52 あんなことやそんな事やこ~んな事
「3日後に同衾の儀をするからね。」
レイナ母さんに言われたけど意味が判らない。
「同衾の儀って何?」
「ハリーはどうしたら赤ちゃんが出来るのかは知っているわよね。」
「はい。神様が授けてくださると本に書いてありました。」
「・・・、どうやって授けて下さるかは知っているの?」
「えっと、・・お祈り?」
「はぁ。・・・赤ちゃんが欲しい夫婦は、”赤ちゃんが欲しいです“って神様に伝えなくちゃダメなの。」
「はい?」
「つまり、・・・そう、”赤ちゃんが欲しいダンス“を踊って神様に伝えるの。」
「”赤ちゃんが欲しいダンス“?」
「そう、”赤ちゃんが欲しいダンス“よ。」
「それは学院でも習って無いから知らないよ。」
「大丈夫。”赤ちゃんが欲しいダンス“は女性がリードするから、ハリーは言われたとおりに動けば良いの。」
「はい。」
「ミュール王国でもエルフ王国でも”赤ちゃんが欲しいダンス“がきちんと出来て初めて一人前の男として認められるのよ。」
「そうなんだ。」
“洗濯”と“ヘイタクシー!”だけではダメらしい。
「それに最初は私達4人が傍に付き添ってお手伝いするから安心して頑張りなさい。」
「はい。」
母さん達が付き添ってくれるというので安心した。
結婚式の3日後に同衾の儀が執り行われた。
イータは母さん達と王妃様に同衾の儀の作法を、姉さん達にはキラ家の入浴作法を教えて貰ったらしい。
俺には何も言ってくれないので、ちょっと不安だけど母さん達4人が付き添ってくれるので大丈夫な筈。
イータはエルフ国の王族なので王家の伝統に則った手続きを取らないと後で問題になるので母さん達が付き添うらしい。
王族や貴族はめんどくさい。
儀式の前に入浴。
姉さん達がいつも以上に丁寧に丁寧に丁寧に洗ってくれた。
何処をどう洗ったかなどに詳しい事は言えないけど、すっごく気持ち良かった。
入浴が終わると姉さん達が隅々まで拭いてくれる。
そのままガウン1枚を羽織って寝室に入った。
ここで姉さん達から母さん達へとバトンタッチ。
大きなベッドにイータが横たわり、ベッドの周りのソファーに母さん達4人がいた。
母さん達4人の丁寧な”ダンス指導”を受けながら儀式が始まった。
内容はあんなことやそんな事やこ~んな事なので書けないけど・・・。
翌日の夕方に儀式が終わった。
俺はぐったりしてソファーにもたれている。
疲れて全身に力が入らないけど、何故か気分は爽快。
”赤ちゃんが欲しいダンス“がこれ程気持ち良い事とは思わなかった。
これで1人前の男になれたという感激で、思い出す度に顔がにやけてしまう。
イータは俺よりも体力が無い筈なのに、足元がふらついたのは儀式が終わった直後だけ。
今は元気モリモリでお肌艶々。
俺は未だに腰に力が入らなくて歩くのも怪しい。
何故だ。
判らん。
ソファーではイータと母さん達がお茶を飲みながら話をしている。
「どうだった?」
「最初は痛かったけど、確認して頂いてすぐにリーナ義母さんが治癒魔法を掛けてくれたから大丈夫になりました、有難う御座います。」
「私達は4人だったけど、イータは1人なのによく頑張ったわ。」
「そうですか? ちょっと嬉しいです。」
イータの声が弾んでいる。
「ハリーはちょっとだらしなかったけどね。」
「そうなのですか?」
「19回で腰がふら付いて来たでしょ?」
「そうでしたね。」
「21回目の途中で・・・だったし。」
「でもお母さん達の手助けで復活しましたわ。」
「イータは上になってから頑張ったわね。」
「上になってからが勝負だと教えて頂いたので頑張りました。」
「女の初陣ですからね。」
「最後までよく頑張ったわ。」
「お父さんは46回だったけど、ハリーは29回でしたね。」
「SSランクとAランクの差でしょうね。」
「まあよく頑張ったとハリーも褒めておきましょう。」
5人で良く判らない話をしているけど、楽しそうだからまあいいか。
夏の長期休みが終わるとイータは父さんと一緒にエルフの国で魔法の訓練。
俺は学院に戻っていつも通りの日常。
平日は学院でお勉強、とは言っても5年生の授業は必修科目のダンスと卒業論文だけ。
卒業単位が足りていない場合は選択科目を受ける必要が有るけど、俺は既に卒業必要単位を遥かに越えている。
卒業論文のテーマは乾燥地農業。
西部地区は雨が少なくて乾燥しているので、乾燥地に適した水源の確保法を研究する事にした。
乾燥地ではあるが、周辺の山を水源とする川は沢山ある。
問題は川が周辺の土地よりもかなり低い所を流れている事。
要するに農地より低い所を流れる川から水をくみ上げる方法の研究。
平日の昼間は殆ど図書館に籠り切りになった。
週末の二日は母さんを父さんの所に送り届け、イータと一緒に魔獣狩り。
エルフの街には冒険者ギルドがあるので素材を買い取って貰える。
いつもと少し違うのはイータとパーティー登録をしている事。
エルフは森の民なので王族であるイータも護衛付きではあったが小さな時から森に入って魔獣討伐をしていたそうだ。
成長してからも薬師として必要な素材は自分で採取していたらしい。
おかげで、イータは冒険者としては高ランクと言えるBランク。
でも外国に行くにはAランクでないと不都合な事が多いらしいので、イータのギルドポイントを少しでも早く貯める為にパーティー登録した。
イータも精霊魔法で森の木や土を操れるし、風魔法で強化した弓は正確に魔獣を貫ける。
攻撃魔法は苦手な俺だが、索敵が得意なので魔獣を探すのは簡単。
“結界“が得意なので大抵の攻撃は防げるし、突進して来る魔獣は”カウンターバリア“で倒せる。
“アイテムボックス”が大きいので倒した魔獣は全て収納出来るし、いざという場合はイータを連れて“転移“で逃げる事も出来る。
イータのギルドポイントを溜めようと俺も魔獣討伐を頑張った。
夜はイータと一緒にお風呂。
姉さん達に教えて貰ったそうで、姉さん達と同様丁寧に洗ってくれる。
2人で過ごす夜は楽しい。
イータはダンスの振り付けを考えるのが好きなようで、毎週新しい振り付けの”赤ちゃんが欲しいダンス“を俺に教えてくれる。
時々難しすぎる振り付けもあって関節が“ゴキッ”となる事もあるけど、2人で新しい振り付けに挑戦するのは楽しい。
ダンスが終わると、イータの胸に手を置いて眠る。
エルフ特性で胸は小さいが、大きさなど関係ない。
イータの胸に手を置くと鼓動を感じられるせいか、心が落ち着き雑念も消えて安心して眠れる。
大きくても小さくても“おっぱいは偉大なり“というのは全世界共通の真理だと確信した。
休日が終わると交代で王都に行く情報当番の母さんを連れて王都屋敷に転移するのが日課となった。




