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6 初めてのお着替え

少し気持ちが落ち着いたので明日からの授業に備えて寝る準備をする。

まずは制服を脱いで就寝用の部屋着に着替える。

初めてのお着替え。

この日に備えて、姉さん達に教えて貰ったので一人でも出来る、筈。

”ハリーはいちを聞いてじゅうを知る子だから、説明だけするわね“

うん、位置さえ判れば探知魔法の精度が上げられるから、どんな魔獣か大体判る。

姉さんから教えて貰った着替え方を思い出しながら着替えに挑戦。

まずは上着を脱ぐ。

あれ?

脱ごうとして襟を引っ張ったけど腕が引っ掛かって全然脱げない。

そうだ、ボタンを外すんだった。

姉さんの言葉を思い出してボタンを外したら簡単に脱げた。

家から持って来たハンガーに掛ける。

「上着、良し。」

上着を指差しながら声に出す。

古代語で”指差し角煮“という確かめ方、指で差しながら声に出す事が大事。

魔法の事ばかり考えて、うっかりする事が多い俺に父さんが教えてくれた。

脱いだ服はきちんと揃えておくのが大切。

うん、ちゃんと出来た。

1人で頷いて、どうだと胸を張る。

ズボンを脱ぐのは難しいので慎重になる。

いつもは姉さんの誰かが体を持ち上げてもう一人がズボンを脱がしてくれるけど、今日は誰も居ないので一人で脱がなくてはいけない。

姉さん達に教えられた通りにベルトを緩め、片足立ちになって反対の足をズボンから抜く。

足を替えてもう片方の足をズボンから抜こうとした時、緩めたベルトに足が引っ掛かった。

とっさに受け身の体勢を取る。

ドン!

こけたけどベッドの上なので問題無い。

「ふっ、俺の足を払うとは、貴様もなかなかやるな。」

受け身だとれたのでダメージが無かったとは言え、俺を仰向けにするとは相当な強者。

素直にベルトの技量を称えた。

“敵の力を認める事も男の力量”、と姉さんが言っていた。

ベッドに腰掛けたままズボンを脱ぐ。

うん、95点。

思っていたよりも旨く行ったのでまあ満足。

次はベッドに腰掛けてから脱げばベルトごときに遅れを取る事は無い、と思う。

明日は100点を目指そう。

そんな事を考えながらズボンを畳んで机の上に乗せる。

「ズボン、良し。」

”指差し角煮“は大切。

下着だけになったけどまだ夏の終わりなので寒くない。

朝起きて着替えると時間が掛かりそうなので、部屋着を着るのは止めてそのままベッドに潜り込んだ。

面倒な事は嫌い。

手を抜ける所はギリギリまで手を抜くのは父さん譲り。



ベッドに横になって目を閉じるが、なかなか眠れない。

いつも姉さん達の胸に手を置いて眠っていた。

初めての一人寝、隣には誰もいなくて手を置く胸が無いから眠れない?

アイテムボックスから枕を出す。

姉さん達が作ってくれた眠れない時用の特製枕。

身長程ある長い枕で、端から3分の1位の所に2つの丸いムニュムニュが付いている。

姉さん達手作りの心が籠った枕を横に置いてムニュムニュに手を乗せると、何となく気持ちが落ち着いて自然に眠くなる。

”姉さん、おやすみなさい”

姉さん達に感謝しながら瞼を閉じた。



目が覚めるともう明るくなっていた。

「ヤバい、寝過ごした。」

急いで“全身浄化”を掛ける。

“浄化”と“洗濯”を統合して作り出した俺のオリジナル魔法。

父さんの様に新しい魔法は作れないけど、今までの魔法を改変したり統合するのは得意。

髪の毛もサラサラになるので寝ぐせも取れる。

朝の身支度に便利なのでめんどくさがりの父さんに教えたらめっちゃ喜んでくれた自慢の魔法。

全身がさっぱりしたところで、制服を着る。

こける事も無く一人でズボンが履けた、どうだ。

脱ぐのは苦手だけど着るのは得意。

ちょっと自慢顔になっているのが自分でも判る。

誰も見ていないのがちょっと残念。



身支度が出来たので1階に降りて食堂に向かった。

大きな食堂で、10人掛けの長テーブルがずらりと並んでいる。

「おはようございます。」

入り口で元気に挨拶。

“ハリーは話すのが苦手だから、大きな声で挨拶するのよ”

“笑顔も忘れちゃだめよ”

笑顔で挨拶すれば会話が出来なくても問題は無い、と姉さん達が教えてくれた。

頑張って挨拶したけど、食堂にいた学生達が皆キョトンとしている。

“学院では周りの反応は気にしないでいいわ。貴族の子弟は何をしても人を貶すからね”

姉さん達に言われていたので学生達の反応は気にしない。

すぐに気に入ってくれる人もいれば、何をしても気に入らない人がいるのは学院あるあるらしい、姉さん曰くだけど。

食堂の中では数人の学生が入り口横に積まれているトレーを持ってカウンター前に並んでいる。

寮の大きさを考えると並んでいる人数が少ない。

まだ寝ている学生が多いのだろう。

俺もトレーを持って列に並んだ。

列の先を見るとカウンターで料理とスープを受け取ってからその先のテーブルでパンを取っている。

朝食は皆同じメニューらしい。

パンの数は人それぞれのようで、2つ取っている学生も3つの学生もいる。

水らしいものを取っている学生もいる。



短い列が進んで俺の番になった。

「おはようございます。」

「おはよう。礼儀正しい子ね、一杯食べて大きくなりなさい。」

元気に挨拶したら、食堂のおばちゃんが笑顔で挨拶を返してくれた。

ちょっと嬉しい。

やっぱり挨拶は大事。

「はい。」

トレーに焼いた腸詰と野菜を乗せた皿とスーブの入ったボウルが乗せられる。

「パンは向こうのテーブルにあるから、好きなだけ取りなさい。」

「はい。ありがとうございます。」

横のテーブルでパンを2つ皿に乗せた。

長テーブルを見ると皆が黙々と食事をしている。

空いている席に着いて朝食を頂いた。

結構おいしい。

スープも具沢山で肉が入っている。

料理長の料理とは比べ物にならないけど、予想していたよりは美味しかったので嬉しかった。

これなら毎日食堂の食事でも大丈夫。

休み毎に1週間分の非常食を作らなくても良さそうなので少し安心した。




食事を終えると急いで厩舎に向かう。

朝は厩舎に行って愛馬との触れ合い。

愛馬と楽しむ時間が短くなるので早起きしなくてはいけないのに、今日はちょっと寝過ごしてしまった。

厩舎に行くともう結構な数の人がいた。

厩舎横の馬場を走っている馬もちらほらいる。

服装から見ると乗っているのは貴族家の使用人らしい人が多い。

2人程学生らしい人も馬を走らせている。

厩舎に入ったら、下の姉さん達が愛馬を連れて馬場に出る所だった。

「遅いわよ。」

「ごめんなさい。」

馬場に出る姉さん達を見送って、急いで愛馬に鞍を着ける。

乗る前の安全確認も大切。

鞍や鐙を引っ張ってしっかり装着出来て居るかを確認する。

「腹帯良し、鞍良し、轡良し。」

”指差し角煮“して馬場に出た。



冒険者活動中に使っていたキラ領館の馬場程ではないが、王都のど真ん中という立地を考えるととんでもなく大きな馬場、と姉さんが言っていた。

恐らく1周1㎞近く、王都屋敷にある馬場の倍位。

姉さん達が愛馬に跨って気持ちよさそうに風を切っている。

受験勉強で王都に来た時に父さんの転移魔法で運んで貰った4人の愛馬達。

俺には馬4頭と一緒に長距離転移出来る程の練度が無いので父さんに運んで貰った。

1昨日姉さん達と一緒に学院の厩舎に預けに来た。

昨日は忙しくて会えなかったけど、持ち主が来れない時は学院の厩務員さんがきちんと世話をしてくれるので大丈夫らしい。

姉さん達も俺もみんな馬が好き。

それぞれの愛馬は全て父さんの愛馬エドの子供達なので生まれた時から一緒?に暮らしている。

俺達の部屋からは少し離れているから一緒では無いか。

きちんと世話が出来るようになったのは冒険者活動を始める8歳直前からだけど、5歳から時々遊んでいたのでお互いの気心も分かり合えている。



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