48 ”共同作業“という名の役割分担
「私って美人だから、男が寄って来るのよ。」
「はあ。」
「何よその気の無い返事。ハリーは私が美人だと思わないの?」
女性の顔を気にした事が無いので基準が判らない。
顔、顔、顔。
色々な顔を思い浮かべるが、頭に浮かぶのは魔獣の顔ばかり。
魔獣と戦う時には表情や目の動きを見るので顔を見ているから?
女学生は目を合わせると危険だと姉さん達に言われているから、顔をしっかりと見た事など無い。
「えっと、‥たぶん美人?」
自分で美人って言ったから、きっと美人なのだろう。
「多分って何よ。それに何で疑問形なの!」
怒られた。
「えっと、詳しく無いから良く判らない?」
「詳しいとか、詳しくないとかの問題じゃ無いでしょ?」
「はあ。」
「エルフはみんな美人・美男なの。」
そう言えばイータと知り合った時に母さんも、“エルフなら美人ね”って言っていた。
「そうなんだ。」
「そうなの。その中でも私は美人だって言われているの。」
「・・・えっと、すごいね。」
「調子狂うわね。とにかく、私は美人だから男子学生が大勢声を掛けて来るの。」
「えっと、・・・ご愁傷様?」
「何それ。」
「古文書に書いてあった慰めの言葉?」
「まあ、ありがと。そう言う訳で、男どもが寄って来て鬱陶しいのよ。」
「はあ。」
「だからハリーは私と一緒に昼食を食べるのよ。良いわね。」
何でそうなるんだ。
判らん。
女性に”いいわね”と言われた時の返事は”はい“か”よろこんで“の2者択一と父さんに言われている。
「はい。」
何故だか良く判らないけど、昼食はイータと一緒に食べる事になった。
イータが席を確保し、俺がカウンターで2人分の定食を受け取ってテーブルに運ぶ。
食事中はイータがおしゃべりをして、俺が相槌を打つ。
食べ終わるとイータが笑顔で手を振って教室に向かい、俺が2人分の食器をトレーに乗せて返却に行く。
食堂で男女が一緒に昼食を摂る時に行われる”共同作業“という名の役割分担らしい。
イータに冒険者が魔獣狩りする時の役割分担と同じようなものだと教えて貰った。
少し賢くなった気がした。
イータは貴族とは違って普通に話すので、丁寧語が苦手な俺にとっては姉さん達以外の女性では一番話し易い。
まあ俺が話した女性は寮の管理人さんと食堂のおばちゃんだけだけど。
と言っても、話すのは9割がたイータで俺は殆ど頷くだけ。
時々意見を聞かれるけど、俺の返答に関係無く話を進めるのは姉さん達と一緒なので頷いていれば問題無い。
芸術センスが皆無な俺には判らないが、一緒に居るだけで男子学生から睨まれているのはイータが美人過ぎるからだとイータが言っていた。
イータは自分でも“私は美人だから”と言っているし、母さん達もエルフなら美人だといっているので美人なのだろう。
本人が言うのだから間違い無い。
俺は女性の言葉に異議を唱えるような勇者では無い。
小さな事は気にしない。
「ねえ、王都の周りに魔獣が増えているって聞いたけどほんと?」
いつものように食堂で日替わり定食を食べていたら、イータに聞かれた。
イータに王都周辺の事を聞かれたが、寮と王都屋敷の移動には転移を使っているから王都の通りすら歩いた事が無い。
王都外に出るのは王都屋敷から姉さん達やお祖父さん達の領館に転移する時だけ。
領館は王都外だけど、王都からは数千㎞離れている。
最近は”ヘイ、タクシー“が多くて黒い森にも行っていない。
王都の門からは出た事が1度も無いから、王都周辺の事を全く知らない事に気が付いた。
少し周辺の事も知って置く事も大事かもしれない。
「そうなの?」
「冒険者なのに知らないの?」
「ごめんなさい。」
女性には言い訳するよりも謝るのが大切だと父さんに教えられている。
返事は“はいか喜んで”の2者択一。
女ばかりの家で育ったから女性への対応法はしっかり身に付いている、と思う。多分。
俺は経験から学べる15歳だ。
「魔獣討伐をする冒険者が殆どいなくなって、王都付近なのに商隊が襲われる事もあるんだって。」
王都周辺や街道の管理は国の役目だった筈。
「警備隊は出動しないの?」
「警備隊は予算の削減で半分以下に減ったの。それに、景気が悪くなって失業者が多くなったから、王都の中でも盗みや路上強盗が増えて王都内の巡回だけでも精一杯らしいわ。王都の外までは手が回らないんだって。」
「そうなんだ。」
今迄黒い森の中層で魔獣討伐をしていた上と中の姉さん達は、全員が周辺国の侵攻に備えて領地の整備に励んでいる。
時々新しい素材や”ラコール“用の繊維を採りに深層に入っていた父さんはエルフ国でのんびり生活。
中層で魔獣を爆散させていた母さん達は父さんの世話と西部貴族連合関係で忙しそう。
王都の冒険者ギルドが閉鎖されたので王都には冒険者が殆どいない。
王都周辺の街でも冒険者が激減しているらしい。
近くの街から黒い森に行く冒険者もいるらしいが実力的に外縁部が精一杯。
黒い森浅層で活動出来る高ランク冒険者は殆どが辺境伯領などの西部地域に移ったと家族会議の時に辺境伯が笑顔で言っていた。
アシュリーお祖父さんは暗い顔だったけど。
となると、黒い森で強い魔獣を討伐しているのは同い年の姉さん達3人だけ。
東西400㎞、南北300㎞の黒い森にたった3人。
中層の魔獣が増えれば浅層の魔獣が外縁部に逃げ出す。
外縁部に浅層の魔獣が増えれば外縁部にいた弱い魔獣は森の外に押し出される。
冷静に考えると、王都周辺に魔獣が増えていても不思議では無かった。
「国軍は出動しないのかな。」
「国軍はプライドが高いから魔獣討伐には出ないって聞いているわ。もっとも魔獣討伐に行くと恥を掻くから行かないっていう噂もあるからどっちが本当かは判らないけど。」
「そうなの?」
「特に王都に居る国軍は酷いらしくて、碌に訓練もしてないし、武器や防具の手入れもいい加減だから怖くて戦えないんだって言う人もいるわ。」
「魔獣が怖いの?」
恐くて戦えない国軍ってどうなんだ。
「魔獣が怖いというよりも負けるのが怖いのね。“国軍は大陸最強で百戦百勝“と威張っていられるのは1度も負けて無いからよ。まあ1度も戦った事が無いんだから負ける訳無いけどね。出陣して、万が一にも負けたら勝率0%。百戦百敗って言われかねないから、負けるのは拙いのよ。」
「そうなの?」
「少しでも負ける可能性のある戦いには出ないだろうってみんな言ってるわ。」
「負ける可能性って、どんな戦いでも負ける可能性はあると思うよ。」
首を傾げる。
「出陣するのは国軍を見たら即座に両手を上げて降参する住民同士の小規模な争いだけなんだって。」
確かにそれなら負けないかも知れないけど・・・・。




