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34 初めての指名依頼

いよいよ敵が進軍して来た。

河原を進んで来る敵の主力軍を俺とリヌ?が待ち受ける、多分リヌだったよな。

娘達は2年前に王都からキラに移り住んだので、名前が怪しくなっている。

「出来るだけ引き付けるんだぞ。」

ぞろぞろと押し寄せて来る敵の大軍を見て興奮しているのか、顔がだらしなく緩んでいるリヌを落ち着かせる。

「うん。」

俯瞰を使って他の戦場を見る。

西砦の前にも敵軍が集結し始めている。

レイナが魔法を撃つ体制になっているドナ?を宥めながら敵の集結を待っている。

東砦の前の草原にも敵兵が集まっている。

河原を進んできている主力軍の攻撃に合わせて攻撃を開始するらしい。

ルナとリラ?はニコニコ顔で敵の集結を眺めている。

「ムテオ!」

えっ?

突然聞こえたリヌの声に驚いて空を見上げると沢山の火の玉が浮かんでいる。

マテオ、ミテオの順に威力が上がる火属性の最上級魔法。5段階目になる尤も強い“モテオ“は論外だが、最も弱いマテオでも人間相手では威力が強すぎる。

マ行5段活用の火属性最上級魔法、リヌが発動したのは3段階目のムテオ。

”結界“

火事を防ぐ為川岸の森に結界を張った瞬間、空一面に浮かんでいた火の玉が一斉に降り注いだ。

ゴガン、ドガン、ゴゴン、ゴガン、ドガン、ゴゴン。

大きな音と共に地面が揺れ、舞い上がる煙で何も見えなくなった。

探知魔法で確かめると、敵軍の先頭から700m程には生存者は一人もいない。

後方にいた兵が急速に遠ざかって行くのが探知魔法に見えている。

「はぁ。」

事前の打ち合わせは何だったんだ?

血止めが必要な怪我人は1人もいなかったので東砦に飛んだ。

前に突き出した両手から魔法を撃ち続けている2人の少女が空に浮かんでいる。

「キャハ、キャハハ、ヒャッホ~!」

「ウフフフフ、オホホホホ!」

ルナとリラの笑い声が聞こえて来た。

何となく嫌な予感。

地上を見ると倒れた兵士で埋まっている。

着ている鎧は穴だらけ。

「・・・・。」

言葉も出ない。

探知魔法で調べたが、血止めが必要な怪我人は1人も居なかった。

レイナとドナが気になって俯瞰で西砦を見る。

すぐに俯瞰を解除。

見なかった事にした。

俺も力加減を間違えて裏ギルドの全員を爆散させた過去があるので批判は出来ない

捕虜は一人も捕らえられなかったけど、誰一人怪我無く戦いが終わった事を喜んでおこう。



「私が何度も申し上げましたよね。キラに足りないのは領民と兵。領民を増やすのはとても難しいのです。さらに兵1人を育てるには膨大な時間と費用が掛かるのです。親切なドウデルが贈ってくれた兵を殲滅してしまうとは何事ですか。」

ただ今キラ家の家宰であるアウトマンが絶賛お説教中。

ドウデルは領民不足で困っているキラの為に親切で兵を贈ってくれた?

何となく違うような気もするが、アウトマンと言い合いをして勝てた事は無い。

賢い俺は黙っている。

レイナとルナ・リヌ・ドナ・リラが床に座らされて怒られている。

事前の打ち合わせを忘れてやらかしてしまった事は判っているらしく、反省はしてるっぽい。

やーい、やーい。

「閣下が付いていながらどうして止めなかったんです、閣下も閣下ですぞ。」

流れ弾が俺にも飛んで来た。

ちなみに俺も床に座らされている。

「お、おう。」

レイナや娘達を止める?

無茶を言うな。

女性は10年経っても20年経っても”前に私の楽しみを止めましたよね“って言うんだぞ。

目先の利益で俺の一生を台無しになんて出来るか。

「キラ閣下、聞いておりますか?」

「お、おう。」

「レイナ様とお嬢様方は1ヶ月の間攻撃魔法の使用を禁止して雷魔法・睡眠魔法の訓練をして頂きます。」

「「「「ええっ!」」」」

「ええっ、じゃ有りません。これから先、敵が再び襲って来てくれるかもしれません。その時こそ領民と兵を確保するのです、宜しいですね。」

「「「ふぁ~ぃ。」」」

娘達は不満そうだがアウトマンに逆らう勇気は無いらしい。



1万の軍勢を送ったコウスル侯爵軍は、総大将の侯爵と副将の次男を含めた9000の兵を僅か数分で失って撤退した。

戦いの様子は砦から見ていた王家の監察や有力貴族の連絡将校、周囲の丘やミュール川に対岸から見ていた周辺諸国の諜報員達によって王国だけでなく周辺諸国にも伝えられたが、周辺諸国では諜報員の報告を有り得ないとして否定する見解が多かったらしい。

お義父さん達は今回の戦役における王家やクーラー公爵の対応があまりにも酷すぎた事を責めて、王家から強引に褒賞を奪い取った。

戦功第1位は指揮官を務めたルナ=キラ伯爵でルナは侯爵に昇爵した。

第2位は3人の妹達で3人共男爵・子爵を跳び越えて伯爵に叙爵され領地を拝領した。

次女のリヌはドラン侯爵領に隣接する小国群への交通の要衝で王家の直轄領であったポリフ1帯。

3女のドナはウスラ戦役以後キュラナー辺境伯の預かりとなっていた旧バット伯爵領。

4女のリラは西部の要衝であるステランに隣接する王家の直轄領。

要するに爺さん達が自分の領地の隣に孫娘を置きたかっただけ?

王家もキラ家の活躍が無ければ広大な領地を失っていたのは間違い無いので、爺さん達の要求を断れなかったらしい、知らんけど。

リヌとリラは貴族になるつもりは無かったらしいが、戦功なので戦争に参加していない者という訳にはいかず、嫌になった時は妹に譲るなり養子を貰うなりすれば良いとお祖父さん達に説得されたらしい。

俺はドウデル戦役の影響で遅れていた真ん中の子供達の冒険者登録でキラに行っていたから王都に帰った時に結果を教えられただけ。

領地や爵位には全く関心が無いのでどうでも良い。

人にはそれぞれ得意不得意がある。

俺は貴族的な駆け引きは苦手。

苦手な事やめんどくさい事はお義父さんや奥様達に丸投げするのが一番。

子供達のことは子供達自身が判断して決めればそれで良い。

親は子供達が安全に生きられる環境を作る事が第一、子供達が身を守る術を覚えた後の事は子供達の意思を優先するのが我が家のルール。

親は子供から求められた事に応えればそれで良いと思っている。



王都に残っているのは一番下の子供達4人だけ。

女の子3人は奥様達と攻撃魔法の練習に夢中。

俺の相手をしてくれるのは魔法好きの長男ハリ―だけ。

ハリーはおしゃべりな姉達に囲まれているせいか口下手だが、魔法に関しては呑み込みが早いのでハリーに魔法を教えるのは楽しい。

手を握りハリーの魔力を使って魔法を発動させてやると、大抵は1回で、難しい魔法でも3~5回で俺の手を借りずとも発動出来るようになる。

新しく覚えた魔法を練習して練度が上がると、すぐに次の魔法を強請って来る。

どんどん覚えるので俺もどんどん新しい魔法を教える。

禁書庫の本を読み捲って色々な魔法を覚えておいて良かったと思った。

自分の子供に魔法を教えるのは楽しい。

奥様達や女の子達は攻撃魔法に夢中で昼間は俺の相手をしてくれないのでハリーに遊んで貰ってる?

17人の家族で男は俺とハリ―だけ、自然にハリーと過ごす時間が多くなった。

今では魔法成形で剣は勿論、成形が難しい備中鍬も作れるようになったし短距離転移も出来るようになった。

ハリーと一緒に魔法の練習をしたり何かを作っていると楽しいし、夜になれば奥様達が膝枕をしながら頭を撫ぜてくれる。

本当に幸せだと心から思えた。

この世界に転移させてくれた原初の神と祝福を下さった創造神様に感謝した。



指名依頼が来ているとギルド本部に呼び出された。

地竜はギルドに討伐依頼が出される前に倒してしまったし、結界の構築は結界師としての依頼だから冒険者としての指名依頼は久しぶり過ぎて前が何だったのかも覚えていない。

ギルド本部に行ってギルマスから依頼についての説明を受けた。

「指名依頼は初めてなので説明しておく。」

前が何だったかじゃなくて、冒険者として初めての指名依頼だった。

SSランクになって9年、Sランクになってからなら14年だが、その間一度も冒険者としての依頼が無かったらしい。

屋敷の維持費や生活費はどうしているんだろう、急に心配になる。

「ひょっとして、Sランク冒険者1本で生活していたら干上がってた?」

「Sランク冒険者には住んでいる国から白金貨1000枚の年金が出る。毎年ギルド経由でキラの口座に振り込んでいるので間違いはない。」

そう言えば屋敷を貰った時に年金の話を聞いた事があるような気もする。

だったら生活は何とかなっているのかな?

でも使用人は100人を超えてる、本当に大丈夫?

お金のことは奥様方やシバスチャンに丸投げなので全く知らない。

ギルドの口座はパーティー口座だからメンバーである奥様方も自由に出し入れできる。

そもそもギルド口座へ振り込みして貰った事は何度もあるが、引き出した事は1度も無い。

残金がどれくらいあるのか聞いた方が良いかな?

ダメだ、数字を並べられて頭が痛くなる未来しか見えない。

盗賊さん達の洞窟で拾ったお金がアイテムボックスに入っているから屋台の串焼きくらいは買える。

日用品やお弁当は奥様達が用意してくれるので、俺が買い物しなくても支障は無い。

支障が無いのに余計な事を聞くのは支障を生じさせるだけ、藪をつついて蛇を出すのは愚か者のする事。

この先支障が生じる可能性はどうだ。

今迄に高い物を買った事があっただろうか?

奥様方や娘達へのプレゼントも俺が自分で採って来た素材を自分で加工して作る。

アクセサリーも武器も防具も全部素材から俺の手作り。

「どうした、何か判らない所があったのか?」

本部長の説明中なのにまるで聞いていなかった。

「すいません。考え事をして聞いてませんでした。」

「全くお前と言う奴は・・。ともかく、調査依頼は前金での全額払い。調査報告書を出せば完了だ。依頼内容を聞いてから断るのも自由。ここまではいいな。」

「はあ。」

「今回の依頼だが、小国群にあるエルフ自治国名で、エルフ自治国内に蔓延している原因不明の奇病と精霊減少の原因を調査して欲しいというものだ。依頼料は白金貨5千枚。宿泊場所や必要な物品はエルフ国で用意するそうだ。期間は最短3か月、最大1年。」

「最短3か月って何?」

「原因が判らない場合は最短でも3か月は調査を続けるという事だ。勿論原因がすぐに判れば1日で終了もある。3か月以上経てば原因が不明でもキラの好きな時に報告書を出せば終了、1年経って報告書が出なくても終了。これは調査中の死亡扱いも含めた措置だ。」

「1年経っても原因が判らなかったら?」

「帰っても良いし調査を続けても良い、キラの自由。依頼金は全額前金だから問題ない。」

「エルフ国って迷いの森とかあって案内無しでは入れないと聞いてますが。」

「何じゃそれ。迷いの森? 聞いた事も無いな。」

おかしい。

エルフの村と言えば迷いの森、ファンタジー小説では定番なのに。

「どうやって行くの?」

「キラの街から森沿いの街道を300㎞程行くと左に矢印が付いた大きな看板が出ている。そこを曲がって道なりに行けば4時間程でエルフの街に着く。」

大きな看板があるなんてどのファンタジー小説にも書いて無かったぞ。

「エルフの街? 里とか村じゃないの?」

「エルフ自治国の王都だ。里や村などと言ったら怒られるぞ。」

“エルフの村”も”エルフの里“もダメらしい。

「お、おう。」

それからも詳しい説明を聞いて、指名依頼受諾の契約書にサインした。



ルナの領館に転移した。

「元気にしてたか?」

「謁見やら挨拶周りやらで忙しかったけど、ようやく落ち着いたわ。父さんはSSランク冒険者の初仕事でしょ。ハンカチは持った? 鼻紙は大丈夫?」

「おう。レイナが揃えてくれた。お守りの刺繍入りハンカチもちゃんと持ってる。」

奥様達が心を込めて刺してくれた刺繍入りのハンカチさえあれば千人力。

「兎に角安全第一よ。絶対に無理はしないでね。」

「おう、行って来る。」

「大きな看板が幾つもあるから見落とさないとは思うけど、道に迷ったらその辺の人に聞くのよ。」

「おう。」

颯爽とルナの領館を出た。

あれ?

何となく前世のTⅤ番組を思い出す。

初めてのお使い。

探知魔法で周りを見るが、後を付けて来る者はいない。

隠しカメラも無さそうだ。

良し。

空に飛び上がり街道に沿って飛んだ。



道を間違えない様にゆっくり1時間程飛ぶと本当に大きな看板が幾つもあった。

5㎞先左、3㎞先左、1㎞先左、500m先左、次の角を左。

左に曲がった。

すぐに大きな看板。

この先7㎞、道の駅”エルフの里“。

エルフの里は道の駅の名前だった、って異世界にも道の駅があるのか?

峠道を登ると茶店のような建物があった。

“ようこそ道の駅エルフの里へ”、と書かれた大きな看板が屋根に乗っている小さな平屋建ての売店。

店頭に商品らしきものが並んでいるが客らしき人は居ない。

というか店員もいない?

どこかから見ているのかも知れないけど。

商品を眺めてみる。

”宗家エルフ饅頭“、”元祖エルフ饅頭“、”本家エルフ饅頭“。

3種類あるが、名前以外は見た目も全く同じで違いが判らない。

”老舗エルフクッキー“、”始祖エルフクッキー“、”名物エルフクッキー“。

これも3種類ある、じっくり見比べても違いが判らない。

”世界樹のハーブティー“、”手摘み世界樹のお茶”、”世界樹の香り茶“。

お茶も3種類、香りを嗅いでも違いが判らない。

以上で商品は終わり。

何でどれも3種類あるんだ?

判らん。

違いの分かる男への道は遠そうだ。



街道に戻ってエルフ自治国の王都を目指す。

峠を下った先にある盆地がエルフ自治国と教わった。

小国群はどこも大山脈の中にある盆地を1つの自治国としているらしい。

峠から見ると大平原のような大きな盆地に広がる森の中にポツポツと街がある感じ。

まさに大自然と共に生活している感じがする。

前世でも段々畑や里山を見に行って“やっぱり自然は良いな“なんて言っていた同僚がいたけど、段々畑も里山も人が作った人工物であって自然では無い。

間伐されていない雑多な木の生えた森は本当の自然林。

峠を降りるにしたがって森の香りが漂って来た。

山を下ると森の香りに混じって何となく嫌な気配がしてきた。

地面に目を凝らすとうっすらと靄が視える。

魔力とはちょっと違う靄が地面に薄~く広がっている。

この色はどこかで見た覚えがある。

えぇ~とぉ~、思い出した。

確か王都で見た“呪いの石”に纏わりついていた瘴気の色。

瘴気なら浄化で消える?

”浄化“

試しに光魔法の浄化を掛けてみたら、目の前10m程の瘴気が簡単に消えた。

エルフは光魔法を使える者が多いのに何故瘴気を消してないんだ?

首を傾げながら歩いていたら王都が見えて来た。

高い木の塀に囲まれた小さな街。

ミュール王国では木の塀なら街では無く町だが、自治国の王都だから街?

判らん。

大きく開いた門の先に見える建物も木製で、形はどこにでも見られる普通の2階建て。

大きな木の枝に家が作られている訳ではなかった。

何処にでもある田舎町、これじゃ道の駅を作っても観光客は来ないよな。

門の脇にある小屋から兄ちゃんがのっそりと出て来た。

「観光か?」

槍を持っているので門番らしいが顔色が悪い。

じっと見るとうっすらと瘴気が体を覆っている。

白く輝くギルドカードを出した。

「エルフ自治国の依頼を受けたSSランク冒険者のキラだ。王宮迄案内して貰いたい。」

「済まない、今は俺1人なのでここを離れる事が出来ない。この道をず~っと行った突き当りにある大きな建物が王宮だ。申し訳ないが一人で行ってくれ。」

「判った。俺の見た所、兄さんの体は瘴気に侵されている。とりあえず浄化を掛けさせて貰っても良いか?」

「何だと、それは本当か?」

「嘘は言わん。病気の元は瘴気だ、光魔法が使えるなら自分で掛けてみろ。」

「良し。我と共にありし長き友なる聖霊よ、我に偉大なる力を与えたまえ、浄化!」

キラキラした光が衛兵の頭上から舞い降りて衛兵を包むと一瞬光った。

「お、ぉおう。本当だ、体の調子が良くなったぞ。」

「体力が落ちているから無理はするな。寝る時は出来るだけ2階で寝ろ。」

「有難う御座います、助かりました。しかし浄化魔法は精霊魔法の基本。精霊魔法はエルフ自慢の魔法なのに誰も気付かなかったとはどういうことだ?」

「それはこれから調べてみる。今判っているのは地面に沿って薄く瘴気が広がっていて、足元から体に取り込まれたらしいという事だけだ。」

「他の者にも伝えて良いか?」

「勿論だ。出来るだけ多くの人に伝えてくれ。大事なのは足元に注意という事だ。」

「感謝する。」

さっきまでここを離れられないと言っていた衛兵が街の中に走って行った。

門には誰もいないけど、良いの?

体調が悪いから動きたくなかっただけ?

判らん。



門番の兄ちゃんに言われた通り中央の道を真っ直ぐに進むと、大きな建物の前に着いた。

大きいと言っても他の建物より建坪が広いだけで木造2階建ては同じ。

「何者だ。」

衛兵に声を掛けられた。

「自治国から依頼を受けてやって来たSSランク冒険者のキラだ。」

ギルドカードを見せる。

「失礼致しました。陛下にお伝えしますので暫しお待ち下さい。」

少し待たされた後、戻って来た衛兵に奥の部屋へと案内された。

接見用の部屋らしく、奥に立派な服を着た兄ちゃん?

手前にソファーセットがあって右側には姉ちゃんが座っている。

「どうぞそちらにお掛け下さい。」

姉ちゃんに促されて俺は左側のソファーに腰を下ろした。

「エルフ自治国長老会議の議長、トガリーよ。」

姉ちゃんが自己紹介した。

長老?

どう見ても20代か30代。

俺の驚く顔を見てトガリ―さんが笑顔になる。

長老って事は100歳以上?

トガリーさんの顔が曇った。

「女性の歳を考えちゃダメよ。」

エスパー? 

トガリーさんはエスパーなのか?

「本日はエルフ自治国王、モリー陛下に御臨席頂いております。」

トガリーさんが奥の兄ちゃんを見る。

モリー陛下が軽く頷いた。

「さて、キラ閣下への依頼についてだが、エルフ自治国では半年程前から体に力が入らなくなり、寝込む者が増えた。さらにいつもは沢山いる精霊達が街から消えた。この原因を突き止めて欲しいというのがエルフ国の依頼だがギルド本部より依頼受諾の連絡を貰った。間違い無いな。」

トガリーさんが依頼について説明してくれた。

うん、ギルド本部長に聞いた通り。

「間違い無いけど、病気の原因は多分瘴気だと思うよ。」

「バカな、瘴気など浄化魔法で・・・。そう言えば浄化魔法を使える者は殆どが村を出たな。そのせいもあってこの病に浄化魔法を掛けた事は無かったような気がする。」

「大門の衛兵さんに教えて、自分に浄化魔法を使って貰ったら不調が治ったって喜んでいたよ。」

「・・・・。」

「精霊さんは瘴気を嫌がってどこかに隠れているんじゃないのかな。」

「確かに精霊は瘴気を嫌う。それもあってこの街では精霊魔法の訓練として家々や広場に浄化魔法を掛けていた。」

「今はしてないの?」

「浄化魔法を使える者の殆どがミュール王都に出稼ぎに行った。残っている者達も洗濯魔法の習得に懸命だから街中で浄化魔法を使う事は無い。」

浄化魔法を使わなくなったのは、俺が作った洗濯魔法のせい?

「えっと、出稼ぎって?」

「洗濯魔法を習得すれば王宮や高位貴族家に1級洗濯師として就職出来る。」

「1級洗濯師?」

何じゃそれ。

洗濯に1級とか2級とかあるのか?

「高貴なる方々が纏う服を洗濯する仕事で、鍛冶職人の親方以上の収入と聞いておる。実際に王都で働いている1級洗濯師が大層な土産を持って挨拶に来たので間違いない。」

「・・・・。」

そういえばショーツの開発から4年ちょっと、ここ3年は全て奥様達を通じての注文生産だけどかなり多くのショーツを作った覚えがある。

ドレスを洗うにも便利なので、洗濯の需要がそれなりに増えたのだろう。

エルフの精霊魔法は光属性なので洗濯魔法を習得し易いのは確か。

「だが、この街に広がる程の瘴気など聞いた事は無い。どこかに発生源がある筈だ。キラ殿には発生源の調査と出来ればその討伐か浄化を頼みたい。」

「討伐や浄化は依頼に含まれていないから、追加費用が掛かるけど良いかな。」

調査する前に解決したのでついでだから無料で良いと言いたいけど、それをすると簡単な依頼を出してついでにドラゴンを無料で退治しろと言う事になる。

冒険者ギルドではランクに係わらず追加依頼は別料金と決まっている。

「勿論だ。これ程早く病気と精霊減少の原因が判るとは思っていなかったので、原因が判ってから改めて発生源を取り除く依頼を出すつもりだった。キラ閣下であれば力量に問題は無い。エルフの冒険者ギルドに依頼を出しておく。依頼料は今回の調査と同じで良いか。」

「調査に関連して発見したり討伐した素材は俺の物になるけどそれも大丈夫?」

「勿論だ。ギルドの規定には従う。さっそくギルドに申し付けて書類を用意する。」

ギルドマスターが持って来た書類を確認してサインした。

そろそろ日が暮れる時間なので調査は明日からという事になり、今晩はこの王宮に泊まらせて貰った。


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