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16 甘い言葉には気を付けろ

お昼休みは食堂の隅で黙々と食事を摂る。

最初は寂しかったけど、一人だと色々な魔法の練習をしながら自分のペースで食事を摂れる事に気が付いたので今は寂しさもマシ。

少し離れた所ではテン姉が1組の女の子二人と食事をしている。

女性の多い魔法科とは違って、貴族科の1組には女性が3人しかいない。

貴族科は領地経営など領主や官吏として役立つ科目が多いだけでなく、将来領主となった時の人脈づくりの為に選ばれる事が多いらしい。

女性が領主になる事が殆ど無いミュール王国では、女性が人脈づくりをする必要は無く、内政に生かせる魔法を学ぶためや王国魔術師を目指す為に魔法科を選ぶらしい。

テン姉と一緒にいるのは大きな商会の次女に大きな工房の長女。

女の子が2人だけなので自己紹介を覚えていた。

3人共平民なので話が合って友達に成ったらしい。

学院の女性は怖いと聞いていたので、テン姉が1組に2人しかいない女生徒と友人になってくれたのは嬉しかった。

おかげで1組といる時は女生徒に襲われる危険が減った。



午後の授業は選択科目の植物学。

最初の授業という事で学院の植物園を見学させてくれた。

見た事の無い植物が一杯。

きちんと区分けして名札が付いているので判り易い。

特徴や役立つ効能、生育法などはこれからの授業で教えてくれるらしい。

驚いたのは大温室。

キラ家の王都邸にも大きな温室があるけど、学院の温室はスケールが違う。

屋根がめっちゃ高いので大きな木も沢山ある。

温室の中には甘い香りが充満していた。

「甘い香りで獲物をおびき寄せる魔獣も多いが、ここの香りには害が無いので安心しろ。」

姉さんにも甘い香りは罠だから、女性の甘い言葉には気を付けろと聞いた事がある。

古代語では”ハニートランプ”と言うらしく、受け入れがたい無茶な要求をして来て、要求を断るととんでもなく恐ろしい攻撃を仕掛けてくるという意味らしい。

女性の様に危険な植物、めっちゃ怖い。

温室に続いて薬草園の見学。

「ここには一般的なポーションに使う薬草だけでなく、特殊なポーションに使われる希少な薬草もある。」

辺りを見回すと、希少な薬草らしく可愛らしい小さな薬草が沢山ある。

あれ?

小さいだけでどれも家の薬草園にある気がする。

大きさは全然違うけど見覚えのある薬草ばかり。

「あの大きなのも希少な薬草ですか?」

学生の1人が薬草園の1画に繁っている、草丈が腰程まである薬草を指しながら質問した。

俺も大きな薬草に目を向ける。

あれ?

うちの薬草園にある薬草だ。

「あの1画にあるのは極普通の薬草だが、特殊な栽培法を用いているので非常に大きく育っている。大きい上に高濃度の薬効成分が含まれているので、あの薬草を使うと高品質なポーションを大量に作る事が出来る。」

「凄いですね。特殊な栽培法ってどうするのですか?」

「横に大きな甕が沢山並んでいるだろ。毎日あの大きな甕1つ分の魔力水を撒くとあのように大きく薬効の高い薬草となる。」

「あの大きな甕1つ分の魔力水・・・。」

「おい、それって凄いのか?」

言葉に詰まった学生の隣にいた学生が小声で聞いている。

「腕の良い上級薬師でもあの甕1つ分の魔力水を作るのは無理だ。」

「そこの君、君はなかなか勉強しているようだな。」

教授が嬉しそうに学生を褒めた。

「一応初級薬師の資格を持っております。」

学生が胸を張った。

初級薬師って偉いの?

うちの使用人達には中級や初級薬師の資格を持っている者が結構いる。

判らん。

「今この学生が言った通り、魔力水を作るには多大な魔力と精緻な魔力操作が必要で毎日大量の高純度魔力水を作るのは難しい。今は私の特別な伝手で手に入れている魔力水で育成実験をしている。そのデーターを基に魔力水以外の肥料や魔道具でも育成出来ないかの研究中だ。諸君もどこかでこのように大きく育った薬草を見付けたら是非私に教えて欲しい。土壌や環境を調査する事で研究が進むかもしれぬからな。」

えっと、多分教授の言っていた伝手ってリラ姉とクーロ姉。

時々王都屋敷に戻った時、姉さん達が学院で良いアルバイトを見つけたって言っていた。

魔力水は日持ちするので月に1回作れば十分。

姉さん達は水属性だから水汲みをしなくていいし、あの程度の量ならすぐに作れる。

家の薬草園が普通とは違う事が判っただけでも良い勉強になった。



週5日目最初の授業は研究科目の錬金学Ⅰ。

父さんが錬金は面白いと言っていたので錬金学を選んだ。

錬金学も研究科目なので2時間連続。

「錬金Ⅰの授業では二つ以上の素材を混ぜて性質の違う素材を作る作業を行う。混ぜる際には高温で素材を溶かす場合が多く、危険を伴うのでくれぐれも注意を怠らないように。」

王都屋敷にも錬金釜があるが、素材の混ぜ方を知らないので使った事が無い。

教授が説明しながら金属を融かして合金を作って学生達に見せてくれた。

「素材によって融ける温度が違うので全部の素材がきちんと融けているかを確認する事が大切だ。昔は魔力反応を見るか職人的な勘で見分けるしか無かったが今では高温用の温度計がある。基本的な溶ける温度は一覧表を見れば判るので確認してから実験をする事。熱し過ぎると冷ました時、製品に罅が入ったり脆くなるなど品質が低下するので温度の上げ過ぎにも注意しなさい。」

色々な素材を使って性質がどう変わったかを確認するのが錬金学の研究課題らしい。

良い素材が出来れば、魔力成形で色々な物が作れそうな気がしてワクワクしてくる。

周りは上級生ばかりなので皆背が高くて錬金釜を覗き込み難いけど、先輩たちの隙間から何とか見えそうだった。

父さんは鉱石を混ぜ合わせて軽い金属や錆びにくい金属を作っているが、錬金学で学んだ知識を使っているのだろう。

金属が溶ける温度を把握して溶かす事が大切らしいので1覧表を覚える事から始めた。



週5日目、午後の授業は必修科目の魔獣学。

初日は入学式だったので今週の授業は4日間。

明日から2日は週末のお休み。

お休みと言っても学院の授業が無いだけで、俺は黒い森で魔獣の討伐だし、他の学生達もきっと何かのお仕事や訓練をするのだろう。

「この科目は、王都北にある黒い森の脅威を忘れぬようにという事で始まった学院の伝統科目である。必修科目なのは、学院が冒険者活動を推奨しているからだ。」

授業の初めに教授が魔獣学の設置されている理由を説明してくれた。

学院が冒険者活動を推奨しているとは知らなかった。

という事は週末のお休みには他の学生も黒い森に行くのかも知れない。

討伐ポイントが混んだら嫌だなって思った。

「ミュール王国は黒い森の魔獣を抑え込み、魔獣素材として活用した事で大国へと発展出来た。今は落ち着いているが、黒い森は数十年に1度魔獣の氾濫を起こすと言われている。王都ミュールは黒い森の氾濫を防ぐ為の砦であり、王国の貴族は魔獣の氾濫が起った時にはすぐに領軍を率いて王都に入り魔獣と戦う義務を負っている。初代国王はこの貴族が緊急時に王都に馳せ参じる義務を“いざ、ナマクラ”と名付けた。」

教授が話を切って学生達を見回す。

「知ってたか?」

「いや、知らなかった。」

俺の耳に囁き交わす学生の声が聞こえる。

貴族の子弟が多いのに知らなかった学生ばかりのようだ。

「第5代の国王は魔獣への危機感が緩んで来た貴族を引き締める為、訓練として“いざ、ナマクラ”を発令した。殆どの貴族があたふたと武器や装備を手配している時、日頃から“いざ、ナマクラ”に備えて準備を怠らず、発令を聞いてすぐさま駆け付けた没落貴族を褒め称え、新たに領地を与えたと伝えられている。」

“ナマクラ“が何かは判らないけど、何となく勇ましい感じでカッコイイ。

“いざ、ナマクラ!”って大声で叫んでみたい気持ちになった。

「王国貴族はいつ起こるか判らない黒い森の氾濫に備えておかねばならない。その為の実践経験を積むのがこの魔獣学の目的である。」

学院が冒険者活動を推奨している理由が判った。


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