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灰の国の異世界戦記  作者: とりさん
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第十一話 国家方針:絶望的観測

 


「陛下、起きてください」


「ん〜〜ぅ?」




 は~い。なになにどうした侍従長。起きろと言われたから起きたけど……。てか今何時?───朝の5時!?昨日定例会に出て死ぬほど疲れたからお昼まで寝るつもりだったんだけど……。




「……ねむい」


「申し訳御座いません。ですが、急ぎ報告すべき案件が」


「なに?」


「大陸に派遣した艦隊についてです。時空災害についての詳細な情報を入手したのですが……」




 言い淀む侍従長。この顔は自分が言ってる言葉が自分自身も信用できないって時の顔だな。


 果たしてこれは正しいのか、これを事実として報告してもいいのか、まだ情報の精査をしてからでも遅くはないのでは。そんな風に自分の頭の中で思考がグ〜ルグル回っているとこんな顔になる。

 ……そんなに怪しい情報なのか。




「いって」


「……!……申し訳御座いません。少し考え事をしておりました。え〜、ゴホンッ!!兵部省からの報告です。

『この世界は嘗ての世界に非ず、また、この世界の原住民の確保に成功』とのことです」


「わかった。このあとは……かいぎ?」


「はい。枢密院は緊急会議を開催しました。民部卿の到着が遅れているため、後30分で始まる見込みです。陛下は出ようとされるのでは?と思いまして」


「うん、でる」




 出るしかないよね。こんなビッグイベント逃す訳がないじゃん。眠気も吹っ飛んだし、ボクも準備しよ。顔洗って、コーヒー(天然モノ)飲んで、あとは……あっ、着替えなきゃ。パジャマで行くのは流石にマズイ。チュニックの上にシュールコーを着て、ブレーを履けば終わりだ。チュニックは服、シュールコーは上着、ブレーはズボンみたいなやつ。


 化粧?現実世界でもゲーム世界でも産まれてこの方、一度もやったことがないよ。そんなんしなくてもたぶん綺麗だし。




「わすれてた」




 危ない危ない。国王と言えばコレ、王冠。……じゃなくてアズマ王国なら月桂冠だね。金細工でできた月桂冠。壊れるのが嫌だから普段はつけないんだけど、会議とかパレードのときとかはね?ほら、イメージって大事でしょ。……気が向いた時じゃないといつも忘れるんだけどね。

 頭に載っけて、はい完璧。




「陛下、コーヒーをお持ちしました」


「ん」




 ちょうどいいタイミングで侍従長がコーヒーを持ってくる。キッチンとかも自室にあるからね。他の国の王族とか貴族みたいに専属シェフが用意した食事を食堂とかで食べたりはしない。お風呂とか寝室とか洗濯も全部プライベートになってるのがアズマ王国の特徴だ。


 勝手にベッドメイキングされたり、自分の下着を洗われたりするのは正直気持ち悪い。ホテルとかクリーニングとかみたいに元からそれをするために存在している場所はいいんだけど……兎に角、ボクは使用人を雇ったりはしてない。掃除も洗濯も料理も全部自分で出来るんだから他の人を頼る必要なんてないんだよ。


 侍従長、キミは別だよ。掃除も洗濯も料理もスキルレベルがカンストしてるキミには敵わないからね。先代もそうだけど、家事も事務も護衛もできるってどうなってんだキミのとこの家系。











「それでは、緊急会議を始めます」




『玉座の間』と呼ばれている会議室で会議が始まった。部屋の真ん中に置かれた円卓の議長席に座ったボクと後ろに控えた侍従長、上座にいる宰相。あとはグルっと時計回りに兵部卿、民部卿、外務卿、刑部卿、文部卿、宮内卿、近衛騎士団長官(騎士団長ともいう)と並んでいる。


 少し政治的な事情を話すとここにいるメンバーは侍従長を除いてみんな貴族だ。宰相も騎士団長も貴族として名字を持っている。つまり貴族院に列席しているということ。


 貴族院の政治派閥は結構複雑なんだけど大雑把に一番大きい括りで分けると兵部省派閥、民部省派閥、刑部省派閥、文部省派閥、外務省派閥の5派閥に分けられる。つまり各省ごとに貴族院に大きな政治的影響力を持っているってことだね。宰相や騎士団長、宮内卿及び宮内省は中立派閥に属する。つまるところ玉座の間にいる各派閥のリーダーである◯◯卿の方々は政敵同士と言うことだ。


 因みに上座下座のめんどくさい文化はアズマ王国にはない。日本語を話すのに、いただきますとか席次についての文化は存在しないのだ。他にもちょくちょく日本人ならあれっ?って思うところがある。家の中で靴を脱がない土足文化だったりね。




「では兵部卿、報告をお願いします」


「それでは報告させてもらうッス。前回の枢密院会議で話した大陸派遣艦隊についてッスが、彼らが帰還した際、漂流者を救助していたとの連絡を受けましたッス。また帰還中に漂流者への尋問が行われた結果、この世界が以前我々がいた世界とは別のものであると判明しましたッス。」


「なんだそのあり得ん話は。そもそもなぜ艦隊は漂流者の救助だけで本来の任務を放棄している?近場の大陸の様子を見てくるだけでないか」


「ワタクシも信じられませんわ。その漂流者が錯乱しているという可能性は?」


「それが……その……彼らによると本来なら存在するはずの大陸が確認できなかったとのことッス。予定の航路から外れての探索も行われましたが、結局船の一つも見つけられなかったみたいッス」




 なんか凄いことになってるね。え〜と、つまり纏めるとこんな感じか。

 まず一つ───1週間前から周辺国と連絡が途絶している。惑星軌道にも人工物を確認できなかった。

 二つ目───既知の大陸へ派遣された艦隊はその大陸を発見できなかった。

 三つ目───派遣の際に偶然発見した漂流者を救助した。尋問の結果、自分達の世界と違うことが判明した。


 結論───我が『アズマ王国』は今まで存在した惑星とは別の惑星に転移した。

「一つであれば偶然、三つ揃えば必然」と聞いたことがある。たぶんほんとに別の惑星に転移したのだろう。でもそうなると……




「やばい」


「ヤバいですわ」


「やばいッス」


「やばいな」


「まずいと思います」




 やばい。何がヤバいって全部。なんもかんも大ピンチ。

 まず第一にアズマ王国は資源の自給率が皆無だ。特に鉱物資源。鉄、銅、鉛、錫、ボーキサイト(アルミニウム)、その他諸々の金属資源。


 第二に燃料問題。石油は産業で使うから輸入が途絶えるのは駄目。でも、ガソリンとか軽油の需要はないから一先ずは大丈夫そう。電化が進み切ってるアズマ王国にその手の需要はない。車両や船舶、航空機も水素を動力源としてるから必要ない。


 第三に現代文明の源たる電力───エネルギーに関してもアズマ王国は問題がない。原子力、水力、地熱発電。これらで電力のほぼ全てを賄ってるから早々に───いや原子力発電に関してはウランが輸入だよりだからまずいか。


 第四に食料。たばこや酒、菓子類とかの嗜好品を除けば、他は自国で作ってるから生命に関わるほどの深刻な問題ない。けど、嗜好品が輸入できないのは問題だ。アズマ王国には泉原郡で生産される超高級品な生鮮食品と六大企業(ヘックス)が一つ、卯月有機の販売するプランクトン製の合成食料しかない。お酒、コーヒー、お茶、たばこ、清涼飲料水、お菓子……etc。

 そういった物は生産してないので、国内にあるので全てになる。輸入品であることで元々価値が高いものだったのに更に高騰する可能性がある。


 ヤバいのは主にこの四要素だけど、もっとヤバいのが……




「物資や資源に関しては徹底した統制を敷きますわ。どうせ海外との貿易ができないなら国内の需要だけを見て調整すればいいですわ。資源の備蓄もある程度はあるので統制下に置けば更に猶予は延びるでしょう」


「ですがそれでは先延ばしにしかなりません。特に原子力発電の核たるウラン資源に関してはハルマゲドン(最終戦争)前から戦略物資として大幅に輸入量に制限がかかっていた筈です。電力供給に関しては生産活動での消費が減ると言っても全体では微々たる量でしょう。このままだとそう持ち堪えられませんよ」


「一番の問題はそれらを輸入する先がないことです。例え国家を見つけてもここが他の惑星である以上、これまで築き上げてきた国家としての立場も影響力も行使できません。情報網もイチから再構築しなければ」


「軍事面でも統合参謀本部が懸念を示してるッス。周辺国がどのような軍事技術を持つのか、そしてどれほど攻撃的なのか、これらが分からなければ例え敵対勢力に攻撃を受けても全体の安全のためには自衛が許可されないケースの発生も考えられるとのことッス。その後の外交交渉で不利になるかもッスからね」


「国内の情報統制も問題が。【アズマ人民革命軍】を名乗る勢力による破壊活動を確認した。こうした反体制派、及び不穏分子の活動が活発化する可能性がある。そして……嗜好品が輸入できないのもマズイ。いつも贅沢してる貴族はもとより、一般市民も市場に流通しなくなれば不満が溜まるのは目に見えている。歴史的にも国内の嗜好品の不足で生活水準が下がったことで革命が起きた話はよくあることだ」




 いや、そういうのもあるんだけど、もっとヤバいのが……




「できる?」

「?どういうことですか、陛下?」

「ゆにゅうできる?この世界にボクらと貿易できるぶんめいある?」




 全ての前提が違うのだ。彼らは他の国家と接触してそこから転移前のように状態を戻すことを目指している。




「この世界───わくせいには宇宙になにもない」




 天文台の発表では時空災害───つまりアズマ王国が転移した時、惑星軌道上には()()()()()()()()()()()。そう、なかったのだ───現代文明を支えるパーツの一つ、人工衛星が。




「出会った国はロケットのぎじゅつがない。まだ、そこまでぎじゅつが進歩してない。だから──」




 だから接触して、交渉して、例え貿易ができたとしてもその内容は




「──ボクらのひつような資源。てにはいる?」




 ヘタすれば鉄鉱石すら生産していない可能性もあるのだ。

 こうして前提がひっくり返されたショックで沈黙した玉座の間で。




「そういえば」




 そう言えば、一個確認していないことがあった。




「ひょうりゅうしゃ、ことば通じた?」




 だって惑星からして違うじゃん。収斂進化と言う言葉があるようにもしかしたら星が違ってもボクらの想像するいわゆる「人」はいるのかも知れない。

 けど、言葉は通じるのか?それはあり得ない話だ。だからどうやって尋問した時に会話したんだろうって───




「ナノマシンを使用して()()()()から直接情報を得ました。言語パターンもある程度収集できたので翻訳プログラムをリンクギアにアップロードしておきます。これで会話の際にリンクギアの翻訳機能を使えば会話は可能でしょう」

「……」




 脳……のう……のお……NOU……no……のー。

 そういえばそんな国だったねアズマ王国って。




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