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23 自分で洗うというのが寮の伝統

アイテムボックスからこっそり出した着替えを持って待っていたらフロントさん達がやって来た。

「早いな。」

「うん、楽しみだから急いだ。」

「そうか、風呂が好きなのか?」

「好きというのもあるけど、男の人と1緒に入るのは初めてだから。」

「男と1緒が初めてって、いつもは1人で入っているのか?」

「子供の時から姉さん達と1緒だよ。」

「流石に今はもう1人で入っているんだろ?」

「学院を卒業するまでは子供だから1緒に入るって姉さん達が言ってる。」

「・・・一応確認するけど、今でも姉さんと入っているという事か?」

「うん。」

「誰と入るんだ?」

「毎日2人ずつ交代? ルナ姉が順番を決めてるみたい。」

「という事は、今でも休みの日には姉さん達と一緒に入っているということか?」

「そうだよ。」

「「「・・・・。」」」

3人が驚いたような顔をしている。

どうして驚いているのかがさっぱり判らない。

「家では父さんも母さん達と一緒に入ってるよ。」

「閣下が奥方達と一緒にふろに入るのか?」

「父さんはおっぱいが好きだから。」

「「「おっぱい・・・。」」」

「ハリーも、・・その・・なんだ・・お、おっぱいが好きか?」

「別に何とも思わないかな。あっ、おっぱいで背中を洗って貰うのは柔らかくて気持ちいいかな。」

「おっぱいで、背中・・。」

オトブさんが鼻血を出してひっくり返った。



「治癒! 大丈夫?」

「ハリーは治癒魔法も使えるのか?」

イリスさんが驚いている。

「ポーションを作っているからうちの家族は全員が治癒魔法を使えるよ。」

「ポーションを作っているのか?」

「子供達はみんな魔力過多症だったから小さい頃から体内魔力を放出する為に魔力水やポーションを作らされたんだ。」

「全員がポーションを作れるのか?」

「うん、みんな上級薬師の資格を持ってる。」

「待て待て、12人も上級薬師が居る薬師工房なんてありえないぞ。」

イリスさんが驚いている。

「父さんと母さん達も上級薬師だから17人だよ。中級や初級の資格なら使用人達も結構持っているから薬師は沢山いるね。薬師の数は王都でも結構多い方らしい。」

「それは多い方っていうレベルじゃ無いぞ。」

「そうなの?」

「普通の薬師工房だと上級か中級薬師1人に初級薬師が2~3人だ。複数の上級薬師を抱えている工房は王家の魔術師工房が4人の上級魔術師を抱えているだけで、他には聞いた事が無いぞ。」

知らなかった。

キラ家の子供にとっては、寝る前の魔力水作成とポーション作成は魔力過多症対策として3~4歳から継続している当たり前の日課。

魔力過多症が改善された後も、ポーション作りは魔力量の増加と魔力操作の練度上げになるのでみんなが当たり前に続けているだけ。

魔力の練度が上がって、怪我人が減るなら一石二鳥程度の軽い認識。

おかげで俺達姉弟は全員が9歳までに上級薬師試験に合格している。

「これは父上から聞いた話だが、ミュール王国軍のポーションは殆どがキラ家で作られているらしい。」

フロントさんが声をひそめた。

「王国軍で使うポーションの殆ど?」

イリスさんが驚いている。

「格安で提供しているから、陛下もキラ家には何かと配慮しているらしい。」

「そうか、屋敷が広いのもそのせいか。」

オトブさんが頷いている。

ポーションを作ると屋敷が広くなるの?

ポーションは怪我も一瞬で直せるから屋敷に撒くと屋敷が大きくなる?

判らん。

魔法なら詳しいけど、政治やお金のことはまるで判らない。

そもそも必要な物は全て姉さん達が用意してくれるから、お金なんて使った事も無い。



「それよりもお風呂に入ろうよ。」

フロントさん達が話しに夢中になっているので早くお風呂に入りたいのに入れなかった。

「お、おう。着替えと脱いだ服はそこの篭に入れてこの棚に入れて置くんだ。」

「うん。」

服を脱ぐのも慣れた。

手拭いと石鹸を持って風呂場に入る。

湯舟はかなり小さくて4~5人がやっとという大きさ。

「狭いんだね。」

「ハリーの家はもっと広いのか?」

屋敷もキラの領館も風呂はもっと広い。

「う~ん、この倍位はあるかな。父さんがお風呂好きだからかも知れない。」

「何しているんだ?」

突っ立ったままの俺にイリスが怪訝そうに声を掛けて来た。

「えっと、どうすれば良いの?」

「いつもはどうしているんだ?」

「姉さん達がしてくれる。」

「・・・・、まずは体を洗え。」

「えっと、・・どうやって?」

「ハリーは姉さんに体を洗って貰うのか?」

「うん。」

「いつも?」

「うん。」

「自分で洗った事は?」

「無い。」

「「「・・・・。」」」

3人が顔を見合わせている。

いや、普通は洗って貰えるだろ。

「どうしたの?」

「姉さん達は自分で洗うんだろ?」

「うん。男は体を洗って貰うのが当たり前って姉さん達から聞いたよ。父さんも母さん達に洗って貰うって姉さん達が言ってた。」

男の体を洗うのは女の仕事だって姉さん達が言っていた。

「そんなこ・・」

「オトブは死にたいのか?」

「えっ?」

「ハリーがオトブに聞いた事をチャーやクーロに話すと言う事は充分もあり得るぞ。そうしたらどうなる?」

「あっ。」

フロントさんとオトブさんがゴニョゴニョ話してる。

「どしたの?」

「い、いや何でもない。そ、そう、姉さん達の言う通り、だな。」

オトブさんの目が泳いでいる。

「えっと、・・普通はそうなんだが、ここは男子寮だから男だけだ。・・女性に洗って貰う事は出来ない。」

「あっ、そうか。全然気付かなかった。こんな時はどうしたらいいの?」

「おう、ここでは自分の体は自分で洗う。これが・・寮の伝統、そう、伝統だ。」

「そうなんだ。」

「伝統だから、先輩である俺達が教えてやる。」

先輩達が石鹸の付け方や洗い方を教えてくれた。

自分で洗うのは結構めんどくさいと判った。

風呂は気持ち良いけど、屋敷に戻った時だけで十分。

普段は“全身浄化”で済ませることにした。


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