33 千里の道も一本背負い
ブクマ、有難う御座います。
投稿がギリギリになって誤字脱字が目立つかもしれませんが、出来るだけ毎日投稿出来るよう頑張ります。
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頼運
錬金術Ⅱでは漸く研究テーマが決まった。
テーマは魔導具工房で使える魔力伝導率の高い回路用素材の開発。
魔法陣研究の研究テーマである回路用薬剤の開発にも繋がる所がある。
従来の液体薬剤では無く魔力伝導率の高い金属で回路を繋げれば魔石の消耗を抑えられると父さんがアドバイスしてくれた。
古代技術にも“パンダ”というデレデレに溶ける柔らかな金属を使った回路が有るらしい。
魔法陣研究の教授に話をしたら、“金属を使った薬剤と言うのは良い発想だ。両科目共通の研究として励むが良い”と言って貰えた。
錬金術の教授も同意見だったので2科目の時間は金属を使った回路用素材の開発が研究テーマとなった。
回路を描く薬剤の性能が上がれば魔石の消耗度が下がり、魔導具の普及に繋がると言う事で魔道具ギルドも研究費を援助してくれる事となった。
お陰で実験用に必要な鉱石の購入が楽になった、と教授が言っていた。
俺は必要な鉱石の名前と量を教授に提出するだけなので知らんけど。
以前漆黒檀と導紫檀という魔力伝導率の高い素材を父さんに見せて貰って、魔導具の回路を描く基盤としての使い方を教えて貰ったことがあった。
これだけたくさんの鉱石があれば回路の基盤に使える素材が含まれた鉱石があるのではと考え、得意の”鑑定“で探すと幾つかの素材が見つかった。
父さんに教えて貰った、“結界”の中で鉱石に圧力を掛けて熱して素材を溶かして抽出する”精錬“が凄く役に立った。
今迄は目的の素材を取り出すとそれ以外の素材は捨ててしまっていたが、”鑑定“を使って詳しく調べると捨てていた素材に魔力伝導率の高い素材が含まれているのに気付いた。
先輩達が素材を取り出した後の屑鉱石から幾つもの素材を取り出しては”鑑定“で使える素材を見つけ、実際に魔力を通してどの程度魔力の通りが良いかを検証する。
希少金属の”精錬“には邪魔になる含有率の高い金属を取り出した後の屑鉱石なので希少金属が取り出しやすいし、屑鉱石の処分費が安くなると教授にも喜ばれている。
魔力伝導の良い素材を見つけると、その素材が加工に適しているかの検証。
魔導具の回路に使うには加工し易いかどうかが大切。
父さんは高い加工技術を持っているので、めっちゃ硬い漆黒檀や導紫檀も加工出来る。
普通の魔導具工房には父さんの様な技術も加工具も無い。
何とか普通の工房でも使えるようにできないかと頑張っている。
硬過ぎず柔らかすぎず、融点が低いか・薄い板に出来るか・長く伸ばせるかも重要。
全てを兼ね備えた素材が見つかれば簡単だったが、世の中そう甘くは無い。
魔力伝導率の高い素材は幾つも見つかったけど、それぞれの素材に短所もある。
今注目しているのは”精錬“のイメージ次第でお尻の様に柔らかくなったり、古代王国の建築素材であるコンクリの様に硬くなる“尻コン“。
その辺に転がっている石にすら含まれているありふれた素材だが扱いが難しくて苦戦中。
フニャフニャの“尻コン“に魔力を含ませるとカチカチに硬くなるが、暫くすると魔力が抜けてしまう。
”パイアクラ“という薬草の根を混ぜると堅い時間が長くなるが、時々爆発する。
取り扱いが難しくて、1年・2年でどうにかなるという素材では無さそうだった。
幾つかの素材を組み合わせて新しい性質を持つ金属の開発が錬金術研究室の目的なので、今までに生み出した金属の組み合わせによる性質変化のデーターが沢山ある。
基盤の開発は中断して回路用素材に集中する事にした。
研究室に蓄積されたデーターの山を一つ一つ調べて行く。
今までに魔力伝導率に着目した実験は無かったが、魔力伝導率の高い金属を使った延度や軟度、溶解温度などの実験データーは沢山あった。
魔力伝導率の高い金属が使われた実験データー抜きだして精査する。
柔らかくなった・錆び難くなった・板状に出来た・糸状に出来た、俺の求める条件に合致する実験結果が沢山あったが、硬過ぎる・柔らか過ぎる・融点が高過ぎる・高価過ぎるなどの欠点が有って実用化には至っていない物ばかり。
“千里の道も一本背負い”、今は地道に回路に使えそうな組み合わせを探している。
1年の必修科目だった礼儀作法の単位は取れたものの、2年時必修科目の貴族学も苦手。
「貴族には明確な序列がある。」
姉さんに教えて貰ったから序列はと言うのは知ってる。
家族で何かを決める時に意見を聞かれる順番の事。
最上位が母さん達、ルナ姉、上の3人の姉、中の姉4人、下の姉3人、エド、父さん、俺。
父さんや俺が意見を聞かれる前に決まってしまうから1度も発言した事は無いけど、そうらしい。
エドは意見を言った事があるらしい、知らんけど。
「最高位の公爵は王族の血族であって、万が一王族の血が絶えた時には王となる事もある尊い血筋だ。」
教授が序列の説明を始めた。
アシュリーお祖父さんは王族の血を引いているらしい。
そう言えば魔王が西部貴族連合の盟主になった時、王家の血筋だと言っていた。
興味が無いので、すっかり忘れていた。
「次が侯爵。臣下の最高位で、長年に渡って数々の業績を上げて王家に貢献した名門貴族で多くの寄り子を従え広大な領地を統治している。地域を守る為に5千~1万の軍を持つことを許されている。」
ドランお祖父さんが侯爵だった筈、たぶん。
「そして別格なのが辺境伯。伯爵ではあるが国境を守る為に万を超える独自の軍を持つ侯爵筆頭格の大貴族である。」
キュラナーお祖父さんは万を超える軍を持っているらしい。
万を超える軍隊なんて見た事が無い。
お祖父さん脳筋っぽいけど、ちゃんとお給金払えているのかな。
「そして伯爵。侯爵同様に寄り子を従え地域の支配権を持っているが保持できる軍勢は2千~5千と決まっている。ここまでが上位貴族と言われ、貴族の中でも任された地域全体の寄り親としての責任を負う重要な貴族で、国政にも大きな発言力を持っている。」
ステルンお祖父さんが伯爵だから、お祖父さん達はみんな上位貴族らしい。
全然貴族っぽく無いから判らなかった。
あれ?
ルナ姉は侯爵で、リヌ姉・ドナ姉・リラ姉が伯爵だったよな。
ひょっとしてみんな凄いの?
学院の貴族子弟の様に威張ったりしないし、ドレス姿なんて見た事無いんだけど。
判らん。
「そして子爵。世襲の領地と譜代の家臣を持つ領地貴族で、千~2千の軍勢を保持できる。ここまでが本当の意味での貴族で、明確な瑕疵が無ければ王家や寄り親といえども領政には口出しを出来ない。」
そう言えばこの間俺も子爵になった。
本当の意味での貴族?
判らん。
「そして街や町の代官を務める男爵や騎士爵がいる。貴族に列せられてはいるが、事実上は王家や寄り親という主家の家臣で、街や町の運営を担っているだけで領主では無い。爵位を与えられているので貴族と呼んではいるが、子爵以上とは全く別である。」
そうなの?
知らなかった。
って、領都や街・沢山ある町の代官は姉さん達の家臣じゃなくて、俺の家臣なの?
初めて聞いて驚いた。
ふと思い出す。
“初めて聞いて驚いた。それが事実なら大変だ、早速調べて善処する“というのが責任を追及された古代王国の大臣の決まり文句で、何もしないという意味だと古文書に載っていた。
うん、俺も領地経営をする気が無いから問題は無い。
何もしないでおこう。
「更に同じ爵位でも細かな序列があり、明確に判るのは国王陛下が主催する行事における席順である。序列の基となるのは家の歴史・王家との関係・領地の人口・経済力など多岐に亘っている上、婚姻や業績などで変わる事もあるから行事の時には謁見場の入り口近くには大勢の執事達が待機して入場順を確認している。」
入場の順番も序列によって違うの?
知らなかった。
貴族はややこしいから嫌い。
あれ? 俺も子爵?
執事って誰?
下手に知るとめんどくさそう。
“知らぬはほっとけ”、うん気付かなかった事にしよう。
「1年間の貴族学で学ぶのは王国貴族の名前や派閥、歴史や勢力、殿に対する影響力や配下の有力役人の名前・・・・。」
領地を継いだり、役人になった時に役立つ知識らしいが、冒険者を目指す俺にとってはどうでも良い事ばかり。
”馬の耳にネンネンコロリ“を発動した。
試験の直前にテン姉にノートを見せて貰って暗記すれば良いや。
 




