第四話 イベント:授業、その終幕に
「『国家連合』による指導体制が崩壊し始めた最初のきっかけは、やはり【モーターゲート事件】でしょう。
当時から世界でも上位を争う国力を持った民主主義国家『アメリア合衆国』で起きた政治スキャンダルは国内世論を震撼させ、合衆国を支配していたネルソン大統領が辞任に追い込まれたことでようやく終息しました。
この時に行われた臨時選挙で当選した元軍人のマッカッシー大統領。『アメリアファースト』を公約にした彼が就任したことで『国家連合』を中心とした協力関係は徐々に綻ぶこととなります」
あったねーそんなこと。
モーターゲート事件。
『国家連合』による共有制度は、自己完結できるほどの国力を持つ大国にとっては持ち出しのほうが大きくなる。
莫大な持ち出しに対して入ってくるものが少ないことを不満に思った国民はこのことを国益に反しているとして非難し始めた。
『アメリア合衆国』はプレイヤーであるネルソン大統領が支配しているが、ボクの『アズマ王国』と違いれっきとした民主主義の国家だ。つまり選挙がある。
だから『アメリアファースト』という自国第一主義を公約に掲げたNPCのマッカッシーに支持が集まると定期的に行われる選挙で敗北する可能性があった。
ここまで来ればもう分かるよね?諜報機関までもを用いた政治工作がマスコミにすっぱ抜かれて大惨事。あえなく辞任に追い込まれましたとさ。
当然、今までプレイヤーの和気藹々とした話し合いの場であった『国家連合』で事情を知らないマッカッシー大統領は大暴れ。なまじ大国なだけに万が一にも『国家連合』を抜けられては困る。
適当に宥めて『国家連合』への残留自体はしてくれたが、プレイヤー同士で結んだ契約に関しては完全に効力を失うことになる。
それにプレイヤー同士の連絡も彼の前でする訳にはいかないので、相互連絡にも手間がかかるようになった。この頃かな、プレイヤー同士での関係に何処か溝ができ始めたのは。
それと、あの教師は言ってないけどプレイヤーであったネルソン元大統領は辞任後に何者かに暗殺されている。
ボクらの間では死を惜しむ声が挙がっていたけど同時にこうも考えていたのだろう。
(もしかしたらプレイヤーに関する秘密を隠すために我々の中の誰かが暗殺を命じたのではないか?)
コレも原因の一つなのだろう。今まで何か一つの方向に向かって特化する様に内政に取り組んでいた国家は、徐々に満遍なく国力を伸ばす方向に切り替えていくことになる。
『国家連合』の行き過ぎた協力体制は各国が自国の利益を優先しないことが前提だ。
必要とあらば、主権すら制限する狂気的な利他主義をプレイヤー同士の話し合いという形で実現していたのに、それぞれが自国の都合を優先するようになったのだからさぁ大変。
プレイヤー同士で拡がる疑心暗鬼、『国家連合』は文明発展装置からただの井戸端会議へと成り下がる。
ついでに素晴らしきプレジデント(大統領、つまりはマッカッシー大統領のこと)の提案で『国家連合』の会議への出席者は国家元首でなくもよくなりました。つまり、外交官を送りつけて自分は居城でのんびりしといてもよくなったわけだ。
な~んにも知らないマッカッシー大統領は超ご機嫌、ついでに公約の達成で支持率もうなぎ上り。
因みに彼も次期大統領選挙に立候補する前に前任者の元に送られることになる。当たり前だよね、ボク達プレイヤーを敵に回すのが悪い。散々場を引っ掻き回しやがって。
「この日を境に、『国家連合』の加盟国では事故、暗殺、クーデター、内戦などが頻発し、『国家連合』を創設初期から支え続けた国家元首達の交代が進むことになります。
国のトップが変わった各国は『国家連合』を中心とした政策を撤回。互いに利権を奪い合い、各国は衝突を続けます」
♪キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン♪
「……もう終わりみたいですね。最後まで一気に話すのでこのまま時間が問題ない人はもう少し聞いていってください」
やっぱり学校といえばこのチャイムだよね。てか、まだみんな座ってる?真面目だねぇ。
「各国の利害の不一致はやがて限界を迎え、世界中で戦争が勃発することになります。『国家連合』は嘗ての力を失い形骸化。急速に発展した技術は軍事にも利用することで、戦車や航空機、機関銃に毒ガスなどが開発され、過去の戦場の常識を覆すような被害を生むことになります。
灰天歴830年代には幾つもの国家が拡大し、滅亡し、衰退しました。灰天歴800年には百カ国近くあった国家が灰天歴840年には五十カ国しか残っていなかったといえばこの時代がいかに激動のものであったか伝わってくるでしょうか。
軍事・経済・領土など、汎ゆる面で他の大国と比べても圧倒的な力を持つ国家──超大国と呼ばれる存在が誕生した灰天歴840年代。各地の戦乱が落ち着いた頃を見計らって、2つの超大国が自らが主導する軍事同盟を立ち上げ、各国に加盟を要求。長らく戦乱に明け暮れて疲弊していた各国はこれに従うことになります。
『自由世界条約機構』と『主権国家条約機構』、俗に言う『西側』と『東側』。世界が二つに陣営に分かれ、つい十年前に行われたハルマゲドンと称される核戦争が勃発する日まで続いた『冷戦』。その時代の幕開けです」
§ § §
「陛下、出来れば次からは事前に連絡して頂ければ……」
あれ、侍従長。【王宮】から黙って出てったのがバレたらしい。護衛はちゃんと付いてきてたから侍従長にも連絡がいってると思ったんだよ。
「わかった。ごめん」
「いえ、陛下が謝られる必要は御座いません。全ては陛下の行動に気付けなかったこちらの責任でございます。……ところで陛下」
「なに?」
「先ほど、如月重工のCEOから連絡がありました。『今日、定例会を開くので宜しければご臨席賜りますようお願い申し上げます。』とのことです。如何なさいますか?」
如月重工?定例会っていうのは確か王国の第二都市【光鎧府】で定期的に行われる【六大企業】と国司を交えた報告会だったはず。
なんでそんないつもやってることなのに、わざわざボクに声を掛けたんだろう。もしかして「お前仕事ないんだろ(笑)」って煽られてる?処すよ?処すよ?……まあ実際暇だったし行ってみようか。
「いく。いつから?」
「参加するなら此方が決めていいそうです。今が十二時なので……そうですね三時間後の十五時はどうでしょうか?」
十二時……もうお昼の時間だったか。あぁ、時間について認識したら急にお腹が空いてきた。
「いいと思う。……おなかへった」
「リニア新幹線が今から三十分後に出ます。これに乗り遅れると次の便は十四時になるので会議に間に合わない可能性が御座いますが……」
「乗る。移動しながらたべる」
「それが宜しいかと。【泉原郡】で生産された生鮮食品を用いた牛丼などどうでしょうか」
やった!!肉だ!!
思わず口がニヤけそうになってしまう。危ない危ない。仮にも王様なんだから振る舞いには気を付けないと。
でもしょうがないと思う。国土の7割が核兵器で汚染されたこの国で自然から採れる生鮮食品は貴重だ。そしてめっちゃ高い。どれぐらい高いかっていうと値段を見た途端に食欲が無くなるレベルで高い。
「お気に召したようでなによりです。では駅まで車で向かいましょうか」
ありゃ、侍従長には喜んでるのがバレたらしい。まあいっか。それよりおっに〜く♪おっに〜く♪
『目的地を設定しました。ルートを検索中……、……、最短ルートを確立しました。それでは出発します。シートベルトを着用し、席から体を離さないようにしてください』
早く行くんだ自動運転車くん。法整備が進んでないせいで事故を起こしても誰も責任を取れないから気を付けてね。
ゲームの設定資料
●アズマ王国の外交(冷戦期)
『主権国家条約機構』加盟国。
技術力を活かして小国ながら陣営内でも大きな影響力を持っていた。
地理的に『西側』主要国に近いため、多くの支援を受けていた。
●アズマ王国の外交(最終戦争後)
アズマ人至上主義者の多いこの国は外交でも高圧的な態度を取ることが多い。
ハイヒューマンとしての能力の高さ故に、自分達の状況のマズさは十分理解している……が、ハイヒューマンとしての種族特性故に、プライドが邪魔をして(特にヒューマン相手には)面倒なことになっている。
!?なぜなにアズマ王国!?
Q.アズマ王国って地球に例えたらどんな国?
A.どっかの黒電話の国みたいに攻撃的で(ワンアウト)、どっかの黒電話の国みたいに独裁的で(ツーアウト)、どっかの黒電話の国みたいに軍事偏重で(スリーアウト)、どっかの黒電話の国みたいに国内がボロボロで(フォーアウト)、どっかの黒電話の国みたいに民族主義的です(投了)。
結論、北の半島国家とすごくシンパシーを感じる国です。とはいえ軍事偏重に関してはハルマゲドン《最終戦争》中に核攻撃で一度、施設ごと蒸発したのでそこまでじゃない。
余所の作品だと多分噛ませ犬、或いは踏み台になってくれる国家。この作品だと主人公補正と個人の能力の高さからゴキブリ並みのしぶとさを発揮する。