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39 “穴二つ”って、そっちの穴かい! 

シバスチャンに言われて執務室で溜まった書類を片付けていたら、今迄感じた事の無いピリピリ感を覚えた。

探知魔法を全開にすると屋敷の表側の塀の内側と裏の塀際の林の中に嫌な気配がある。

今迄感じた事の無い妙に中途半端な敵意。

家臣の殆どを領地に送り出したので屋敷内にまで侵入されたのだろう。

嫌な危機感を感じたのですぐさま短距離転移で表側にいる気配の近くに転移。

“睡眠”

中年のおっさんを担いで屋敷に転移して空き部屋に転がし、裏側にいる気配の近くに転移。

“睡眠”

倒れたのはやはり中年のおっさん、男を抱えて屋敷に転移した。

「何があったのですか?」

俺がバタバタしたからか、男を部屋に転がした物音で気が付いたのかは判らないがリーナが部屋にやって来た。

ドアを開けたままだったので、いつもと違う物音にすぐ気が付いたらしい。

「判らん。侵入者が今まで感じた事の無い嫌な気配だったから捕らえて眠らせた。」

俺には創造神様の祝福がある。

何が起こったのか判らない時は直感を信じて行動するのが正しい対応になる。

個人の感想で効果には個人差があります、たぶん。

「みんなを呼んで来ます。」

「頼む。」

倒れている男達の服を脱がして下着だけにする。

暗殺者はどこに何を隠し持っているか判らない。

探知魔法を最大にして金属や特異な物を探す。

針や毒物は持っていない様だ。

パンツ1丁の男を奥様達に見せたく無いので縄で2人を縛り上げてから、アイテムボックスからシーツを出して男をグルグル巻きにする。

すぐに奥様達とシバスチャンがやってきた。

「侵入者だ、今までに無い嫌な気配を感じたので捕らえた。この男が持っていた物を鑑定して欲しい。」

床には侵入者が持っていたバッグや剥ぎ取った服が散乱している。

シバスチャンがバッグの中身を出して奥様達が鑑定する。

「呪いの魔道具がありました。」

「こっちにも呪いの魔道具があります。」

「呪いの魔道具?」

「呪術師が誰かに呪いを掛ける時に使う魔道具です。通常の魔道具は魔石を使いますが、呪いの魔道具は動力源として呪い石を使います。魔道具によって効果が違うのでどのような呪術なのかはこの男達に聞かないと判らないかも知れません。」

シバスチャンが教えてくれた。

「呪術師って何だ?」

「呪いの力で狙った相手を病気にしたり殺したりする特殊能力を操れる魔術師です。」

そんな特殊能力がある事すら知らなかった。

異世界怖っ。

そう言えば王都に来た時に呪いの石を見た事があった。

エルフ自治国に広がっていた瘴気が塊になったような嫌な感じのする石だった。

という事は浄化で石の効果も消せる?

そもそも光属性の俺達に呪いが効くのか?

判らん。

ともあれこの魔道具の効果と屋敷に侵入した目的を探るのが先。

「シバスチャン、自白魔法を使うから尋問してくれ。」

尋問なら俺や奥様達よりもシバスチャンの方が上手い。

「承知致しました。」

「覚醒。」

シバスチャンや奥様達に聞こえるように声に出して魔法を発動した。

「なんだ、何で縛られてる。」

”自白“

侵入者に聞かれない様に今度は声に出さずに魔法を発動する。

「尋問を頼む。」

「屋敷に侵入した目的は何だ。」

「そん・・シャリーヌの殺害、難しければだれでも良いので夫人の殺害。」

「魔道具はどんな効果がある。」

「・・体の中に瘴気の塊を作る。」

「依頼者は誰だ。」

「言え・・オモイ=アガリー伯爵。」

「理由は。」

「知らん。殺せと依頼されただけだ。」

「ギルドの組織員か。」

「呪術師ギルド“穴二つ”だ。」

確か、“人を呪わば穴二つ”って人を呪ったら自分の墓穴も掘る事になるって意味だったよな。

何でそんなに縁起の悪い組織名なんだ?

「アジトはどこだ。」

「商業街奥の色町にある酒場”後ろから前から“の地下だ。」

“穴二つ”って、そっちの穴かい!

「それだけ判れば十分だ。睡眠。」

もう一度男を眠らせた。

「オモイ=アガリー伯爵って、どんな奴だ?」

シバスチャンに聞いた。

「昨年先代が亡くなって、嫡男が跡を継ぎました。先代伯爵夫人の父は処刑したキラ領の代官を務めていたスベリ男爵で、孫のオモイを随分と可愛がっていたようです。」

オモイで代官達の取り調べをした時の責任者がリーヌ。

呪術師侵入の目的とアガリー伯爵とが繋がった。

許せん。

「・・・オモイは王都にいるのか?」

「そこまでは判りかねます。」

「暫く出かけて来る。帰るのが遅くなるかもしれないが、こいつらは厳重に監視して置いてくれ。」

「承知致しました。」



商業街に飛んだ。

奥の色町を俯瞰で見ると、すぐに”後ろから前から“が見つかった。

石造り2階建ての堅固な建物。

探知魔法を最大にして内部を調べると、1階が酒場でその奥に2階と地下に繋がる階段がある。

1階には6人、2階には3人、地下には16人。

客の振りをして1階に入る。

“光弾30発”

音がしない様、極少の光弾を5発ずつ頭に打ち込むと全員の頭が音もなく砕ける。

そのまま地下に降りる。

奥の部屋に6人が集まっている。

地下には幾つかの部屋があるようで途中の部屋を通らなければ奥には行けない作り。

部屋のドアを開ける度に“光弾”で頭を潰しながら奥へと進む。

脇の部屋にいる者には壁越しに光弾を撃ちこむ。

極少の光弾とはいえ、壁越しに撃つとかなりの音がして奥の部屋で人が動き始める。

探知魔法で探りながら壁越しに奥の部屋にも光弾を撃ちこんだ。

探知魔法の反応が消えた。

階段を駆け上がると2階から男が降りて来る。

光弾を撃ち込んで倒れてくる男の横をすり抜けて2階に上がる。

2階は住居らしい。

ドア越しに2人に光弾を撃ち込んで探知魔法で部屋の構造を確認する。

隠し部屋は無い。

一応奥の部屋に入って書類とかが無いかを確認して地下に戻った。

各部屋をざっと見渡しながら奥に向かい、突き当りのドアを開けるとムワッと血の匂いが噴き出してくる。

息を止めて、大きな執務机をアイテムボックスに放り込む。

さらに奥にあった隠し部屋にぎっしり並んだ棚や金庫もアイテムボックスに放り込んで階段を駆け上がって外に出た。

「ブファッ。」

一気に息を吐いてから大きく深呼吸。

やっぱり血の匂いは苦手。



”後ろから前から“を出て、そのまま裏ギルド”蒼い梟“に向かった。

「情報が欲しい。」

「どのような情報でしょうか?」

「“穴二つ”の呪術師が屋敷に侵入した。狙いは妻シャリーヌの殺害。依頼者はオモイ=アガリー伯爵。伯爵について詳しく聞かせてくれ。」

「承知致しました。」

ボスが目で幹部に合図すると幹部が部屋から出て行った。

いつものソファーに腰を下ろすと、ボスが向かい側に腰を下ろした。

「呪術師のギルドは幾つある?」

機嫌が悪いので、ボソッとした声になる。

「王都には2つあります。閣下が潰した“穴二つ”と中級住宅街にある“2輪車”です。」

“穴二つ”と“2輪車”って、名前が如何わしすぎるだろ。

ボスは血の匂いで“穴二つ”が壊滅したと判断したらしい。

「構成員は多いのか?」

「呪術師自体がごく少ないので、“穴二つ”が最大組織で20人程、うち呪術師は10名前後の筈です。“2輪車”は10人前後、呪術師は3~4人と思います。まさか大陸1の浄化魔法の使い手である閣下に呪術師を差し向けるとは思わず情報収集を怠っておりました。申し訳ありませんでした。」

「いや、”蒼い梟“には何の落ち度も無い。屋敷に入り込んで直ぐに捕らえたので実害も無い。気にするな。」

「ありがとうございます。」

「・・・・。」

部屋を出て行った幹部が若い男を連れて戻って来た。

「キラ閣下がオモイ=アガリー伯爵について知りたいそうだ。」

「オモイ=アガリー伯爵は昨年亡くなった先代の後を継いで伯爵となりました。軍務系の家柄で、母親がキラ家に処刑されたスベリ男爵の娘なのでその恨みかと思います。」

「今はどこにいる?」

「軍令課長を務めておりますので王都には居ります。今手の者に調べさせておりますが、通常であれば軍務殿を出て貴族街の屋敷に戻る頃と思われます。いつも紋章の入った馬車で移動しますので、そう時間も掛からずに居場所が判ると思います。」

「そうか。ここで待つ、判ったらすぐに知らせてくれ。」

「畏まりました。」

男が出て行った。

「書類の整理をしても良いか?」

「はい。ここで宜しければどうぞご自由になさって下さい。」

暇が出来たので、“穴二つ”で拾い集めた書類を調べる事にした。

ボスがちらちらとテーブルの上に置いた書類に目を向けている。

「読んでも良いぞ。」

ボスに秘匿するような書類では無い。

俺はざっと目を通すだけで次々に書類をボスの前に積み上げる。

ボスは1枚1枚手に取って、真剣に読んでいた。

分野は違うが、同じ裏ギルドなので色々と興味があるのだろう。

古い物から最近のものまで殆どが依頼関係の書類。

東部貴族の絡んだ依頼が大半だった。

主な依頼は対立貴族の力を削ぐ為に当主を病気にする場合と、妻や子を病気にして瘴気の浄化が出来る者を治癒師として紹介する事で恩を売るもの。

浄化の得意なエルフ国ですら瘴気による体調不良を謎の病と思ったのだから普通なら原因不明の病と判断されるのだろう。

書類を見ていたら、先ほどの若い男が戻って来た。

「オモイ=アガリー伯爵が屋敷に戻りました。手の者が見張っております。」

「判った。世話になった、手間賃は地下に置いておく。これからも頼りにするぞ。」

書類を仕舞って立ち上がった。

「有り難き幸せ。」

最近の報酬はいつも魔獣素材。

2階から運ぶのは手間らしいので、帰り際に地下の広い部屋に置いて行く事になっている。

地下に魔獣を出すと、若い男の案内で貴族街のアガリー伯爵邸に向かった。

若い男が向かいの屋敷にある木を仰ぎ見る。

木の上の男が頷いた。

「伯爵は屋敷に居るようです。」

「判った。終わったら俺は勝手に帰る、これからの事は見なかった事にしておけ。」

「承知。」

屋敷の塀を跳び越えて屋敷内に入る。

”結界“ 

屋敷を結界で取り囲んだ。

”圧縮“

魔法成形の要領で結界内の物を圧縮する魔法。

屋敷がどんどん押しつぶされて行く。

ガラガラドガンドカンゴゴン。

大きな音を立てて屋敷が崩れ落ちる。

土煙で結界の中が見えなくなる。

探知魔法で探るともう少し。

ガラガラドガンドカンゴゴン。

中は見えないが、探知魔法で探ると屋敷の有った場所は地下2m位の穴になっている。

探知魔法で詳しく見ても生き物の反応はない。

良し。

塀の外が賑やかになっている。

近所の屋敷から人が大勢出て来たらしい。

問題無い。

転移で屋敷に戻った。



「お帰りなさい。」

「ただいま。」

「お済みになりました?」

「ああ。これは宰相への土産だ。」

シバスチャンに“穴二つ”で拾い集めた書類を渡す。

ついでに引き出し1杯に書類の詰まった執務机も出す。

ちらっと書類を見たシバスチャンが笑う。

「宰相が喜びそうですな。」

宰相の趣味は性悪貴族の処分。

また幾つかの貴族家が消えそうだ。

「これは奥様達に鑑定して貰いたい物。処分は奥様達とシバスチャン任せる。」

“穴二つ”の隠し部屋にあった沢山の棚と金庫を取り出す。

棚には訳の分からない魔導具や素材、美術品や宝飾品らしきものの入った箱が1杯。

金庫の鍵を解錠魔法で開けると書類の他にお金や宝石も1杯

奥様達が嬉しそうに仕分けしていたので少しだけ気が晴れた。



今日は子供達だけでなくお義父さん達夫妻も呼んで卵料理パーティー。

あれから2度、子供達を集めて家族水入らずの卵パーティーをしたことがお父さん達にバレたから。

お義父さん達に言わせると、奥様達の実家も家族らしい。

親族のような気がしないでも無いが、家族だと言われると違うとも言い難い。

まだ卵が残っていて良かった。

料理長が色々と試行錯誤した卵料理がずらっと並ぶ。

「このソースが何とも言えぬ味を出しているな。」

生のままだと美味しくない黄身も、酢と油を混ぜたマヨネーズ風のソースにしたり炒り卵にすると絶品。

「やはり白身は生が一番だ。」

「いや、舌の上でトロリと溶ける煮物が良いぞ。」

「御意。」

白身はそのままスライスした刺身も美味いが、チーズを挟んだフライも絶品だし、焼いても煮込み料理に使っても美味い。

というより、何で陛下セットが来ているんだ?

「本当で御座いますわね。」

って、今日は王妃殿下も一緒に来てる。

「実際に食べて見ると、お話以上の美味しさね。」

「テリア殿下も来たんだ。」

「シャリーは私の妹だから、私も家族でしょ。ねえお義父様?」

「おう、テリアも可愛い娘だからな。」

ドラン義父さんが笑っている。

そう言えばテリア殿下の婚約者ってドラン侯爵の嫡男って言ってたな。

もう結婚したんだ、いやそうじゃない。

何でみんなここにいるんだ?

王家には連絡してないぞ。

王家の諜報員、他に大事な仕事があるだろ。

まあ大勢で料理を囲むのは楽しいからいいか。

もうすぐ学院は夏の長期休み。

上の4人は領地に行って領地整備の指揮を執る。

真ん中の4人は秋の入学試験に備えて王都で受験勉強。

下の4人はキラで冒険者活動。

それぞれが充実した時間を過ごしているのが嬉しい。

食事を終えるとティータイム。

「伝えるのを忘れていたが、裏ギルド”穴2つ“関連でアガリー伯爵家他3つの伯爵家と7つの子爵家を取り潰した。これからも良い情報を見つけたら教えてくれ。」

宰相が嬉しそうに報告してくれた。

「おう。」

「教会が、“アガリー伯爵は創造神様のお怒りに触れた”と発表したのでアガリー伯爵邸跡は“創造神様の断罪“という観光名所になっているそうだ。」

なんのこっちゃ。



伯爵邸を破壊した時は土煙で見えないまま撤退したので、気になって見学に行ってみた。

旧アガリー伯爵邸の門の前には “史跡 創造神様の断罪“という大きな看板がある。

出来たばかりなのに史跡なの?

伯爵邸の門を潜ると見学受付と書かれたチケット売り場?

小さな小屋、恐らく元は門番の詰め所?に神官の服を着たおっさんが2人いた。

その向かい側には土産物屋?

「拝観料はこちらで納めて下さい。」

拝観料を払って奥に進むと邸内は遊歩道になっている。

”順路”と書かれた札に沿って進むと両側は色とりどりの花が咲いた花壇。

奥に進むと館があった所は大きな窪地になっていて、底が太陽の光を反射してキラキラと輝いている。

どうやら圧縮した時の熱で建物ごとガラス化したらしい。

立札に説明が書いてあった。

”創造神様のお怒りに触れ、光魔法でガラスに変えられた屋敷。創造神様の恩恵により小さな欠片でもガラスには浄化の効能がある。この跡地を1周すると幸運の訪れる確率が上がるかもしれないと言われている。“

“確率が上がるかもしれないと言われている“って何だ?

前世の政治家が何もする気が無い時に使う“前向きに善処する方向で検討する”ってやつ?

判らん。

見学の人も結構いて、窪地に沿って作られた柵から身を乗り出して覗き込んでいる。

中には膝と両掌を地面に付けて祈っている人もいる。

これって御利益あるの?

順路の札に従って1周回ると、“出口”の札がついた門。

その横には”ここを出ると中には戻れません“と書かれた大きな札が掛かっていて、神官らしいおっさんが座っている。

門を潜ったら土産物屋の中?

“創造神様の断罪キーホルダー“、”創造神様の断罪お守り“、”創造神様の断罪ペンダント“

どれにも小さなガラス片のような物が付けられている。

俺の魔力を感じるのでガラス化した縁の1部を砕いたらしい。

結構高い値段が付いている。

“ザ、創造神様の断罪”はこぶし大のガラスの塊。

めっちゃ高い。

その先にはリーズナブルなお土産。

“創造神様の断罪クッキー”、“創造神様の断罪饅頭”、“創造神様の断罪ペナント”

この世界にもペナントがあるんだと驚いた。

木剣もあった。

木で作られた剣に“創造神様の断罪”って書いてある。

大きく“創造神様の断罪”と書いてある皮の盾もあった。

なんのこっちゃ。

表に出ると、入り口の横だった。



受験勉強の為に真ん中の娘達がいるので王都屋敷が賑やかになった。

俺は1人錬金場に籠って娘達の杖作り。

奥様達の杖を見て、娘達も欲しがったから。

“魔獣を殴り倒す時の手応えが堪らないの“という奥様達の言葉で欲しくなったらしい。

400㎏の杖でも手応えがあるのかは疑問だけど。

材料にする漆黒檀の枝は沢山あるので問題無いし、4本作ったので練れている。

出来上がった杖を持った娘達と付き添いのリューラを連れて黒い森に出掛けると、5人は森の木を杖で薙ぎ倒しながら走って森の奥へと消えていった。

ちょっとだけ心配になって俯瞰を飛ばして見る。

普段は木の間にチラチラと地面が見える程度の視界しか無いが、今日は森の中に道がはっきりとした道が見える。

道の先では娘達が木を殴り倒しながらジョギング程度の速度で走っている。

付き添いのリューラは倒れて来る木をヒョイヒョイと避けながら娘達を追っていた。

かなり太い木でも1撃で倒せているので大丈夫そう。

5人の魔力波動は判っているから、後は夕方迎えに来るだけ。

屋敷に転移して奥様の膝枕でお昼寝した。

夕方になると黒い森の転移ポイントに転移して飛行魔法で娘達を迎えに行った。

転移で屋敷に戻ると、娘達は留守番していた奥様達に嬉しそうに杖の性能を話していた。

ブチュッと魔獣が潰れる感触が楽しかったらしい。



いよいよ真ん中の4人の入学式。

上の姉達とは違って全員平民なので目立つことは無かった。

首席になった6女のチャーが新入生代表の挨拶。

次席が8女クーロ、3席が5女のブロンで4席が7女のレード。

4人共魔法科なので、貴族科首席は5席。

魔法科が首席から4席までを独占したのは学院始まって以来初めてらしい。

魔法科出身の俺としてはめっちゃ嬉しかった。

チャーの挨拶が終わった瞬間に両側から腕を拘束され後ろから口を押えられたけど。 



「闇オークションに行かないか?」

ドラン義父さんから声が掛った。

「闇オークション?」

「オークションは大きく分けて3つある。商業ギルドが主催するのが国も認めている正規のオークション。鑑定士がきちんと鑑定しているので粗悪品や違法品はないので安心して買い物が出来る反面、手数料や税が掛かるので割高だし面白みは少ない。」

「面白み?」

「掘り出し物を見つける楽しみだな。王都の露店通りのような物だ。」

露店通りと聞いて俄然興味が湧いた。

竜魔鋼や魔法陣の本をタダ同然で買えたのが王都の露店通りだった。

貧乏性の俺は安く買えると言う言葉に弱い。

「盗品や違法薬品、奴隷のような明らかに法に反する物は地下オークションと呼ばれる極秘に開催されるオークションで販売されるが、ここは出品者も参加者も犯罪絡みの悪質商人や特殊な性癖を持つ変態貴族など日常的に違法行為をしている者ばかりなのでトラブルも多い。まともな人間は絶対に行かないな。」

「大金を持って行きたい場所じゃなさそうだね。」

「参加者は皆腕自慢の護衛付きだ。」

「まあそうなるね。」

「正規のオークションと地下オークションの中間が闇オークション。身元の明らかな常連客にだけこっそりと開催が伝えられるオークションだな。一応鑑定士が鑑定をしているが、本物か偽物かの鑑定だけで、後は入札者の眼力次第。書籍や古代遺物みたいに好きな人間にとってはお宝だが、興味の無い人間にとっては只のゴミというような物が多い。出品した者にとってはお宝でもとんでもなく安い値段しか付かない事もあるから最低入札価格を出品者と主催者の相談で決められている。基本的に最低入札価格は正規オークションの3分の1程度と思って良い。出品するのは殆どが急いで金を作りたい者や、こっそりと売りたい者だ。もっとも出品者の身元はしっかり調べられるから盗品が持ち込まれる事は殆ど無い。皆が欲しがる物は商業ギルドのオークションの方が確実に高く売れるから、一部の者だけが欲しがるような珍しい物が出品されるので面白いと言う事だ。」

それなら行ってみたい。

「俺も行けるの?」

「私が紹介者になるから問題は無い。」

「奥様達は?」

1人でのお買い物にはまだ不安がある。

「女性の前では買い難い物もある。たまには男同士で楽しく買い物と行こうでは無いか。」

「はい。」

「開催は3日後の夕方だ。場所が離れている可能性があるから昼過ぎに迎えに来る。奥様達には内緒だから適当な事を言って誤魔化して置け。」

「はい。」



ふと気が付いた。

オークションって現金払いだよな。

俺、お金を持ってない。

「お小遣いが欲しい。」

我が家の財務卿であるレイナにおねだりした。

「何に使うの?」

「奥様達に内緒で闇オークションに行く。」

「はいはい。誰と?」

「ドラン義父さん。シャリーには特に内緒なんだよ。」

「だってさ。」

「父さんはいつも訳の分からない物を買って母さんに怒られるのよね。」

シャリーが笑っている。

「闇オークションだと入り口で現金を確認されるから、多めに持って行きなさい。SSランク冒険者がこの程度の金しか持っていないのかと思われたら我が家の恥ですからね。」

レイナがずっしり重い金袋を渡してくれた。


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