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36  確かに死んだら心臓も止まる

ブクマありがとうございます。

これから数話はミュール王国における政治関係の話となりますが、”たまたま”政治の話になっただけで、現在行われている某選挙とは”毛ほども”関係ありません。

毛が縮れているという突っ込みもありそうですが、R15なのでどこの毛かの説明も控えさせて頂きます。

「聞いている者もおるとは思うが、国王陛下が暗殺された。」

アシュリーお祖父さんの発言にびっくり、思わず”聞いてねえよ“と叫びたくなった。

上の姉さんと真ん中の姉さん達は反応が少なかったので知っていたようだが、下の姉さん達は俺と同様に驚いている。

4人共学院の先生方から、陛下が急な病で亡くなられたと聞いていた。

“暗殺された“なんて聞いてない。


「陛下は素行の悪い第1王子を諦めて侯爵家に嫁いだ妹の子を養子に迎えて王位を継がせようとした。それを察知した第1王子と後ろだてのクーラー公爵が陛下を殺害した。」

アシュリーお祖父さんは王族出身なので王家の内情に詳しい。

アシュリーお祖父さんが言うならそうなのだろう。

「宰相達は黙って見ていたんですか?」

ブロン姉が声を荒げる。

ブロン姉達も詳しい状況までは聞かされてないらしい。

「クーラー公爵は腹心である魔術師団3席に魔術師長を呼び出させ、その後陛下の執務室に行き内密の話があると言って宰相と騎士団長を別室に連れ出した。」

「それでも、近衛騎士がいたでしょうに。」

「陛下と近衛騎士だけになった所に、第1王子が従者達を引き連れて執務室に押し入った。近衛騎士は王族の警護が任務なので王族には逆らえない。近衛騎士達によると、王家に関する重大な話があると言って騎士達を部屋の隅に追いやり、陛下に話しかけるように耳元に顔を寄せた瞬間に隠し持っていたナイフで陛下を刺したそうだ。」

生々しい話に皆が息を飲んだ。

「近衛騎士は王子を捕縛しなかったのですか?」

ナイ姉が口を尖らせる。

上の4人は平然としているので既に詳細まで知っていたらしい。

「陛下を刺して直ぐに“国王陛下が亡くなられた。これより余が国王代理として政務を執り行う”と大声で宣言したため、近衛騎士としては王子に逆らう事が出来なかったそうだ。」

「でも目の前で陛下が殺されたのでしょ?」

「近衛騎士の職務は王族の護衛だ。第1王子以外に王族がいない状況では、近衛騎士が優先すべき任務は第1王子の護衛となる。」

「・・・王宮の様子はどうなのですか?」

「緊急事態ということで、“たまたま”王都に残っていたクーラー公爵派の貴族達が兵を率いて王城に集まり、王宮や各殿の混乱を抑えている。」

「“たまたま”ねぇ。騎士団長は?」

「第1王子が国王代理の権限で、宰相と魔術師長、騎士団長に解任及び蟄居を命ずる王命を出した。3人は即日騎士団によってそれぞれの領地に護送されたらしい。」

「処分の理由は?」

「陛下の病に気付かず執務を続けさせた、という事になっている。」

「いやいや、病じゃなくて第1王子が殺したんでしょ?」

「表向きは突然の心臓停止による病死だ。」

治癒師も原因が良く判らないまま患者が死んだ時には、死因を心臓停止にするって聞いた事がある。

確かに死んだら心臓も止まるから間違ってはいない?

判らん。

「クーラー公爵派以外の貴族達はどうしているの?」

「社交シーズンが終わっているから、主な貴族は既にそれぞれの領地に引き上げた。クーラー派の貴族だけは“たまたま“派閥の晩餐会があるという理由で殆どが王都に残っていたところに“たまたま“陛下御逝去の知らせが届いたので、万が一に備えて兵を率いて参内した、という事になっている。」

「タイミングが良すぎでしょ!」

ナイ姉が吐き出すように言う。

「ともあれ陛下の急死により不測の事態が起らぬようにという理由で、王城はクーラー公爵派の貴族によって制圧され、領主が王都に残っていた東部の有力貴族邸は国軍の監視下に置かれている。」

「東部貴族同士でも仲が悪いという事?」

「元々権力争いをしているからな。」

「うちはどうなの? 国軍も来ていない様だけど。」

「西部貴族連合の盟主とは言え、キラ家の様な新興貴族など家柄重視の東部貴族からすれば、眼中にも無いのだろう。そもそもルナはキラに居る事になっているしな。」

「他の西部貴族は?」

「東部貴族だらけの王城で働こうと思う西部貴族は殆どいないから、王都屋敷を持っている西部貴族はほんの数家だけ、その領主も今は皆領地にいる。」



「それよりも問題は今後だ。第1王子はキラを恨んでいるのだったな。」

ステルンお祖父さんがアシュリーお祖父さんに聞いた。

そうなの?

俺は初めて聞いたんだけど。

「第一皇子は王立学院在学中に従者達と恐喝や暴行、果ては殺人にまで手を染めていた

それをキラに暴かれ、王籍剥奪の窮地に陥った。証人となる筈だった犯罪仲間だったストーブ侯爵の嫡男やヒート侯爵の嫡男らの従者達を王城の牢で殺害し、後ろ盾をストーブ侯爵と対立していたクーラー公爵に変える事でかろうじて王籍剥奪を免れた。それ以来ずっとキラの事を恨んでいると陛下から聞いている。実際に事件が闇に葬られた後もクーラー公爵と図ってキラを殺す為に何度も暗殺者を送っていたそうだ。」

そうなんだ。

父さんが暗殺者を大勢倒したとは聞いていたけど、第1王子が暗殺者を雇っていたのは知らなかった。

いやいや、王子が恐喝や暴行・殺人って何なんだ?

父さんが王子の犯罪を暴いたの?

王子は従者達まで暗殺したの?

初めて聞く事ばかりで混乱した。

地位や名誉も関係無く気儘に行動する父さんが王子を殺さなかったと聞いて驚いた。

父さんでも嫌な奴を殺さない事があったんだ。

弱い者いじめが大嫌いな姉さん達なら絶対に殺していると思う。



「うちの立場も悪くなりそうね。この際王宮ごと王家を潰しちゃう?」

魔王は過激だ。

「今王家が無くなれば国が混乱する。国内の混乱だけでなく、周辺国も一斉に攻め込んで来るのは間違いない。」

アシュリーお祖父さんは穏健派。

「でもうちや妹達に手を出したらぶっ潰すわよ。」

ルナ姉は本気っぽい。

「「「・・・・。」」」

お祖父さん達が顔を見合わせている。

「ルナは西部貴族連合の盟主だ。王家でも簡単には手を出せん。」

アシュリーお祖父さんが魔王を宥める。

「こうなるとは思っていなかったが、ルナを盟主にしておいて良かったと思う。いざとなれば西部貴族連合で新しい国を作れば良い。」

辺境伯は過激派。

「おう、その手があるな。さっそく根回しに入ろう。」

ステルン伯爵も過激派らしい。

「ともあれ暫くは様子見だ。西部貴族連合の貴族達にはいざという時にすぐに対処出来るよう今回の事件の詳細を伝えてくれ。」

アシュリーお祖父さんの言葉で会議が終わった。

会議が終わったらまた俺のお仕事。

皆を領地に送って行く。

政治には関心が無い。

襲ってきたら反撃すれば良い、それが父さんの教え。



今月も週末に家族会議が開かれた。

「東部貴族の主流3派であるクーラー公爵派、ストーブ侯爵派とミトン侯爵派が手を組んだ。まあ表向きだけだがな。」

「表向きって?」

「第1王子しか王位継承権を持つ者はいないのだから、第1王子が国王になるのは決定だ。少しでも王から利益を引き出せれば、自分の功績として自派閥での影響力を保てるから、表向きは手を取り合ったというところだ。腹の底では憎しみ合っている。何といっても第1王子はストーブ侯爵やヒート侯爵の嫡男を殺したのだからな。」

「第1王子が国王で決まりなら、クーラー公爵は譲歩する必要なんて無いんじゃないの?」

「そうもいかないのが政治だ。頂点に立つのは王だが、国を動かす為には地方を統治する貴族、中央の官吏や地方代官、国軍の武官など大勢の働きが必要だ。手足となるべき者達の協力が得られなければ国は旨く運営出来ない。」

「それでクーラー公爵は何を与えたの?」

「平民出身の上級官吏や国軍士官を全員降格させてその後釜にヒート侯爵派とミトン侯爵派の貴族を据えた。数百人の貴族や貴族子弟が出世したからヒート侯爵派やミトン侯爵派も納得した。」

「有能な役人を降格して、その上司に家柄しか誇るものが無いバカを据えたって言う事?」

「家柄しか誇るものが無いバカか、・・・確かにそうとも言えるな。」

アシュリーお祖父さんが遠くを見るような目になった。


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