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39 父さんがやらかした

教授が研究生達を見回した。

「35000という圧倒的な数のウスラ公国軍に砦を抜かれるのは時間の問題なので、陛下は辺境伯領もスレイ伯爵領もウスラ公国に制圧される事を覚悟したと言われている。陛下は何とかソランダで食い止めようと国軍にはソランダを拠点として防衛する事を命じた。」

教授がもう一度学生達を見回す。

何人かの生徒が呆然としている。

「判った者もおるようだな。知らぬ者もおるかも知れぬので説明すると、ソランダはミュール王国の丁度真ん中にある街。ソランダの西をウスラ公国に占領されるという事は、ミュール王国が広大な領土の半分を失ったという事だ。その原因となったのは国軍指揮官と領主貴族の裏切り。疑わしいと思っている者もおるようだが、その者は後で図書館に行ってウスラ戦役についての文献を自分で調べて見なさい。」

さすがに“王国領土の半分を失う“という教授の言葉には、学生達も驚いていた。



「それだけではない。7年前にはドウデル国のコウスル侯爵軍10000が我が国に侵攻して来た。国境を守る2つの砦に駐屯する国軍はそれぞれ1500。王宮が素早く反応して援軍の出陣を命じたが、援軍の指揮官が敵の策略によって間違った方向に誘導され、コウスル侯爵軍の迎撃には全く間に合わない事態となった。ドウデル王家はコウスル侯爵軍が国境砦を落としたらすぐに我が国南部に進攻するつもりで精兵8万を後詰として準備していた。陛下も王国南部の広大な国土を制圧されるのはやむなしと判断せざるを得なかった。」

国軍やドウデル軍の事は知らないけど、コウスル侯爵軍の事件は知ってる。

上の姉さん達とレイナ母さんが敵を爆散させてアウトマンにめっちゃ怒られた事件。

冒険者としてキラに行った時、家宰のアウトマンがキラ家の兵が少ないのは姉さん達が敵軍を爆散させたせいだと言っていたから多分この事だろう。

さっき質問した学生達が驚いている。

「そのような事が本当にあったのですか。」

「忌々しい事ではあるが、本当にあった事だ。国と国との戦いでは裏切りや1つの判断ミスであっという間に広大な領地を失うことがある。ミュール王国軍は大陸最強で百戦百勝の常勝軍団? 誰が言ったか知らないが、この20年で王国が大きな危機に陥った事は2度しか無いが、その2度とも国軍の裏切りや国軍指揮官の判断ミスによるものだ。百戦百勝どころか、国軍が周辺国軍を相手に戦った事など1度も無い。1度も戦って無いから負けた事が無いだけだ。当然勝った事も1度も無い。もう一度言う、国軍が国を救った事はこの20年間1度も無いが、大きな危機を招いた事は2度もある。諸君らには国軍関係の親族も居ると思うが、事実は事実として真摯に研究する事が大切だ。新しく研究室に来た諸君は、文献を精査してこの現実を知る事から始めて貰いたい。」

国軍って、戦った事が無いの?

めっちゃヤバいじゃん。

王国は大丈夫なのかと心配になった。

油断は禁物どころか、既に危機なのかもしれない。

「この30年程は平和が続いているが、過去の戦いでは帝国軍に攻め込まれて北部一帯を制圧された事もあるし、コマール王国の奇襲を受けてフロズン周辺を制圧された事も、ドウデル軍に国境の砦を抜かれた事もある。どれも侵略軍を押し戻すのに10年以上の年月を有した。こうした事態はいつ起こるか判らない。もしも砦を抜かれて広範囲に制圧された時に国土をどう守るかがこの研究室の研究テーマである。」

国土を守ると言う事は姉さん達の領地を守る事にもなるよな。

うん、頑張って勉強しよう。


帝国語Ⅰを選んだのは帝国語だけが大陸共通語と大きく違うから。

この大陸の言語は古代王国の流れを汲んでいるので細かな違いはあるものの殆ど同じ。

ところが帝国は険しい山脈で隔てられているので独自の発展をしてかなり違う言葉になっている。

王国は帝国と敵対関係にはあるけど、交流も多いと聞いたので勉強しておこうと思った。


障害馬術はポッターと遊べる時間。

ポッターは魔獣を跳び越え乍ら蹴り殺すのが得意。

草原狼の群れを見付けると、俺が指示する前に自分から突っ込んでいく。

力が有り余っているので普通に走るだけでは満足できないらしい。

馬場の障害コースでも他の馬の様にゆっくりは走らず、猛スピードで障害に突っ込んでいく。

障害に触れると減点なのだが、魔獣相手に戦う時の癖が出て後ろ足で障害を蹴り飛ばしてしまう。

障害は馬が怪我をしないよう少しでも触れると前に落ちるようになっているので、後ろ足で後ろに向かって蹴り飛ばすと乗せられている棒が折れるだけで済めばましな方、時には障害本体が壊れてしまう。

ポッターは障害が砕け散る感触が気に入っているようで、めっちゃ機嫌が良い。

嬉しそうに障害を蹴り飛ばすポッターを叱るのは可哀そう。

まあいいか。

小さな事を気にしてはダメ。

「ハリー!」

教官が俺を怒鳴りつける。

「えっと、ごめんなさい。」

「故意に壊しているのだから、修理費用はお前が払うんだぞ。」

かなり手前で飛び上がり、狙いを定めて強烈な蹴りで障害を吹き飛ばしているのだからポッターが意図して蹴り飛ばしているのは間違いない。

「はい。」

かなりの金額の書かれた請求書が、毎週寮に届くようになった。

「はぁ。」



授業が始まってしばらくした頃、戴冠式が行われた。

お祖父さん達や父さんが参列するので屋敷の使用人達は忙しそうだった。

第1王子が正式に王位を継ぎ、クーラー公爵が宰相に就任するらしい。

俺には関係無いと思っていたらそうでもなかった。

戴冠式で父さんがやらかしたらしくて、戴冠式に参加した皆が帰って来るなり緊急の家族会議が開かれた。


「新国王がキラに“ミュール王国のSSランク冒険者として国王に尽くせ”と言った事が事件の発端だ。」

いつも会議の進行役をしているアシュリー公爵の話で会議が始まった。

そんな事で事件になるの?

意味が判らん。

「知っての通り新国王は王立学院時代の恐喝事件を暴かれた事を切っ掛けとしてキラに恨みを持ち、何度もキラを暗殺しようとした。キラも傲慢な新国王が大嫌いだ。」

それは家族全員が知っているのでみんな頷いている。

「キラが“俺はミュール国王の家臣では無い”、“国王に尽くすのは貴族や騎士の役目、冒険者に対して国王に尽くせとは何事だ“と怒った事で東部貴族達がキラを不敬罪で処刑しろと騒いだ。」

父さんが戴冠式で怒ったらしい。

「儂も列席していたが、キラが怒るのは珍しいので驚いた。」

辺境伯も父さんが怒るのを見て驚いたらしい。



どうやら新国王嫌いの父さんが新国王の発言にカチンと来てぶち切れたようだ。

怒った時の父さんは日頃の口下手な父さんとは違って怒涛の如くしゃべると聞いている。

”公特“の将軍をしていた頃には何度もあったらしい。

普段は”横板に鳥もち“のようにぼそぼそとしか話せない父さんが、”公特“本部に抗議をしに来た高位貴族に向かって“立て板に水”の如く捲し立て、グ~の音も出ない程に言い負かして追い返した事が何度もある、とアウトマンが言っていた。

”横板に鳥もち“は良く判らないけど、“立て板に水”はなんとなく判る。

立てた板に水魔法を撃つと、板がめっちゃ遠くまで飛ぶからストレス発散になる。

きっと怒りも飛んで行くのだろう。



父さんを見ると、ソファーで横になってレイナ母さんに膝枕して貰っている。

父さんはやっぱり父さんだった。

騒動の当事者であってもソファーに座るつもりは無いらしい。

いつも通りと言えばいつも通りだけど、まだ機嫌が悪いらしくレイナ母さんが優しく頭を撫ぜている。

父さんの機嫌が悪い時は、母さんが頭を撫ぜるかおっぱいを触らせると父さんは落ち着く。

おっぱいを触っている時の父さんはすっごく幸せそうな顔をしている。

今は頭を撫ぜているだけという事は、もうかなり落ち着いたと言う事。

父さんは判り易い。

俺はブロン姉の膝枕でヨシヨシして貰っている。

領地にいた姉さん達やお祖父さん達を王都屋敷まで運んだご褒美の“お疲れ様タイム”。

難しい話は苦手なのでただ聞いているだけ。


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