2 聞くは一時の満足、聞かぬは一生の安寧
2ヶ月間隔が空いたのに覚えて下さった方がおられるようで嬉しく思っています。
再開初日からブクマも頂け、モチベーションが上がりました。
花粉の季節も過ぎ、体調も戻ったので書き書きを頑張ります。
第1部では展開を急ぎ過ぎたので、第2部からはゆっくりと進めるつもりです。
ちょっとだけ経験から学べる頼運です。
明日投稿予定分を間違って原稿段階で投稿してしまいました。
誤字脱字はお許しください。
全然経験から学べていない頼運でした。
今から明日の分を頑張って書き書きします。
教室に張ってある座席表を見ると俺の席は最後列の窓際、隣がテン姉。
後ろの窓際から席次順になっているらしい。
指定された席に着くとテン姉が話しかけて来た。
「父さん、見た?」
代表挨拶が終わった後の父さんを思い出す。
「うん、立ち上がって頭の上で拍手してた。」
周りの保護者だけでなくフロアにいた新入生や学院の職員もみんな父さんを見ていた。
「本当に恥ずかしいったらありゃしない。」
「ブロン姉達に怒られてたね。」
「そうそう。無理やり座らせられて口を塞がれてた。」
「父さんは周りを気にしない人だから。」
父さんの口癖は”周りを気にしたら負け“。
「探知魔法は凄いのに周りの空気は全く読めないのよね。」
空気って勉強すれば読めるようになるの?
難しい古文書でも読める父さんに読めないなら俺には無理か。
空気を読むのは諦めた。
「でも父さんが喜んでくれたのは嬉しかった。」
父さんは家族が頑張った時には傍目を気にせず本気で喜んでくれる。
最近は大勢の注目が集まるとちょっと恥ずかしく思う時もあるけど、父さんに褒められるのはめっちゃ嬉しい。
「父さん子のハリーらしいわね。」
テン姉が呆れた顔をしながら笑っている。
父さんと俺は根っからの魔法好きなので、一緒に魔法の術式を弄り回す事が多い。
姉さん達が母さん達と話す事が多いように俺は父さんと話す時間が長いので家族の間では“父さん子“って呼ばれている。
俺にとっては誉め言葉。
父さんの様に新しい魔法を作ったり、色々な魔法を自在に使えるようになるのが俺の目標。
“常識に捉われるな。周りを気にしたら新しい発想は生まれない”が父さんの言葉。
姉さん達にも言われるので、なるべく周りを気にしないようにはしているけど、最近は注目されると少し恥ずかしく感じる。
“もう少し周りを見て欲しいかな。まあ父さんだからしょうがないけど”
心の中で呟く。
「そうね、父さんだものね。」
思っただけで声に出したつもりは無かったけど、テン姉には聞こえていたらしい。
考えただけのつもりなのに時々言葉に出てしまうのが俺の悪い癖。
テン姉に聞かれても問題無い事で良かった。
話をしていたら担任が入って来た。
入学式の担任紹介で見たので顔は知っている。
「1組の担任をするフォルクス=バーゲンだ。魔法実習ⅠとⅡを担当する。今日は最初なので自己紹介をして貰う。成績順に立って自己紹介しろ。」
自己紹介も練習したから大丈夫、な筈。
「ハリーです。12人姉弟の末っ子です。将来は冒険者になって大陸中を回りたいと思ってます。冒険者になるなら貴族科だと教えられてこの科を選びました。」
うん、上手く言えた。
俺はやれば出来る子だ。
大陸南部には古代王国の遺跡が沢山あって、俺達の住んでいる大陸北部には無い魔法陣を使った魔導具が幾つも発見されていると聞いて行ってみたくなった。
SSランクの父さん以外は家族全員がAランク冒険者。
Aランク冒険者は貴族と係わる事が多いから貴族科で学ぶ知識が役に立つと母さん達に勧められて貴族科を選んだ。
「12人姉弟って何だよ。」
「良く12人も作ったな。」
「平民だから他に楽しみが無かったんだろ。」
「仕事が無くて暇だったんじゃないか。」
「ガハハ、そうかもな。」
“遠聴”が使えるのでヒソヒソ声も俺の耳にははっきりと聞こえる。
悪口ばかりかと思ったら鋭い指摘もあった。
確かに父さんはいっつも家に居るし、仕事らしい事は殆どしていない。
時々新しい魔導具を作るけど、単なる趣味。
父さんがずっと家にいたから12人も子供が産まれたのかも知れない、知らんけど。
俺の家はどうやって収入を得ているのだろう、ふと疑問に思ったけど母さん達が何も言わないので問題は無いのだろう。
“聞くは一時の満足、聞かぬは一生の安寧”
父さんが教えてくれた古代王国の格言を思い出す。
“問題無い事を聞いて問題を引き起こすのは愚か者のする事だ”と父さんが言っていた。
「何で冒険者が貴族科なんだ。」
「意味が判らん。」
「只のバカだろ。」
こそこそ話しても俺の耳にはしっかり聞こえている。
学院では周囲の状況を把握しておくのが大切だと姉さん達が言っていた。
いつ襲われるか判らないから索敵と情報収集を怠ってはダメだと何度も言われた。
俺が席に座ると、テン姉が立ち上がった。
「テンです。父が冒険者なので私も冒険者志望です。弟と一緒に外国に行くなら貴族科だと言われて貴族科にしました。宜しくお願いします。」
テン姉も魔法好きなので俺とは気が合う。
術式を弄るのは面倒がるけど、新しい魔法にはいつも目を輝かせる。
知らない魔法が沢山あると聞いてテン姉も一緒に大陸南部に行ってくれることになった。
1人では心細いのでテン姉が一緒に行ってくれるのはめっちゃ嬉しい。
新しい魔法好きな2人が貴族科で、ひたすら攻撃魔法だけを撃ちたい2人が魔法科。
ナイ姉とレブン姉は攻撃魔法以外も勉強しろという事なのだろう。
「あいつら姉弟か。」
「姉弟揃ってバカだな。」
ヒソヒソ話が聞こえる。
“バカって言う奴がバカだ”って父さんが言っていたぞ。
「冒険者に貴族科を選ばせた奴って誰だよ。」
「ほんと、意味が判らん。」
貴族は人の粗探しするのが好きだと姉さん達が教えてくれたけど、体験するのは初めて。
悪口が楽しいのかと思っていたが、なんとなく機嫌の悪そうな顔をしてる。
“人生を楽しめ”
父さんの言葉を思い出した。
家では家族も使用人達もみんな笑顔。
俺もみんなと同じように笑顔で楽しい人生を送りたいと思っている。
たまに母さん達や姉さん達が悪そうな笑顔をする時もあるけど、見なかった事にしている。
俺は経験から学べる12歳だ。
「ボルボ=ミュール、第1王子の長男だ。前期試験では学年首席を目指す。」
テン姉に続いて立ち上がった王子が、俺達を睨みつけながら自己紹介している。
人を見下す嫌な視線。
貴族を気にするなと言われているけど、実際に体験すると嫌な気分になってしまう。
父さんの貴族嫌いが判る気がした。
「歴代の王太子は皆首席だったからな。」
「総合5位だろ。主席は無理だと思うぞ。」
「4席とも随分点差があったからな。」
「立場上首席でないと拙いんだろ。」
俺の時よりも更に声をひそめてヒソヒソ言っているのも貴族の子弟らしい。
聞こえない所では相手が王族であっても悪口を言うのが貴族と聞いていたが、本当だった。
本人の前では笑顔でべんちゃらを言うらしい、知らんけど。
貴族科1組は40人で平民は5人、殆どが貴族の子弟。
5人と言っても俺達以外の3人は大商会や大工房の子弟。
資金に余裕のある大商会や大工房は子供を貴族科に入れて貴族との繋がりを作ろうと、小さな時から大勢の家庭教師を付けて朝から晩まで勉強と魔法の訓練をさせるらしい。
平民は魔力量が少ないので学院に入るのは難しいと姉さん達が言っていた。
貴族は魔力量が多くて、平民は貴族に比べるとめっちゃ少ないらしい。
あれ、俺も平民だった。
魔力量は魔力を限界まで使えば少しだけ増える。
キラ家では魔力量を増やすために、全員が毎日ポーション作りで魔力を使い切る。
そのおかげで学院に入学出来る程魔力量があるのかも知れない。
難しい魔法を複数発動し続けても魔力量が増える。
ただ、複雑な魔法を複数展開するには集中力がいるので、めんどくさがりの姉さん達は嫌がった。
ちまちまと魔力操作するよりも、ドカンとぶっ放す方が好きらしい。
キラ家では防御魔法以外は子供達に無理強いする事は無い。
姉さん達は毎日攻撃魔法を撃ち捲って魔法練度を上げ、めつやくちゃ威力のある魔法を撃てるようになった。
俺は細かな魔力操作が好きなので、小さな時からいつも複数の魔法を展開して遊んでいた。そのせいで姉さん達より魔力量が大きくなったらしい。
古代語で”チリも積もればゴミとなる“と言う蓄積法だと父さんが教えてくれた。
それでも父さんの魔力量に比べたらめっちゃ少ない。
父さんも平民だから貴族は父さんより魔力量が多いのかも知れない。
判らん。
まあ魔力量は必要なだけあればいい。
小さな事を気にしたら負け。




