言わんばかりに核ミサイルが叩き込まれた大戦争。
地図上に載っていた都市が消滅、或いは瓦礫の山に変わり、人口が十分の一にまで減少した。
『アズマ王国』だけでそれだけの被害だ。認めたくはないが当時の『アズマ王国』であっても『西側』の超大国からすれば吹けば飛ぶような存在だった。軍事的観点から対した脅威ではないと判断されていたにも関わらず、コレだけの被害がでたのなら他の国がどうなったのかは言うまでもないだろう。
さて、そんな世界史の話は置いといて【光鎧府】の歴史について話そう。
【ハルマゲドン】を命からがら耐えきったこの国の復興にはあらゆる要素が不足していた。
そんな中でも特に物資の不足は致命的であり、早急に供給体制を整える必要があった。
汚染され、荒涼とした大地が拡がる世界でソレを行えるほどの拠点を築ける場所は貴重であり、必死の調査の末に見つかったのが後の【光鎧府】となる場所だった。
海に面し、地盤は頑丈でおまけに汚染は微々たる量。元々牧歌的(未開発)な地域だったが故に戦災を免れることのできたこの土地の開発は、【桜都】の復興に拘りきりだった政府ではなく、【六大企業】が主導で行うことになった。
【国家再建法】を根拠に労働環境も環境規制も何もかもを無視して築かれた【光鎧府】は政府と国民が必要とするあらゆる物資とサービスを提供し、世界でも有数(戦後水準)の工業・経済都市へと成長することになる。
ある程度【ハルマゲドン】の影響も収まってきた今日この頃、今まで目を背けて蓋をしてきたあらゆる問題が遅効性の毒のように【光鎧府】を蝕み始めており、10年目にして早々に土台が崩れ始めたこの都市をどう変えていくのかというのが最近の課題だ。
このネオンと企業ロゴの光り輝く【光鎧府】にて、主要な勢力となるのは以下の通り
●【六大企業】
言わずと知れた大企業群。企業といったら【六大企業】、というより国内には他に企業がない。
【光鎧府】の実質的な支配者。
●【光鎧国司】
【光鎧府】へ行政官として【王宮】から任命され派遣された中央官吏、『国司』。
『アズマ王国』の行政制度上は【光鎧府】の支配者であり、行政・司法・財政の全てを司り、絶大な権限を政府より与えられている。
が、実際にその通りかと聞かれれば首を横に振らざるを得ない。
●【武装警務隊】
略称『武警』。
兵部省直轄のこの組織は軍事警察だけでなく、行政警察・司法警察をも担当する国家憲兵。
司法制度が機能不全を起こしている戦後には独自の権限を持つ治安機関として振る舞っており、【光鎧国司】から要請を受ける形で【光鎧府】を監視し、異常な気配があればすぐに出動できるようにしている。
「陛下、お食事をお持ち致しました。……何をご覧になられてるので?」
「こうがいふ、について。……飲みものある?」
「はい。前回牛丼をお召し上がられた時に飲んでおられた缶レモネードをご用意しました」
「ありがとう」
因みにこの『レモネード』は日本のレモン果汁に水と砂糖を加えた『レモン水』のことではなく、イギリスとかのレモン風味の炭酸飲料のことだ。日本で言うなら『レモンスカッシュ』とかじゃないかな。
因みにこの『レモネード』は日本の炭酸飲料『ラムネ』の語源にもなったらしい。
牛丼と炭酸飲料、この組み合わせは外せない。脂の乗った肉とタレの絡んだご飯、それをシュワシュワのレモネードで一気に流し込む。これが堪らないのだ。
カシュッ!!という音とともに缶の蓋を上げたながらボクはいただきますを唱えたのだった。因みにこの国にいただきますの概念はない。
§ § §
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま……ですか。いつも食事後に仰られていますよね。なぜそのようなことを?」
なぜ?なぜって言われてもなぁ。
「しゅうかん?」
これだよね。
「習慣ですか?陛下が大昔におられた神々が住まわれるとされる世界のものでしょうか」
えっ?神々の世界?ボクそんなとこにいたの?
「たぶん?前すぎて、おぼえてない」
取り敢えず分からん。分からんもんは分からん。確か食べ物を恵んでくれた自然に対する感謝だったような……いや、だとしたら合成食品にも感謝してることになるのか。
合成食品ってのはアレだね。養殖したプランクトンやその他幾つかを原材料にして、それっぽい見た目とそれっぽい味に整えた食品のこと。食べてみると、んっ?ってなるような味と食感がする。
最初から完成した状態で売っているものもあれば、【フードプロセッサー】を使って自分が食べたい料理を作れるように【フードカートリッジ】の形で売っているものもある。
一家に一台【フードプロセッサー】があればキッチンなんて必要ない掃除が楽な時代である。
だから【泉原郡】で生産される生鮮食品は付加価値がつきまくって尋常じゃない高さになる。この国でトップを張れるほどの資産家である【六大企業】の重役方でさえ毎日食べるのは難しいのだ。
「きにしないで、勝手にやってるだけ。……ところでそと気になる?」
「えっ、は、はい申し訳御座いません。何分リニア新幹線に乗るのは初めてなものでして」
「あれ?侍従長なかった?」
「はい。陛下は何度がご乗車なされていますが私はないですね」
へぇないんだ。
リニア新幹線。
超電導磁気浮上式鉄道、俗に言う『リニアモーターカー』。
電磁石と軌道上に埋め込まれたコイルに電流を流すことで発生する磁界を反発力として浮遊し、今度はその力の向きを変えることで推進を行う。要するに浮いて、スイーっと進む列車のことだ。
時速500キロメートルとかいうとんでもない速さを出せる変わりに急なカーブには弱いので、なるべく直線で軌道を敷く必要がある。
戦後の復興計画の要として1年前に開通したばかりだ。
今回ボク達が乗っているのは【桜都】〜【光鎧府】線。物資の運搬にも使われる重要な交通機関だね。西端の【桜都】と東端の【光鎧府】を1時間ぐらいで移動することができる。
その間に障害物とかはないのって?【ハルマゲドン】で全部吹き飛んだよ。
「どう?楽しい?」
「楽しいかと聞かれますと……」
えぇ~、なんでそんな微妙な顔をするんだい侍従長。
ボクは開通当時、国王特権まで使って乗ったんだよ。一緒に乗った民部卿も裏ルートでチケットを手に入れてきてたし。
──────────────────────────────────────────────────────
ゲームの設定資料
●【国家再建法】
戦後にアズマ王国で制定された法律。
この法律により憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法などあらゆる法律の効力が一時的に停止した。
国家の基盤となるものが完全に消滅し、パソコンすらないのに仕事だけが無限に増えていく官僚が自暴自棄になって作った草案が元になっている。
物資不足によるパニックが拡がり、統制が取れなくなっていた民衆は、この法律の制定で逆に正気を取り戻すというショック療法に成功。
他者を害しても誰も取り締まれないが、逆に言えば他者を害した存在を集団リンチにしても誰も取り締まらないということ。
この法律は未だに効力を持っており、それが原因で司法制度が機能不全を起こしている。
【武装警務隊】が幅を利かせているのもこの法律が原因。
●【リングギア】
王国臣民全員が所持する手錠型情報端末。
生体認証を用いた個体認証機能により登録者との紐付けが行われる。
着用者のバイタルや健康状態を監視し、アドバイスを行う機能や、身分証明書、電子通貨の支払いなどの機能もある。
また、投影されたホログラムを操作して一般的な情報端末と同じように使用することも可能である。なお音声は指向性を持っており、登録者のみが聞こえるようになっている。
「【国家保衛庁】は【リングギア】を通して個人の生活の盗聴や盗撮を行っている」という噂もあるが、政府は根拠のない流言に惑わされないようにと冷静な判断を呼びかけている。




