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28 報連相は組織運営の基本

急な用事が出来たので急いで仕上げました。

次回からはいつもの投稿時間になります。

王宮に呼び出された。

「キラ製ポーションのお陰で軍部に不正の証拠を突き付けられた。軍務卿をはじめとする軍務殿幹部職員の8割が不正に関与していたことが明らかになり処分した。地方に派遣されている軍の幹部も次々と逮捕出来たが、ウスラ公国との国境に派遣されている第7師団の師団長と幹部士官が一部の兵を連れてポーションの横流し先であるウスラ公国に亡命した。」

わざわざ呼び出したのだから何かあるとは思ったが、思いもよらぬ話になった。

「はあ?」

横流しは判るが亡命?

「ウスラ公国との国境は王都から3000㎞離れた最も遠い駐屯地なので監察も最後になっていた。監察官が軍の査察を行ない既に多くの軍幹部が逮捕された事を知った師団長達が監察官の来る前に貯め込んだ資金を持ってウスラ公国に逃げ出したらしい。」

「・・・・。」

なんなんだよ、それ。

「情報部の報告だと本来1万人規模の第7師団だが、師団長が人件費を横領して実際は半数の5000しか兵が居なかったらしい。そこに師団長らが1000人程の兵を引き連れて亡命したので今は4000しか兵がいない。」

ウスラ公国軍の知識が無いし地形も判らないので4000人という数がどうなのか判らない。

「はあ。」

「さらに砦付近の領主であるバット伯爵と寄り子のベース子爵も師団長と共に亡命した。」

「へぇ?」

貴族が領地を放り出して逃げたって事?

「2人は賄賂を受け取って師団長の不正を隠蔽したばかりか領地軍に充てるべき費用を削って贅沢をしていたようだ。2人の領地には王国既定の半数しか兵士がいなかった。」

「はぁ。」

軍も軍だが領主も領主だ。呆れてため息しか出ない。

「ウスラ公国には我が国との友好を深めようと言う外交派と戦って領地を広げようと言う主戦派がいる。今までは勢力が拮抗していたが今回の亡命で均衡が破れた。密偵の報告によると公国軍がウスラ側の国境砦に集結しているらしい。今は先鋒隊の1部がミュール側の砦の前に到着しただけのようだが、公都には公国全土から続々と兵が集まっている、その数35000。さらに公国側にはわが国の砦の内部構造や兵員配置、周辺の地形を熟知している師団長以下の軍幹部とバット伯爵がいる。」

「援軍は?」

「第5師団と第8師団を向かわせてはおるが、あまりにも遠いので先遣隊2000の到着が半月後、18000の本隊到着は早くても2ヶ月後になる。諜報員の報告では1か月前後でウスラ公国が開戦に踏み切るだろうと予測されている。」

「撤退ですか?」

「軍を引いた場合、バット伯爵領の東は山脈、伯爵領を手中にした公国軍はその勢いで南側のキュラナー辺境伯領に向かう事が予想される。」

「へっ!」

拙い、それは拙いぞ。

リーナを泣かせる事は出来ない。

「辺境伯領にはわが国最強の領軍がいるものの、昨年から続く魔獣の活発化で厳しい状況が続いている。35000の公国軍相手では多少の援軍があっても領地防衛は厳しい状況と言わざるを得ない。」

「・・・・。」

拙いじゃん。

「キラが戦争嫌いな事は知っている。敵を殲滅する広域魔法を使えない事も判っておるので35000の敵兵と戦えとは言わぬ。何か良い知恵が有れば教えて貰いたい。」

「・・・、バット伯爵領全体の地図と砦周辺の地図はありますか?」

宰相が合図するとすぐに地図が運ばれて来た。

「・・・・。」

じっと考える。

試験の公正化は前世の知識で何とかなったが、外交や軍事作戦の知識は無い。

「大雑把でも良いので公国や公都付近の地図は有りますか。」

すぐに地図が運ばれて来た。

詳細な地図は軍事機密なので他国の詳細な地図は期待していなかったが、運ばれて来た地図には思ったよりも細かい所まで記載されていた。

ミュール王都から国境までは約3000㎞。国境からウスラ公都まで約800㎞。

「・・・・。」

敵軍は35000か、ちょっと多すぎるな。

外交派がいるなら大公を狙う手もあるか。

自分の目で見ない事にはどうにも判断が付かない。

「砦の指揮権を頂けますか?」

宰相が陛下を見る。

黙って座っていた陛下が口を開いた。

「王剣と将軍のマントを渡す。ただ無理はするな、キラの命の方が王国にとっては大切だ。」

「何が出来るかは判りませんが、明日の早朝王都を発って現地に向かいます。連絡はこの通信機で行います。赤いランプが点いたら魔力を流して下さい。詳しい使用法はテリアール殿下にお尋ね下さい。」

魔導具の授業で作った通信機の改良版を渡した。

「承知した。くれぐれも無理はするな。」

マントと王剣を受け取って屋敷に戻った。



早朝に屋敷を飛び立ち国境へと向かった。

アイテムボックスには料理人達が作ってくれた大量のお弁当。

魔法袋には奥様達が徹夜で刺してくれた刺繍入りのハンカチ。

出征する夫に妻が渡すお守りらしい。

笑顔で見送ってくれた奥様達の為にも生きて帰る事が最優先。

目一杯の速度で空を飛んだ。

国境の山脈が見えて来た。

王都を出て6時間、時速500㎞で飛んだらしい。

山脈の中を抜ける峠道の手前にあるのがミュール王国の国境砦。

砦の峠側には既にウスラ軍の先鋒が陣を張っている、その数約5000。

山脈を超えてウスラ公国に入る。

上空でホバリングしながら様子を伺う。

峠道の下にあるのがウスラ公国の砦、砦の周囲にテントが幾つも張られている。

公都方面から砦に続く街道には兵士と馬車の列。

集結にはまだまだ時間が掛かりそう。

近くの岩山に降りて夕食を食べながら今後の事を考える。

疲れていたのだろう、いつの間にか眠っていた。



目が覚めるともう日が昇っていた。

朝食を摂ってウスラ公都に向かう。

砦に向かう軍勢が街道を歩き始めている。

最後尾はまだ公都を出ていない。

800㎞の距離を歩いて移動するのは時間が掛かる。

開戦迄1ヶ月程度というのは確かなようだ。

気付かれないように高高度から遠視魔法で公都を探った。

2重の高い城壁に囲まれた公都はミュール王都と比べても遜色ない広さの街。

その北側にある丘の上に城壁に囲まれた白亜の城が建っている。

城の北寄りにある煌びやかな建物が公宮なのだろう。

城の北側は軍の駐屯地らしく、兵站を積んでいるらしい馬車が行き来している。

城の南側には大きな屋敷が並んでいる。地図によると貴族街。

城と貴族街が公都の3分の2を占め、残りの3分の1に小さな建物がひしめき合っている。

街を眺めながらじっと考える。

これなら城を攻撃しても住民には被害が出ない?

試しに城の上空に飛んで小石を投げてみた。

暫くして公宮の庭に土が舞い上がった。

結界は無い。

ただ城はとてつもなく大きい。

気弾? 

壊せない事は無いけど残存魔力を解析すればいずれ対策を講じられそうな気もする。

とりあえず目の前の戦争を回避する事が肝心。

王国の砦に戻った。



「ウスラ戦役将軍を拝命したキラである。」

上空から拡声魔法で声を掛ける。

既に将軍を示す真っ赤なマントを身に着け、王剣を佩いている。

上空を見上げた兵が将軍の正装に気が付き、大声を上げながら走り回りって砦の屋上を空けて着地場所を作る。

士官らしい男達が屋上に駆けあがって来て空けた場所の横に整列した。

士官達の整列を待って、ゆっくりと屋上に着地する。

公特将軍をしていた時に散々経験させられたので慣れてはいるが、将軍が気楽に“こんにちは”という訳には行かないのがめんどくさい。

「出迎えご苦労。指揮所に案内致せ。」

将軍は王の代理なので言葉遣いにも注意が必要。

士官に案内されて砦の指揮所に入った。

指揮所では砦の指揮官らしい将校が全員直立不動でお出迎え。

「ウスラ戦役将軍を拝命したキラである。」

王剣を抜いて指揮官達に示す。

王の代理としての立場を明らかにする儀式。

部屋の中にいた全員が跪いて恭順の意を表し、名前と地位を申告した。

指揮所にいたのは大隊長2人と中隊長5人、参謀6人に士官10人。

「ウスラ公国の偵察に行ってきた。敵軍の最後尾はまだ公都を出ていないので開戦は恐らく1ヶ月以上先と思われる。間も無く味方援軍の先遣隊2000が到着するが、援軍本隊到着には2ヶ月程度掛かり、開戦には間に合わず数的不利は否めない。」

指揮官達を見まわす。どの顔も暗い。

「まずは開戦を回避する為の方策を講じる。これは俺と宰相で行う。開戦に至った時には俺が更なる手を打つ。残念ながらこの砦には前師団長の息の掛かった者達が残っているので今は詳細を言う事が出来無い。諸君には大量の縄と出来る限り多くの荷車を用意して貰いたい。」

「縄と荷車ですか?」

「何に使うかを説明できないのは残念だが、費用は俺の名前で王家に請求する。金蔵が空になるまで買い集めよ。」

「「「承知。」」」

「俺は師団長室を使う、案内しろ。」

師団長室に案内されてソファーに腰を降ろした。

「ふ~。」

偉そうに話すのはめっちゃ疲れる。

通信機を取り出して王宮に連絡を入れた。

現状を説明し、俺の考えた作戦を提案して陛下の裁可を得た。



公都上空でホバリングしながら通信機を繋ぐ。

予定通りの時間なのですぐに宰相が出た。

「“どうぞ“と言ったら打ち合わせ通りにお願いします。」

「承知した。」

拡声魔法の用意をする。

「どうぞ。」

「ミュール王国宰相のサリート=クデルである。公国は再三の警告にも拘わらず我がミュール王国に戦を仕掛けようとしている。10日以内に軍を引け。軍を引かぬ時は11日後の正午に公城を破壊する。これは最後通牒である。繰り返す。10日以内に軍を引け。軍を引かぬ時は11日後の正午に公城を破壊する。これは最後通牒である。」

通信機から流れる声を拡声魔法で公都中に届けた。

突然響いた声に公都の兵は勿論、住民達も通りに出てキョロキョロと周りを見回している。

俺は公都上空2000m、豆粒ほどの大きさにしか見えない上に隠蔽魔法も発動しているので全く気付かれていない。

宰相は教えた通りにゆっくりと台本を読んでくれたので住民にも聞き取れた筈だ。

これで第1段階は完了。

まあこの程度でウスラ公国が軍を引く事は無い。

第2段階は公城破壊の準備。

色々と考えた結果空から石を落とすのが心理的には最も効果が大きそうだと思った。

気弾などの魔法は魔力を検知出来るから対策を考えようとする。

破壊力に驚いても、心理的には前向きになる場合が多い。

魔力を検知出来ない只の落石なら何故空から石が落ちて来たかが判らない。

人間は判らない事には恐怖心を抱く。

目星を付けていた人里離れた所にある岩山に飛んだ。

大型の気弾で山を爆破しては砕いた岩を次々とアイテムボックスに収納する。

砕けた岩と言っても4~5mの大岩。1個でも軽く10トンは超えている筈。

「ん?」

山を一つ収納した所で何かが俺の探知に掛った。

近寄って見ると魔鉄鉱。

魔鉄鉱は魔力を大量に含んだ鉄鉱石で武器や魔道具の素材となる。

山の地下に鉱脈が眠っていたらしい。

気弾を魔鉄鉱の鉱脈に打ち込み、砕いて鉱石を次々とアイテムボックスに収納する。

ルナの領地用に鎌や鍬を作っても良いし、領兵用の武器を作っても良い。

他には無いかと探知魔法に工夫を加える。

探知魔法に比重の大きな素材や魔力を通し易い素材を見つける魔法陣を組み込んだ。

ファンタジー小説ならミスリルやヤダマンタイトが見つかるのが定番。

残念ながら現実は小説程甘くない。

希少金属は全く見つからなかった。

創造神様はもう少しファンタジー小説を読み込んだ方が良いんじゃね?

いや、下手にファンタジー小説を読み込むと怖いラスボスが出て来そうなので今のままでいいや。

山が無くなっただけでなく大穴が開いてしまったがここはウスラ公国だから問題無い。

砦に戻って敵軍の様子や縄や荷車の手配状況を聞く。

買い付けは順調で、順次砦に運ばれるらしい。

敵陣には続々と兵や荷車が到着している。

投石器などの攻城兵器はまだ到着していないようなので時間は充分に有るだろう。

時々偵察に出ながら不審者の監視をする。

夜陰に紛れて外部と連絡を取っている兵士の頭上に光魔法のライトをつけると飛び上がって驚くのが面白い。

逃げる兵の頭上をライトが付いて行くのですぐに砦の兵がやって来て取り押さえてくれる。



10日が過ぎた。

ウスラ軍が兵を退く様子は無い。

まあそうなるな。

11日目、公都に飛んだ。

公都上空2000m、地上からだと俺は豆粒以下にしか見えない筈。

宰相に連絡を入れてスタンバイして貰った。

拡声魔法を準備する。

「どうぞ。」

「ミュール王国宰相のサリート=クデルである。公国は再三の警告にも拘わらず兵を退かなかった。よって、本日正午に公城を破壊する、住民は公城から離れなさい。繰り返す。本日正午に公城を破壊する、住民は公城から離れなさい。」

うん、お上手でした。

こっそりのんびり暮らしたいので俺は名前を出したくない。

公城を破壊するのは宰相であって俺では無い。

少し離れた山の上で休憩。正午まではあと2時間程、まずは腹ごしらえ。

正午少し前に山の上を飛び立ち、公都上空2000mでスタンバイした。

う~ん、ちょっと遠すぎて狙い難いし、風が強いので同じ位置に留まるのが難しい。

1500mまで降下。

ここからならホバリング位置を多少変えるだけで何とかなる?

正午になった。

アイテムボックスから次々と大岩を取り出す。取り出す、取り出す。

1個目は城壁、2個目は城、3個目は上手く修正出来て公宮に落ちた。

ホバリングは結構飛行魔法の練習になる。

取り出す、取り出す、取り出す、取り出す、取り出す、取り出す。

取り出せば勝手に落ちて行くのでホバリング位置の微調整だけに集中できる。

取り出す、取り出す、取り出す、取り出す、取り出す、取り出す。

取り出す、取り出す、取り出す、取り出す、取り出す、取り出す。

取り出す、取り出す、取り出す、取り出す、取り出す、取り出す。

砂煙で地上が見えなくなったが、公宮や城が動く事は無いので同じ位置に落とせば良い。

次々と大岩を出して行った。

そろそろ良いかと思って取り出すのを止め、土煙が収まるのを待つ。

土煙が収まると、公城の有った所がこんもりとした岩山になっていた。

大きな岩山一つ分をアイテムボックスに収納したので10分の1も出していないのに公城が岩に埋もれてしまった。

貴族街にもかなり被害が出ているが、平民街は殆ど被害なし。

うん、上出来。

周辺に目をやると少し離れた丘の上に煌びやかな服を着た集団がいた。

少し離れた所で兵達が集団をぐるりと取り囲んで警戒している。

公宮から避難した大公達と護衛の近衛師団らしい。

丁度ドーナツの様に人間のいない空地がある。

気弾100発。

ドゥドゥドゥドゥドゥ~!

100発の気弾がドーナツ状の空地に着弾した。

空地だった所がドーナツ状の深い穴となり、丸い穴の縁で兵士達が腰を抜かしている。

ドーナツ状の穴の中央には地面が残っていて煌びやかな服の集団がしゃがみ込んでいる。

どこにいてもいつでも大公を殺せますという脅し?

見つからないようにそっとその場を離れた。



公城破壊から5日経ったが砦の前に陣を張っているウスラ公国軍に兵を退く気配が無い。

偵察に出てみると、ウスラ公国の街道上には軍勢が見当たらない。

近くの街で待機しているのだろう。

800㎞離れていても軍の使っている魔鳥なら3日もあれば十分連絡が出来る筈。

砦に戻った。

拡声魔法を発動した。

「公国軍に告げる。公城は破壊された。これ以上の戦いは無意味である。直ちに兵を引け。繰り返す。公城は破壊された。これ以上の戦いは無意味である。直ちに兵を引け。」

俺の言葉を聞いてウスラ軍に動揺が走る。

ウスラ軍よりも衝撃を受けた様子なのは砦を守るミュール国軍。

「本当に公城を破壊したのですか?」

副官を務めている大隊長に聞かれた。

そう言えば砦に帰ってからすぐに眠ってしまったので言うのを忘れてた。

てへっ。

「えっと、公宮と公城は完全に破壊した。大公らしき人物が公都外の丘にいたので魔法を撃って少し脅したら腰を抜かしていた。」

「「「・・・・。」」」

副官たちが呆れた顔で黙り込む。

拙い。

「公都に繋がる街道に敵軍の姿は無い。これ以上敵が増える事は無い。明日まで待って陣を引かなければ次の手を打つ。」

総指揮官らしく背筋を伸ばして大隊長達に告げ、失敗を誤魔化した。

報連相は組織運営の基本だと公特隊員に厳しく教育したのは俺。

ここにアウトマンが居なくて良かった。



「引く様子は見られませんね。」

翌朝、砦の屋上から副官たちと共に視察したが、敵軍に動きは無い。

「敵の退路を断ってから降伏を勧告する。総員配置に付け。」

「「「承知!」」」

砦の兵達が昨日行った会議での打ち合わせ通りの配置に着いた。

兵達の動きを見定めると屋上から空に飛び上がる。

峠に繋がる道の上空に飛んでアイテムボックスから大量の岩を出して峠道に落とした。

ドカン、ドカンと大きな音がするので敵陣が騒めいている。

空の上から拡声魔法で敵兵に通告する。

「退路の峠道は完全に塞がれた。武器を捨てて投降せよ。投降しない場合は諸君の頭上に大岩が降る事となる。投降する者を後ろから撃とうとした者はこの魔法で直ちに殺す。」

“気弾100発” “気弾100発” “気弾100発”

敵陣周辺の森に気弾を撃つ。

ボボボゥン、ボボボゥン、ボボボゥン、ボボボゥン、ボボボゥン、ボボボゥン、 

敵陣の周りにある森の木が大きな音を立てて次々と木っ端微塵に爆散した。

至近距離で派手に爆散する大木を見て腰をぬかす兵も大勢いる。

敵兵が次々と武器を捨てた。

「投降する者は両手を上げて、ゆっくりと砦に向かえ。邪魔をする者や武器を持っている者は魔法で撃ち殺す。」

敵兵が両手を上げてゆっくりと門に向かう。

砦の門が開かれ砦の武装兵が門の両脇を固めた。

門を入った敵兵は次々と縄を掛けられ、中庭へと連れて行かれる。

「士官は名乗り出よ。兵卒は砦の外の広場に連れて行け。」

事前の打ち合わせ通りに兵が動いてくれた。



「何故兵を引かなかった。」

敵軍の指揮官だった第3公子を尋問した。

「魔鳥の連絡は来たが、公城が破壊されるなど有り得ないと思ったからだ。確認の為に側近を走らせたがまだ戻っていない。」

800㎞を馬で走ったら時間が掛かるよな。

戦場における先鋒隊は最も手柄を立て易い部隊、当然最強の精鋭部隊でもある。

捕らえた捕虜の中には公族や高位貴族家当主、貴族子弟達が大勢いた。

誰もが望んでいた先鋒部隊に選ばれたというプライドを持っている部隊なので公城破壊の連絡を偽情報と判断したらしい。

士官達は応援の先遣隊に護送されてバットの街に向かった。

馬を飛ばして駆け付けてくれた応援部隊の先遣隊2000人は捕虜の輸送係としてのんびりとバットの街に戻る事となった。

砦の兵達は投げ捨てられた武器や防具の回収。

砦の予備として使う分以外は荷車に積み込んで捕虜を護送しながらバットの街に運ばせた。

後始末に数日掛かったが、一段落したようなので戻る事にする。

「峠道の岩はいずれ取り除くが、当面は万が一に備えて残しておく。後は任せるのでよろしく頼む。」

残務処理は副官を務めてくれた大隊長達に任せて王都に飛んだ。



真っ直ぐに屋敷に帰り、奥様達や子供達とまったり過ごしていたら王宮に呼び出された。

何か忘れているような気がしていたが、マントと王剣を返すのを忘れていた?

借りたものを返すのは大切だが、奥様達の笑顔を見るのはもっと大切。

仕事と奥様どっちが大事かだって? 

比較するのもバカバカしい。

仕事はいつでも変えられるが、奥様達にはいつでも殺される。

あれ?

何か間違えてる?

まあいいか。

「どうしてすぐ報告に来ない。」

マントと王剣を返せじゃ無くて報告なの?

「報告は魔鳥で送ったから?」

「キラは王国を戦勝に導いた英雄だ。王都に帰還する時は凱旋パレードをしなくてはならん。」

そんな恥ずかしい事は真っ平ごめんだ。

「公城を破壊したのは宰相閣下だよ。」

「通信機に向かってキラに言われたとおりに台本を読んだだけだ。儂が王都を一歩も出ていない事は皆が知っておる。公城を破壊できる筈は無い。」

「公都の住民は宰相閣下が公城を破壊したと思っているからそれで良いと思うヨ。」

「・・・・。」

「この度の戦いは見事であった。礼をいう。」

黙り込んだ宰相に代わって陛下がねぎらいの言葉を掛けてくれた。

「ありがとう御座います。マントと王剣をお返しします。」

忘れていたマントと王剣はきちんと返した。

「苦労であった。」

無事に将軍の役割が済んでホッとした。

とっとと帰って奥様達や娘達とのんびりしよう。


読んで頂いてありがとうございます。

もう暫く隔日投稿で頑張ります。


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