27 アッ、クマ!の辞典
ブクマ、お星様頂きました。
本当にありがとうございます。
雨にも負けず、風邪にも負けず、夏の暑さにも負けぬ、軽い作品を目指して頑張ります。
頼運
「それはともかく、国軍がそんな状況なので周辺国は虎視眈々と侵攻の機会を伺っている。東部貴族達は軍幹部に身内が多いから国軍が頼りにならない事を理解している。周辺国に対抗するには領軍を強化しなければならないが、贅沢を辞める気は無いので金が足り無い。それで西部貴族の金で国軍の兵力を増やし、増えた分を東部貴族の領都に駐留させて金を使わずに自分達の領地を守ろうと言うのが奴らの狙いだ。」
「何じゃそれ!」
リーナ母さんがますます怒った。
父さんの言う”屁に油“、怒っている母さんに燃料を掛けたら爆発しちゃうよ。
「東部では何年もの間、農地や交通路の整備には殆ど資金を投じていないから灌漑用水も壊れたままだし、土地も痩せて来て収穫量が年々少なくなっている。街道も壊れている所が多いので訪れる商人の数も減っている。当然納める税も減った。50年前は国税の4分の3が東部からの税であったが、収穫高の不正報告が増えた事もあって年々納める税が減り今では当時の半分以下どころか4分の1だ。にも拘らず、国土の3分の1しかない狭い東部に国軍の4分の3が駐留しているのは昔と変わらない。西部は殆ど西部貴族の領軍だけで周辺国や魔獣を抑えているのが現状だ。」
アシュリーお祖父さんが説明してくれた。
王国地理の授業では国軍が睨みを利かせているから西部貴族は農地開発などに金を掛けていられると言っていた。
授業で習ったのとは全然違うけど、お祖父さん達は家族には嘘を言わないので教授の言葉より信用出来る。
「西部貴族からすればふざけるなという事で、先日西部貴族連合の名で東部貴族の提案を拒否すると通告した。そのせいで東部貴族と西部貴族の対立が激しくなっているのが王国の現状だ。」
西部貴族連合の盟主を務めている辺境伯がアシュリーお祖父さんの発言を引き継いだ。
父さんや家族の事位は知って置けとルナ姉達に怒られたから、俺も少しだけど勉強したし授業でも題材になったのでお祖父さん達が西部の偉いお貴族様だと知っている。
うちに来た時は孫バカの甘々お祖父さん達だけど。
「周辺国が王国侵攻の準備を始めているので我らも備えなければならない。ウスラ公国とドウデル王国はキラ家に大敗北を喫した経験がある。西部貴族の領地に手を出せばキラ家が援軍に駆け付けると言う事を示せば両国は動かないと思われる。その為にキラ家を西部貴族連合の盟主としたい。」
「「「・・・・。」」」
父さんも家族も黙っている。
まあ父さんはいつも聞かれた時以外に発言する事は無いけど。
自慢じゃないけどキラ家における俺と父さんの発言力は馬のエド以下。
家族会議で自分の意見を言った事など無い。
エドは嫁選びや厩舎改築の時に父さんに通訳させて発言したらしいから、発言力は俺達よりも上?
ひょっとして俺以外はみんな何かを知ってる?
エドも盟主について聞いているのかも知れない。
判らん。
「盟主になるにはある程度寄り子の数が必要だ。男爵に叙任した代官は既に相当数いるが、寄り子が男爵だけでは盟主となる資格は無い。キラ侯爵家は数々の功績を上げたので陛下より賜った子爵の叙任権が10に達している。この際、溜まっている叙任権を使って寄り子の子爵を10人増やそうと思う。」
“より子さん”って誰?
「「「・・・・。」」」
父さんも家族も黙ったまま。
「寄り子の子爵叙任なら王家への届け出と寄り親と寄り子の謁見だけだ。西部貴族にとっては今が正念場、何としてもこの危機を乗り越えねば多くの領民達が辛酸を舐める事となる。」
辺境伯が俺達を見た。
”シンさん”と言う人は舐めても美味しく無いらしい。
料理長の作った飴ちゃんは美味しいぞ。
「この危機に立ち向かうには寄り親としてのキラ家の力を急いで増す事が重要だ。キラ家の子供達の力はずば抜けている。SSランク冒険者の子供であり、ドウデル戦役功労者の妹弟という信用もある。その上全員が飛行魔法を使える。8人が子爵になれば西部貴族の団結力が高まるのは間違いない。領地経営は代官に任せて、孫達は今まで通り学業に専念していて良いから子爵となって欲しい。」
辺境伯がもう一度俺達を見回した。
えっ、俺達の話だったの?
驚いて周りの姉さん達を見回すが、誰も驚いては居ない。
知らなかったのは俺だけらしい。
姉さん達が判っているならそれでいい。
俺は姉さん達に言われた事をするのが役割、難しい事は姉さん達に任せれば良い。
「あなた達はどう思う?」
レイナ母さんが俺達に声を掛けた。
「難しい事は判らないからお母さん達に任せるわ。」
ブロン姉が答える。
「同じく井坂重蔵。」
チャー姉も答える。
「なんじゃそれ。」
アシュリーお祖父さんが首を傾げた。
「同じ意見の時はこう言うんだって父さんが教えてくれたの。」
皆が父さんを見る。
「えっと、・・・古文書で見つけた言い回し?」
父さんが目を逸らしながら答える。
「はぁ、まあいいわ。他の子達もそれでいい?」
姉さん達が頷いた。
俺?
自慢じゃ無いが、俺には姉さん達に逆らった事など無い。
俺は勇者では無い。
魔王に討伐されるのは嫌。
そもそも子爵が貴族だという事は知っているけど、だからどうなのかは良く判っていない。
判っていない事は姉さん達に任せれば問題無い。
俺達の子爵叙爵が決まった。
王家への届け出はすぐに済ませたが、叙爵披露は来年夏の長期休みにルナ姉の領都キラに西部貴族を集めて行う事になった。
王国法上では既に貴族になっているらしいが、俺の生活が変わった訳では無い。
学院内で俺達の子爵叙任を知っているのは万が一の事件が起こった時に俺達が貴族家当主であるという認識が必要な学長と学院幹部数人だけ、と姉さんが言っていた。
俺が子爵家の当主になった事が知られると嫁入り先を探している女学生達が押し寄せる危険があるかららしい。
女性に襲われるのは怖いので俺も絶対に言わない様にしようと思った。
学生達や教授達は俺達が貴族になった事は知らないので態度に変化はなく、平民と蔑む目も変わりなかった。
古代語の実習中に凄い本を見つけた。
“アッ、クマ!の辞典“という題名から魔獣の辞典かと思って読んだら古代語の単語の意味を解説した辞書だった。
研究室に有ったのは抜粋本だけど、最初のページに書かれた”膝“についての説明を読んでめっちゃビックリした。
“ひざとは女性に備わっている最も重要な器官で、主として役に立つのは男性の頭を乗せる時である”、と書かれていたのだ。
そうか、姉さん達の膝枕で心が落ち着いたり、考えがまとまるのは”膝“が最も重要な器官だからなんだと納得した。
“アッ、クマ!の辞典“は、難しい言葉を優しく解説してあるので面白かった。
先輩方が魔術関係の古文書を調べているので、俺が調べるのは魔術関係以外。
今迄読んだ事の無い本ばかりなので、毎回新しい発見があって古代語の実習時間は俺にとって楽しい時間になっている。
 




