6 鳥さんを拾った
読んで頂きありがとうございます。
これからも隔日投稿を頑張ります。
少しでも多くの方に楽しんで頂ければ幸いです。
色々あったがいつも通りの日常は殆ど変わらない。
変わったのは、鳥さんを狩るのが少し増えたくらい。
顔見知りの人に喜んで貰えるのは嬉しい。
今日もいつものように草原の奥で新魔法の練習をしながら薬草採り。
突然、探知魔法に大きな魔獣の急接近が映った。
森の方角を見るとめっちゃ大きな鳥さんがこちらに向かって飛んでいる。
たかが鳥さんとは言え、あんなに大きな鳥さんが街に入ったら大騒ぎになる。
騎士も冒険者も空を飛ぶ魔獣には弱いと冒険者のおっちゃん達が言っていた。
街に入る前に森に追い返した方が良い?
俺を無視して上空に差し掛かった大きな鳥さんに気弾10発を撃つ。
遠すぎて1発も当たらなかったけど、気弾の魔力に気付いたのか鳥さんがこちらへとコースを変えた。
もう一度気弾10発を発射。
今度は2発当たったが距離が遠いのと威力が低いせいで、鳥さんに傷を負わせることは出来ていない。
もっと気弾の威力を上げないと駄目だな。
ギャウ~!
反省していたら、鳥さんが怒りの声を上げながら俺に向かって突っ込んで来た。
鳥さんがどんどんと大きくなって来る。
これで森に帰ってくれたらいいな、そんな思いを乗せて新魔法に魔力を込める。
“カウンターバリア”
空中に張った光魔法のバリアを押し込むように大きな鳥さんへとぶつけた。
ドゴーン!!
大きな鳥さんが地上に落ちた。
うん、落ちた。
バリアで追い返そうとしただけなのに、大きな鳥さんがバリアに突っ込んで自爆?
油断は出来ない、剣を抜いて慎重に大きな鳥さんに近づく。
魔獣は死んだように見せて最後の1撃を放つと教わった事がある。
探知魔法の魔力を増やして精度を上げるが反応は無い。
只の屍のようだ。
死体を調べると首の骨が砕けていた。
解体の仕方が判らないのでとりあえずアイテムボックスに収納。
新魔法カウンターバリアが上手く使えたので俺はニコニコ。
感覚が残っているうちにタイミングをしっかりと体に覚え込ませたい。
小さな鳥さん相手に何度もカウンターバリアを発動してイメージを固める。
最初の鳥さんは大きかったから上手く当たったが、小さな鳥さん相手だと逃げられてしまう事が多い。
ぐぬぬ。
もっと練習しようと思った。
ともあれ新魔法が使えるようになったのでテンションが爆上がり、スキップしながら笑顔で町に戻った。
「キラちゃん、ちょっといいかしら?」
いつものように草原に出掛け、いつものように素材を納品しようと冒険者ギルドに行ったらカウンターのお姉さんに声を掛けられた。
「うん。」
「昨日のお昼過ぎに街に向かって飛んでいるワイバーンの目撃情報が入ったの。」
“街に向かって飛んでいる”?
何となく嫌な予感がする。
「はあ。」
「そのワイバーンはキラちゃんが良く行く草原に向かったらしいの。」
「ソウデスカ。」
「そこで急に目撃情報が無くなったからギルドが調査隊を出したんだけど、ワイバーンの姿は無くて、大きな魔獣が墜落したような跡があったの。」
「はあ。」
「キラちゃんは昨日も草原で薬草取りをしていたわよね。」
「はあ。」
「ワイバーンを見た?」
「えっと、ワイバーンかは知らないけど、大きな鳥さんなら見た。」
「そうなの、それで?」
「・・森に追い返そうとした?」
「それで?」
「えっと、落ちた?」
「そのワイバーンはどうしたの?」
「魔法袋。」
「裏の解体場に来て。」
お姉さんに引き摺られてギルド裏の解体場に行った。
「出して。」
魔法袋から出す振りをしてアイテムボックスから出した。
「解体はギルドに任せて貰って良い?」
「うん。」
「皆さん解体をお願いね。」
「「「おう。」」」
「キラちゃんはこっちよ。」
またまたお姉さんに引き摺られて2階にあるギルマスの部屋に連れて行かれる。
ソファーに座らされると、目の前の椅子にギルマスがドカリと腰を降ろした。
「何で呼ばれたか判るな?」
「鳥さんを拾った?」
「鳥じゃねえ、ワイバーンだ。最下級とはいえ立派な竜種、ドラゴンだぞドラゴン。」
「はあ。」
「どうやって倒した。“冒険者の秘匿”が効くのは王族や貴族相手の時だけだ。ギルドの調査には協力して貰うぞ。」
ギルマスには“冒険者の秘匿”が効かないらしい。
「えっと、勝手に落ちた?」
「何だと?」
ギルマスが眼を吊り上げているので詳しく説明する羽目になった。
俺の説明が悪いのか、ギルマスから何度も確認されてほとほと疲れた。
前世のコミュ障は今世でも健在らしい。
「で、そのバリアという奴をワイバーンにぶつけたら首の骨が折れて落ちて来たという事か?」
「うん。」
「全く、何て奴だ。」
そこへメモを持ったギルド職員が入って来た。
メモを見たギルマスがジロリと俺を睨む。
「ワイバーンの血が大量に採取出来たそうだ。」
「ハイ?」
意味が判らない。
どゆこと?
「つまりたった今倒したような状態だという報告だ。」
「はあ。」
「ワイバーンを倒したのは昨日の夕方だな。」
「うん。」
「魔法袋でも時間は経過する。たった今倒した状態という事はあり得ない、判るな。」
アイテムボックスがバレたらしい。
「・・・・」
「アイテムボックスはどうやって手に入れた?」
「えっと、・・・魔法袋作ってたら、出来ちゃった?」
「魔法袋もキラが作ったのか?」
「師匠の資料と素材。3年位掛かった。」
「師匠?」
「俺のお祖母さん?」
「先代の伯爵夫人か?」
ギルマスは俺が伯爵家の者だと知っているらしい。
「うん。」
「大賢者様の遺された資料と素材か。それなら魔法袋は納得できるが、アイテムボックスが出来ちゃったって何だよ。アイテムボックスなんて出来ちゃうものじゃねえだろ。」
そんな事を言っても出来ちゃったものはしょうがないじゃん。
それよりもお祖母さんって大賢者なの?
そこを詳しく聞きたかったがそんな雰囲気では無かった。
「・・・・」
「ともかくアイテムボックスについては絶対に秘密にしろ。国や貴族に知られたら隷属魔法を掛けられて一生飼い殺しにされるぞ。」
「は、はいっ。」
ヤバい、めっちゃヤバい。
ヤバいとは思っていたけど、俺の想像以上にヤバいらしい。
「公式にはCランク冒険者のキラがワイバーンを単独で討伐し、Bランクに昇格した。これで行く、いいな。」
「えっと、俺・Eランク。」
「Eランク冒険者がワイバーンを討伐できる筈が無い。昨日のキラは急激に力を付けてCランクになった冒険者、それでいいな。」
「はあ。」
前世から押しに弱いのが俺の欠点。
お陰で上司だけでなく同僚達にも仕事を押し付けられて過労死した。
今世では頑張ろうと思っていたけど押しに弱いのは変わっていなかったようだ。
公式にはポーション納入でDランクとなり、赤い稲妻救出の功績でCランクとなった冒険者ということになった。
本来それくらいの功績らしいが年齢の事と伯爵家から匿っているという事情からギルマスが独断でEランクに据え置いてくれていたそうなのでギルマスには一応感謝?
今回の事もヒルナキラ=ソランダではなく冒険者キラとして処置してくれる事となった。
弟の謁見の儀が無事に終わり、伯爵家から俺を除籍する書類が出ていたので都合が良かったらしい。
俺はヒルナキラ=ソランダから正式に冒険者のキラになった。
Bランクに昇格したり貴族籍が無くなったりしたが俺の日常が変わった訳では無い。
ただ、森に入る事が多くなった。
草原は低ランク冒険者の狩場なのでBランク冒険者が荒らすのは良くないらしい。
俺としても鳥型魔獣の多い森はカウンターバリアの練習に丁度良いので問題無い。
鳥を見つけると飛行コースに小さなバリアを展開して鳥を押し戻すように素早く動かす。
小さな鳥は動きも早いし木々の間を飛ぶのでバリアを展開できるスペースも小さい。
ピンポイントでバリアを張って急加速で動かすには繊細な魔力の制御が必要。
その上森の中には魔獣もいる。探知魔法を展開しながら魔獣にも気弾を放つ。
森の中は障害物が多いので魔獣への直線的な攻撃コースは取りづらく追尾ミサイルのように気弾のコースを変える必要がある。
鳥と魔獣、同時に幾つもの魔法を発動させながらそれぞれに必要な魔力量を瞬時に判断して発動させていく。
俺の好きなパズルを解くように頭をフル回転させて魔法操作に集中している瞬間は何よりも楽しい時間。
中級ポーションの素材を探しながら魔法の訓練をする日々が続いた。
1年近く続いた辺境伯領による中級ポーション特需は終わったが、獲れる魔獣素材が高価なものになったので俺の収入自体は増えてる?
薬師ギルドも冒険者ギルドも報酬はギルド口座への振り込みなので判らん。
今まで通りに宿泊費も無料だし、母さんの実家であるストラブ商会からお小遣いも貰えているので口座から引き出した事は無い。
そう言えば買い物自体したことが無いからお小遣いは全部金袋に残っている。
当分は焦らずにのんびりと新魔法の開発を続けて行けばいいか。
難しい事は考えない事にした。
「キラちゃん、治癒魔法行ける?」
カウンターのお姉さんから治癒魔法の依頼があった。
例によって銀貨1枚の依頼。誰かが怪我をしたらしい。
「うん。」
「良かった。二人いるの、一人は腹を牙で刺された深い傷だから銀貨2枚、もう一人は太腿を爪で抉られた傷だけど浅いから銀貨1枚ね。」
「うん。」
お姉さんに連れられてギルドの治療所に入ると数人の冒険者がいた。
怪我をした冒険者のパーティーらしい。
お姉さんと一緒に腹に布を巻いた男の所に向かった。
「こら、こっちが先だ。」
「重傷者、先。」
「あっちはDランク、俺達はCランクのパーティーだ。こっちが先に決まっている。」
「ランク、関係無い。」
「ガキが偉そうに言うんじゃねえ。冒険者は実力社会、ランクが上の人間が正しいんだよ。」
おっさんはCランクらしい。俺はBランクなんだけど。
「そうなの?」
お姉さんに聞いてみる。
ギルドのお姉さんやいつの間にか集まって来た冒険者のおっちゃん達がやれやれと言った風に肩を竦める。
「当り前だ。さっさとこっちの治療をしろ。」
男が俺の腕を掴んで捩じ上げようとする。
とっさに体を開いて相手の手首を持って投げ飛ばした。
伯爵家の騎士団長に教えて貰った体術の技。
「ふざけんな。ガキだと思って甘くしたら付け上がりやがって。」
起き上がった男が背の低い俺の顔に向けて拳を振り下ろした。
“カウンターバリア”
ゴギッ!
骨が折れる嫌な音がした。
鉄の壁よりも硬いバリアを素手で思い切り殴ったらまあそうなるな。
おっさんの動きが遅すぎてカウンターが上手く決まらなかった、反省。
お姉さんや冒険者達がクスクス笑っている。
「ぃてぇ。てめえ何しやがった。」
「立ってただけ。」
周りの冒険者やギルド職員を見渡すと冒険者もギルドのお姉さんも笑いながら首を縦に振ってくれている。
「ともかく治療は重傷者が先です。」
お姉さんが助け舟を出してくれた。
「うん、こっちの人、先。」
奥で寝ている男の所に行って、腹にそっと掌を乗せて魔力を放つ。
“CTスキャン”
前世知識のイメージを元に探知魔法を改良した内部診断魔法。
ここで治癒魔法の練習が沢山出来たので、色々な症状に対応出来る診察法が開発出来た。
傷はかなり深く肝臓まで傷付いている。
”浄化“
傷の周辺や内部の消毒と土や異物を排除する魔法。
表面だけ治療しても内部から化膿する場合もあるから傷を塞ぐ前に傷の奥を消毒する事が大事。
“治癒”
今度は傷を治す魔法。
元の形をイメージしながら奥から表面に向かって治癒していく。
奥から表面に向かって丁寧に治して行くと表面に傷が残り難い。
急ぎの場合は仕方が無いが、時間があるときにはなるべく丁寧に治すように心がけている。
“CTスキャン”
もう一度見落としが無いかを確認する。以前再確認で傷の付近に腫瘍を見つけた時もあった。
その時は攻撃魔法として練習中だったレーザービームを極細く短くして腹の中に出し、腫瘍を切り取って短距離転移で取り出した。
あの時の治療がきっかけで超高熱レーザーの感覚が判って攻撃魔法としての目途が立った。
患者には失礼だが、ギルドの治療室は新しい魔法のヒントをくれる楽しい場所でもある。
「一応治った。出血多かった、暫く安静。」
「ありがとうございました。」
もう一人の怪我人の所に行く。
“治癒”
「終わった。」
「ふざけんな。あっちの兄ちゃんみたいにちゃんと治せ。」
「あっち、銀貨2枚。こっち、1枚。」
「俺の傷も治せ。」
さっき殴り掛かってきたおっさんが迫って来る。
「教会、行って。引き受けたのは2人だけ。」
「ふざけんな。お前が怪我をさせたんだぞ。」
「知らん。」
「俺はCランクだぞ。」
「俺、Bランク、多分Cランクより上? 文句ある?」
唖然とするおっさんを無視し、ギルドのお姉さんに肩を竦めて治療室を後にした。
ストンには気の良いおっちゃんや優しいお姉さんが多いけど、中にはバカもいる。
Bランクはストンならトップクラス、見た目だけで突っ掛かってきた奴にはBランクの実力を見せつけろとギルマスから言われている。
困るのは冒険者が俺に絡むと直ぐに見物人が集まる事。
ギルドの娯楽になっているらしい。
俺は大道芸人か?
何時もの様にギルドに入ったとたん、肌にチリチリとした痛みを感じた。
横に目をやった時には振り上げられた剣が俺に向かって振り下ろされていた。
“カウンターバリア”
ゴキィ!
カラン。
男の手首から嫌な音が響き、剣が床に転がった。
「ぃてぇ~っ!」
「はぁ。」
溜息しか出ない。
3日ほど前に俺に殴り掛かった男だった。
不意打ちなら俺を倒せると思ったらしい。
創造神様のお陰で、殺気が近づくと肌にチリチリとした痛みを感じるのですぐに判る。
「どしたらいい?」
カウンターのお姉さんに聞いた。
「永久追放と罰金ですね。」
「俺は?」
「見ていた人が多いから何の問題もないわ。」
冒険者のおっちゃん達もうんうんと頷いている。
男はギルド職員にどこかに連れられて行った。
予定は未定にして決定にあらず。
のんびり楽しもうと思っていたら変なおっさんの暴力事件。
それが終わったと思ったらギルドから護衛依頼を引き受けるように要請された。
要請という形だけど事実上の命令。
Bランクには護衛依頼の達成と対人戦闘の実績が必要らしい。
護衛依頼は最低でも4~5人、多い時は10人以上の冒険者によって達成される依頼。
ソロでしか活動した事の無い俺にとっては未知の世界。
前世でもコミュ障気味で人づきあいが苦手だった俺にとっては嫌な予感しかしない。
「Cランクに戻せる?」
一応ギルマスに聞いてはみたが鼻で笑われた。
南東にあるドラン侯爵領の領都まで片道1週間、馬車5台の商隊護衛。
伯爵領の領都からこの街まで5人のパーティーで護衛してきたが、この先は盗賊が多く危険という事で3人の冒険者が追加される事になったらしい。
「Cランクパーティー神速の翼、リーダーのジャム、斥候だ。」
神速の翼、何故かパーティー名って厨二病ポイよな。流行なの?
「剣士のペースト。」
「盾役のバター。」
「魔法使いで弓のマーマレードよ。」
「治癒師のトースト。」
朝食かよ。
「Cランク剣士のズルー。」
「Cランク剣士のワルダー。」
「Bランク剣士のキラ。」
「「「「Bランク?」」」」
皆が一斉に声を上げて俺の顔を見る。
「なり立て。護衛依頼は初めて、宜しく・です。」
「失礼だがエルフか小人族ですか?」
「一応人間? もう少しで9歳。」
「待て待て、もう少しで9歳という事は8歳か?」
「8歳って冒険者になったばかりだろ。何でBランクなんだ?」
「えっと、ポーション作って、怪我を治して、ワイバーンを拾った?」
「ポーションと治癒は判るがワイバーンを拾ったって何だ?」
「落ちて来たから拾った。ギルドにバレて怒られた。後は冒険者の秘匿?」
「「「なんじゃそれ!」」」
詳しい説明はギルマスに言われた通り冒険者の秘匿で押し通した。
商隊が出発した。
距離が長いので護衛も馬車に同乗させて貰っている。
先頭の御者席にリーダーのジャムさん。他の4台の御者席におっさんが一人ずつ。
女性二人は馬車の中で俺は真ん中の馬車の屋根の上。
昼は水場で馬の休憩。人間の食事は無し。
夕方になると街道横にある草原に馬車を集めその近くで夕食となった。
良く判らない野菜?と豆と干し肉が入った煮込みに硬い黒パン。
食事は商隊で用意してくれるが正直美味しくない。
夜は交代で見張り。
8人なので、二人1組の3交代で1組は休み。
俺は魔法使いのマーマレードさんと一緒。
マーマレードさんも口下手らしく話が弾まない。
時々立ち上がって馬車の見回り。
探知魔法は常時発動なので見回らなくても問題は無いが、一応役目なので見て回る。
3時間で次の組と交代。
朝は毎回堅い黒パンに干し肉と白湯。
話には聞いていたが実際に食べると堅いし不味い。
翌日は夕方小さな町に入って広場で野営。
3日目の昼過ぎ、探知魔法に反応があった。
俯瞰魔法を発動。
俺のオリジナル新魔法で、視点を宙に飛ばして空から偵察する空間魔法。
イメージは前世のドローン。
高さや方向を自在に変える事が出来るので色々と便利に使える。
「後方から馬に乗った盗賊らしき者11名が追いかけて来ます。前方600mの街道左横の林に14名の盗賊らしき者が隠れています。」
風魔法の改良版である拡声魔法で商隊全員に伝えた。
「止まれ~! 街道横で防御陣!」
ジャムさんの声が響く。
俺が馬車の屋根から飛び降りるとジャムさんが駆け寄って来た。
「何で判った?」
「Bランクですから。」
言っている間に後方から馬が走って来る。
商隊が止った為に林の中の男達も馬に飛び乗ってこちらに向けて走り出している。
「無理だ。敵の数が多すぎる、降参しよう。」
「そうだ。降参すれば冒険者には手出ししない筈だ。」
降参を主張したのはズルーとワルダー。
「数は多いが所詮はごろつき。Cランク7人とBランクなら負ける事は無い。」
「この街道の盗賊は冒険者を逃がして商人は皆殺しと聞いている。降参は出来ないわ。」
「俺も降参は嫌だな。馴染みの商隊だからな。」
護衛の意見が纏まらないうちに馬車が取り囲まれた。
「戦うぞ!」
ジャムの声で全員が武器を構える。
「死ね!」
ジャムさんの背中に剣を振り下ろしたのはズルー。
バターさんの背中に剣を振り下ろしたのはワルダー。
”バリア“ ”バリア“
ガン!
ガン!
2人の剣をバリアで弾く。
「ジャムさん、ズルーとワルダーは盗賊の一味です。」
「今頃気付いても遅い。」
ズルーが叫びながらもう一度ジャムさんに切り付ける。
ジャムさんもバターさんも今度は危なげなくスルーとワルダーの剣を撥ね退ける。
“気弾10発”
“気弾10発”
“気弾10発”
周囲にいる盗賊に気弾をばら撒く。
盗賊に当たらなくても馬に当たれば良いというばら撒き弾。
盗族の悲鳴と馬の嘶きであたりが騒然となった。
“気弾” “気弾” “気弾” “気弾” “気弾” “気弾” “気弾” “気弾”
“気弾” “気弾” “気弾” “気弾” “気弾” “気弾” “気弾” “気弾”
無詠唱ならではの“気弾”の連発。
毎秒8発の高速射撃は訓練の賜物。
こちらは1発1発の精度が高いし軌道のコントロールも出来る。
気弾のばら撒きを逃れた盗賊を直実に仕留めて行く。
ズルーとワルダー、盗賊の頭と補佐らしき男は足を撃ち抜き他は狙い易い胴体。
少し離れた所にいた偵察役らしい二人も倒し、1分掛からずに盗賊は全滅した。
”治癒“
ズルーとワルダー、盗賊の頭と補佐らしき男に治癒魔法を掛けた。
4人共片足又は両足を気弾で吹き飛ばされていて、出血が激しいので血止めをしないと死んでしまいそうだった。
裏切り者を治癒したくは無いが、ギルマスから頭目達はなるべく生け捕りにして欲しいと頼まれていたから仕方が無い。
「まあ、なんというか、・助かった。」
ジャムさんは呆れ顔。
「キラは本当にBランクなんだ。」
トーストさんは疑っていたらしい。
「お見事でした。ギルマスが絶対に大丈夫だからと推薦してくれただけのことはあります。本当に感謝します。」
商隊の隊長を務める商人さんが頭を下げている。
「しかしめちゃめちゃな魔法だな。」
「私も驚いたわ。25人を一瞬で殲滅なんて未だに信じられないわ。」
「27人だ。二人の裏切り者もいたからな。」
ジャムさんがワルダー達を睨みつける。
「二人の剣を防いでくれたのもキラちゃんでしょ。凄い、本当に凄いわ。」
マーマレードさんにガバッと抱きしめられる。
「ムギュッゥ。」
顔がマーマレードさんの胸に埋まって息が出来ない。
背中を叩いて離して貰おうとするが全然離してくれない。
「おいおいキラが死に掛けているぞ。」
ジャムさんがマーマレードさんを引き剥がしてくれたので漸く息が出来た。
「はあ、はあ。」
本気で死に掛けた。
安心して気を抜いたのが良く無かった。
油断はダメ、絶対。
ペーストさんが通報する為に盗賊の馬で近くの街に走り、残った俺達は死体の始末や盗賊の尋問、片付けに追われた。