38 奥の院は不可侵領域
岩山に降りて少しの間眠った。
夜明けと共に起きて探知魔法で周囲を確認する。
どうやら全て倒せたらしい。
あまりにも早いと拙い?
いや、実力を示すには早い方が良いか。
依頼金は前払いだから値切られる事も無い。
朝食を摂って、大門の開門時間に合わせてドウデルの王都へと飛んだ。
大門の近くに着陸する。
「SSランク冒険者キラだ。」
ミスリルのギルドカードを示したら、すぐに門を通してくれた。
そのまま真っ直ぐに冒険者ギルドに入った。
「SSランク冒険者キラだ、ギルマスに会いたい。」
「ご案内します。」
カウンターのお姉さんが2階のギルマス室に案内してくれた。
「どうした、何かあったのか?」
「討伐が完了したので、引き渡しの立ち合いをお願いします。」
ギルマス相手には冒険者言葉。
「待て待て、ワイバーンの巣は500㎞の彼方だぞ。」
「飛べば1時間も掛かりません。」
「キラなら500㎞も1時間なのか。しかし、ワイバーンの討伐も終わったとは本当か?」
「雄5頭と雌11頭を討伐しました。」
卵とキラキラ光る何かについては黙っていた。
「何だと、16頭もいたのか?」
「討伐料は1頭白金貨500枚なのでこれから王宮で確認して貰おうと思って立ち合いをお願いしに来ました。」
「そ、そうか。判った、すぐに出るから少し待ってくれ。」
ギルマスと一緒に王宮へ向かった。
王宮に着くとすぐに控室へと案内される。
暫くして陛下セットがやって来た。
「どうした、何か必要な物があったか?」
「いや、討伐を終えたので報告に来た。」
宰相相手には将軍言葉。
「待て、討伐に出たのは昨日の夕刻だぞ。今はまだ朝、500㎞の道のりを超えてワイバーンを討伐するには早すぎるであろう。」
「冒険者の秘匿だが、俺は500㎞を1時間で飛べる。現地に行ってワイバーン16頭、巣11を処分して先程戻って来た。」
「・・・・。」
「討伐したワイバーンの確認と、買い取りの2頭を決めて欲しい。」
「判った、訓練場で見せてくれ。」
陛下セットと共に王宮の騎士団訓練場に行った。
「ワイバーンを出せ。」
「承知。」
魔法袋から出す振りをしてアイテムボックスから次々とワイバーンを出して訓練場に並べて行く。
「首が付いているのは雄、首の骨が折れている。首を切り飛ばされているのが雌、雌の血は保存瓶に入れたので雌の買い取りの場合には血も引き渡す。」
「キラはもう弱くなっていると言ったのは誰だよ。キラが弱くなったんじゃなくて子供達が強くなり過ぎただけじゃねえか。」
騎士団長のおっさんがブツブツ言っている。
陛下も唖然としている。
「討伐は16頭と確認した。買い取るのはこの雄1頭とこの雌1頭。他は仕舞ってくれ。」
「承知。」
買い取りの2頭を残してアイテムボックスに収納し、先程の部屋に戻った。
「16頭で討伐料が1頭当たり白金貨500枚なので白金貨8000枚、買い取り2頭で白金貨3000枚、合計で白金貨1万1千枚。間違いないな。」
宰相がもう一度確認を求めた。
「確認した。」
「直ぐに清算書を作らせるので暫く待ってくれ。」
「承知。」
「ところで、雌は全て1撃で首を切られていた。ワイバーンは最弱とは言え竜種。1撃でワイバーンの首を飛ばせるほどの武器とはどのようなものじゃ? 出来れば見せて貰いたい。」
「冒険者の秘匿と言いたいところだが、ミュールでは結構有名なので見せましょう。」
アイテムボックスから大斧を出した。
「ちょっと触らせて貰っても良いか?」
騎士団長が身を乗り出して来る。
脳筋の前に武器を出したらまあそうなるな。
「重いから持てないぞ。」
床に大斧を置く。
「儂をバカにするのか。」
言いながら床に置いた大斧の柄に手を掛ける。
柄は持ちあがるものの斧の部分は持ちあがらない。
「魔法登録してあるので俺以外の者には本来の重さになる。」
「素材は何だ?」
「竜魔鋼だ。」
「確かに竜魔鋼ならこの重さも納得できるが、竜魔鋼は加工できないと聞いたぞ。」
「騎士団長の剣でも傷1つ付かない程硬い。上の娘達3人の武器も竜魔鋼だ。」
「キラ閣下が作ったのですか?」
加工の話をスルーしたのに魔術師長が突っ込んで訊いて来た。
「まあ魔術師の秘伝という事でこれ以上はお許し願いたい。」
「3人と申したが、上の娘御は4人であろう。他の1人とはルナ侯爵か?」
「ご明察恐れ入る。ルナの武器は素材も秘密なのでご勘弁願いたい。」
「娘御達の武器もこのように大きいのか?」
「俺の武器よりも1回り大きいな。」
「なんと、・・・。」
「他の子供達にも武器を作ってやるのか?」
「魔法だけでも十分な攻撃力があるので、今の所は欲しいとは言って無い。欲しがったら作ると思う、娘達の身を守るのは親の役割だからな。」
「奥方達の魔法も凄いと聞いておるぞ。」
「4人共王立学院魔法科の優等生だし、攻撃魔法が好きなので練度が高い。杖を新しくしたのでコウスル軍が進攻した時よりも2段階ほど破壊力が上がっている。まあ娘達は武器を新調してあの時よりも3段階くらい力が上がっているから今は娘達の方が強いかな。俺の家族に手を出せば痛い目に合う事は間違いない。」
「ともかく、キラ殿とはこうして良い縁を結べた。これはドウデル王国とミュール王国両国に取って良い事である。ミュールに戻ったら国王陛下にも宜しく伝えてくれ。」
「承知。」
ドウデル王宮
「どう見た。」
「半日かからずワーバーン16頭を討伐、しかも素材を全く傷めずに倒すのは圧倒的な力が無くては出来ぬ事。大陸唯一のSSランク冒険者の名は伊達ではありませんでした。」
「奥方達や娘達についてはどうだ?」
「どの国の諜報員もコウスル軍の進攻時に戦ったのは奥方1人と娘4人でキラは戦っていないと述べております。キラも対人戦は苦手と申していたので、事実であったと考えるのが妥当でしょう。」
「キラが多少誇張したにせよ、奥方達や娘達が相当な戦力なのは間違い無いですな。」
「となると、キラの血が欲しいな。」
「攫うと言うのはどうだ?」
「キラであれば娘の行方を突き止める魔法を持っているかも知れぬ。攫った事が発覚したらキラ家全員を敵に回す事となり、間違いなく国が亡ぶ。」
「諜報員達に命じてキラ家の情報を集めさせます。末っ子は唯一の男なので無理としても娘達は11人、何人かを嫁に貰えればドウデルの未来が明るくなるのは間違いありません。」
「キラの子供達が皆優れていると言う事はキラの血が優れていると言う事。娘達が成人前の今こそ絶好の機会。11人の娘達について徹底的に調査すべきです。」
「上の子供達は既に王立学院に通っております。他の子供達も王立学院に通う可能性が高いと考えるのが自然。娘達の相手として相応しい男達を留学生として送り込むのが宜しいかと思われます。」
「金に糸目は付けぬ、万全を期せ。」
「「「御意。」」」
「ただ今。」
「「「お帰りなさい。」」」
”お帰りなさい“は何回聞いても嬉しい。
「随分早いお帰りですが、依頼は達成出来たのですか?」
「おう、意外と簡単に終わった。そうだ、みんなに手伝って欲しい事があるんだ。」
「キラ様からお願いなんて珍しいですね。」
「うん、ワイバーンの巣に色々な物が落ちていたんだけど、俺は鑑定が使えないから何だか判らないんだ。みんなで調べて欲しい。」
汚れても良い服装に着替え、使用人達を連れて庭に出た。
じゃあ出すよ。
アイテムボックスからとりあえず巣を3つ出した。
鳥の巣と言ってもワイバーンが大きいので巣も直径が10m近くある大きな物。
「これがワイバーンの巣ですか。」
「随分大きな物ですね。」
「このあちこちに挟まっているものを調べるのですね。」
「うん。使えるものや売れるものを仕分けしたら、あとは竈の炊き付けかな。」
使用人達がワイバーンの巣を解体する。
奥様達は巣の中にあった石や骨、金属の鑑定。
俺は今日の当番に当たっているリーナの膝枕でみんなの作業を眺めている。
リーナが優しく頭を撫ぜてくれる。
ポカポカとした日差しの中でのんびり過ごすのは至福のひと時。
奥様達と結婚出来て良かった。
創造神様に感謝の祈りを奉げる。
「めっ!」
膝の内側に手を入れたら怒られた。
創造神様にお祈りしながらでも昼間の奥の院は不可侵領域らしい。
奥様達の鑑定結果を聞いて使用人が用意した箱の中に整理していく。
珍しい物は鑑定結果のメモと一緒に別の箱に入れて行く。
キラキラしているのは鉄鉱石系の安い鉱石が多いようだが、中には水晶系のものや宝石系の鉱石もあった。
ワイバーンの食べ残しらしい魔獣の牙や骨も多い。
俺には値打ちの判らない物ばかり、シバスチャンに丸投げした。
「お父さん、ギルマスがいらっしゃたわよ。」
朝食を済ませてリビングで寛いでいたらリーナに声を掛けられた。
「あっ。」
「どうしたの?」
「依頼完了の報告を忘れてた。」
「お父さんたら、しっかりしてよね。」
「おう。」
「はいはい。ギルマスをリビングに案内して。」
リーナがメイドに声を掛けた。
すぐにギルマスが姿を現した。
「いや、申し訳ない。完了報告をすっかり忘れてた。」
「嫁さんに膝枕して貰いながら謝られても誠意が感じられんぞ。」
「あははは。」
「それはともかくドウデルのギルドから討伐料と買取り代金の振り込みがあった。16頭も討伐したそうだな。」
「たまたま俺と相性が良かった?」
「王宮もキラの実力に驚いていたらしい。キラが半日でワイバーン16頭を討伐したと王宮から発表されたそうだ。」
「うん。」
16頭討伐したんだから間違ってはいない。
何か問題があるのか?
「自国以外に所属する武人や冒険者の成果を王宮が発表すると言うのは前代未聞だ。」
「そうなの?」
「自国ではどうにもならなかった問題を他国の者に頼むだけでも国の恥だからな。」
「はあ。」
判らん。
倒せる者に頼む事のどこが悪いんだ?
「キラは判っていない様だが、奥様方は理解しているぞ。」
「そうなの?」
奥様方の顔を見ると頷いている。
「えっと、どゆこと?」
「1つは軍人達にもっと訓練しろ。もう1つはお父さんには手を出すな、ですね。」
「流石はキラの奥様方、その通り。」
「・・・・。」
判らん。
「これが1週間か10日掛けて倒したなら、軍を動かすよりも安くついたで済む。SSランクとはいえたった1人の冒険者が半日で16頭全てを倒せるような相手を2年近く掛って1頭も倒せなかった軍部は一体何をしていたのだという批判が1つ。そして、キラは峠を過ぎた冒険者で恐れる必要は無いとか、何か不運な事が起って偶々コウスル侯爵軍が破れただけと主張している国内のキラ領再侵攻派に対する警告だ。」
「良く判らないけど、攻めてこないならそれでいい。」
「ともかくドウデル王宮でキラの評価が上がった事は事実だ。そうなると次に狙われるのは子供達だ。」
ギルマスの言葉に、思わず膝枕から身を起こす。
「それはダメだ。今のうちにドウデルを潰そう。」
「慌てるな。暗殺や誘拐をしたらキラ家が全力でドウデルを潰しに掛る事位判っている。そうなればドウデル王国に勝ち目が無い事もドウデル王家は今回の事で思い知らされた。狙いは娘達をドウデルの王家や高位貴族の嫁に迎える事だろう。」
それって俺に関係ある?
「・・・・。」
首を傾げた。
「要するに、イケメンの男や妙に優しい男が子供達に寄って来る可能性があると言う事だ。」
判らん。
男が女に好かれるために頑張るのは男の勝手だし、選ぶかどうかは娘の自由。
娘に近づいた男が爆散しない事を祈るしかない。
「・・・・。」
今度は反対側に首を傾げた。
「お父さんは子供達が気に入った相手ならどこの国の人でも良いし、獣人でも魔族でも良いの。子供達を信頼しているのよ。」
それだ。
流石はレイナ、俺が思っている事を言ってくれた。
「子供達は騙されるかもしれませんけど、お父さんとは違って報復するから問題無いわ。」
「そうですね。1生涯優しいままならそれで良いし、態度が豹変したら爆散するだけですから。」
シャリーの言葉に奥様達が頷いている。
「成程、言われて見ればその通りだな。」
ギルマスは納得したらしい。
「お父さんは騙されても笑って許してしまうので私達が頑張らなくてはいけませんの。」
「確かにそうだ、キラは自分には厳しいのに人には甘いからな。」
「でしょ~。」
ギルマスと奥様達が判り合っている?
判らん。
難しい事は奥様達に任せよう。
俺は直感に従っていれば問題無い。
週末になり、上の娘達が寮から戻ったので今日は庭で大バーベキューパーティー。
ドウデルで獲ったワイバーンの肉を焼くので、領地にいる娘達やお義父さん達も呼んだ。
声を掛けなかったら一生文句を言われるのは必至。
結婚してから奥様達に色々と教えて貰って俺も賢くなった。
勿論みんなを転移魔法で運んだのは俺。
屋敷で開くバーベキューでお客さんを持て成すのは主の役目らしい。
庭に作った7つの大竈には鉄板や焼き網が敷かれ肉や謎野菜が焼かれている。
「やっぱり美味しいわね。」
「本当に。」
料理人達が次々と焼き上げるワイバーン肉に皆が舌鼓。
奥様達の笑顔を見ると幸せになる。
「思う存分竜の肉が食えるのは嬉しいな。」
「これもキラのお陰だ。」
お義父さん達も笑顔で肉を頬張っている。
「うむ、やはり竜の肉は旨いな。」
「御意。」
何で陛下セットがいるんだ?
いつの間にか家族の間に混じってしれっと肉を食べている。
騎士団長は獰猛な顔をして大きな肉に齧り付いている。
魔術師長は歳のせいか少し控えめだが顔が緩んでいるので満足しているらしい。
今回はワイバーンの肉だけでなく、卵の試食会も兼ねている。
少し前に味見をしようと料理長達と卵料理に挑戦した。
まずは試しに料理長が木槌で叩いたが、びくともしない。
金槌で叩いても傷一つ無い。
大剣を叩き付けてもはじき返された。
それならばと俺がレーザービームを当ててみたが、流石はドラゴン種。
魔力を吸い込んでしまって傷1つ付かなかった。
料理長と相談した結果、強い力を加えて殻を割ると中身が流れ出る可能性が高いと言う事で大鍋の中で割る事になった。
どうせなら週末に予定していたバーベキューの時に、前世のテレビで見たマグロの解体ショーのようにみんなの前で割ろうと提案したら料理長が乗ってくれた。
テーブルから少し離れた所に大きな穴が掘られ、穴に炊き出し用の特大鍋がスポッと嵌め込まれている。
鍋の中には1.2m程ある大きな卵が鎮座している。
ドウデルで採ってきたワイバーンの卵。
食中毒防止の為に殻は浄化済み。
「それではワイバーンの卵を割ります。」
「「「おおっ!」」」
最弱とは言えワイバーンはドラゴン種。
家族も陛下セットもドラゴンの肉を食べた事はあるが、卵は食べた事が無い。
皆が卵の周りに集まって来た。
みんなワイバーンの焼き肉が入った皿を持ったままなのは流石?
焼肉を頬張りながら俺の卵割りを見学している。
卵割りに使うのは俺の大斧。
竜魔鋼製なので、硬い卵でも割れる筈、たぶん。
「行くぞ!」
地面に掘られた穴に固定された大鍋の中に鎮座するワイバーンの卵に向かって大きく振りかぶった大斧を振り下ろす。
ゴォン!
「「「おおっ!」」」
周りで見ていた奥様達や子供達、陛下セットから声が上がった。
とは言っても大斧の先が卵に食い込んだまま止まっている。
流石はドラゴン種の卵、竜魔鋼製の大斧の1撃でも割れていない。
身体強化を最大にして、てこの原理で揺すりながら大斧を引き抜くと、卵の殻に切れ目が入り、切れ目の端は微かにひびが入っている。
うん、ここまで来れば何とかなる。
アイテムボックスから楔っぽい竜魔鋼の欠片を出して割れ目に食い込ませた。
「ドナ、大槌を貸してくれ。」
「はい。」
ドナから大槌を受け取って楔を大槌で叩く。
コンコンコンコンコン。
ビビッ!
卵が2つに割れて中身がドロッと鍋に広がった。
殻を取り除くと巨大な黄身とプルプルした白身。
陛下が食中毒になったら大事なので、念の為に浄化を掛ける。
料理長が大きな柄杓で卵を掬おうとするが、卵に弾かれた。
柄杓で卵の弾力を確かめると、包丁で白身を切りトングで挟んで持ち上げる。
トングにつままれてプルプル揺れる様は堅めのゼリー?
大きな板の上に置いた白身を料理長が小さく切り分けて口に入れた。
みんながじっと料理長の口元を見つめる。
料理長が暫くの間、口をもぐもぐと動かしている。
やがてゴクンと飲み込んだ。
「味はどうだ?」
アシュリーお義父さんが料理長に尋ねた。
「何と言ったら良いのか判りませんが、生でも美味いのは間違いないです。」
「儂にも食べさせろ。」
「私もだ。」
「余にも切り分けよ。」
料理長が小さく切り分ける端から皆が摘まんで口に放り込んでいる。
俺も1つ貰って口に入れた。
???
何と表現したら良いのか迷う。
食感はナタデココ?
いやグミ?
味は似たようなものが思い浮かばないが、間違いなく美味い。
「美味しい。」
「うん、旨いな。」
「初めての味だが、私は好きだな。」
皆が味わっている横で料理長が2㎝程にスライスした白身を焼いている。
両面を軽く焼くと、端を切り取って味見。
塩を取ってパラパラと振ってからまた味見。
「どうじゃ?」
陛下が味見したくてうずうずしている。
「少々お待ち下さい。」
料理長が焼いた白身を小さく切り分ける。
「おお、先ほどとは別の料理のようだ。」
「これも美味しいわ。」
「私は焼いた方が好きかな。」
「どっちも美味いぞ。」
俺も1つ貰って口に入れた。
確かにこれも美味い。
料理長は残った白身を切り分けて別の鍋に移し、黄身に取り掛かった。
黄身に包丁を入れると白身とは違って君の中身がドロリと鍋の底に流れだす。
料理長が流れ出た黄身を小鍋に移して、スプーンで味見する。
皆が料理長の口元を見つめる。
料理長がちょっと首を傾げた。
「少し臭みがあります。香草を加えて火を入れた方が宜しいかと思います。」
生はイマイチらしい。
皆が料理長の腕の良さを知っているので生で食べてみようとする者はいなかった。
調理長が熱い鉄板の上で香草を炒め、黄身を垂らして混ぜ合わせる。
塩と何かの粉を加えてちょっと味見。
1つ頷くと、皆の皿に少しずつ乗せてくれた。
俺も食べてみる。
熱々のチーズケーキ?
今迄食べた事の無い味。
濃厚な感じなのに脂っぽく無いのでくどさは無い。
一言で言えば、美味い。
今日は味見だけ。
残った卵で料理長が色々な調理法を試して、来月卵料理の会を開く事になった。
体調不良で手抜きになってしまいました。
何とか第1部完結迄頑張りますのでご容赦下さい。




