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12 心当たりが多すぎてどれの事か判らない

「ハリー、学院には学院のルールというものがある。・・・」

警備隊長の説教が始まった。

”こごと聞くときゃこうべを下げろ、下げりゃこごとが上を超す“、父さんに教えて貰った小言対処法に従って頭を下げ、”馬の耳にネンネンコロリ“を発動して小言をやり過ごす。

頭を下げていたので説教の直撃は避けられたけど、2時間近くも硬い椅子に座らされていたので姉さんの膝枕が恋しくなる。

ちょっと疲れて頭を上げたら警備隊長の小言が俺の胸を直撃した。

「うぐっ。」

警備詰め所に入ってからはバリア服を解除していたので、もろに喰らって思わず声が出た。

衝撃で前屈みになったおかげで、小言が再び頭を超えるようになる。

流石は警備隊長、小言の威力も半端じゃ無かった。

どうやら、林を切り開かなくても正門から寮へは石畳の道があるらしい。

そういえば昨日の夕方姉さん達と曲がりくねった道を歩いた覚えがある。

木を爆散させながら走るのはダメらしく、次からは石畳の道を走る事を約束させられた。

学院を探検するつもりが寮から正門迄真っ直ぐに走っただけ。

初めての探検は僅か5分弱、警備隊の詰め所で叱られていたのは2時間。

唯の怒られ損だった。

ぐぬぬ。

今回の経験で、真っ直ぐ進むのは思っていた以上に難しいと判った。

もっと実力を付けなければ自分の道を進めない事を思い知った。



週明け3日目、昨日同様に馬場で愛馬を運動させて厩舎でブラッシング。

「ハリー、早速やらかしたんだって?」

ルナ姉が声を掛けて来た。

「えっと・・、な・ん・の・こ・とかな?」

礼儀作法の授業で王子を怒鳴りつけた事?

槍術の授業で王子を殺し損ねた事?

学院の林を爆散させて警備隊長さんに怒られた事?

昨日だけでも心当たりが多すぎてどれの事か判らない。

「その言い方は1つじゃないわね。全部吐きなさい。」

「・・・はい。」

姉さん達に隠し事をしても無駄。

後でバレた時の方が怖いので素直に全部話した。

上の姉さん達と中の姉さん達は大笑い。

「第1王子が我儘な大バカだと言う事は聞いていたけど、息子も相当なバカね。」

「王国の未来は暗いね。」

下の姉さん達にはちょっと呆れられた。

ルナ姉さんが知っていたのは警備員から生徒会に通知された林の爆散だけだったそうだ。

ぐぬぬ。



話を逸らそうと、昨日政治学で教わった“公特”の話をした。

「教授は東部の石頭貴族ね。」

「伝統貴族って人族至上主義の能無し腐れ貴族の事よ。」

さっきまで機嫌よく大笑いしていた姉さん達が教授をめちゃめちゃ貶し始める。

「“公特”の初代指揮官は父さん、父さんの次の隊長はキラ家の家宰をしているアウトマン。キラ家の重臣は殆どが元“公特”の隊員よ。」

全然知らなかったのでビックリ。

テン姉も驚いているから知らなかったらしい。

「父さん達は殿にのさばっていた腐敗貴族や無能貴族を追放して、能力の有る者を身分に拘わらず登用出来るようにしたの。」

「潰されたのは父さんを暗殺しようとしたか、横領や不正で処罰された家よ。不正をしていた貴族達の家から毎日のように暗殺者が送られて来たんだって。」

「特に利権の大きい財務殿・総務殿・軍務殿は賄賂が飛び交っていて酷かったらしいわ。」

「家族やアウトマン達の事位はちゃんと知っていなくちゃダメよ。」

教授の話をしただけなのに、上の姉さん達に凄い勢いでめっちゃ怒られた。

俺の失敗は笑って聞いていたのに父さんや“公特”の悪口は許せないらしい。

中の姉さん達も怒っているけど、下の姉3人はキョトンとしている。

俺と同様にナイ姉達も父さんや公特の事は知らなかったらしい。

「ごめんなさい。」

姉さん達が怒っている時はとりあえず謝るのが定番。

いつものように謝った。

「何でハリーが謝るのよ。」

「ハリーは魔法バカだけど、バカでも父さんや“公特”の業績位は覚えて置きなさい。」

また怒られた。

ぐぬぬ。

「魔法バカのハリ―はともかく、ナイ達はハリーのお目付け役なんだからもっとしっかりしなくちゃダメよ。」

矛先がナイ姉達に向いたので俺は許されたらしい。

“やった~!”

「何喜んでいるのよ。魔法バカでも家族の事位は勉強しておきなさい。」

心の中で喜んだつもりだったのに口に出ていたらしくてまた怒られた。

「いい、父さんは10歳で公正化特務部隊の将軍に任命されて、アウトマン達を率いて不正貴族達を摘発したの。10歳でよ、10歳。ハリーは何歳?」

一瞬“俺の歳を知らないのか“と聞き返そうとして踏みとどまった。

ルナ姉が俺の歳を知らない筈が無い。

聞き返したら“屁におなら”で大爆発することは必至。

「・・・12歳。」

俺は経験から学べる12歳だ。

「父さんは10歳であの恐ろしいアウトマン達を指揮したのよ。」

「私達はドウデル戦役で敵兵を皆殺しにした時、アウトマンに鬼の形相でめちゃめちゃ怒られたんだから。」

「そう、レイナ母さんと一緒に正座よ、正座。アウトマンを甘く見ちゃダメ。」

「すっごく怖くてちびりそうだったんだからね。」

レイナ母さんや上の姉さん達を正座させて怒る?

アウトマンって本当に人族なのか?

いつも優しいアウトマンは怒るとめっちゃ怖いらしい。

絶対にアウトマンを怒らせない様にしようと心に誓った。

「ナイ達はもう12歳なんだから少しは父さんを見習いなさい。」

父さんを見習ったら怠け者になりそうな気がしたけど、賢い俺は黙っていた。

今何か言ったら絶対にヤバい。

何度も言うが、俺は経験から学べる12歳だ。



週の中日にあたる今日の1・2時間目は研究科目の古代語Ⅰ。

古代語は表意文字なので少しでも文字数を少なくしたい魔法陣にはよく使われている。

小さな頃から古代語には馴染んでいるので大抵の文字は読めるけど、古代語の文字は沢山あるし複雑なのでもっと勉強しようと思って古代語Ⅰを選んだ。

父さんは古代語を使った魔法陣を沢山教えてくれたけど、俺の質問がめんどくさくなるといつも”気合いだ!“の一言で終わらせる。

気合で文字の意味が判るとは思えないけど、父さんと話す事が多い俺は父さんの”気合いだ!“は、”これ以上は聞くな“の意味だと知っている。

実際に魔法陣を発動して見せてくれるし、手を握って俺の体内魔力を見ながら魔法を発動してくれるので感覚的に判って発動出来るようにはなる。

それでも、読めない古代文字もまだまだ多いし理論的な事はあまり判っていない。

母さん達に聞けばある程度は補足してくれるけど、きちんと初歩から学びたいと考えた。

姉さん達も同様らしく、上級薬師の資格を持っているのにポーション研究とか、Aランク冒険者なのに冒険者学を選んでいる。

研究科目だけでなく、昼食も4人がバラバラに分かれて摂る。

今迄はいつも4人1緒だったので学院では出来るだけ別行動しようというのが4人の申し合わせ。

出来るだけ多くの友人を作る為と、少数しかいない平民が固まっていると無駄な諍いに巻き込まれる恐れがあるという上の姉さん達の助言があったから。

テン姉達は俺を一人にするのは不安だったらしいが、ルナ姉には逆らえないので助言に従った。

俺も不安だけど、いつ迄も姉さん達に頼ってばかりではいけないと思って頑張る事にした。



それはさておき、研究科の授業は2コマ連続なので午前中はこの科目だけ。

研究科の実習は少し離れた研究科の建物で行われる。

基礎科目の授業が行われる貴族科の校舎の向かい側ある8棟が研究科の建物。

基本的に教授達の研究室がある建物で、向かい側と言っても歩いて10分程掛かる。

授業の間にある休憩時間が20分なのでのんびりしていると間に合わない。

厩舎から貴族科の教室まで20分、そこから研究棟まで10分。

朝1番の授業なので時間に余裕があるから慌てて移動しなくても良かった。

校内の見学も兼ねてゆっくりと研究棟に向かう。

王立学院の敷地は貴族の領都程では無いが、男爵が代官として治めるそこそこの街よりも広い。

敷地の中に大きな川が流れているし、山や森もある。

広い池や庭園、大きな温室も数え切れないほどある。

野外の訓練場が12面に屋外訓練場も8棟。

騎士科専用の練兵場はものすごく広いらしい、知らんけど。

研究棟へと続く石畳をのんびりと歩く。

日中はまだ暑い季節だけれど、朝は涼しくて気持ちが良い。

緩やかに左へとカーブしながら続く白い石畳の左手には色とりどりの花の咲く花壇。

右手には手入れされた植栽、植栽の向こうにはせせらぎが優しい音を奏でている。

荒地の多いキラとは違った柔らかな色彩を眺めながら石畳を進むと、白い石造りの研究棟が幾つも並んでいた。


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