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灰の国の異世界戦記  作者: とりさん
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第一話 国家方針:情報の整理

 


『勤勉にして忠実なる王国臣民の皆様、おはようございます。本日のニュースをお届けします』



 昔、そう今からちょうど()()()だったかな。

 それなりに……そのジャンルが好きな人であれば誰でも知っているようなゲームがあった。

 オンライン戦略シュミレーションゲーム、名前は……なんだったかな?

 まあ、いいか。大事なのはそこじゃない。



『時空災害発生から1週間が経過しました。未だに他国との連絡は断絶しており、優秀な我が国の技術者による連絡の再確立へと向けた懸命な努力が行われています』



 端的に表現するならば……ゲームの世界が現実になった。

 ある日、いつものようにゲームを始めると気を失って、目を覚ました時にはゲームでボクが操作していた国家『アズマ王国』の国家元首になっていた。



『続いてのニュースです。昨晩未明、兵部省は王国海軍の最新鋭駆逐艦【敷島】を中核とした数隻規模の艦隊が編成し、近隣の大陸へ直接的な連絡のために派遣したと発表しました』



 当然、こんな状況は信じられないし信じたくもない。

 きっと夢なんだと思い込んで数日過ごすことにした。

 その数日で分かったことは2つ。


 一つ───ボクは周りの人間には国王として認識されていること。確かにボクの姿は国家を作る時に設定した国家元首のアバターだ。藍白の髪と黄金色の瞳、気怠そうに眉を垂らす高校生ぐらいの()()。ついでに頭のてっぺんから突き出す一本のアホ毛。

 一番最初にゲームを始めた時、キャラデザを行ったはいいものの、結局ゲームのプレイ中一度も出てこなくて首を傾げたものだ。いつになったらまた見れるのだろうと思っていたが、まさかボク自身がその姿になるとは。

 因みにこうなる前は男だった……はず。たぶん。

 なんせ昔過ぎて記憶が曖昧だし、なんだったら今でももしかしたら「自分はこの世界がゲームの世界だと思っている狂人」なのかも知れないと考える時もある。



『軍関係者によりますと、この【敷島】には我が国の誇る優秀な技術者によって開発された艦艇管制用人工知能が搭載されており、再び軍拡機運が広がる世界情勢に於いて──』



 ボクは()()になる前の国王がどんな風に周りに接していたのか知らない。

 このまま国王として振る舞っても、いつかボロは確実に出るだろうし、そうなったらこの国の体制的にロクな目に遭わないことは()()()()()()

 だけど、周りの人間はそんなボクを「国王陛下」と呼んでいたし、怪しんだりする人はいなかった。

 ヘタに喋って不審に思われたくないから何かしら聞かれた時以外は黙っていたし、このアバターの表情筋が死んでいるのもあったのだろう。

 聞かれないと何も話さないし、かと思えば唐突に命令を飛ばしてくる無表情系美少女が誕生したが、中身がボクになっていることがバレることに比べれば些細な問題だ。



『──によって、神聖にして絶対なる国王陛下の恩寵を拒んだ蛮族に鉄槌を下すことができるだろう」と述べています。続いてのニュースです。民部省の発表によりますと今年度の経済成長率は昨年度のものを大きく上回っており──』



 二つ───この状況に陥っていたのはボクだけではなかったということ。なんと『アズマ王国』が存在していたサーバ内の他の国の国家元首も中身がプレイヤーになっていたのだ。



『──産業指導局は西側諸国の卑劣な攻撃によって大きな被害を受けた我が国は、偉大なる国王陛下の的確な御指示とそれに導かれし勤勉にして忠実なる王国臣民によって急速に復興を遂げており、困窮する西側諸国に対して近いうちに反撃が行われるだろうとコメントしています』



 紆余曲折の末、灰天歴801年にプレイヤー国家は外交網を構築し、僅かに存在するNPC国家を巻き込んで国際機関『国家連合』を創設。

 蒸気機関から内燃機関へ、石炭から石油へ、ガス灯から電灯へと変わり始めた時代。

 そんな時代にいきなり放り込まれたプレイヤーはしかし、これをチャンスと捉えた。

 いくら技術水準が自分達から見て圧倒的に低かったとしても、それでも国家元首の椅子は座り心地のいいものだ。

 それに加えてプレイヤーの容姿は基本的に美形。ゲームの初期設定でこれからの長い付き合いになると考えて創り上げたものなのだ。当然そこには自分達の性癖や好みがふんだんに詰め込まれている。


 それに───何年も自分の国を操作してきたのだ。

 ゲームの中の話とはいっても、ゲームを始めて幾つもの設定を行い、そのプレイスタイルの無限通りの可能性が原因で事前情報を得られずに四苦八苦し、他のプレイヤーと攻略情報をやり取りし、自分なりの遊び方を見つけて、何度も滅亡しそうになって、その度に出てくる通知のアラート音に心臓をやられながら───それでも尚、遊び続けたから、熱狂したから、生き甲斐を感じたから、自分の国家に愛を抱いたから、何よりも楽しいと感じたから、だからゲームが現実になっても悲観しなかった。



『続いてのニュースです。先日発生した如月重工の所有する工場で発生した爆発事故について、刑部省によりますと左翼系武装ゲリラ組織【アズマ人民革命軍】による犯行として調査を続けるとのことです』



 確かにこんなゲームを何年も続けるような人間が現実に未練を持つのか、と聞けばそれまでかも知れない。

 だけど人間とは現金なものなのだ。

 現実で数年、ゲームの世界ではおよそ800年。

 数あるパラメーターの一つでしかなかった【人口】(国民)が話し掛けてくれる。それも自分を国の主として。


 権力、容姿、愛、娯楽、自尊心etc───これらが現実として直に叩き付けられたプレイヤー達はそのチカラを遺憾無く発揮した。

 彼らの頭の中では即座にあらゆる情報が取り込まれ、それらを数値化し、今までの経験から次に起こり得るイベントとそれによる影響、それらへの対策を予測した。

 チャートは即座に組まれ、その長さは十年先まで決められる。

 以前のように即座に国家のあらゆる情報を一つの画面に表して把握ことはできないが、それでも国家元首という立場を使えば似たようなことは十分に可能だ。



『それでは本日の配給のコーナーです。事前の告知通り、本日は生鮮食品が配給されます。牛乳、卵、牛肉、玉葱、人参、米などの食品が国王陛下の御加護と様々な職種の臣民の貢献によって供給されます。彼らへの感謝と国王陛下への敬愛を胸に今日も労働を始めてください。配給時間は午前9〜10時、午後12〜14時、同じく午後19〜20時を予定しています。配給切符を忘れずに持参してください』



 そして世界は発展を始めた。800年という準備期間はプレイヤー達にとって加速的な文明の進歩には十分な時間だった。

 一つ解禁するたびに莫大なコストを必要とするテクノロジーツリーは、ゲームが現実となったことでゲームシステムから解放され、跳ねるようにして技術革新が進んでゆく。

 なにもテクノロジーツリー通りに進める必要はないのだ。


 例えば、もしも十分な設備と人材と知識があるなら、ようやく近代化が始まった国家でも核兵器を作ることができる。

 ゲームならその間にある幾つもの技術を段階を踏んで解禁しないといけないにも関わらず、だ。もっとも、原子力関係の技術研究は破滅を避けるために抑止することがプレイヤー間で取り決められていたが。



『──【桜都(おうと)】の天気予報は晴れのち曇り。気温は23℃とここ十年間で()()()()()()を記録しています。お出かけの際は【リングギア】を忘れないようにご注意ください』



 国家連合───この存在も文明の急速な発展を後押しした。

 技術、資金、人材、設備、場所……その他あらゆるものが国家連合を通して共有され、国家連合へのNPC国家による反対意見はプレイヤー国家同士の談合と根回しによって多数決という形で無視された。


 世界中で発生していた争いについても同様である。

 この世界がゲームであった頃は資源や土地……或いは嫌がらせを目的に戦争を起こすことに躊躇いはなかった。だが、現実となった今、国家間の戦争は発展の邪魔にしかならない。

 国民感情としての確執は兎も角、国家としての確執は早急に取り除く必要がある。

 とある戦争では国家元首……つまりはプレイヤー同士が直接話し合ったし、ある戦争では周辺国家も巻き込んだ盛大なマッチポンプをプレイヤー同士の共謀によって起こすことで戦争についてあやふやにした。


 またこのような例もある。国家元首のアバターに憑依する前、ゲーム時間の半分───つまり約400年間も争いあっていた2つのプレイヤー国家があった。彼らはこの長く続きすぎた戦争を終わらせる必要があったのだが、国家連合───その中でもプレイヤー達によって構成される会議にて待ったがかかる。

 戦争は何も生まないのが一番いいのだが、戦争があるからこそ得られる技術もある。忘れているかも知れないがプレイヤー達は国家元首であって研究者ではないのだ。自分達の部下になんの脈絡もなく新技術の概要を話して不審がられるよりも、《戦争》や《災害》といった理由付けを持っておいたほうがいいのだ……という理由である。

 莫大な支援を対価にプレイヤー達は実験部隊や現地調査の受け入れ、そして戦争の継続を要請した。


 返事は了承。ここが現実になったのにも関わらず、()()()()()を引き摺り、人生で最も栄華を誇っているが故に完全に足元を見るのを忘れたプレイヤー達は───栄枯盛衰、一度道を踏み外したことが原因であっさりと奈落の底まで転がり落ちることになる。






 ───そして、彼ら(プレイヤー)に道連れにされるようにこの世界もまた、奈落へと落ちていくのだ。



『以上、王国国営放送。朝のニュースの時間でした』



ゲームの設定資料

●灰天歴

いわゆる【ゲーム内時間】。

サーバーが開設した瞬間を1年とする。

主人公は灰天歴300年くらいにサーバーに参加し、『アズマ王国』を創り出した。

サーバーが開設したのは数年前、プレイヤー達がゲームの世界に取り込まれた時の灰天歴は800年であることから、現実世界の十倍から二十倍程の速度で時間が進んでいると思われる。


〜フレーバーテキスト〜

遥かな昔、世界を制し、星々で満たされた大海原を漕ぎ出す程にまで繁栄した文明があった。

世界を手に掛けた彼らが今度は星々へと手を伸ばした時───その手は腕ごとへし折られることになる。

灰天歴0年───それは世界が灰に包まれた時、その殆どが土に還った先史文明の穴蔵から、この世界に生きるあらゆる生命が外へと這い出した日である。

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