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42  ライブ中継

“遠聴”の魔法を執務室に伸ばし、“拡声”で大きな音にする。

国王執務室の話し声が王都屋敷の居間で寛いでいる家族達に聞こえてきた。

「・・が御座いません。」

「何でだよ。平民共からごっそり巻き上げるって言ったじゃないか。」

「・・・恐らく売り上げを誤魔化しているのではないかと、・・・」

「だったら捕まえて拷問に掛けろ。王命に背くなど不敬にも程がある。1族もろとも処刑して大門に吊るせ。」

「それでは王都が混乱します。」

「混乱したら鎮圧するだけだ。その為に警備隊がいるんだぞ。」

「大きな騒ぎになったら、警備隊の数が足りません。」

「平民の騒ぎすら抑えられなら、警備隊長の首を切って大門に晒せ。」

「戴冠式の費用調達について相談させて頂いた折、陛下が警備隊と守護兵を半減せよとおっしゃられたので人数が少ないのです。警備隊長に責は有りません。」

「何だと、余のせいだというのか?」

「・・そうでは御座いません。・・ともかくキラがドラゴンの素材を取って来れば国庫の不足も補えます。今暫く晩餐会は御辛抱下さ・・・」

「はぁ。とりあえず中の様子が聞けるのは判ったからもういいわ。」

ルナ姉が疲れたように溜息を吐く。

魔法を引き上げた。



「こんな時に晩餐会?」

「ひょっとしたらバカじゃないかと思ってたけど、疑ったのが恥ずかしいわ。正真正銘、疑う余地すらない国宝級のバカね。」

「国王があれじゃあ、クーラー公爵は大変ね。」

「担いだのはクーラー公爵だから、自業自得よ。」

母さん達は辛辣。

大好きな父さんが何度も襲われた事を考えれば、母さん達が辛辣なのは当然だった。



1週間が経ち、父さんの出頭日が来た。

「そろそろ着く頃ね。準備は良い?」

「はい。」

魔王から準備するよう命じられた。

父さんに教わった“ライブ中継”の魔法。

“遠聴”で拾った声を“拡声”で大きくするだけ。

何故“ライブ中継”になったかと言うと、先日の実験後に2つの魔法を同時に使うなら“ライブ中継”という魔法名にしろと父さんが言ったから。

1つに纏めた方が魔法のイメージを作り易いし、魔法名的にカッコイイらしい。

確かに1つにまとめた方がイメージは作り易い。

以前、 “浄化”と“洗濯”を纏めて“全身浄化”にした時も1つになって発動し易くなった。 

“ライブ中継”というのは初めて聞いた言葉なので、カッコイイかは判らない。

父さんは時々聞いた事の無い言葉を使って訳の分からない事を言うけど、父さんだから問題無い。

家族はみんな父さんの使う変な言葉には慣れている。



“ライブ中継”は何度も練習したので大丈夫な筈。

王城には父さんが作った強固な結界があるので普通は“遠聴”を通さない。

父さんは結界に魔法登録を付けるので父さん以外は結界に干渉する事は出来ないが、俺には結界に使った魔法登録を解除する手順を教えてくれている。

仕事嫌いの父さんは、次のメンテナンスを俺にやらせるつもりだったから。

お陰で俺はいつでも自由に父さんの作った結界に干渉する事が出来る。

勿論結界の全面解除だけでなく、1部解除も簡単に出来る。

王宮の結界に“ライブ中継”の魔法を通す穴を開ける。

“俯瞰“を謁見場の天井に設置して父さんが入って来るのを待った。



父さんが王宮の謁見場に入って来た。

「“ライブ中継”を始めます。」

俺の声でざわざわしていた居間が静かになった。

家族は勿論、お祖父さん達も全員が夫婦で来ている。

父さんがゆっくりと王座の前に進み、立ち止まって胸を反らすと国王を睨み付けた。

「ドラゴン討伐の依頼、断固として断る。」

父さんの第1声は挨拶では無く、命令の拒否。

最初から喧嘩腰だ。

「どうしても余の命令には従えぬと申すか。」

「国王には冒険者に命令する権限など無い。」

陛下と父さんの声が王都屋敷の居間に流れる。

居間では家族だけでなくお祖父さん夫婦がソファーに腰を下ろして“ライブ中継”に聞き入っている。

手の空いている使用人達も壁際に立って聞いている。



父さんと国王が暫く睨み合う。

先に口を開いたのは国王だった。

「我が命に従わぬならばキラを国家反逆罪で処刑する。」

国王が1段高い王座から父さんを見下ろし、睨み付けながら脅した。

「ならば王宮ごと王家を潰す。」

父さんが平然と言い返す。

「貴様一人で王宮を潰せるとでも思っておるのか、バカバカしい。」

国王が鼻で笑った。

「ウスラ公国の公城を俺一人で破壊した事すら知らんのか?」

「それくらい知っておる。だが我が王宮は貴様の攻撃位ではびくともせぬわ。」

「その根拠は?」

「我が王城と王宮の結界は大陸1堅固な結界だからだ。」

国王が胸を張った。

「ふっ。」

微かな音が聞こえた。

父さんが鼻を鳴らした?

「この結界を造った結界師を知っているか?」

「大陸1の結界師と聞いておる。名はなんと申したかな。魔術師長、結界師の名は何じゃ。」

「キラで御座います。」

「ぅん? キラ? キラとはこの男の縁者か?」

「本人です。」

「・・・。」

驚いたらしく国王が口をポカンと開けている。

「王城の結界も王宮の結界も俺が作った。メンテナンスの都合があるのでいつでも停止出来るし、勿論何処をどうすれば破壊出来るかも良く知っている。しかも作ってからもう17年、そろそろメンテナンスが必要な時期が近づいて結界が弱まりつつある。停止しなくとも俺の攻撃に耐えられる筈が無い。」

「魔術師長、結界がもう持たないというのは本当か。」

「詳しい事は判りませんが、結界の寿命は通常20年と言われております。その後は10年置きに大規模なメンテナンスが必要です。」



「・・・キラ、結界のメンテナンスを申し付ける。直ちにメンテナンスを行え。」

あれ?

さっき“国家反逆罪で処刑する“って言ったよね。

処刑はどうなったの?

国王は3歩歩いたら忘れる“鳥頭”?

いや、王座に座ったままだから3歩どころか1歩も歩いてないぞ。

「前金で白金貨50万枚、補助の魔導師30名で期間3年なら請負っても良いぞ。」

父さんが悪い笑顔で吹っ掛けた。

確か前回は白金貨10万枚だったと聞いている。

メンテナンスを引き受ける気などさらさら無い筈なので、国王をからかっているらしい。

戴冠式に金を掛け過ぎたので、今の王家が財政難なのは俺でも知っている。

家族会議でアシュリーお祖父さんが言っていた。

50万枚どころか10万枚でも直ぐに払うのは難しい筈。

って、もう処刑の話は無くなったの?



「白金貨50万枚だと、馬鹿を言うな。魔術師長、今の相場ならどれくらいだ。」

「20年前の相場が白金貨およそ30万枚、補助の魔導師60人で5年の期間でした。20年前と今では物の値段も人件費も倍になっております。しかも当時は全くの平和な時代。今とではあまりにも情勢が違います。現在なら恐らく白金貨100万あたりが相場と思われます。」

あちゃ~、父さんが吹っ掛けたと思ったらそれでも安すぎたらしい。

「・・・・。」

暫し静寂が訪れる。

俯瞰で見ると、国王が口を開けたまま絶句している。

父さんも100万枚と聞いて首を傾げ乍ら頭を掻いている。

もっと吹っ掛ければ良かったと思っているのだろう。


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