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8 陛下は“ヘイカさん”という名前

俺達4人姉弟は入学試験の科目成績優秀者として基礎科目の王国語・数学・歴史・魔法実習の4科目でⅠとⅡの飛び級試験受験資格が認められ、入学式前に行われた飛び級試験で全てに合格して単位を貰った。

将来国の中枢を担う学生達の交友を深めるという学院設立の趣旨から5年という修業年限は同じだが、飛び級科目が多ければ選べる科目が増えるし、4・5年生で時間の余裕が出来て楽になると姉さん達から聞いたので頑張った。

おかげで俺達4人は1年生から幾つかの研究科目を受けられる事になり、相談してそれぞれ違う科目を選ぶ事にした。

2年生になった時に姉弟が受講していれば科目を選ぶ参考になるし、試験の傾向も判るので有利だと長女のルナ姉が教えてくれたから。

魔法好きな俺だけど、魔法科のナイ姉とレブン姉が魔法実践関係の研究科目を選んだので、魔法陣と古代語・錬金という姉さん達が選ばない理論系の科目を選択した。



週明け初日が入学式だったので、今日は週明け2日目の授業。

王立学院に入って最初の授業は貴族科必修科目の政治学Ⅰ。

「この授業では王国行政を司る殿について学ぶ。殿の詳しい職務については次回以降として。今日は概略と各殿が王城のどこにあるかを覚えて貰う。」

教授が合図すると助手の兄ちゃんが王城の大きな地図を教室の前に掛けた。

「王城の北側が宮城と呼ばれる王宮のある区域。ここは許可を得た者しか入れない最も警備の厳重な区域なので建物の配置も極秘である。」

教授が長い棒で指し示した地図の上側が空白となっている。

空白の所に王宮が有るらしい。

「そしてその南側、ここだ。ここが王国の実務を司る各殿のある区域だ。」

教授が長い指し棒で地図の下側を指し示しながら説明する。

王城は俺が住んでいる王都屋敷のすぐ近くで屋敷から見えるけど、俺の移動は殆どが転移だし、学院は王城と反対方向なので城門すら見た事が無い。

王城の中はこうなっているのかと地図をじっと見つめた。

「王宮に一番近い位置にあるのが王国財政を司る財務殿、これだ。そしてその隣が各殿や王領の人事を司る総務殿。そしてここが王国の安全を守る軍務殿。この3殿は予算や官吏の数が他の殿よりも段違いに大きく、王国の要とも言われる最も権威がある殿だ。3殿の長である卿達は王国3卿と呼ばれ、クーラー公爵家・ストーブ公爵家・アシュリー公爵家の3公爵家、キュラナー辺境伯家・ファン辺境伯家の2辺境伯家に次ぐ家格とされている。」

“かかく“が何かは良く判らないけど、授業に出てくるということはアシュリーお祖父さんとキュラナーお祖父さんは結構偉い人らしい。

アシュリー公爵とキュラナー辺境伯で思い出したのは、“男のパンツを作るのは嫌だ”と父さんが逃げたので、お祖父さん達のパンツは俺が作るようになった時の事。

サイズ計測に来たアシュリーお祖父さん達4人が、貴族の上着を着たまま俺の前に下半身丸出しになって並んだ時には全裸よりも恐ろしくて逃げ出したくなった。

お祖父さん達の詳しいサイズは国家機密だと念を押されたので誰にも言えないけど。



「1組の諸君達の中にはこの3殿の官吏となる事を目標としている者もいると思う。」

大きく頷いている数人の学生達は3殿の官吏を目指しているらしい。

「3殿の南側に大きな中央広場があり、広場を挟んで農務殿・商務殿・外務殿・工部殿と並んでいる。そしてこの小さな殿が王国法を管轄する法務殿となる。」

大きな地図で位置を示した教授が学生に向き直った。

「20年程前、この殿が立ち並ぶ区域の真ん中にある中央広場に“公特”というとんでもなく不埒な組織が作られた。“公特”の設立目的は王国予算の削減だが、指揮官が若輩の上に無知無能な平民だった。バカな指揮官のせいで伝統ある貴族家の領地が次々と不当に取り上げるなど王国内が大混乱になった。」

教授が顔をしかめた。

よっぽど酷い指揮官だったらしい。

「各殿の最高責任者である卿達が連名で抗議しても全く無視するので、伝統ある貴族達は“公特”の事をヌメヌメして気持ち悪い害虫に例えて“殿殿無視“と呼んで蔑んだ。」

“公特”って何となく聞いた事があるような気がするけど、デンデン思い出せない。

指揮官が無能だったらしょうがないよな。

デーンデンムシはヌメヌメしているから俺も大嫌い。

殻の無いナーメクジはもっと嫌いだけど。

「国王陛下も各殿の混乱にお気付きになり、平穏だった各殿をかき回し王国に混乱をもたらした罪で”公特”の指揮官を罷免した。さらに6年後には”公特”自体も廃止したが、未だに”公特”が引き起こした混乱の影響が大きく残っている。”公特”設置以前は課長職以上の上級役人全てが伝統ある貴族家関係者だったのに、”公特”以後は伝統貴族家出身者が3分の1以下になってしまった。下品な平民出身者が上級役人としてのさばっている事には諸外国も呆れている。」

平民は下品らしい。

俺も平民だから下品なのだろう、下品が何かは知らんけど。



「しかしながら“殿殿無視“が解体されて15年、最近になって漸く明るい兆しも見え始めて来た。その中心となっているのが次期国王である第1王子殿下である。聡明なる第1王子殿下は伝統貴族家出身者を側近に取り立て、平民出身の上級役人達を抑え込もうと御尽力なされている。殿下が即位なされたら、我が王立学院卒業者が品性に欠ける平民同様に試験を受けるなどという理不尽な状況が改められるのは間違い無い。いずれは昔の様に伝統貴族家出身の学院卒業生が優先的に殿の中枢に進める日が戻る事ことであろう。」

平民は品性というものが欠けているらしい、品性が何かはしらんけど何となくこの教授が平民嫌いらしいと言う事は判った。

「幸いな事にここ数年は王国における伝統貴族家の発言力が増している。いずれは20年前と同様に伝統貴族中心の行政が行われる事となるであろう。諸君はその日の為に切磋琢磨して貰いたい。」

うんうんと頷いている学生も多い。

初日から聞いた事の無い言葉が沢山出て来て知識不足を実感した。

少し授業を受けただけで俺の知らない事が世の中には沢山あるんだと判って、学院にいる5年間に頑張って勉強しようと思った。

そもそも俺は役人になる気は無かったので政治の事はまるで興味が無い。

政治学も必修科目なので仕方なく受けただけ。

判らない事が沢山あったので、今度姉さん達に聞いてみよう。



2時間目の授業は俺の苦手な礼儀作法。

受けたくないけど貴族科の必修科目なので仕方がない。

教室は食堂の2階にある作法室。

食堂は貴族科棟と研究棟の間にあるので、どちらからも近い。

ルナ姉が1歳で伯爵に叙爵されたので、キラ家の子供達は全員が3歳の時から家庭教師に礼儀作法を教えられてはいる。

教えられてはいるけど父さんが貴族嫌いだから屋敷では皆が冒険者言葉を使っているし、一緒に礼儀作法を習っていた筈の姉達のマナーもかなり怪しい。

家には気を遣う必要のないお爺様達と陛下達しか来ないからだろう。

ちょっと待て、今気が付いたが陛下にも気を遣わない家ってどうなんだ。

まあその辺が気に入って気楽に来るのだろうが、あまりにも頻繁に来るので屋敷では親戚のおっちゃん扱いになっている。

陛下が国王だと俺が知ったのも、偶々緊急の伝令を俺が取り継いだから。

知ったのは受験勉強で王都屋敷に戻った時だから、ほんの2ヶ月前。

それまでは陛下が国王とは知らなかった。

姉さん達の中には、2ヶ月前の俺みたいに陛下は“ヘイカさん”という名前だと思っている姉さんがいるかも知れない。

父さんによると、陛下がトイレに入った時に”プ~“という音が聞こえたので”屁~か?“、王子はトイレが長くてウンウン気張っていたから”出んか?“と侍従が声を掛けた事が呼び名の謂れらしい、本当かどうかは知らんけど。

ともかく、家庭教師に教えて貰ってはいたのは8歳までだったし、普段は礼儀作法なんてまるで気にしない家なのでかなり苦手。

貴族の礼は薬師や冒険者とは違うし爵位や場所によっても違う、とルナ姉が言っていた。

話すのも爵位が上の者からとか、入場順や並び方に退出順、めんどくさい事この上ない。

エスコートの作法に食事の作法、魔法以外に興味のない俺が全部覚えるのは無理。

授業が行われる作法室に向かって歩いているだけでテンションが駄々下がりになった。



「背筋をもっと伸ばして、視線は前方1.5m!」

「角度は10度。」

「拳を握らない。指先を伸ばして胸、中指の根元は乳首。」

「左手は背中。」

教授の叱責が飛ぶ。

ついポロッと冒険者言葉や冒険者の作法が出る。

貴族の挨拶なんて7歳の時に家庭教師の前でして以来。

あまりにも昔すぎて全然覚えてない。

冒険者の挨拶はいつも拳で胸をドン。

膝をつく事も腰を折る事も無い。

掌を胸に当てる挨拶なんて、そう言えば昔教えて貰ったかな?程度の記憶しか無い。

この間陛下が屋敷に来た時でも上半身を起こして片手を上げただけ。

父さんなんていつも膝枕のまま肘から先をちょこっと上げるだけだ。

冒険者の挨拶で頭を下げる事は無いから貴族風の頭を下げる挨拶は苦手。

冒険者が頭を下げると不意打ちを喰うか魔獣に齧られる。

目の前の相手から視線を逸らさないのが冒険者の常識だ。



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