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34 夫婦喧嘩はメシも食わない

「ハリー、一緒させて貰っても良いか?」

顔だけ知っている同級生が声を掛けて来た。

言葉は丁寧だが、胸を反らした偉そうな態度。

名前は忘れた、というよりもお貴族様なので自己紹介の時から覚える気も無かった。

たぶんその時に覚えたとしても、1年経った今も覚えているなど俺には有り得ない。

声を掛けて来た同級生の後ろには男子学生が4人。

その後ろでは従者らしき兄ちゃん5人が食堂のトレイを持っている。

少し離れた所にも声を掛けて来た学生の従者らしき兄ちゃん数名が固まってこちらを見ている。

この1年間、ここでは1度も見た事の無いメンバーだから、いつもは給仕付きの貴族用食堂を使っているのだろう。



俺の定席は食堂の隅。

8人掛けのテーブルだけど、いつも一人なので席は空いている。

お貴族様とは一緒には食べたく無いけど、丁寧に言われたらしょうがない。

「はあ。」

今日も魔法の練習をしながら食べようと思っていたのに邪魔された。

5人が俺と同じテーブルにつく。

従者の兄ちゃんお貴族様の前にトレイを置いて離れた所に下がって行く。

従者らしい兄ちゃん達は少し離れた所でこちらを見ながら立っている。

一緒に食事を摂るのでは無いらしい。

うちはみんな仲良しだから、使用人達とも一緒に楽しく食事をする。

ふと古代王国のことわざを思い出す。

”夫婦喧嘩はメシも食わない“

ひょっとしたら従者と喧嘩してるのかもしれない。

喧嘩しているから一緒に食事をするのは嫌なのだろう。



「クラスメイトだから知っているとは思うが、俺はポンチ王国第2王子のイーカレ=ポンチだ。」

「はあ。」

すまん、名前も出身国も全然知らん。

クラスメイトなので顔は覚えているが、出身国や家柄には全く興味が無い。

「俺の事も知っている筈だが、ウスラ公国ポラン侯爵家嫡男チャラン=ポランだ。」

だから知らんし。

顔は見た事があるけど一度も話したこと無いのに知ってる筈が無い。

自慢じゃないけど俺は父さんに似て人の名前を覚えるのは苦手。

色々と絡んできて、今年からは隣の席になった第一皇子の名前すらまだ覚えてないのに、一度も話した事の無いクラスメイトの名前なんて覚えている筈が無い。

王族や高位貴族は皆が自分の事を知っていると思っているらしい。

いくら何でも自意識過剰過ぎるだろ。

「クラスは違うが、俺の事も名前くらいは聞いている筈だ。俺は魔法科2年1組、ポンチ王国ナンパ侯爵家嫡男ゴーコン=ナンパだ。」

知ってる筈が無い。

ナイ姉とレブン姉のクラスメイトらしい。

クラスメイトですら名前を覚えていないのに、何で知っていると思うんだ?

専攻科が違えば知らなくても当然だろ。

姉さん達の好み迄は判らないけど、家柄を鼻に掛ける貴族が大嫌いなのは家族共通。

3人共偉そうな態度だから姉さん達には嫌われているだろうな。

「俺は貴族科1年、ドウデル王国ソースル公爵家3男キット=ソースルです。」

「俺は貴族科1年、ドウデル王国タマエ侯爵家2男マカーセ=タマエです。」

この二人は初めて。

新入生らしい。

俺の方が先輩だからか丁寧な感じ。

「はあ。」

一応返事だけはして食事を再開する。



「留学生の情報交換会でハリーの話が出たのだ。」

5人は食事に手を付ける様子も無いまま俺に話しかける。

「情報交換会?」

「元々は王立学院に留学している学生同士で科目内容の面白さや単位の取得し易さなど学院生活で役立つ情報を話し合う茶会だ。」

どうやら留学生だけの集まりがあるらしい。

「最近はキラ家の情報交換が主な話題になっている。」

何でキラ家なんだ?

判らん。

「はあ。」

食事を摂りながらなので、適当に相槌を打つ。

「留学生の殆どはキラ家の女性と結婚する為に王立学院に通っている。」

そう言えばそんな話を聞いた事があるような気がする。

俺には関係無いので興味はない。

「俺はテンに豪華な花束を贈ったら、その場で燃やされた。」

イカレポンチは花束を贈ったらしい。

テン姉は火属性だから、まあそうなるな。

「俺はレブンにショールを贈ったが、風刃で切り刻まれた。」

ゴーコンナンパはショールか。

レブン姉は聖属性と風属性だから、嫌な奴からショールを贈られたらそうするな。

「俺はナイをデートに誘おうと思って待ち伏せしたら、深い穴に落とされた。」

ナイ姉は土魔法だから穴掘りは得意。

ナイ姉の機嫌が良かったらしい。

機嫌が悪い時なら光弾を撃たれてこの世から消滅してるよ。

光弾は至近距離だと一瞬で骨まで燃やし尽くすから殺した証拠が残らない便利魔法。

俺は使えないけど、同い年の姉達は全員が父さんに教えて貰って光弾をマスターしてる。

チャランポランさん、生きてて良かったね。



「1年間頑張ったが、未だに話す事すら出来ていない。ポンチでは掃いて捨てる程女達が群がって来たのに、貴様の姉達は見向きもせん。下賤な女は男を視る目が無いらしい。」

「俺も同様だ。家臣が父上に報告を送ったらしく、父上からお怒りの手紙が来た。」

「俺もだ。大体、平民の癖に高位貴族の誘いを断るなど、不敬極まりない。」

そうなの、不敬なの?

高位貴族の誘いについては教えて貰った事が無いから知らなかった。

「そんな時に先輩の留学生から弟のハリ―なら姉達の好きな物を知っている筈だ、という情報を貰った。」

「“将を射んと欲すれば先ず馬鹿を射よ”、と言うからな。」

ウスラ公国のチャランポランが偉そうに言い放つ。

いやいやそこは馬鹿じゃなくて馬だろ。

この1年で俺も賢くなったからそれ位は知っているぞ。

まあ姉さん達にはいつも魔法バカと言われているからバカでも間違いでは無いけど。

ウスラ公国は父さんに軍勢を壊滅させられたって聞いた事があるけど、こんなのが指揮官なら次があっても同じ手で殲滅出来そうな気がする。

「はぁ。」

ウスラもポンチももう少しましな奴はいなかったのか。

溜息しか出ない。

ドウデルの2人はおとなしく聞いている。

新入生なので遠慮しているのかも知れない。



「それで、テンやナイ、レブンの好きな物は何だ?」

「好きな物・・・。」

考えてみるが思い浮かばない。

あっ、思い出した。

「ドラゴンの肉は好きだね。」

「「「・・・・。」」」

「・・他に、そうだ好きな事とかは無いのか?」

姉さん達が好きな事?

「えっとぉ、一番好きなのは、・」

「一番好きなのは?」

「攻撃魔法を最大威力でぶっ放す事。」

うん、これが1番好きな筈。

「・・、2番目に好きなのは何だ?」

「2番目、2番目ね、・・魔獣を爆散させる事?」

「討伐では無く爆散なのか?」

「いつもは素材が売れるように手加減してるから。爆散させても良いと言われたらすっごく嬉しそうになる。手加減しないで魔法を撃つのが楽しいみたい。」

「そ、そうか。3番目、3番目は何だ?」

「3番目か。3番目ね、・・盗賊を爆散させる事かな?」

他には思い浮かばなかった。

ともかく動く相手に魔法を思い切り撃つのは大好きな筈。

頑張って考えたけど、姉さん達が好きな事ってちょっと、と言うか大分危ない気がする。

「「「・・・・。」」」

3人が黙り込んだ。



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