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29 金食い虫ってつおいの?

屋敷に戻ったら実家の両親達が集まっていた。

子供が生れてから実家の両親達が屋敷に来る頻度が上がっている。

いつもは代わる代わる来ていたが、今日は4家が勢揃い。

俺が戻った事を使用人達が知らせたらしい。

「キラ閣下のお陰でキュラナー家が救われました。領地にいる当主に代わってお礼申し上げます。」

お義母様が頭を下げた。

「リーナを泣かせるようなことは絶対にしませんから安心して下さい。」

「ドリーナは本当に良き人と結ばれました。これからも末永く宜しくお願いします。」

「こちらこそお世話になります。」

今回は辺境伯家の夫人が実家代表で挨拶する事になったらしい。

「王都では大将軍様がウスラ公国を叩きのめしたと評判ですぞ。」

「敵の精鋭8000を一人で捕虜にしたと聞きましたが、本当ですか?」

「捕まえたのは砦の兵達です。一人で8000人も捕らえるのは無理ですから。」

「しかし、砦の兵には一人の怪我人も無かったと聞きましたぞ。」

「敵は武器を捨てて両手を上げていましたから。」

「なんと、敵の先鋒が武器を捨てたのか?」

「先鋒は戦の誉れ、名誉を重んじる先鋒を降伏させたとは驚きですな。」

「まあ、そう・なるの・かな?」

「公城を破壊したと聞きましたが?」

「それは冒険者の秘匿という事で勘弁して下さい。」

「破壊したことは事実なのですな。」

「・・まあ、そう・なります・かね。」

「いやはや、これ程の手柄を立てて誇る所も無い。我が息子は王国1の傑物であるな。」

「いや侯爵、私の息子でもある事を忘れて貰っては困る。」

「ここにいる皆の息子で娘の良き夫だ。キラと家族になれた事を誇りに思うぞ。」

お義父様達やお義母様達に持ち上げられて尻がこそばゆくなる。

「はいはい、キラ様が困っておられます。お食事の用意が出来ましたので食堂に移動して下さいね。」

流石は第一夫人、レイナが上手く誘導してくれた。

「今回の報酬には何を求めるつもりだ?」

公爵に聞かれた。

「う~ん、家族とのんびり過ごせたら満足だから休暇?」

「休暇だと、キラは何の役職にも就いておらぬから毎日が休暇であろうが。」

そう言えばそうかも。

「あはははは。」

「まったく、欲が無いにも程がありますぞ。」

「しかしながら今回の働きはあまりにも大きすぎるな。」

「王家としても相当な褒賞を与えねばメンツが立たぬであろう。」

「これだけの働きをして金や勲章では王家としての立場が無いからな。」

「ともかく貴族との付き合いは苦手なので、俺が貴族にならないなら何でもいいです。お義父さん達で適当に考えて下さい。」

面倒そうな話だったのでお義父さん達に丸投げした。

「ならば我々に任せてくれ。娘達とも話し合って、キラ殿が貴族にならない形で相応の褒賞をもぎ取ってやろう。」

「それは良い。親としては知恵の見せどころだ。良い報酬をもぎ取ってやる。」

お義父さんたちが悪い顔をしている。

「あはははは。褒賞はともかくとして今は優しい奥様達の膝枕で遊び回る子供達を眺めるのが一番の楽しみです。この暮らしが続けられるよう宜しくお願いします。」

「任せろ。」



王宮に呼び出された。

「ウスラ公国国境にある峠道を塞いでいる大岩だが、重すぎて動かす事が出来ぬ。砦でウスラ公国との交渉を行いたいので早急に片付けて欲しい。」

宰相に頼まれた。

そういえば副官だった大隊長に後で片付けると言ったような気もする。

「目立つのは嫌なので、夜のうちに片付けます。」

「夜とはいつの夜だ? 出来るだけ早く片付けて欲しいのだが。」

「今晩?」

「おい、国境まで3000㎞もあるのだぞ。」

「今から出れば夜には砦に着けます。岩をアイテムボックスに収納するだけですから夜中には終わると思います。」

「・・・、無理はしなくとも良いぞ。」

「問題有りません。」

宰相に屋敷への連絡を頼み、すぐに王都を発って砦に向かった。

飛行魔法の練度がかなり上がったようで、5時間程で砦に到着した。

俺が来たことは知られたくないので人気のない峠で食事を摂って仮眠する。

辺りが暗くなってから峠道を塞ぐ大岩を収納して王都に戻った。

夜明け前に屋敷に戻れたので時速600~800㎞位で飛べるようになったらしい。

魔法は使えば使うほど練度が上がるのでこれからもどんどん飛ぶ事にしよう。



家でのんびり過ごす日が続くと奥様達のお腹が膨らんだ。

今回はリューラが一番先に妊娠、少し遅れてシャリーとリーナ。

最後に残ったレイナの妊娠には3人の奥様方が全面協力。

王家に伝わる閨の作法という事で俺は仰向けに寝ているだけ。

3人の奥様が俺の準備を万端にしてフィニッシュだけをレイナが担当。

これを毎晩4回繰り返すこと1ヶ月、レイナも妊娠した。

俺は毎晩4人の奥様達と過ごせたのでめっちゃ幸せ。



ウスラ戦役終結から4ヶ月。

ウスラ戦役の戦勝祝賀会が開かれた。

王都から3000㎞も離れた地での戦いなので事後処理に時間が掛かったらしい。

国境砦で行われているウスラ公国との外交交渉が概ね合意に至った事で祝賀会となった。

王宮の大ホールには着飾った大勢の貴族達が集まり、奥の演壇には陛下をはじめとする王室の面々が並んでいる。

「軍務卿サイクル伯爵よりウスラ戦役について概況を説明致します。」

司会の声で若い兄ちゃんが演壇の下に立った。

汚職事件で処刑された軍幹部に代わって軍務卿となった伯爵らしい。

「国境を守る第7師団幹部が領主であるバット伯爵と共謀して不正を働いた。監査部の査察が入る事を知った師団長とバット伯爵らは財産を持って一部の兵や家族と共にウスラ公国に亡命、ウスラ公国に我が王国への進攻を唆した。砦の内部やバット伯爵領の情報を手に入れたウスラ大公は直ちに第3公子を大将とする精鋭軍35000にミュール侵攻を命じた。これを知った国王陛下はキラ将軍を国境に派遣。キラ将軍は撤兵勧告を無視した公国への警告として公城を破壊、大公は直ちに撤兵を指示したが先鋒部隊8000はこれに従わず攻撃態勢を継続。キラ将軍は峠道を塞いで先鋒部隊の退路を断ち、強大な魔法を発動して先鋒部隊を威嚇した。キラ将軍の魔法を目の当たりにして戦意を喪失したウスラ軍先鋒部隊8000は武器を捨てて投降する事となった。以上。」

貴族達が騒めいている。

「続いて外務卿スクイズ伯爵より外交交渉について説明する。」

髭を生やしたおっちゃんが出て来た。

「ウスラ公国とは捕虜の身代金及び賠償金の支払いで合意した。第7師団長以下の幹部及びバット伯爵1族の王国への護送、持ち出した財産の返還も行われた。現在両国の平和条約締結に向けて協議中である。以上。」

「続いて褒賞を与える。功一等はキラ将軍であるが、キラ将軍が褒賞を辞退したためキラ将軍の第1子ルナに褒賞を与える。」

レイナに抱かれて進み出たルナが演壇の下でレイナの腕から降ろされる。

レイナに腕を持って貰いながらも片膝を着いてしっかりと騎士の礼を取っている。

何度も練習したので様になっているし、何よりもめっちゃ可愛い。

陛下が演壇を降りて来た。

剣を抜きルナの肩に剣を優しく置く。

「ルナを伯爵に叙する。以後はルナ=キラと名乗るが良い。」

「あい。」

うん、練習通りに出来た。

俺は見守るだけなのに、強い魔獣と戦う時よりもドキドキした。

愛犬がピッチャーマウンドからボールを咥えて来るのをホームベースで待つお父さんの気分?

イッツ、ショータイム!

後でハイタッチしてあげよう。

「励めよ。」

陛下が剣を納め壇上に戻った。

「尚、師団長逃亡の後、圧倒的に不利な状況の中で命を懸けて砦を守った兵士達には別室に於いて昇進辞令及び勲章が与えられる。」

副官だった大隊長達は“昇進や勲章は有り難いが、大勢の貴族の前で褒賞を受ける程の働きはしていない”と祝賀会場での叙勲を固辞したので別室となった。

褒賞の儀が終わると音楽が流れ舞踏会が始まった。

大勢の貴族に囲まれるのは嫌なのでルナを抱えてさっさと会場を逃げ出した。



ルナの叙爵に不満は無い。

奥様達と実家の4家が話し合った結果、俺が引退しても娘達が暮らし向きに困らないようにと爵位と領地を与えるよう王家に提案してくれた。

これで俺も安心して引退出来る、って俺仕事してない。

何から引退するんだ?

奥様達の膝枕から引退するのは嫌だぞ。

軍部の不正で多くの貴族家が取り潰しとなり王家の直轄地が増えていたので王家も即座に同意したらしい。

王国初となる1歳女児伯爵の誕生となった。

ついでに俺の屋敷の隣が軍部の不正で取り潰しとなった侯爵家の屋敷だったのでその屋敷も下賜される事になり、2軒続きの広大な屋敷になった。

薬草園が増やせると奥様達も喜んでいる。

奥様達が笑顔になると俺も嬉しい、良かった良かった。

ルナの領地は王国中央部の南端、小国群に面する東西に長い土地。

20年前に大国ドウデルと共謀して王家転覆を図った元侯爵家と寄り子の子爵家5家が領有していた土地で、現在は王家直轄地として代官達が治めているらしい、知らんけど。

元侯爵家と5子爵の領地全部を伯爵家が貰っていいの?

お義父様達によると、不正が蔓延している地域らしい。

そんな領地で大丈夫なの?

ちょっと不安ではあるが、お義父さん達に何か考えがあるようなので黙っていた。



「まずは恩賞として賜ったキラ伯爵領に最も領地が近い私から現状を説明する。」

祝勝会翌日、お義父さん達が屋敷に勢揃いした。

今回の叙爵についての最終交渉は全てお義父さん達に任せたので、賜った伯爵領について奥様達に説明するらしい。

俺には関係ないのに何故か俺も同席させられた。

お義父さん達を代表してドラン侯爵が領地について奥様達に説明する。

「キラ家が拝領した領地は東西400㎞、南北200㎞。20年前に謀反の疑いで領地召し上げになった侯爵家と謀反に加担した5子爵家の領地である。人口では20位程度だが広さでは辺境伯家、ドラン侯爵家、ミトン侯爵家に次ぐ王国4位の広さだ。地域の中心となっている大きな街だけで6つ。その他に街が31,騎士爵が代官を務めている町が86ある。」

東西400㎞、南北200㎞って、東京から名古屋までの本州全域じゃん。

どんだけ広い領地を貰ったんだよ。

「賜った領地は20年前の領地引き渡し時に戦功のあった軍部貴族所縁の代官が長年支配していた為、東部地域以上に不正が横行している。最近5年間は不作を理由に殆どの代官が貢租を殆ど納めていないばかりか、ドウデル王国が兵を集めているからという理由で軍備の為の補助金を貰っている。その補助金は軍備には殆ど使われず、半分は代官の私腹、半分は東部の軍部貴族、即ち補助金を出すよう王家に圧力を掛けた貴族に渡っている。有り体に言えば王家にとってはこの地域は金食い虫のお荷物。だから纏めてキラに始末させようというのが王家の思惑だ。ここまでは良いか?」

「「「「はい。」」」」

待て待て、俺が金食い虫を始末するのか?

虫と戦った事は無いぞ。

金食い虫ってつおいの?

今日の主役は奥様達、俺は同席しているだけの筈なんだけど。

「慣例で新領主の領地となった直轄地の代官はそのまま新領主の家臣として仕えるか、爵位はそのままで王国の官吏に戻るかを選択出来る。選択の期限は1年。王家の意向は街の代官を務める37人の男爵と86人の騎士爵を出来るだけ王家に戻さず処分してくれということだ。はっきり言えば、腐敗貴族の処分が面倒だからキラに丸投げしたということだな。伯爵家としては異例ともいえる広大な領地になったのはそういう事情だ。そうした事情も含めて私達で相談した結果、キラ家としてはまだまだ子供が増えそうなので領地は広い方が良いという事で王家の提案に乗った。ここまでは良いか。」

「「「「はい。」」」」

幾ら子供が増えそうだとはいえ、そんなに広い領地がいるの?

首を傾げたくなるのをじっと堪える。

お義父さん達や奥様達の話に口を挟むほど愚かでは無い。

俺は経験から学べる18歳だ。

「王家の意向に応えるには、現在の代官達には1年以上今のまま統治を続けさせ、王家に戻れる期限の1年を過ぎてから領主権限で処分するのが最善となる。」

侯爵が奥様達を見回す。

「寄り親としての爵位任免権ですね。」

リーナが応えた。

寄り親・寄り子制度は学院で習った。

寄り子が多い辺境伯家出身だけあってその辺は詳しいようだ。

「その通り。寄り親・寄り子の立場であれば、王家のような面倒な手続きをせずとも爵位を奪い、望みの家臣に奪った爵位を与える事が出来る。乱用すれば家臣の信頼を失うので古い家柄の貴族家ではあまり出来ぬが、譜代の家臣のいないキラ家で有れば何の問題も無い。」

「1年間のぎりぎりまで代官を続け、絞り上げられるだけ絞り上げて王家に戻るという事はありませんか?」

ドラン侯爵の娘であるシャリーが声を上げた。

「キラが領地に全く関心が無いという事は知れ渡っている。キラの代わりに叙爵したのは僅か1歳の新領主。4人の妻達は子育てに忙しい上、妊娠中。しかもキラ家には男爵になれるような譜代の家臣が全くいない。当分はキラ家が領地経営に係わる事は無いとういのが大方の予想であり、事実ほぼその通りになる。」

「ということは、キラ家の動向を見ながら4~5年は稼げるだけ稼ごうという事ですね。」

「領民達が可哀そうです。」

「あまりにも酷い代官だけ直ぐに入れ替えるというのはダメなのでしょうか。」

「早急に代官を入れ替えたいのはやまやまだが、現在のキラ家には代官を務められるような譜代の家臣がおらぬ。我ら4家にはそれなりの人材はおるが、この際新たに人材を集め、キラ家譜代の家臣とする方が将来的にも良いであろうと考えた。領民には済まないと思うが、今は手を打たない方が良い。下手に数人を入れ替えると、残りの代官達がこの先1年の間で無茶苦茶に領民を絞り上げ、財産を持って一斉に官吏に戻るという事になる。大勢の代官が領地の金を持って居なくなれば領政が混乱して領民はもっと困る事になる。」

「寄り親、寄り子の関係に持ち込んでならば混乱なく入れ替えられるって事?」

「その通り。その為に新領主ルナの名で代官に統治の指示を出し、同時に旧侯爵家領都の名をキラと改めるよう命じた。」

「統治の指示ですか?」

「代官を命じる時に陛下が出す指示と同じだ。貢租は5割、報告は正確かつ迅速、治安の維持の3点。」

「それって意味があるの?」

「殆どの代官が7割の貢租を取っている。収穫高も改ざんして報告している。今まで通りの指示を出されれば今まで通りにする代官が多い筈。即ち新領主の命令違反が問える。」

「領都の改名にも意味があるの?」

「王家の直轄領からキラ家の領地に替わった事を周知させる為だ。王家の時と同様にしているという言い訳をさせない為の措置だ。」

「知らなかったとか今まで通りという言い訳が出来ない訳ね。」

「その通り。そして代官達が今まで通りに不正をしていても気付いていない振りをして、その間に代官職を任せられる譜代の家臣と領軍を育成する。」

「家臣の募集ですね。」

「王都なら仕官希望者は掃いて捨てる程いますが、良い人を探すのは大変ですよ。」

「仕官希望者はそれこそ玉石混淆。そこで人材採用については実績のあるキラに応募者の見定めを頼みたい。」

「えっ、俺?」

突然俺の名が出たので、思わず自分の鼻を指さしながら声を上げてしまった。

「公特の隊員を選んだ人物眼には陛下や宰相も驚いていた。キラが選んだ家臣なら安心して領政を任せられる。後で紹介するが既に伯爵家の重臣候補を45人集めてあるので彼らと協力して人選をして貰いたい。キラ領の規模からすると少なくとも2千人の文官と5千人の武官が必要であろう。大半は現地採用となるが、代官や士官には出来るだけキラ家に忠誠心を持つ家臣を充てたい。現地の行政官や警備兵は腐敗している者が多いからな。どのように集めるかはキラに1任するのでよろしく頼む。」

俺に丸投げかい。

「あまり派手に家臣を集めると代官達に警戒されませんか?」

親子なので訊き易いらしく質問は殆どがシャリー。

「アシュリー公爵家の王都屋敷には家臣と兵が600、領地には5000だ。我がドラン侯爵家の王都屋敷にも500、領地には7000の家臣や兵がいる。キラ伯爵家が千や2千の家臣を募集してもたったそれだけかとしか思われぬ。一騎当千どころか当万ともいえる大陸最強のSランク冒険者が居る事を忘れてな。」

俺、褒められた?

というより、侯爵家には7000人の家臣が居るの?

この世界の貴族を甘く見てた。

そういえばイエローは暖かい食事を喜んでいたよな。

やっぱり貴族にならなくて正解だった。

ルナの為だから頑張れるけど、俺一人だったら絶対国外に逃げてる。

先ずは人選か。

・・領地の状況はどうなんだ?

ドウデル王国と接しているなら諜報部隊も作った方が良い?

魔獣はどれくらいいるんだ?

冒険者ギルドはどうなってる?

とりあえず領地を見に行った方が良いな。

ドラン侯爵の説明をよそに、俺は家臣採用について考えていた。

「大体の所は理解して貰えたと思う。それでは重臣候補45人を紹介するからルナを連れて会議室に移動してくれ。」



全員がぞろぞろと会議室へと移動する。

「「「ゥォオオ~!!」」」

俺達が会議室に入るなり大歓声が起こった。

「アウ?」

「アウトマンです、ア・ウ・ト・マ・ン!」

「トマン、久しぶり。」

「アウはさっき言ったからですよね。」

以前のやり取りを覚えているようだ。

「おう。」

「閣下はともかくまずはルナ様に挨拶をさせて頂きます。」

俺はともかくなの?

アウトマン達がリューラに抱かれたルナの前に整列して跪いた。

「元公正化特務部隊司令アウトマン以下45名、キラ伯爵家家臣としてルナ様にお仕えさせて頂きます。一同礼!」

45人が一斉に胸に掌を当て、リューラに抱かれたルナに向かって頭を下げる。

リューラがルナに囁く。

「あい。」

ルナが一言だけ声を出す。

「有り難き幸せ。身命を賭してお仕え致します。一同直れ。」

「公特は辞めたの?」

アウに聞いてみた。

「公特は使命を果たしたという事で職務を各殿に割り振って解散する事になりました。というよりアシュリー公爵閣下からキラ伯爵家への仕官のお話を戴き、皆で話し合った結果幹部全員が伯爵家にお世話になりたいという事で消滅しました。ぶっちゃけた話、公特が有名になり過ぎて目の敵にする貴族が増えたので、初期メンバーである私達は王都では暮らしにくくなったという訳です。」

「あはは。領地に行くのはもう少し先になるが、家族の家も用意するから希望があれば何でも言ってくれ。仕事については奥様達が伯爵代行として差配するから指示に従ってくれ。」

「承知。一同整列。」

アウトマン達が奥様達の前に整列して跪いた。

「奥様方に礼!」

45人が一斉に胸に掌を当て、リューラに抱かれたルナに向かって頭を下げる。

まあ、ルナがリューラに抱かれたままなのでさっきの礼をもう一度繰り返しただけ。

「頼もしい皆様が家臣になって下さった事、嬉しく思います。幼き我が子の為に励んで下さい。」

レイナが代表して挨拶した。

「有り難き幸せ。身命を賭してお仕え致します。一同直れ。」

公特の初期メンバーは何度か屋敷の夕食に招いたので奥様達とは顔見知り。

挨拶の後はルナを囲んで皆が楽しそうにしていた。

公特のメンバーなら信用出来るし実力もあるので心強い。

慣れた王都暮らしを捨ててまで馳せ参じてくれたみんなに感謝した。



翌日、早速領地に飛んだ。

王都からおよそ2000㎞、ミュール川沿いに南下するとドウデル王国との国境砦が見えた。

アシュリー侯爵に貰った簡単な地図、といっても子供の落書き程度で、ミュール川と主な街の名前がおおよその位置に書いてあるだけを参考に領都となる筈の街を目指す。

飛行速度が上がったようで、王都から3時間程。

ジェット機には及ばないけどゼロ戦並み?

風除けの結界を流線形にしたら速度と安定性が増した。

地上に降りて地面を均し、大きな紙広げると“俯瞰“を発動する。

高高度から“俯瞰“で眺めた地上をしっかりと目に焼き付ける。

“コピー”

大きな紙に航空写真の様に地上が写された、白黒だけど。

入学試験の問題をコピーして貰った時に覚えた魔法。

王都で何度か試したが、白黒にしかならなかったので途中で飽きた魔法。

落書きのような地図よりは遥かにまし。

コピーの端を意識しながら新領地を飛び回り俯瞰写真を作って行く。

隣同士の俯瞰写真がピッタリ繋がるようにしておけば、広範囲が判り易くなる。

高高度からなので普通の家などは小さな点でしかないが全体の地形は判断し易い。

今回はお試しなので一通り作ったら終わり。

用水路が壊れているせいで乾燥して荒地になっている所が多い。

町や村も壊れた家が目立つ。

道もデコボコで馬車が走れる状態ではない所も見える。

荷車でもかなり苦労しそう。

目立つのは拙いので隠蔽を使って空から観察したが、街にも全く活気が無かった。

どんだけいい加減な政治をしたらこうなるんだよ。

とりあえず必要なのは用水路の補修と道普請。

土属性の魔法使いが大勢必要になりそうだ。

あちこちにある森も魔獣の密度が高い。

数年に1度は溢れる可能性がある。

国境の砦もあちこちが崩れかけているし人影も少ない。

大丈夫なのか、国軍。

ともかく広い。

かなり急いだつもりだったが、領地が広いので俯瞰写真を作るだけで10日掛かった。


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