第十四話 国家方針:死臭漂うドル箱
フィクションですから、この物語はフィクションですからね。
はっきり言おう。アズマ王国は中小国である。決して超大国の意思一つで政権が転覆されることはない。決して何処かの国の属国というわけでもない。ないのだが……
「おや、お会い出来て光栄ですよ。国王陛下」
ないんだけど、別に自分の国の防衛政策が他国───特に『東側』の盟主とか───の影響をモロに受けないわけじゃないんだよね。そうボクは思う。さっきも言ったけど、ボクの国───アズマ王国は中小国だ。例え、名目上は独立を保っていても、経済、外交、軍事etc……。それらが自国でしっかりと機能を保つのは他国の存在が前提だ。
他国の存在を必要とせず、自国内で経済を回し、必要ならば絶対的な軍事力を行使する。そうした国家が『超大国』と呼ばれる。彼らはもしもと言うならば他国のことなど気にする必要がないのだ。ないからこそ、自国の都合で軍事基地を置いたり、関税の釣り上げを要求したり、あるいは自国有利な外交条約を結ぶように強制することもできる。あとはそう……例えば兵器の生産を制限したりね。
「ひさしぶり」
「ええ、お久し振りですね。して、本日はどのようなご要件で?」
「よっただけ。はんじょうしてる?」
「それは残念。商売のほうは……まあぼちぼちですよ。この間も紛争地で戦車を売ってきたので。本業の民間軍事会社のほうは維持費が中々厳しいです。特に人件費が……」
例えば戦車、例えば航空機、例えばミサイル。こうした兵器はそれを生み出した国家が人材、資金、時間、あらゆるリソースを注いだことでようやく生み出せた技術の集大成である。もはや一種の芸術品とも言えるまでに人の執念が固められて出来た兵器をその国は簡単に他国に作らせることを良しとするだろうか?答えはノーだ。
輸出禁止、ライセンス契約、ブラックボックス化など、様々な手段で妨害し、金をせしめ、本当に大事な部分は隠し切る。でも全部全部に労力をかけるのは馬鹿らしい。だから金で解決しよう。その国の兵器が欲しいなら別にその国と直接取引する必要はない。世の中抜け道なんていくらでもある。その一つがこれ。『西側』も『東側』も問わず、武器が必要なところには常に望む商品を提供する商人。
自前の輸送船で海に駆り出し、民間軍事会社を表向きの商売として世界各地の紛争地帯に出張する。その裏では主義主張国家民族場所時間問わず世界中から武器を買い、それを売り渡す「死の商人」。
それがボクの前にいる人物。彼の名前はザハリアス、【ザハリアス商会】の商会長だ。
「でも、ごえいはひつようでしょ」
「ええその通り。戦争ビジネスは儲かるのですが恨みを買いすぎる。私はただの仲介業者にすぎないというのに」
「あいてを選ばないのがわるい」
「そればかりはどうしようもありません。『望む時に、望む場所で、望むものを』は我が商会のキャッチコピーですから」
そう言って大袈裟な動作で肩を竦めるザハリアス。きめ細やかな長く、サラサラした金髪が首を振る動作とともに揺れる。そして、髪の間から除く長い耳。彼はエルフと呼ばれる種族である。
「これからどうするの」
「ん?……ああ、時空災害の件ですね。軍の方から教えて頂きましたよ。何でも国土丸ごと異世界に転移したのだとか。全く困ったものですね。どうりで海外の部下と連絡が取れなくなってると思いました。今部下と今後の事業計画を立て直しているところです」
「わかってるならいい」
「ええ。ところで陛下は何処へ?」
「しゅうようじょ」
収容所。放棄された閉鎖都市【サイト7】、そこを壁で囲んだ難民収容所。
ハルマゲドンの後、各国では多くの難民が発生した。アズマ王国はその難民を難民収容所で受け入れだ。理由は各国からの支援を得ること。破滅的な被害が発生したこの国は少しでも多くの物資と資金が必要だった。そこで目を付けたのが難民。壁で囲んだ劣悪な環境の居住区域に放り込み、受け入れの対価として支援を要請した。
忘れてはいけないのが、アズマ王国は民族主義&排他主義の国家だということ。わざわざ他の種族を国内に招くのは嫌だったが、金が手に入るなら話は別。誰も使わなくなった無人の都市を壁で囲ってそこに閉じ込めればさあ完成。なんちゃって刑務所モドキ。もちろん入ったら出られないけどね。
難民の権利?生存?財産?
知らん知らん。そんなのなぜ配慮しなければ?こちらはは復興が進んで満足、あちらはは負担にしかならない難民が消えて満足。ほらこれがウィンウィンってやつだね。
世の中誰かの苦しみが誰かの幸せを生み出す。この時、大抵のケースでは苦しむのは力のない存在で、幸せになるのは力を持つ存在だ。難民が明日の食事すらマトモに取れない中で、ボクらは感謝料を貰って更に力をつけていく。
実際、このビジネスモデルは大きな利益をアズマ王国に齎した。なんせこちらの支出は死体の処理代と難民収容所の維持費を除けばゼロに等しい。壁の補修費とか、壁を監視するドローンの出動費とかが維持費としてカウントされる。
壁を何故補修する必要がって?なんと彼ら難民どもは受け入れてやったにも関わらず、必死にコンクリート製の壁を壊そうとするのだ。「なにか食べ物を〜!」とか、「子供だけでも助けて〜!」とか言ってるけどよく分かんない。ちゃんと日本語でしゃべってもろて。アズマ王国の公用語は日本語だからね。心優しいボクたちも、流石に言葉の通じない人を助けるのは難しい。
あと、よく分からない疫病が流行っても困るので死体の処理だけはちゃんとしてる。何故か火葬したことに対して文句言ってくるけど。変だよね、ただ道の真ん中に転がった肉塊をドローンで焼いただけなのに。わざわざ火炎放射器をドローンに取り付けて値段が上がる一方の燃料まで使ってあげてるのに。
それにキミたちいつも穀潰しの癖して一丁前に食べ物を要求してるよね。一応、他国から国民を預かってる身としてはキミたちの要求を無碍にする訳にはいかないんだよ。だからほら……わざわざ焼いてやったんだ、ソレでも食っとけ。エコだね。
「あそこ……ですか。大変でしょう?自分の立場も分からない愚者の話を聞くのは」
同情をありがとう、ザハリアスさん。でもあなたもこの国では差別対象だってことを忘れないでね。君がこの国で活動しても問題ないのは、君がボクとアズマ王国に利益をもたらすビジネスパートナーだからだよ。
それにしても……話を聞く、か。あぁ、行きたくなくなってきた。だってあいつら「祖国が黙っていないぞ!!」とか「我々に人権を!!」とか叫んでる連中なんだよ?
あのさぁ……この国でキミたち異種族に人権なんてないし、そもそもキミたちの祖国はこの状況を完全に把握してるよ。こうなるのが分かっててキミたちに難民の受け入れについて知らせてたんだから。み〜んなグル。ボクも、アズマ王国も、諸外国も、キミたちを輸送したザハリアスさんも。
知らないのはキミたちだぁ〜け。捨てられたんだよ、キミたちは。他の国はアズマ王国みたいに内部の情報が漏れないわけではないからね。社会的負担を処分するのにこの国はうってつけだったってわけ。
あと自分は無関係なのに無駄に騒ぎを大きくする連中がいないのも大きい。他の国でこんなことをしたら間違いなく国民からバッシングを食らう。けど、この国で騒ぐやつは……あっ、いたわ。過激派の人たちだね。「穢れた異種族どもをこの地に踏み入れさせるな!!」って、でもそれ以外には特にない。自分たちと無関係の人間がいくら死のうと別にどうでもいいしね。それがお金になるなら尚の事。むしろ規模を拡大すべきという意見も国民の中からはあるっぽい。
「いんうつ」
「ハハッ!!そんな陛下に朗報です。実はこの国に持ち込んでいる兵器の中にもしかしたら?と思って輸送船に積んでおいたものがあるのです」
「なにそれ、戦車?」
「いえ戦車ではありませんよ陛下。私が本日ご紹介させていただくのはコレ!!先日、クーデターで無政府状態に陥った国から購入した化学兵器!!これを使えばデモ隊もなんのその、殺虫剤をかけられたゴキブリのようにひっくり返るでしょう!!」
いや表現よ。表現の仕方、どうにかならないの?でもこれを使えばあの鬱陶しい二酸化炭素排出器共も土の肥やしにできるのか。……土地の汚染大丈夫かな?後で関連部署に怒られそう。
「いくら?」
「お買い上げいただけるので?……そうですねぇ、本来なら五千万フローリンといったところですが……いつもご贔屓して頂いているのでね、今回は特別価格の二千万フローリンでどうでしょうか?」
「かった」
うん、いい買い物をした。これ運んど───「運用に必要な人員は別料金になります」───えっ?うそぉ……。
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ゲームの設定資料
●難民受け入れビジネス
人な欲を煮詰めて圧縮したような狂ったビジネス。
プロセスは単純。
①諸外国が「アズマ王国が難民を受け入れている」と宣伝を行う。全体への宣伝ではなく、貧困層を対象としている。
②まんまと誘い出された難民は海路を通ってアズマ王国に輸送される。この時、輸送はザハリアス商会と【六大企業】の一つ、海神運輸が担当する。
③アズマ王国に到着した難民は難民収容所に直送される。ここでタイムロスが発生すると、輸送中に空腹になった難民の腹を満たすために担当官が自腹で食事を買う必要がある。そのため少しの遅延も許されず、必要ならば射殺すら行われる。なお、その際に発生した死体の処理費用は担当官持ち。
④難民収容所への収容を完了次第、受け入れた対象国から報奨金を受け取る。
このプロセスを用いることで、諸外国は自らの手を汚さずに金を払うだけで不要な国民を処分でき、アズマ王国は自国民が情報を漏らさない限り、金を得られる。
・アズマ人の反応
「よく分かんない」
「引き取るだけで金が貰えるなんてボロい商売」
「この神聖なる土地に蛮族を入れるなんて……!!」
「難民収容所から脱走する可能性があるでしょう?子供たちが危険な目に遭うかも……」
「ご安心ください奥さま。難民収容所は外壁、鉄条網、水堀、電気フェンスで囲まれております。更に巡回する兵士やドローン、周辺に取り付けられた無数のセンサーで脱走の成功率は限りなくゼロと言えるでしょう」
他の国の「正義感に溢れる人」がアズマ王国の内情を知ることは不可能ですからね。
アズマ王国の国民には難民収容所のことが開示されていますが、特にこれと言った反応はありません。誰も気にしてないですね。
アズマ王国のイカれっぷりがよく分かるね、というお話です。
因みに主人公くんちゃんの感想は「どうでもいい」です。興味ない上にそもそも主人公くんちゃん自体がアズマ人か怪しいですからね。
難民を化学兵器で炙るのは単純に鬱陶しいからです。
心優しいアズマ王国は彼らとの話し合いも(暴動を抑えるために)実施してあげるのです。なお、主人公くんちゃんが暇潰しに交渉役を買ってでたばかりに……




