30 違いの分かる男は遠そうだ
お義父さん達の意見でルナが元指令のアウトマンと大隊長のベッツ、中隊長8人を男爵に、残りの35人を騎士爵に任じた。
勿論ルナは1歳なので名前だけ。
寄り子の叙爵はルナの名で王家に名簿を提出すれば良いだけなので簡単。
元公特の初代メンバーならば十分な功績があるので問題無いらしい。
昇爵は1階級ずつが基本なので、将来誰かを子爵や男爵に任じる時に叙爵していない者を男爵や騎士爵を跳び越えて叙任するのが難しいかららしい。
アウトマン達と家臣採用の段取りを考えた。
ルナの領地を実際に調べた結果、今最も必要なのは土属性の魔法使い。
採用は土属性の魔法使い、文官、武官の3つに分け、それぞれ採用人数は合格者基準に達した者の数だけと決まった。
高位貴族の叙任は20年ぶりなので多数の応募者が集まりそうだが、公特の採用体験を考えれば創造神様に頂いた俺の直感に適う者が多くいるとは思えない。
基準に達すれば全員採用でもそれ程の人数にはならないだろう。
まずは応募用紙の作成。
名前・年齢・性別・出身地を書く小さな枠、学歴・職歴・属性・特技を書く少し大きい枠、志望動機と希望や要求を書く欄はかなり大きくした。
採用試験は3種類。
王都でも数が少ない土属性の魔法使いは実技と面接。
文官については王立学院入試から簡単な問題を抜粋した国語と算数の筆記試験と面接。
武官と他属性の魔法使いについては実技と面接。
総務殿の許可を得て、採用条件と受付期間、試験日程を書いた募集要項を王都のあちこちにある広場の掲示板に張り出した。
応募用紙の配布開始日になると、受付開始までまだ2ヶ月もあるのに伯爵邸前に長い行列が出来た。
配布だけならすぐに出来るが、採用条件や待遇などの質問する者が多くて行列になった。
質問したい者の人数が予想外に多かったので、用紙の配布だけを希望する者の対応は使用人に任せて、騎士爵になった35人が簡単な質問に答え、難しい質問は後ろに控える10人の男爵が対応することにした。
公特のメンバーがいたので助かったが、あまりにも多い応募者の数には驚いた。
いよいよ家臣の採用試験。
土属性の魔法使いには好条件を提示したせいで123名の応募があった。
王都からど田舎に移って貰う為に俸給だけでなく勤務時間や家族用宿舎などの福利厚生を手厚くしたので大勢が応募してくれたらしい。
王都では建築や水路補修など土魔法の需要が多いから土属性の魔法使いが沢山いた事と、軍部では火属性の魔法使いに比べて土属性の魔法使いは著しく待遇が悪い事で転職を考えたらしい。
魔力量不足が27名、違和感を感じたのは36人で、合格者は60人と予想外の豊作。
伯爵家だと土属性の魔法使いは10人前後らしいが、ルナの領地は広いのと補修箇所が沢山あるので幾らでも仕事がある。
今までの代官が昔の侯爵時代に作られたインフラ設備の補修をしなかったので、耐用年数を過ぎている設備が多い。
街道に大穴が開いて馬車が落ちたら大変だ。
古いインフラ設備の点検と補修は大事。
文官には7635名の応募があった。
筆記試験で3000名程に絞られ、面接の合格者は僅か46名。
お義父さん達の情報によると殆どが貴族絡みの応募者、簡単に言えば貴族家のスパイだったらしい。
武官の応募者は何と16331名。
実技試験合格者が10023名いたが、面接試験の合格者は483名。
周辺諸国の情報員や東部貴族の関係者が多かったらしい。
驚いたのは裏ギルド”蒼い梟“の情報担当者3人とキラ家王都屋敷の使用人4人が含まれていた事。
”蒼い梟“の情報担当者達はきちんと”蒼い梟“を辞めて応募していた。
使用人達は屋敷で警備員達に剣技を訓練して貰った事で武官への転職を考えたらしい。
全員俺の直感をクリアしている顔見知りなので、相談してくれたら試験を受けなくても良かったのにと思ったが情実では無く試験で合格したかったらしい。
ともあれ一挙に600名程の家臣を雇う事になったので財政面が不安になった。
新しい領地からの収入は殆ど無い、というより援助金が欲しいという要望ばかりと聞いている。王家からの援助金が打ち切られた分の補填を伯爵家に求めているらしい。
広大な領地なのに収入が無いどころか支援が必要って何なんだ。
奥様達がキラ家の財政的に無理と却下して当分は代官の才覚で乗り切る様に指示していた。
奥様達に新規召し抱えの家臣達の俸給について聞いたら、ポーションの収入が溜まっているので問題無いと言われてほっとした。
新たに拝領した隣の侯爵屋敷の建物が訓練中の家臣の住居となった。
元々1000人程の家臣や使用人がいた侯爵家の屋敷なので余裕だった。
元公特のメンバーは連日打ち合わせの会議をするので俺が拝領した屋敷。
当面は魔法使いの魔力量増加と魔力操作の訓練、文官は総務殿に送られていた過去の領地関係書類を精査して貢租や支出のチェックと前世の貸借対照表を使った簿記の練習。
広大な領地なので報告書を見易くすることも大切。
武官は武術訓練に加えて馬術訓練や10人隊での行動訓練という訓練内容も決まった。
領地が広いので馬で移動できる機動部隊が必要になる。
将来は領軍や警備隊の士官となる家臣達なので馬に乗れることは必要。
漸く家臣の訓練が始まったと思ったら辺境伯が来た。
「昨年から領内の魔獣が活発化して困っていたが、原因が判った。」
「はい。」
いつもは領地にいる辺境伯がわざわざ王都に出て来たと言う事は何か重大な事なのだろう。神妙に話を聞く。
「我が領地の西側にはウスラ公国との国境になっている大山脈がある。」
辺境伯がテーブルに地図を広げた。
「これが大山脈。そして麓に広がるのが高ランクの魔獣が住む死の森。ここだ。」
「はい。」
「そしてこの辺りで地竜が目撃された。」
「地竜ですか。」
確か翼の無いドラゴンで強力なブレスを吐くティラノサウルスっぽい大蜥蜴と学院の魔獣学で習った覚えがある。
ブレスって前世の怪獣映画でやっていたブファって火を吐くあれだよな。
「地竜の発する魔力で死の森の魔獣が活発化していたらしい。討伐したいが、強力な魔獣の住む森の奥なので討伐軍を送り込むことが出来ない。」
「俺に何とかしろと?」
「2頭のドラゴンを単独で倒したキラであれば倒す事は出来ずとも追い払う事が出来るのでは無いかと思い相談しに参った。陛下に報告したところ、キラが引き受けるなら陛下の名で地竜討伐もしくは追い払いの依頼をギルド本部に出してくれるそうだ。」
「・・・・。」
単独で倒したって言うけど、ワイバーンと赤竜は勝手にバリアに激突しただけで俺が倒した訳では無い。
ドラゴンと戦った事など無いぞ。
「えっと、ドラゴンには魔法が通じないと聞きましたが本当ですか?」
確か学院で習った時にそんな事を言われたような気がする。
「キラ殿が討伐した赤竜の鱗は対魔法用の盾として国軍も我が領軍も使っている。死して尚魔法耐性は高い。生きているドラゴンの鱗は一切の魔法を通さないと言われている。」
そんな相手と、どう戦えば良いんだ?
高速で飛んでいればカウンターバリアが使えるが、地上を走っている程度では効果は無い。
とりあえずは話し合いかな。
「一度見てから対処法を考えます。明日の朝領地に飛びます。お義父さんは暫く王都に居るのですか?」
「地竜が森から出てきた場合に備えて国軍と打ち合わせをしておく必要がある。1週間程度は王都にいる事になる。」
「判りました。何かあれば王宮に預けてある通信機で連絡します。」
「先日救われたばかりなのに無理な願いをしてすまぬ。よろしく頼む。」
という訳でやって来ました辺境伯領。
地図に有った通り森の奥、というよりも岩山の麓に体長4~50mのとんでもなくでっかい蜥蜴。
全身が鱗に覆われたティラノサウルスさんがいた。
まずは話し合い。
話し合いでドラゴンさんとお友達になるのはファンタジー小説の定番。
拡声魔法を使って話し掛けた。
「地竜さん、地竜さん、聞こえますか?」
地竜が俺の方に顔を向ける。
ブファ!
危ねえ。
いきなりブレスを撃たれた。
転移で躱したものの、あの速さだともう少し近くに居たら躱せなかった。
やばい、やばい。
お友達になるのは無理そう。
とりあえずお試し。
“気弾100発!”
当たったのに爆発しない。鱗に吸い込まれるように消えた。
“光弾!”
威力を高めた光弾を撃つ。
気弾と同じ様に鱗に吸い込まれた。
ぐぬぬ。
ブファ!
考え込んでいたらブレスを撃たれた。
辛うじて躱したものの、俺がいた森に火の手が上がっている。
火事になっちゃうじゃん。
地竜がこちらに顔を向ける。
地竜に比べれば豆粒ほどの俺をどうやって見つけた。
ブファ!
俺が立っていた大岩がブレスを浴びて融けた。
ヤバい。
転移を繰り返して撤退した。
かなり離れた山の上から遠視魔法で地竜を観察する。
前世のファンタジー小説ではドラゴンの弱点は逆鱗・眼・鼻の穴・口・尻の穴というのが定番。
逆鱗ってどこにあるんだ?
見た事無いから知らねえし。
ブレスの速度を考えると顔の正面にある眼・鼻・口はやばいよな。
となると尻の穴?
俺は前の穴専門。
尻の穴に興味を持ったことが無いので構造が判らない。
いや、そういう問題じゃない。
それ以前に、人間と地竜では尻の穴も違うよな。
魔獣のように尻尾の付け根に尻の穴が有るのかどうかも判らない。
口に見えているのが尻の穴かもしれない。
おならをしたらもろに鼻から吸い込んで臭そう。
いや、さっきブレスを吐いたから口はやっぱり口か。
さっきのブレスは正確に俺に向けて放たれた。
恐らく俺の魔力を感じて場所を特定している?
隠蔽魔法は効くのか?
夜目は効くのか?
試してみる価値はありそう。
夜を待った。
分厚い雲のせいか月明かりも無く真っ暗。
雨が降り始めて視界も悪くなって来ている。
俺は真っ暗でも見えるが地竜はどうなんだろう。
まずはブレスの射程内に転移。
ブファ!
即座にブレスが飛んで来た。
転移で撤退。
俺の居た森が1瞬で燃え上がる。
かなり派手に燃え上がっているが、雨が降っているので大丈夫っぽい?
森林火災は怖い。
周辺に人家は無いけど、ヘリコプターが無いから空からの消火活動は出来ないのであまり派手にブレスを撃たせたくない。
今度は隠蔽魔法を使いながら射程内に転移。
山火事のせいでかなり明るいがブレスは来なかった。
お試しで尻尾の付け根辺りに転移してみる。
“光弾!”
目の前に穴っぽいものがあったのでとりあえず光弾を撃ってみた。
”転移“
地竜さんが体を少し動かしただけで吹き飛ばされるか押しつぶされる場所だったので光弾の結果も見ずにひとまず撤退。
山の上に戻って遠視魔法で地竜を見る。
地竜に動きは無い。
俺が尻のあたりに転移した事に気付かなかった?
隠蔽で魔力を隠せば地竜の探知には掛からないのかもしれない。
さてどうしよう。
もう一度転移して反応を確かめようかと思ったら、ゆっくりと地竜が傾いて・・・倒れた。
あれ?
探知魔法を地竜の方向に絞って魔力反応を見る。
反応が無い。
地竜から少し離れた所に転移。
もう一度探知魔法で反応を見る。
反応なし。
只の屍のようだ。
どうやらお試しで撃った光弾が偶々尻の穴から飛び込んで内臓を貫いたらしい。
地竜の傍に転移して死体をアイテムボックスに収納した。
疲れたので山の上に戻り、食事をして眠った。
目が覚めると、探知魔法で周辺を探る。
死の森の奥なだけあって強力な魔獣が多いが、ドラゴンは見つからなかった。
料理長が作ってくれたお弁当の朝食をゆっくり楽しんでから山の上を飛び立ち王都に向かった。
王宮の前庭に着陸するとすぐに衛兵がいつもの客間に案内してくれた。
暫くすると陛下セット、陛下と宰相、騎士団長に魔導師長が現われる。
今日はキュラナー辺境伯も一緒。
「ただ今戻りました。」
胸に拳を当てるSランク冒険者の挨拶をする。
相手が国王であっても膝をつくなというのがギルド本部長の教え。
「座れ。」
ソファーに腰を降ろす。
陛下は奥の椅子。手前に俺と宰相が向かい合って座る。
騎士団長と魔導師長は何時ものように陛下の後ろに立っている。
お義父さんは宰相の隣に腰を降ろした。
「何か良い知恵を思いついたか?」
宰相が問いかけて来た。
「あまり良い知恵は思いつきませんでした。最初は話し合いをしようと声を掛けたのですが、いきなりブレスを撃たれて慌てて逃げました。」
「話し合い・・・。」
騎士団長が呆れたように呟いた。
「色々と試しては見たのですが上手くいかなくて夜を待って倒しました。」
倒したと言うよりも試しに光弾を撃って見たら倒せちゃった?
「倒した? 地竜を倒したのか?」
辺境伯が声を上げる。
「はい。周囲はかなり大きな火事になりましたが雨が降っていたので大丈夫だと思います。」
「本当に地竜を倒したのか?」
「一応持って帰ったので見ます?」
「騎士団の訓練場で出してくれ。」
宰相の言葉で入り口に立っていた執事長のおっちゃんが廊下に出て何やら騎士達に指示を出している。
俺達が訓練場に着くと、訓練していたらしい騎士団や魔術師団、慌てて駆け付けたらしい解体職人のおっちゃん達が周りの壁にへばり付いていた。
辺境伯から地竜の大きさを聞いていたようで、十分な広さがある。
「出します。」
アイテムボックスから地竜を出す。
「「「「おおぅ!」」」」
どよめきが上がる。
解体職人や魔術師のおっちゃん達が地竜に群がった。
「話には聞いていたが、こうしてみると凄まじい大きさだな。」
宰相も驚いている。
「遠目には見たが、近くで見ると恐ろしさがまるで違うな。とてもでは無いが戦いを挑む気にはならぬ。」
いやいや、お義父さんが倒してくれと言ったのでしょうが。
他人事みたいに言わないでよ。
「見事である。地竜は王家で解体し、素材は買い取れるだけ買取り他はキラに返却するという事で良いか?」
「はい。ただ、肉の半分は俺に下さい。」
ドラゴンの肉は美味しいので奥様達や子供達、使用人達にも食べさせてあげたい。
「良かろう。」
王家で解体してくれるなら楽だ。
「褒美は追って通知する。」
「ありがとう御座います。」
今日は家族や実家の両親達が勢揃いで焼肉パーティー。
勿論肉はドラゴン肉。
「美味い!」
公爵は満面の笑み。
「こいつに1年半も苦しめられたんだ。今日は腹一杯食うぞ。」
辺境伯が肉に齧り付いている。
「うむ、キラ家で食べる肉は一味違うな。」
何で陛下がいるんだ?
王宮でもドラゴンの肉を食べた筈だぞ。
何故か陛下セット全員がしれっと家族に混じってドラゴン肉を食べている。
メイド達も陛下セットに慣れたのか普通に接している。
「これも皆キラ様のお陰です。キラ様に感謝して下さいね。」
「ルアレイナ殿の言う通りだ。まさか一人で討伐するとはな。」
「流石は我々の息子、あっぱれというしかない。」
みんなニコニコ顔。
奥様方も嬉しそう。
みんなの笑顔を見ながらの食事は一層美味しく感じた。
ドラゴン討伐の褒美はキラ伯爵領の隣にある元子爵領と子爵の叙爵権。
貴族になりたい子がいれば俺の1存で子爵に任命出来るらしい。
お義父さん達と奥様達が相談して決めてくれた。
「王家も買い取った地竜素材をオークションで売れば大儲けだから少ないくらいだ」
と、アシュリーお義父さんが言っていた。
数日後、王家の推薦でギルドのランクがSSに昇格、大陸初のSSランク冒険者となった。
「SランクとSSランクってどう違うの?」
ギルマスに聞いてみた。
「Sランクは数人いるがSSランクは大陸初だ。」
ギルマスが違いを説明してくれたが、意味が判らん。
違いの分かる男は遠そうだ。
俺が地竜を討伐してからは奥様達も魔獣狩りをしたいと言い出して、週に2~3度黒い森に通うようになった。
黒い森の奥に結界の魔道具を設置してその中に転移ポイントを作ったのですぐに転移出来る。
交代制なので朝奥様2人を黒い森に送り、夕方迎えに行く。
お腹が大きいので最初は俺がずっと付き添っていたが、全員が探知魔法を使えるし、かなり奥の魔獣でも問題無く倒せるので俺の出番はなかった。
俺が傍で見ているのが邪魔らしく、付き添いよりも洗濯とショーツ作りが大事だと言われて送り迎えだけをする事になった。
多分魔獣を爆散させる度に俺が”勿体ない”という顔をしてしまうからだろう。
前世で染みついた“勿体ない”精神は今世にも引き継がれているようなので仕方がない。
奥様達は素材が取れるように最小限の傷で倒すよりも爆散させる方が好き。
妊娠中は何よりもストレスが良く無い。
奥様達が思い切り気晴らし出来るよう、付き添いは無しにして送り迎えだけを頑張った。
奥様達の魔力波動は離れていても探知出来るので、夕方になると転移ポイントの結界まで転移して奥様の魔力波動を目標に飛行魔法でお迎えに行く。
帰りはその場から屋敷に設置した転移部屋に転移で戻る。
火魔法しか使えなかったシャリーも気弾を覚えてからは毎日撃ち捲って、今ではそこそこの魔獣なら気弾で倒せるようになったし、凝縮した超高温ファイアーボールの練度も上がって森でも火事を起こさず高ランクの魔獣を倒せるようになっている。
奥様達が交代で森に入り、俺が送迎担当というのが最近のパターン。
奥様達の機嫌が良いので俺も嬉しい。
ただ、奥様達がケラケラ笑いながら魔獣を撃ち捲くるのはちょっと怖い。
奥様達が臨月を迎えた。
5人目ともなると俺にも余裕がある。
リューラの陣痛が始まると3人の奥様達とリビングで待機。
いつもなら膝枕でまったりだが、お腹が大きいので膝枕も無理。
仕方が無いので横に座ってお腹を撫ぜていた。
「少しは落ち着きなさい。」
ウロウロと歩き回っていた訳では無いのにレイナに怒られた。
「何かしていないと不安だから、・・」
「だからと言って3人のお腹を撫ぜるのはダメです。いつ陣痛が始まってもおかしくないのですからね。」
ぐぬぬ。
「あっ、痛い。」
シャリーが顔を顰めた。
「大丈夫よ、落ち着いて。」
「ええ、まだ大丈夫そう。一応部屋に戻っておきますわ。」
「そうね。そろそろ本当の陣痛が起こってもおかしくない時期だからリーナも部屋に戻りなさい。」
「そうするわ。キラ様をお願いね。」
「ちゃんと見張っておくから大丈夫よ。」
俺は見はっておかないと危険なのか?
シャリーとリーナがメイドに手を引かれて部屋を出て行った。
立ち上がって廊下迄見送った所でメイドに追い払われる。
「まだまだ時間が掛かるし私も横になりたいから、キラ様はエドの所にでも行ってみたら?」
「お、おう。」
エドなら話し相手になってくれるかもしれない。
「子供達は元気にしているか?」
「ヨメニオイダサレタカ」
エドもエスパーなのか?
「そんな事は無いぞ、たぶん。」
「フン」
「久しぶりにエドに乗ろうかと思っただけだ。」
「マイアサノッテイルゾ」
そう言えば今朝も乗馬の訓練をした。
「・・たまには昼も乗ろうかなと思った?」
「モットイゲンヲモテ」
「お、おう。」
エドにもバカにされた。
「ヒンヒヒン!」
「ヨメガヨンデル」
エドが嬉しそうに尻尾を振りながら嫁達の所に走って行く。
お前ももっと威厳を持て。
5日の間に3人の子供が生れた。
母子共に元気なので一安心なのだが、3人共女の子。
俺の家族12人で男は俺だけ、いやレイナの子供は男の子の筈。
男の子だったらいいな。
半月後、レイナが出産した。
女の子だった。
みんな元気だし可愛いのだけれど・・・。
出産後静養していた奥様達の体調が戻ったのでいよいよ領地のお掃除開始。
ルナの叙爵から1年半が経っていた。
まずは領都キラが領地の東側なので、東側地域の全代官に過去5年分の帳簿を持って領都のキラに集まるよう命じた。
同時に西側地域の全代官にも過去5年分の帳簿を持って西側の中心都市スベリに集まるよう命じた。
1度にやらないと情報が洩れて逃げられる可能性があるかららしい、知らんけど。
領都キラにはルナ伯爵の名代としてレイナと後見役のアシュリー公爵が、スベリには名代としてシャリー、後見役としてドラン侯爵がそれぞれ騎士10騎、兵1000と共に向かった。
俺?
王都屋敷でお留守番。
何かあれば小型化した通信機を持たせたので連絡して来る筈。
地図を作った時に領内の洞窟に転移ポイントを設置したのですぐに駆け付けられる。
転移ポイントから飛行魔法を使えばどちらの街にも30分以内で飛べるから安心。
俺が王都にいないと子供達の魔力過多症対策に支障が出るのでお留守番。
領地よりも子供達の健康が最優先、というより領地には俺の出来る仕事が無い。
毎日子供達の魔力量をチェックしながら適宜魔力の吸い出しを行う。
8人もいるので結構忙しい。
リーナとリューラも手伝ってくれるが、今迄の奥様達4人から2人になったので屋敷の使用人達への細々とした指示もあって奥様達は忙しい。
時々ストレス解消とか言って訓練場で魔法をぶっ放している。
強力な結界を張った訓練場だから思い切り魔法を撃っても大丈夫。
訓練場から帰って来た奥様はめっちゃ満足した顔をしている。
時々レイナから通信が入って、王都の菓子や注文された魔獣の肉を運ぶ。
代官の交代も順調に進んでいるらしく機嫌が良い。
元公特のメンバー達は不正摘発に関してはプロ中のプロ。
百戦錬磨のメンバーたちが獅子奮戦の働きをしているらしい。
半年後、レイナとシャリーは領地を元公特のメンバー達を中心とする新しい家臣達に任せて王都に帰って来た。
運んだのは俺だけど。
アウトマンが家宰として領地全体を統括し、ベッツが今はベッツと改名した元スベリの代官として西部地域を統括しているそうだ。




