35 吉良家と言えば“殿中で御座る”
翌朝早く、トガリーさんに見送られて森に向かった。
瘴気が見えるので色の濃い方向に行けば瘴気の大元に辿り着く筈。
簡単に考えていたが、世の中そうは甘くない。
俯瞰を飛ばしてみたが、木々の葉がびっしり生い茂っているので森の上空からでは地面が全く見えない。
仕方が無いので瘴気の濃さに注意しながら歩いて森の奥に向かう事にした。
ふと足元を見ると膝のあたりまで瘴気が纏わり付いている。
地面に広がった瘴気が足元から徐々に這い上がって来たらしい。
体調に変化は無いが、何となく気味が悪い。
時々結界を張って休み、自分に浄化を掛けて這い上がって来た瘴気を追い払う。
創造神様の祝福があるので大丈夫とは思うが瘴気の中を歩くのは何となく嫌な気分だし、足元から体に纏わりつきながら上がって来る瘴気が顔まで覆ったら何かが起こるかもしれないという恐怖感がある。
瘴気が腰辺りまで来ると立ち止まり、結界を張って自分に浄化を掛ける。
何度も浄化を繰り返しながら森の奥へと進んだ。
森の奥に入るに従って瘴気が濃くなり、段々と足元が見難くなる。
目を凝らしても地面が全く見えなくなった。
前方に浄化を発動しても地面が見えるのは一瞬だけ。
すぐに周りから瘴気が押し寄せて地面が見えなくなる。
探知魔法でも地面の起伏までは判らない。
穴や木の根を避ける為に剣で足元を探りながら歩かざるを得なくなり、進む速度が極端に落ちる。
日が暮れて来た。
多少暗くても見えるが、知らない森の中で瘴気に包まれた暗闇を進むのは危険。
木の上に登り、結界を張って眠った。
翌日も日の出と同時に歩き出して瘴気の発生源を目指す。
瘴気が段々と厚くなりひざ下まで瘴気で覆われた時、前方に嫌な気配を感じた。
探知魔法の精度を上げるが、瘴気のせいかまるで反応が無い。
嫌な気配に向かって進むと、正面に全体が瘴気に覆われた木?らしきものが見えた。
右頬にチリチリ感を感じて反射的に後ろに跳んだ。
目の前を瘴気の棒?が通り過ぎる。
”浄化“
瘴気の棒に向かって浄化魔法を撃つと瘴気が晴れて真っ黒な木の枝が見える。
”気弾“
木の枝に向かって“気弾”を撃ったが、木の枝には変化が無い。
それどころか鞭のようにしなりながら俺に向かって打ちかかって来る。
”気弾“
飛び退きながらもう一度気弾を撃つ。
注意深く見ていたら、気弾が枝にす~っと吸い込まれて消えた。
“光弾”
瘴気なら光魔法に弱い筈と思って“光弾”を撃ったが、“気弾”同様に吸い込まれて消えた。
魔法が効かない?
ならばと縮地で飛び込んで雷剣を振うと木の枝がスパッと切れて飛んだ。
魔法はダメだが物理攻撃は効くらしい、と思った瞬間に違う方向から瘴気の棒が襲い掛かって来る。
慌てて飛び退きながら雷剣を振う。
ガキッ。
瘴気を纏ったままだったからなのか、さっきよりも太かったからなのかは判らないが、枝を切り飛ばすどころか剣を弾かれた。
ワイバーンの皮を巻いていなければ剣を握っていられなかった程の衝撃。
“浄化”
瘴気の棒を浄化すると靄が晴れて枝が見えた。
さっきより太い枝に浅い傷が付いている。
雷剣を鞘に戻し、大斧を取り出した。
大斧を振り被り、縮地で飛び込んで大斧を振り抜く。
1撃で切り飛ばせた。
やった、と思う間もなく次の枝が襲って来る。
縮地や短距離転移で動き回りながら枝を切り払うこと3時間余り、数百本の枝を切り飛ばすと漸く枝の襲撃が収まった。
水筒を出してレイナが用意してくれた果実水を飲む。
疲れた体に甘い果実水が浸み込んで体力を回復してくれる。
個人の感想です。
木の魔獣の弱点は根元にある顔と言うのがファンタジーの定番。
どこかに顔がある筈だ。
幹に浄化を掛け乍ら太さ2m程の巨木の幹を1周回ったがどこにも顔は無い。
創造神様はファンタジー小説の読み込みが足りないらしい。
顔は見つからないが、木の魔獣なら切り倒せば良い。
キヲ切り倒すのは樵の仕事。
俺はユサクだ、俺はユサクだ。
自己暗示を掛ける。
大斧を大きく振り上げ、木の根元に振り下ろす。
カ~ン!
澄んだ音がする。
めっちゃ硬いが大斧の刃が幹に食い込んで浅い傷を残している。
大斧の新必殺技“ユサクは木を切る“は効果があるらしい、今思いついたばかりだけど。
黒い木が微かに揺れている。
嫌がってる?
高校時代に担任が書いてくれた大学入試の推薦状を思い出す。
“人の嫌がる事を率先して行う性格の良い生徒である“
嫌がっているならこのまま続ければ良い。
「ユサ~ク~は木~を切る~♬」
気合を入れて大斧を巨木の幹に叩き付ける。
黒い木の幹に付いた傷が僅かだが深くなっている。
これなら結構早く倒せそう。
そう思って幹の傷を見ていたら、少しずつ傷が浅くなっていく。
木の魔獣は再生スキルを持っているらしい、ヤバい。
「ユサ~クは木~を~切る~♬」
もう一度気合を入れて大斧を巨木の幹に叩き付ける。
治り掛けた傷が少し深くなる。
「ホイホイヘ~、ホイホイヘ~♬」
更に傷が深くなる。
めっちゃ硬いが再生より早く傷を広げれば、時間は掛かっても切り倒せる筈。
「ユサ~クは木~を~切る~♬」
「ホイホイヘ~、ホイホイヘ~♬」
気合を入れ乍ら木の幹に大斧を叩き付け続ける。
お腹が空いて来た。
アイテムボックスから料理長謹製のサンドイッチを取り出して食べながら大斧を振る。
大斧を片手でも振れるようにしておいて良かった。
喉が渇いた。
アイテムボックスから出した水筒の果実水を飲みながら大斧を振り続ける。
木の幹から黒いドロッとした液体が流れ始めた。
かなり深い所まで刃が食い込んでいるらしい。
頑張れ、俺。
気合を入れて大斧を振り続ける。
空が赤くなって来た。
夕焼け?
「夕焼~け、小焼けぇ~の、樵さ~ん~♬」
やけくそで訳の分からない歌を歌いながら大斧を振り続ける。
声を出していないと瘴気で気分が落ち込みそうな気がしていた。
暗くなって良く見えないけど黒い液体が増えたような気がする。
どれくらい時間が経ったのかも判らないまま大斧を振り続ける。
黒い液体の流れる量が減って来た?
俺の体力も怪しくなって来た。
頑張れ、俺。
前世で遊んだパチンコの必勝法を思い出す。
粘りと頑張り。
粘って大当たり、頑張って確変。
気力を振り絞って大斧を振り続ける。
やばい、やばい、やばい。
おしっこが洩れそうになった。
片手でズボンの前を空け、立ちションしながら大斧を振り続ける。
“木の根元おしっこを掛ける男”、ふと今の絵面に気が付いてあたりを見回した。
立小便禁止の立札は無い。
良かった。
頑張れ、俺!
ただひたすら大斧を振り続ける。
ゴォグゥガァ~ン!
大音響と共に黒い木が倒れた。
「はあ~っ。」
地面に腰を降ろして空を見上げる。
空が白っぽくなっている。
「夜明~けはぁ、ち~かい~♬」
疲れ過ぎて脳みそが動かない。
殆どヤケクソで歌を歌った。
倒れた木をよく見ると、真っ黒な巨木が根元の少し上で折れている。
完全に切断できたわけでは無く、まだ少しだけ繋がっている。
繋がっている所がゆっくりと再生している。
拙い。
大斧を繋がっている所に振り下ろす。
カ~ン!
めっちゃ硬いし、再生スキルはまだ生きている。
大斧を振り続け、1時間ほど掛かって漸く根元から切り離せた。
木を持ち上げようとしたがびくともしない。
相当重いらしい。
しゃがみ込んで木に手を当て、アイテムボックスに収納した。
ふと思って切り株にも手を当てて見たら根も収納できたが、収納したとたんに根の有った穴から瘴気が噴き出した。
”結界“
反射的に結界を張って飛び退いた。
根の有った穴からどんどんと瘴気が噴き出して広がっていく。
”浄化“
少しだけ瘴気が消えたがまだ出続けている。
上級魔法の広域浄化を掛けられるだけの気力は残っていない。
初級魔法の浄化を連発する。
”浄化“ ”浄化“ ”浄化“ ”浄化“ ”浄化“ ”浄化“ ”浄化“ ”浄化“ ”浄化“
浄化しながら穴に近づき、最後は穴に向かって”浄化“を連発したらようやく収まった。
魔力は残っていても体力が尽きかけているようで、立っているのも辛くなった。
瘴気が完全に治まったのかが判らないので安全の為に少し離れた所の木の上に登って寝た。
目が覚めると根のあった穴から瘴気が溢れ出ていた。
昨日は完全に浄化したので穴の底にある何かから瘴気が出ているらしい。
探知魔法で見るが、魔獣らしき反応は無い。
浄化魔法で瘴気を晴らし、灯り魔法で底を照らして見る。
穴の底にある岩盤の割れ目から瘴気が漏れ出ているのが判った。
「う~ん。」
思わず唸ってしまう。
魔獣なら倒せば良いが、岩盤ではどうしようもない。
暫く考える。
とりあえず岩盤の大きさを調べる為に穴を広げる事にした。
森の奥なのでエルフの街からも遠い。
多少大きな爆発を起こしても問題は無さそう。
空に飛び上がり、瘴気の穴を目掛けて最大魔力で魔法を撃つ。
“気弾!”
ゴガァワァ~ン!!
ヤバい!
轟音と共に思っていた以上に大量の土砂煙が立ち昇り、慌てて高高度に転移する。
穴の周囲が森ごと吹き飛んでいるらしく沢山の大木が空を飛んでいる。
だいぶ時間が経って漸く土砂煙が収まると、そこには直径2㎞もの大穴が開いていた。
大きな硬い岩盤のせいで逃げ場を失った気弾のエネルギーが周囲に広がって、表土や森を吹き飛ばしたらしい。
深さから考えると表面の堅い岩盤は吹き飛ばしたようだが、その下に更に硬い岩盤があったようだ。
ウスラ戦役では巨大な岩山と魔鉄鉱の岩盤を気弾で破壊した経験もある。
当時よりも遥かに威力が上がった気弾でも撃ち抜けない程硬い岩盤があるとは思わなかった。
直径2㎞という巨大なすり鉢状になった穴の底に降りると、周囲の緩やかな斜面や足元には気弾で割れたらしい黒い岩が一面に広がり、岩の間から瘴気が立ち上っている。
割れた岩を手に取って見ると魔鉄鉱。
底に積もった魔鉄鉱の大岩を次々にアイテムボックスに入れると、割れた魔鉄鉱の下に見覚えのある金属が見えた。
大斧の素材に使った竜魔鋼。
竜魔鋼のあちこちにある罅から瘴気が漏れ出ている。
竜魔鋼があると言う事は、この下には竜の化石?
瘴気が立ち上る罅を目掛けて楔の形にした“気弾“を打ち込むと、岩盤の罅が広がる。
瘴気を”浄化“で晴らしながら楔形の“気弾“をバンバン打ち込む。
竜魔鋼が割れて穴が深くなる。
割れた竜魔鋼をアイテムボックスに入れては、楔形の気弾を竜魔鋼の罅に撃ち込む。
延々と同じ作業を繰り返すと、夕方になって漸く竜魔鋼では無いモノが見えて来た。
竜魔鋼同様に真っ黒だが、明らかに表面の艶が違う。
小さい楔形の“気弾“を使って丁寧に竜魔鋼を除けると丸みを帯びた竜の頭っぽい物が見えた。
予想通り竜の化石があった。
暗くなったので飛行魔法で穴を出て1㎞以上先にある森まで飛び、木の上で眠る。
翌日も朝から竜の発掘。
朝から晩まで延々と“楔形気弾“を撃っているので段々と練度が上がって来て5発、7発と同時に撃てる数が増えて来た。
罅を撃ち抜いた“楔形気弾“が当たっても傷1つ付かないことを見ると、竜の化石っぽい骨は明らかに竜魔鋼よりも硬い。
化石が竜魔鋼よりも硬い希少素材と判って俺のテンションが上がる。
朝から晩まで化石の発掘を続ける。
頭の化石を取り出すだけで6日掛かったが、“楔形気弾“の練度が上がったので発掘作業の進み方が日に日に早くなった。
9日目には大きな化石を殆ど掘り出し、竜の形を考えながら取り残した爪や尾の先など小さな、といっても長さがが2m程もある化石を掘り出して行く。
11日掛かって漸く竜1頭分の化石を掘り出せた。
周囲に散らばっている竜魔鋼もアイテムボックスに回収し、飛行魔法でエルフの街に戻った。
街に着くとすぐに宮殿に案内された。
暫くしてモリ―陛下と長老のトガリ―さんが部屋に入って来た。
「心配したぞ、何があった。」
トガリ―さんに尋ねられた。
2週間も連絡が無かったので心配していたらしい。
「瘴気を発していたのは森の奥にいた大きな黒い木の魔獣だった。」
「木の魔獣?」
「これが魔獣の枝。」
切り飛ばした細い枝をアイテムボックスから出した。
「触っても大丈夫か?」
「浄化したから大丈夫。」
トガリ―さんが枝を持ってじっと見つめている。
「“漆黒檀”という魔獣らしいが、それ以上の事は儂にも判らん。」
「“漆黒檀”ですか。」
トガリ―さんが枝を折ろうとするが微かに曲がるだけ。
「堅いな。」
「幹は直径が2m近く、めっちゃ硬いし魔法無効と再生のスキルを持ってた。」
「魔法無効と再生だと。キラはそんな魔獣を倒したのか?」
「魔法が効かなかったから大斧で切り倒した。休むと再生するから丸1日斧を振り続けた。」
「こんなに硬い物が切れる斧を持っていたのか?」
「以前王都で手に入れた竜魔鋼で作った。」
「竜魔鋼? 竜魔鋼を加工できる職人はいないと聞いておるぞ。」
そういえばそんな話を聞いた事がある。
「冒険者の秘匿ということで。」
「そうか。では瘴気の原因は木の魔獣だったと言う訳だな。」
「木の魔獣の根を引き抜いたら穴の奥から瘴気が湧いてた。」
「瘴気の原因は木の魔獣では無かったと言うのか?」
「うん。」
「穴の中には何が居た?」
「石。めっちゃ硬い竜魔鋼。」
「魔獣を倒した斧の素材か?」
「うん。」
「という事は竜の死骸があったと言う事か?」
竜魔鋼が竜の魔力によって出来る事は知っているらしい。
「化石になってた。掘り出すのに10日ちょっと掛かった。」
「掘り出したのか?」
「うん。」
「竜の化石を見せて貰っても良いか?」
「うん。」
部屋の中では狭いので王宮の中庭に移動して竜の爪を出した。
頭の化石を出したかったが、高さは20m越えで4階建てのビル並みの大きさ。
中庭には入りそうもなかった。
前足の爪1本でも長さ3m、太い所は70㎝近くもある。
トガリ―さんが竜の爪をじっと見つめている。
魔力の流れが見えるので鑑定魔法を使っているのだろう。
「間違いなく黒竜の爪である。」
「黒竜?」
赤竜や青竜は魔獣学で教えて貰ったが、黒竜なんて聞いた事も無い。
「黒竜は竜の中の竜と言われ、世界を守る竜とも言われている。」
そうなの?
掘り出したのは拙かった?
「えっと、掘ったらダメでしたか?」
「いや、問題無い。黒竜は死期が近づくと姿を消し、命が絶えると新しい黒竜が生れるとエルフの言い伝えにある。黒竜の膨大な魔力が何かの加減で瘴気を生み出したのであろう。原因を突き止め瘴気を止めてくれた事、感謝する。」
世界を守る竜を破壊したのでは無かった。
ホッとした。
「それなら良かったです。これは竜の化石の周りにあった竜魔鋼です。その周りには魔鉄鉱が沢山落ちていました。一応化石を掘り出すのに邪魔だった分だけ拾って来たのですが、俺が貰っても良いですか?」
「依頼の過程で見つけた物はキラ閣下に所有権がある。問題無い。」
「ありがとうございます。」
「化石を取り出す為に直径2㎞程の穴を開けました。穴の斜面には割れた魔鉄鉱が沢山あります。化石を取り出した穴の底にはまだまだ竜魔鋼がありましたからその下にも魔鉄の岩盤があると思われます。」
「魔鉄の鉱山という事か。依頼の過程で発見したのだから鉱山の所有権もキラ殿のものとなる。」
そうなの?
一瞬考える。
そもそもここはエルフ自治国、エルフ自治国に有る物を俺が貰う訳にはいかない。
俺の直感が“断れ”と言っていた。
創造神様が下さった直感に何度も救われてからは、直感と奥様達には絶対に逆らわないと心に決めている。
「鉱山は陛下に献上しますのでエルフ国の発展に役立てて下さい。表土は殆どを吹き飛ばしましたから、魔鉄や竜魔鋼の鉱脈が剥き出しになっています。森の奥まで道を作ればすぐにでも採掘出来ます。」
「良いのか?」
トガリーさんと陛下が驚いている。
「俺は依頼を達成出来たし、黒竜の化石を貰えたので十分。現地には竜魔鋼も沢山残っているからドワーフの国と加工について相談するのも良いと思う。ドワーフが欲しがる高純度の魔鉄鉱が沢山あるから話し合いの材料になると思う。」
「噂には聞いていたが、キラ殿は本当に欲の無い男だな。」
「元々地位や領地に興味が無かっただけで、もっと色々な魔法を使えるようになりたいとか、魔法の練度を上げたいとかの欲はあるよ。今は家族に頼まれた事をするのが何よりも楽しいから、もっと家族の役に立つ魔法は無いかといつも考えてるし。どちらかと言えば欲が無いと言うよりもこれ以上欲をかく余裕が無いだけかも。」
思わず笑ってしまった。
欲と言われて今何が欲しいかを考えたら、奥様達に膝枕して貰う事しか思い浮かばなかったから。
「魔法使いの頂点を極めて尚魔法の研究であるか、流石は大陸1の大賢者と称えられるだけに事はある。キラ殿に出会えて幸いであった。」
いやいやただ単に奥様達を笑顔にしたいから魔法の研究をしているだけ。
大好きな魔法の事を考えるのは楽しいけど、奥様の膝枕という心が癒されるご褒美があるから頑張れる。
下心満載の魔法研究を褒められると、尻がこそばゆくなる。
早く帰って膝枕して貰いながら頭を撫ぜて貰おう。
20個程の化石をエルフ国王に献上してそそくさとエルフ国を後にした。
帰りは転移魔法で一瞬。
「ただいま。」
「「「おかえりなさい。」」」
“ただいま“って言える家があるのが嬉しい。
“おかえりなさい”って言ってくれる人が居る事が幸せ。
「上手くいきましたの?」
「うん、解決した。」
「お疲れさまでした。」
レイナがにっこり笑うと、リーナがソファーから立ち上がりレイナの横を空けてくれる。
「ありがとう。」
今日はレイナの順番らしい。
レイナの隣に横になり膝に頭を乗せる。
「原因は何でしたの?」
「黒竜の死体から出た瘴気。」
「黒竜って、伝説の竜じゃないですか。」
「知ってるの?」
「小さい時にばあやが読んでくれた本に書いてありました。」
「私も読んで貰いましたわ。」
「私は家にあった本で読みました。」
「どのような竜なのですか?」
リューラ以外は皆が知っていた。
「世界の守り神よ。邪悪な魔物からこの世界を守ってくれるの。」
リューラの問いにシャリーが答えてくれた。
「守り神が死んでしまったのですか?」
「エルフの長老が、死んだらすぐに新しい黒竜が生まれるから大丈夫だって。」
「それなら安心ですわね。」
「死体はどうされたのですか?」
「死体というより化石、何億年も前に死んだらしい。素材として使えそうだから貰って来た。化石の周りには竜魔鋼が沢山あったから拾った分は全部貰って来た。」
「竜魔鋼って、大斧の素材でしたね。」
「うん。とんでもなく重い石。」
「娘達に武器を作ってあげたら喜ぶんじゃない?」
「武器なんて使うかな?」
娘達は攻撃魔法少女。
武器を使っているのは見た事が無い。
「高位貴族になると領軍を率いて出陣する事もあるの。大将は目立つ武器を持っていた方が領軍の士気も上がるし、他の貴族に実力を見せつける事も出来るのよ。」
「そうなの?」
貴族の事は全然判らない。
「そうなの。どでかい大槌とか竜魔鋼は真っ黒だから死神っぽい大鎌なんてどうかな。」
死神っぽい大鎌を持つ領主ってどうなんだ?
娘達なら竜魔鋼の武器を振り回すのに使う魔力量も十分あるし、不要な時はアイテムボックスに入れて置けばいいか。
「好みも聞きたいし、他の子と違う方が良いかもしれないからみんなを集めて。」
レイナから”ヘイ、タクシー!“のお呼びが掛かった。
「おう。」
娘達に通信で連絡を入れると領地に転移して即王都に転移で戻る。
ズバッと参上、ズバッと運送。
すぐに4人が王都屋敷に集まった。
「お父さんが竜魔鋼でみんなの武器を作ってくれるって。」
みんな俺の大斧を知っているので話は早い。
「やった~!」
「魔獣を叩き潰したかったの。」
「魔法は便利だけど、手ごたえが欲しい時もあるのよね。」
「そうそう、ブチュッって潰れる感じの武器が良いわ。」
「血塗れになった時の為に浄化の練度を上げておかなくちゃね。」
これって本当に武器を作って良いの?
ちょっと怖くなる。
「う~ん、私は長女だからめちゃめちゃ目立つのが欲しいかな。」
「そうね、ルナは寄り親だから特に目立つ方が良いわね。」
キラ家の当主が使う武器、・・・・。
吉良家と言えば“殿中で御座る”。
エルフの森で倒したやたらと堅い木の魔獣“漆黒檀”がアイテムボックスに入っている。
「良し、ルナの武器は任せろ。」
「何か思いついたの?」
「キラ家と言えばデンチュウだ。」
「デンチュウ?」
「10m程の長い棒だ。“デンチュウで御座る”と叫びながら振り回せば敵を薙ぎ倒す事が出来る。」
ルナがキョトンとしている。
「お父さんのいつものあれよ。」
「ああ、父さんのあれね。」
レイナとルナが笑いながら納得している。
“あれ“って何だ?
「お父さんは時々訳に判らない事を言うけど、いつもそれで上手くいくから任せれば良いの。」
「そうね。父さん宜しくお願いね。」
「おう。」
話の中身が判ら無いけど、2人が納得しているならまあいいか。
久しぶりにお星様とブクマを戴けました、嬉しくて涙と鼻水が止まりません。
まあそれは花粉症のせいですが、嬉しいのは本当です。
最近昭和歌謡の番組で見た歌が妙に耳について古い歌ばかり使ってしまい済みません。
読み続けて下さっている方々が作者の励みになっています。
もう少しで第1部完結、それまでは隔日投稿出来るよう頑張りますのでこれからも宜しくお願いします。
 




