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37 ニイタカヤマノボレ

王都屋敷の日常が戻って来た。

奥様達はポーション作りと杖を使った魔法の練習。

俺はどんどん増えるルナ達の領地代官や領軍幹部用に魔鉄素材で剣を作る。

時間が余れば黒い森で紅蜘蛛狩りと上級ポーション素材の調達。

日が暮れたらいつもの下着作りと洗濯。

そんな時に王都冒険者ギルドから呼び出しがあった。

「キラに指名依頼が来た。」

「はあ。」

「依頼はワイバーンを討伐して岩山の崖に作られた巣を撤去して欲しいというものだ。」

「ワイバーンですか。」

「赤竜や地竜を倒したキラなら出来る筈だ。」

いやいや、ワイバーンを拾った事はあるけど戦った事は無いぞ。

「はあ。」

「ただ、問題なのは依頼主がドウデル国王という事だ。」

「それが問題なの?」

何が問題なのか全然判らない。

「ワイバーンの巣は王都からかなり離れているし、確認されたのは2年前。しかも周辺に多少の被害は有るが、国を揺るがすような大きな被害が出ている訳では無い。つまり、大金を掛けて迄SSランクの冒険者に依頼する程では無いと言う事だ。」

「じゃあ何で?」

「恐らくは先のドウデル戦役で侯爵軍が壊滅した理由の調査であろう。」

「俺は何もしてないぞ。」

「ドウデル側は気が付いたら壊滅していたという報告だけで詳しい事が判っていない。諸外国からの情報もあるが、偽情報だと判断したらしい。キラが強力な魔法で壊滅させたか、娘達が本当に強いのか、いずれにせよキラの実力を見れば判ると思っているようだ。」

「はあ。」

めんどくさい事は嫌なんだけど。

「依頼料は白金貨1万枚、討伐したワイバーン1頭につき討伐料が白金貨5百枚で素材はキラの物。但し、状態の良いもの2頭は白金貨3千枚でドウデルが引き取るという条件だ。」

「状態の良い2頭?」

「恐らく死体の状態からキラの実力を測ろうと思っているのだろう。」

判らん。

判らない時は聞けば良い。

「受けた方が良いの?」

「冒険者ギルドとミュール王国としてはどちらでも良い。ただ、キラ侯爵家の立場なら2度とドウデルが進攻しないようにキラの力を見せつけるのは良い手だと思うぞ。」

領地に軍を向けられなければルナが安心して領地開発出来る。

「じゃあ受ける。」

ルナの役に立つなら引き受ける事に問題は無い。

ワイバーンと戦った事は無いけど、鳥さん相手なら何か手がある筈。

「判った。今回はドウデルのギルドに出された指名依頼なので、前回の様にこの場でサインという訳には行かん。ドウデル国王に拝謁してドウデルのギルマス立ち合いで契約を交わす事となる。ドウデルにはいつ到着出来る?」

「1週間後?」

キラまで転移が使えるので、1日か2日で行けるけど、転移魔法は秘密なので1週間後にした。

「判った。連絡しておくから、1週間後の昼頃にドウデルの冒険者ギルドに行ってくれ。」

「うん。」



1週間後、キラの領館に転移した。

「元気にしていたか?」

「みんな元気。私達はBランク、下の子達はCランクに上がったよ。」

「凄いな。」

「父さんは8歳でBランクだったじゃない。」

「偶々鳥さんを拾っただけだ。きちんと依頼をこなしてのBランクじゃないからみんなの方が凄いぞ。」

「えへへ。」

娘達の笑顔を見ると嬉しくなる。

「くれぐれも安全第1だ、無理をするんじゃないぞ。」

「はい。父さんは指名依頼でしょ。ハンカチは持った? 鼻紙は大丈夫?」

「おう。レイナが揃えてくれた。お守りの刺繍入りハンカチもちゃんと持ってる。」

「ドウデルの王都では気を抜いちゃダメよ。」

「おう、やばいと思ったら逃げる。」

「ドウデルの王都はミュール川を500㎞下った所よ。大きな街らしいから見落とさないとは思うけど、道に迷ったらその辺の人に聞くのよ。」

「おう。」

ブロン達やナイ達8人に見送られて颯爽と領館を出た。

あれ?

何となく前回の指名依頼を思い出す。

娘達に心配を掛けているらしい。

指名依頼は2回目、きっと大丈夫、な筈。



ミュール川の上を高高度で飛ぶと、1時間程で大きな街が見えて来た。

大陸4大国に数えられるドウデルの王都なだけあって高い城壁に囲まれている。

北側にはさらに堅固な城壁を持つ王城らしき区域。

王城の北半分に4本の塔を備えた王宮らしき建物がある。

塔の形状から恐らく結界塔だろう。

王都の南側、少し離れた森の傍に着陸した。

俺の飛行魔法は知れ渡っている筈だが、わざわざ見せる必要は無い。

もしも魔力を見る事が出来るものが居れば魔法陣を解析される可能性もある。

どんな魔法でも見せないに越した事は無い。

初めて来た国で油断はダメ、絶対。

軽くジョギングしながら大門に向かった。

大門の前には商人達の馬車が列をなしている。

横にある貴族用らしい空いている門に向かった。

ギルマスから貴族用の門を使えと言われたから。

俺は貴族じゃないけど、門は貴族用らしい。

「ミュール王国SSランク冒険者のキラだ。」

ミスリル製のギルドカードを門衛に掲げて声を掛ける。

王都では前世っぽい普通の言葉だが、敵地に乗り込んだ時は公特時代に養った将軍言葉。

胸を張って偉そうに声を掛けた。

これもギルマスに言われたから。

SSランク冒険者は侯爵待遇とか何とか言っていた。

めんどくさかったので半分聞き流したので侯爵待遇が何かはよく分かっていない。

「少々お待ち下さい。」

4人の門番の一人が横にある詰所らしい建物に走り、すぐに上等な服を着た士官らしい男と戻って来た。

「恐れ入りますが、ギルドカードを拝見させて頂きたく存じます。」

士官らしい男にギルドカードを渡した。

「SSランク冒険者キラ閣下と確認致しました。連絡を受けておりますので、ドウデル冒険者ギルドにご案内させて頂きます。」

「おう。」

カードを受け取って士官らしき男と門衛2人に囲まれてギルドに向かった。

俺、警戒されてる?

何となく連行される犯人のような気になる。

歩いて数分で見慣れた看板のある建物に入った。

「SSランク冒険者キラ閣下をご案内したとギルマスに伝えよ。」

士官らしい男がカウンターのお姉さんに大きな声で話し掛けた。

ギルドにいた冒険者達が一斉に俺を見る。

カウンターのお姉さんが横にある階段を走って登ると、すぐに厳つい髭モジャの男が階段を降りて来た。

「ドウデル冒険者ギルドのギルマスを務める、クーマモンだ。ギルマス室に案内する。」

確かに体型も愛嬌のある顔もク〇モンそっくり。

「おう。」

クマに案内されて2階のギルマス室に行った。

「陛下より提示の有った条件はこれだ、確認してくれ。」

ギルマスは相手のランクに関係なく冒険者には砕けた言葉遣い。

いざという時には総指揮官として街にいる全冒険者に指示を出す役割なので当然。

ミュールのギルマスから説明された通りの書類を見せられた。

「この書類に陛下とキラがサインして、立会人の俺が確認すれば依頼の受諾となる。」

「敵対行為や背信行為があった場合の解除はどうなっている?」

「敵対行為や背信行為?」

「ドウデルが2年前に娘の領地を攻めたのは知っているな。」

「おう。」

「その報復として俺の命を狙う可能性がある。俺を攻撃した場合はたとえ相手が陛下であろうとも俺は反撃するぞ。」

「陛下が敵対する事は無いと思うが、跳ね上がり者が襲う可能性はある。その場合は反撃しても問題無いし、一応ギルドの調査案件とはなるが、依頼国関係者の攻撃を受けた場合は依頼料の返金無しで指名依頼の解除が出来る。」

「依頼の受諾前に攻撃を受けた場合はどうなる?」

「Sランク冒険者への指名依頼は相談料が白金貨1000枚だ。指名依頼を受けるか断るかは冒険者の自由。断った場合は白金貨1000枚が相談料として冒険者ギルドの預かり金から支払われる。受諾した場合は依頼料の白金貨1万枚が即座に支払われる。」

タダ働きにはならないらしい。

これもミュールのギルマスに言われた事。

俺が指名依頼を受けると皆が色々と心配してくれる。

それだけ俺が愛されているから。

決して俺が何かやらかすと思っているからでは無い。と思う、たぶん。

奥様達が作ってくれたお守りの刺繍入りハンカチがあるから大丈夫。

「判った。」

「依頼書へのサインは王宮で陛下とキラが対面した席で私が立ち合って行われる。案内するので同道してくれ。」

「承知。」



クマが用意した馬車で王宮に向かう。

王宮に着くと、執事らしい男2人に控室に案内された。

「こちらでお待ち下さい。」

開いたドアの向こうは30畳程ある広い部屋に豪華なソファーセットが置かれている。

「部屋を替えてくれ。」

「お気に召さないでしょうか?」

「天井裏に暗殺者が5人潜んでいる。全員殺しても良いならこの部屋でも良いぞ。」

「なんと、それは誠でしょうか?」

「天井裏のバカ共に告げる。部屋を移るが、貴様らの魔力波動は記録した。次の部屋に近づいたら即座に殺す。」

天井裏の魔力波動に揺らぎが出る。

俺の声が聞こえたらしい。

「部屋に案内して貰おうか。」

執事が少し離れた部屋に案内してくれた。

「こちらで宜しいでしょうか。」

探知魔法には怪しい気配は無い。

「結構だ。陛下と面会する部屋の天井裏や床下には暗殺者や騎士を入れぬようにしてくれ。同席する者は5m以上離れる事。俺に対する敵対行為があった場合は敵対した者だけでなくその周囲にいる者も殺してしまう可能性がある。同席するのは絶対に敵対しない者か、死んでも陛下が困らない者だけにしてくれ。」

「承知致しました。」

執事の1人が下がって、部屋の中は俺とギルマス、執事1人、メイド4人になった。

クッキーに舌鼓を打ちながらお茶を楽しんで待っていると、天井裏に人の気配がした。

「天井裏に鼠が来た。」

「なんだと。」

ギルマスが驚いている。

「恐らく俺の力を図る為にど素人を天井裏に入れたらしい。」

「ど素人?」

「どんな手を使って殺すのかを調べる為だろう。」

「どうするんだ?」

「隣の部屋の天井裏にさっきの鼠が4人潜んでいる。近づいたら殺すと警告したから遠慮なく殺させて貰うぞ。」

部屋の隅に控えている執事の顔を見ながら宣言した。

”気弾10発“

ドドドドドドドドドド、ボンボンボンボンボンボンボンボンボンボン。

「ギャ~!」

「あれは素人鼠の声だ。近くで爆発が起こったので驚いたのだろう。殺したのはさっき警告した鼠だけだ。壁に幾つか穴が開いたがそちらの責任、天井裏を検分して陛下に報告しろ。契約の場の天井裏や床下に鼠を入れたら同じ事になるぞ。」

執事が慌てて部屋を出て行った。

壁や天上の隅に開いた10個の気弾の穴から微かに血の匂いが漂って来た。

恐らく隣の部屋に血の匂いが充満したのだろう。

「血の匂いがして来た。済まないが、部屋を替えてくれ。」

メイドに声を掛けるとメイドの1人が部屋を出て行き、すぐに戻って来て少し離れた部屋に案内された。



移動した部屋で2時間待たされた。

王族や貴族は何をするにも時間が掛かるから嫌い。

ちゃっちゃとせえや。

心の中で毒づいていると執事が部屋に戻って来た。

「ご案内致します。」

漸く国王と会えるらしい。

案内の執事に付いて行くと大きな扉の前に案内される。

「SSランク冒険者キラ閣下、ご入場。」

扉の向こうから大きな声が響き、扉が開いた。

探知魔法で詳しく調べるが、天井裏や床下に人の気配は無い。

中央には赤いじゅうたんが敷かれ、絨毯から遠く離れた壁際に貴族らしい男達が張り付いている。

部屋の奥には1段高い舞台があり、玉座らしい豪華な椅子が置かれて俺より少し年長に見える男が腰を下ろしていた。

後ろには護衛らしい騎士が2人並んでいる。

舞台の下には髭を生やした偉そうなおっさんや執事っぽいおっさん、魔術師らしいおっさんが赤絨毯の横に控えて居る。

探知魔法の精度を高めてゆっくりと赤絨毯を進んだ。

玉座から7~8m程の所で止まり、拳を胸に当てる。

「SSランク冒険者、キラだ。」

俺が跪かなかったせいか貴族達が騒めく。

SSランク冒険者の事を知らない貴族が多いらしい。

「ドウデル国王ツギワ=ドウデルである。」

一言だけで国王が口を噤む。

「キラ閣下にはニイタカ山頂のワイバーン討伐を依頼したい。承諾頂けるであろうか。」

王の挨拶に続いて舞台の下にいるおっさんが声を張り上げた。

ニイタカヤマノボレが戦闘開始の合図で、旨く行ったらトラトラトラ?

奇襲した方が良いのかな。

細かな事は書面に書かれているので、この場は国王と俺が契約を交わす単なる儀式。

ついつい余計な事を考えてしまう。

「承知。」

俺も大声で答える。

謁見場では王との距離が遠いので大きな声で話す。

ミュールのギルマスに教えられた作法。

俺の前に小さなテーブルと椅子が置かれた。

国王の前にもテーブルが置かれた。

執事っぽいおっさんが俺の前のテーブルに2通の書類を置く。

舞台上でも国王の前のテーブルに書類が置かれた。

書類が打ち合わせ通りの内容かを確認してペンを取りサインする。

舞台上でも国王が書類にサインした。

俺のサインが終わった書類を持った執事が舞台に向かい、国王のサインした書類を持った執事が舞台を降りて来る。

俺の前に国王のサインが入った書類が置かれる。

文面はさっきサインした書類と全く同じ。

書類を確認してサインする。

舞台上では俺がサインした2通の書類に陛下がサインした。

俺がサインした書類を持った執事が舞台に上がり、陛下の前に置く。

陛下がサインした2通の書類が俺の前に置かれ、俺がサインを確認する。

出来上がった3通の書類がギルマスの前に置かれ、ギルマスが内容を確認して3通の立会人欄にサインする。

3者のサインが終わった書類が国王、俺、ギルマスの前に置かれ、それぞれが確認して儀式が終わった。

うん、大国の王さん相手はめんどくさい。



控室に戻ると暫くしてさっき司会をしていたおっさんが入って来た。

「陛下のお越しである。」

立ち上がって陛下を迎える。

陛下が奥の席に着いた。

陛下の後ろには厳ついおっさんとローブの爺さん。

ミュール王国と同じ陛下セット?

とすれば目の前に座っているのは宰相?

「宰相を拝命しておるコール=スローだ。本日は諜報部が迷惑を掛けた。」

「俺の警告を無視した者の自業自得と諦めてくれ。これからも襲い掛かって来る者や怪しい動きをした者には即座に反撃する。余計な行動は控えさせて貰いたい。」

「承知。2年前のコウスル軍を迎え撃ったのもキラ閣下の魔法か?」

「俺は広域魔法が苦手なので、見ていただけだ。奥様達や娘達は大勢の軍勢と戦うのが初めてだったので楽しくなり過ぎて敵を瞬殺してしまったから、後で家令に滾々と説教された。」

「家令に説教であるか?」

「娘の領地はまだまだ人材が足りないので、家令からは全員を捕虜にするように頼まれていた。」

「全員を捕虜にするのは無理であろう。」

「方法は秘密だが、初撃で殺さなければコウスル軍全員を余裕で捕虜に出来た。その為の縄や人員、運搬用の荷車を大量に用意していたのに無駄になったので家令に怒られたのだ。」

「キラ家の者はそれ程に強いのか?」

「少なくとも人間相手なら俺より強いな。俺は魔獣専門だから人間相手は苦手だ。」

「ウスラ戦役ではキラ閣下1人で精鋭8千を捕虜にしたと聞くぞ。」

「あの時は俺しかいなかった。今は俺より強い奥様達や娘達が居るから手を出したら邪魔をするなと怒られる。」

「奥様方やお嬢さん達の方がキラよりも強いのか?」

「相性の問題もあるが、軍勢が戦う相手としてはうちの家族は最悪だな。4~5人いれば10万、20万の軍勢でも瞬殺出来る。家令に怒られたので、今は捕虜に出来るよう手加減する練習をさせられている。」

ちょっと盛りすぎかもしれないが、今回はドウデルをビビらせに来たのでこれくらいで丁度良い。

「・・・ワイバーン討伐についてであるが、討伐したワイバーンの輸送はどうするつもりだ?」

「俺の魔法袋なら容量が大きいので入る。あっ、ミュールの冒険者や貴族は知っているので伝えておくが、魔法袋や武器は全て魔力登録されている。奪おうとするのは命を無駄にするだけと警告しておくぞ。」

「キラは魔力登録も出来るのか?」

「SSランク冒険者だからな。」

魔力登録と冒険者ランクは関係ないけどドウデル国にはキラ家に対する恐怖感を植え付けておいた方が良い。

「ワイバーンはどのようにして討伐するつもりだ?」

「戦うのは初めてなので判らん。」

「以前ワイバーンを倒したと聞いておるぞ。」

「ワイバーンが俺のバリアに突っ込んで勝手に落ちただけだ。鳥さんとの戦い方は色々あるので今回は試しながら良い方策を見つけるつもりでいる。」

「邪魔にならないような遠くからなら討伐を見学しても良いか?」

「ワイバーンは気配に敏感らしいので余程遠く無いと見学者が襲われるぞ。見学者を助ける契約はしていないので襲われても見殺しにする。それで良ければ見学しても構わん。」

学院時代に魔獣学の授業でワイバーンについて色々と教えて貰った事が役に立ちそう。

「承知した。今ワイバーンの見張りに就いている者達にそのまま見張りを継続させる。長い間見張りの仕事をしているのでワイバーンを刺激する事は無い筈だ。」

「判った。」

「こちらで用意する物はあるか?」

「無い。」

「出発は何時になる?」

「直ぐに出発する。」

敵の城で泊まるより魔獣の森で泊まった方が安心して眠れる。

敵地で油断はダメ、絶対。

「ニイタカ山は王都の東500㎞、東峰と主峰の二つの峰を持つのですぐに判る。見張りの報告では東峰の崖にワイバーンの巣が4つあるそうだ。4つとも破壊して欲しい。」

「承知した。」

宰相が陛下を見る。

「無事を祈る。」

陛下は最後に1言だけ言葉を掛けて来た。

「感謝する。」

礼を言って陛下の退出を見送った。



王都の外に出るともう日が傾き始めている。

東に向かって飛ぶとすぐに前世で登ったサヌカイトで有名な二上山のように二つの峰のある山が目に付いた。

探知魔法を強化すると、大きな赤い点が幾つも見える。

東峰にワイバーンの巣が4つと聞いていたが、もっと多い。

主峰にも3つの大きな赤い点が見えた。

ワイバーンの巣にいるのは基本的に雌1頭。

雄は幾つもの巣を作って雌を誘い、巣に住み着いてくれた雌の所を巡って子作りすると学院の魔獣学で習った。

ワイバーンが卵を産むのは年に1回、1個だけ。

丁度今が産卵の季節と聞いている。

雌が卵を産むと雄はせっせと餌を運ぶらしい。

雄が餌を運んで来ないと雌は卵や雛を食べてしまうので、何頭もの雌と交配した雄はそれこそ朝から晩まで狩りをしてお嫁さん達の巣に餌を運ぶらしい。

4人の奥様達が居る俺としては何となく切なく感じてしまう。

4頭も奥さんが居たら大変だと思う。

まあ俺の場合は奥様達に養って貰っているからちょっと、いやだいぶ違うか。

そんな事を考えていたらワイバーンが高速で近づいて来た。

“カウンターバリア”

ゴォン!

綺麗に決まってワイバーンが落ちて行く。

急降下してアイテムボックスに収納した。

多分周囲を警戒していた雄なのだろう。

襲い掛かって来てくれれば倒すのは楽だが、この時期の雌は巣を離れる事は無いと聞いている。

さてどうしようかと思ったらまたワイバーンが接近して来た。

“カウンターバリア”

ゴォン!

またしてもカウンターが旨く決まってワイバーンが落ちて行く。

急降下してアイテムボックスに収納する。

雄はこの手で倒せそうだと気が付いて巣の近くを飛び回っていたら更に3頭のワイバーンを倒せた。

暫く山の周囲を飛んでみたが襲って来るワイバーンが無いままに日が暮れた。

恐らく雄は5頭だけと判断して地上に降りて休憩する。

雌が巣を離れないなら巣に乗り込むしか倒す手は無い。

アイテムボックスから出したサンドイッチを齧りながら雌を倒す方法を考える。

探知魔法で見ると大きな赤い点はあちこちに1つずつ点在している。

1つの巣に1頭だけなら乗り込んで倒せば良い?

隠蔽の練度も上がっているので夜なら気付かれない?

転移で乗り込んで大斧で首チョンパ?

転移で乗り込むには巣を視認出来ないと無理。

とりあえず夜のうちに隠蔽を使って乗り込んでみる事にした。

大斧を担ぎ、隠蔽を使いながら飛行魔法で巣を目ざす。

大きな赤い点が近づいた所で大斧を振り被る。

巣に着地したとたんにワーバーンの首に大斧を振り抜くとワイバーンの首が飛んで血飛沫が上がる。

勿体ない。

慌てて血抜き魔法で血を集めて保存瓶に収納した。

ワイバーンの血は上級ポーションや特殊な薬品の素材、垂れ流すなんてもってのほか。

前世の貧乏性は健在。

暗視で巣の中を確認すると1m程もある大きな卵とキラキラ光る小さなものがいっぱいある。

確認は後にして、巣を丸ごとアイテムボックスに収納した。

所要時間は5分、これで倒せるなら簡単。

山を回り、片端から巣を襲撃してワイバーンを討伐、巣を丸ごと収納していった。

11個目の巣を収納した所で大きな赤い点が無くなった。


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