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47 キョンシーのヘイヘイホー

驚いたのは翌週の薬学研究Ⅱ。

研究棟の教室に入るとそこにイータがいた。

洒落じゃ無いよ、本当にイータがいたんだ。

「えっ。」

「ア~!」

驚いて立ち止まった俺と、俺を指さしているイータ。

研究室のみんなが俺達を見ている。

「ハリーも学院生だったんだ。」

「うん。」

「でも薬学研究Ⅰにはいなかったよね。」

「上級薬師の資格を持ってるからⅠは取らなかった。」

薬学研究Ⅰは中級薬師資格取得が目標の一つ。上級資格を持っている俺にはレベルが低すぎるのでⅡから参加するように教授に言われた。

「ハリ―は上級薬師なの?」

「うん。」

「だからあんな奥地まで薬草を採りに行っていたんだ。」

いやあれは地図を作っていたんだけど。

「まあ、・・そう・かな。」

「という事は山奥で採った薬草を持っているよね。」

「まあ色々と持ってるけど。」

「凄い! ねえ一緒に研究しよ。」

「はあ。」

「やった~!」

イータが俺の手を握ってブンブン振っている。

「はぁ。」

イータさんや、喜んでくれるのは嬉しいけど周りのみんなの目が冷たいよ。

俺を睨み付ける男子学生達の視線が痛かった。



研究室の研究課題は中級や上級ポーションの品質向上。

王都ではポーション不足が深刻らしく、特に中級以上のポーションは殆ど手に入らないらしい。

冒険者ギルドが閉鎖されたため、ポーション素材の不足も深刻で、イータは素材を探しに山奥まで行ったと教えてくれた。

王都で出回っていた中級以上のポーションは殆どがキラ家の王都屋敷産。

キラ家がポーション生産から撤退したので、中級ポーションを作る工房も増えたが、キラ家の様に素材になる薬草を自分の所で栽培している訳では無い。

素材を手に入れる為の依頼を出そうにも冒険者ギルドは無いし、冒険者が王都を離れた為に魔獣の住む森や草原に薬草を採りに行ける者は殆どいない。

結果として学院の研究室でも薬草が手に入らなくなっていたらしい。

研究用の薬草が手に入らなくなったので、イータは仕方なく研究に使う薬草を探しに山奥まで行ったそうだ。

イータが死に掛けたのはキラ家のせいだった。

うん、黙っていよう。

“藪をつついて、へーを出す”のは愚か者がする事。

俺は賢い15歳だ。

2人共光属性で魔力量が大きいという共通点もあったので1緒に研究することになった。

イータは俺が持って居る希少素材が目当てらしいけど、薬草の知識も豊富なので一緒に研究する仲間が出来たのは嬉しかった。

研究テーマは解呪や解毒・解麻といった特殊上級ポーションの研究。

”備えあれば売れ残り“、余裕の有る時だからこそ特殊なポーションの研究が大事。



学院内にいる限りは王都の混乱など無いかの様ないつも通りの日常。

相変わらず貴族の子弟が威張って教授達は高位貴族の子弟に媚びへつらっている。

今年選択した研究科目は戦術研究Ⅱ、戦略研究Ⅱ、薬学研究Ⅱと魔導具研究Ⅱ。

戦術研究Ⅱで俺が選んだ研究テーマは国境砦での防衛戦。

過去の国境紛争を調べて、どのような戦術を採り、その結果どうなったかを分析して最良の戦術は何だったかを考える。

国境砦の攻防戦に於いて、先に仕掛ける場合と待って防衛線を行う場合の優劣が国境の地形に大きく依存する事に着目して、地形による戦術パターンを研究する事にした。

最初に戦略研究の教授が言っていたウスラ戦役について文献を調べたら、どの文献でも王国の将軍が飛行魔法を使ってウスラの王宮を破壊、大公に兵を引かせたと書かれている。

さらに、撤兵しなかった敵の精鋭8千を大規模魔法で降伏させたと書かれていた。

王国で飛行魔法が使えるのはキラ家の17人だけ。

父さんじゃん。

ドウデル戦役も一応調べたが、父さんとレイナ母さん、キラ家の一番上の4姉妹が1万のコウスル兵を瞬殺したと書かれていた。

1人で無双出来る父さんや姉さん達の戦い方が戦術研究の参考になる筈が無かった。



結局、図書館で見つけた古代王国時代の”キョンシーのヘイヘイホー“という戦術書を中心に戦術を研究することにした。

”キョンシーのヘイヘイホー“冒頭に書かれていた、”敵の尻、おのれの尻はお知り合い“という言葉が気に入ったから。

“知り合い”というのは“アッ、クマ!の辞典”に詳しく書いてあったので知っている。

要するに、“金を借りる程には知っているが、貸すほどにはよく知らない人”。

お金を借りられる“お知り合い”とは戦わない事が最善という指摘だ。

戦わずして勝つ、これが”キョンシーのヘイヘイホー“の極意と知って興味を持った。



その他にも平民でも判るように優しく解説した戦術書、“へ~、ほ~、36計”と言うのもあった。

敵の強さを6段階に分け、それぞれの強さごとに6つ、計36の戦術が書かれていて、最強の敵を相手にする戦術として最後に書かれているのが、父さんの教えてくれた”逃げるがカチューシャ“。

逃げるのは貴族の恥と学院の貴族学教授が言っていたが、俺は冒険者。

1度でも負ければ命を失うのだから、”エブリデイカチューシャ“で無ければいけない。

脳筋の姉達は逃げるのが嫌いな”勇者“だけど、俺は勇者じゃない。



キームラという将軍の、“帰ろう、帰ればまた来られるから”という言葉も好き。

孤立した味方の救出作戦で指揮官のキームラ将軍は天候不利と見て何もせずに戻り猛烈な批判を浴びたが、後に再び出撃して奇跡と呼ばれる程の大成功を収めた。

不利な状況で無理に戦って破れれば、戦力を失って次に出撃する事は出来ない。

不利な状況の時は一旦引くのが戦術の基本。

卑怯者とか腰抜けと罵られようが、“命あっての柿の種”。

攻撃だけでもダメ、引くだけでもダメ。

押しと引き、そのバランスこそが大事なのは、古代王国の人気食“柿の種”と同じという格言。

アラレと木の実のバランスこそが“柿の種“の生命線。

どちらが多くてもダメだし、時代によっても変わる。

古代王国前期では6:4が最善とされたが、後期では7:3が黄金バランスと呼ばれたように状況や時代背景で柔軟に対応する事が大切だと古のことわざが伝えている。



戦略研究ⅡではⅠに続いて地域防衛戦略が俺のテーマ。

戦略研究の教授は帝国やドウデル王国の戦術にも詳しくて、戦いの経緯を公正に分析してくれるので好き。

国軍べったりの教授が多い王立学院では異色の存在だ。

俺の研究テーマは、過去の戦争を分析して領地を守る為の効率的兵力配置。

各街に軍勢を均等配置すれば敵の主力軍に各個撃破される。とはいえ1か所に軍を集中すれば周囲の街を制圧されて主力のいる街が孤立する。

実践例からどのような防衛戦略が良いのかを具体的に考えるのが俺の研究。



魔導具研究Ⅱでは俺が見つけた回路に使用出来る魔力効率の高い金属を実際に使用する為の魔導具開発が目標。

内部に融点の低い柔らかな回路用金属を仕込んだペン型の魔道具。

ペン先を魔法で熱して、液状になった回路用金属がゆっくりと流れ出るようにした魔道具。

名付けて”パンダ“。

液体のように使える金属なので、古代王国にいた“熊猫“という熊なのか猫なのか判らない希少魔獣の別名を貰った。

まだ試作段階だけど、何とか作れそうな気がしている。



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