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27 毎日娘の臍下を凝視する父親

目が、目が~っ!

鼻水が~っ!

春なんか大っ嫌いだ!

奥様達が臨月を迎えた。

それぞれの実家から送り込まれた4人の産婆が数日前から屋敷に泊まり込み、侍女やメイド達と共に出産の時を待っている。

俺も屋敷で待機しようと思ったが、“キラ様がおられてもする事が有りません”とシバスチャンに言われ、“はっきり申し上げると邪魔です“とマドレーヌに追い打ちを掛けられた。

結局、”陣痛が始まったら連絡致します“と言われて学院や禁書庫に通っている。

ぐぬぬ。



禁書庫で本を読んでいる時、司書さんから声を掛けられた。

「お屋敷から使者が参りました。」

小さなメモを渡される。

“ルアレイナ様とシャリーヌ様の陣痛が始まりました”

慌てて本を片付け、王宮を出て飛んで帰る。

文字通り“飛んで”帰ったので屋敷に着いたのは使者の馬車が戻るよりも早かった。

「陣痛が始まってから出産までは時間が掛かります。早くても半日、時には数日掛かる場合もあります。生れましたら声をお掛けしますから私室でお寛ぎ下さい。」

「そんなに時間が掛かるの?」

「母体にもよりますが、夕食までに生まれると言う事は無いと思います。」

「お、おう。」

という訳で、私室でのんびり待つ事にした。

とは言え、やっぱり気になって廊下に出る。

「出産が始まりますと人通りが多くなります。色々なものを運びますので衝突するとメイドが怪我をします。お部屋にお戻り下さい。」

「お、おう。」

私室に戻る。

やっぱり気になって廊下に出る。

「お戻り下さい。」

私室に戻る。

やっぱり気になって廊下に出る。

「お声を掛けるまでは、お部屋から1歩も出てはなりません。」

シバスチャンに監禁された。



「ルアレイナ様が女の子を出産なされました。ルアレイナ様もお子様も元気で御座います。」

メイドが報告に来た。

ソファーから腰を浮かせかけた所でメイドに止められた。

「まだお産の後始末が御座いますので、面会出来るのはおよそ1時間後となります。」

「お、おう。」

もう一度ソファーに腰を降ろした。

この世界では出産時の死亡率が母子共にとんでもなく高い。

母子共に元気であると聞いてホッとした。

早く子供の顔が見たいが勝手に廊下に出ると怒られるのでじっと我慢する。

メイドが入って来た。

「ドリーナ様が女の子を出産なされました。ドリーナ様もお子様も元気です。」

良かった。

ホッと一息吐く。

そろそろレイナに会えるかな、部屋の時計を見ながら考えていたらメイドが入って来た。

「シャリーヌ様が女の子を出産なされました。シャリーヌ様もお子様も元気です。」

僅か1時間の間に3人が生れた。

残るはリューラだけ。

“どうか無事に生まれますように“

創造神様に祈った。

メイドが入って来た。

「準備が出来ました。ルアレイナ様と面会出来ます。」

漸くレイナに会える。子供の顔も見られる。

頬が緩んでデレデレした顔になっているのが自分でも判る。

メイドに案内されてレイナの部屋に入った。

侍女やメイド達がまだ忙しそうに働いている。

奥にある寝室に入るとレイナがベッドで横になっていた。

その横にはフカフカの布が敷かれた籠に寝ている小さな赤子。

出産が男には耐えられない程の痛みを伴う大変な作業だと言う位の知識は有る。

この痛みに耐える事で可憐な女性が強い母に変わるとも聞いた。

たぶんボスがラスボスに変わるようなものなのだろう、知らんけど。

「レイナ、ありがとう。」

まずは頑張ってくれたレイナに感謝。

「はい、頑張りました。」

レイナが嬉しそうに笑うが、傷みを感じたのかちょっと表情が歪む。

「ゆっくり休んで体力を回復してね。」

「はい。」

そっとレイナの髪を撫ぜていると、産婆から早く出ていけという視線。

えっ、もう終わり?

小さな赤子が寝ている籠はベッドの向こう側。

侍女達ががっちりガードして近寄る事も出来ない。

再度、産婆から早く出ていけという視線が刺さって来た。

「ありがとう御座いました。後は宜しくお願いします。」

「承りました。」

部屋の中に浄化魔法を掛けて、部屋を出た。

部屋に居られたのはほんの数分、指一本触らせて貰えなかった。

メイドに聞いたら、生れて暫くは父親でも新生児に触ってはいけないらしい。

それ程この世界では新生児の死亡率が高いのだろう。



レイナの部屋を出て私室に戻ると暫くしてメイドが入って来た。

今度こそリューラか?

「準備が出来ました。ドリーナ様と面会出来ます。」

リーナとの面会も、シャリーとの面会もほんの数分。

あっと言う間に寝室を追い出されて私室に戻る。

夜も更けて来たがリューラ付きのメイドが来ない。

メイドが夜食を運んで来た。

「出産に1日2日掛かるのはよくある事です。いざという時には王国1の治癒師であるキラ様にお願いする事になりますので、時間が有る時は眠っておいて下さい。」

そうか。

俺の出番など無い方が良いが、いざという時に備えて眠っておくのも必要だな。

夜食を摂って眠る事にした。



朝になっても生まれたと言う連絡は来ない。

リューラの体力が心配になって部屋の中をウロウロする。

朝食を運んで来たメイドに聞いてみる。

「リューラは大丈夫なのか?」

「トリューラ様は陣痛の間隔がまだ長いのでもう暫く掛かりそうだと産婆が申しております。」

「こんなに長い時間で問題は無いのか?」

「最初の陣痛が来たのは昨夜遅くですから、何の問題もありません。」

ホッとして朝食のテーブルに就いた。

昼食を摂り、夕食を摂ったがまだ生まれたと言う報告は無い。

少し不安になる。

ひょっとしたら俺の出番が来るかもしれない。

もしもの事態に万全の体調で臨むために、今は寝ておいた方が良い。

「何かあったらすぐに起こせ。」

侍女に命じて早めに床に就いた。



「お目覚めになりましたか。」

「うん、もう起きている。」

侍女が部屋に入って来た。

「リューラは大丈夫か?」

「トリューラ様は昨夜遅くに元気な女の子をお産みになり、今は休まれております。」

「はあ? 何で起こさなかった?」

思わずきつい言い方をしてしまった。

「キラ様に起きて頂くような問題は何も有りませんでしたので。」

「・・・・。」

“何かあったら”というのは問題が有ったらだけで無く、子供が生れたらも含まれていると思ったのは俺の勝手な思い込みだったらしい。

「・・リューラが起きたら会いたいので侍女に伝えておいてくれ。」

「承知致しました。」

ともかく皆が無事に出産を終えられたことにホッとした。

いや待て、4人共女の子だぞ。

女の子自体には問題は無い。

この国では女性にも爵位の継承権があるし、女性貴族もいる。

男か女かよりも爵位や家柄、職階の方が重視されるので、前世の日本よりも女性の地位は高いかもしれない。

4人の奥様達は俺に優しいし、屋敷内の事でも何か変えるときには俺の許可を求めて来る。

実質は奥様方4人とシバスチャン、マドレーヌの6人で決めて、結論だけを俺に提示して了承を得る。

当然の事ではあるが、俺には“はい”か“よろこんで”、どちらかの選択肢しかない。

まあそれは理に適った事なのでどうでもいい。

問題は4人の女の子が加わって9人になった家族で男が俺だけという事。

居間で家族9人が寛ぐ姿を想像する。

妻妻妻妻娘娘娘娘、俺。

拙い、絶対に拙い。

良し、男の子を作ろう。

しかしまた全員が女の子だったらどうなる。

家族13人の中で男は俺だけ、・・・・・。

妻妻妻妻娘娘娘娘娘娘娘娘、俺。

先のことは考えない事にした。

とにかく皆が無事に出産を終えた。それで十分という事にしよう。

名前は事前に考えていた通り、母親の名前から2文字貰ってルアレイナの子供がルナで長女、シャリーヌの子供がリヌ、生まれたのは3番目だが30分違いだしシャリーヌが第2夫人なので次女、ドリーナの子供がドナで3女、トリューラの子供がリラで4女。

母親が誰かを判り易くするのと覚えやすいように2文字にしたが、一覧表を作って眺めた時点でもう誰が誰やら判らなくなり始めた。

複雑な魔法陣でも一目で覚えられるのに、人の名前となると全くダメ。

天は二物を与えずと言う事なのだろうか。

奥様達が二人目三人目を生んだ時のことを考えると不安しか無い。



学年末試験の成績が発表され、俺の卒業が決まった。

卒業生恒例の卒業ダンスパーティーは基本的に全員出席だが、元々がパートナーを見つける最後のチャンスというのがパーティーの趣旨なので既に結婚している俺は欠席が許される。

前世のファンタジー小説では卒業ダンスパーティーでの婚約破棄事件が定番イベントなので欠席出来るのは有り難い。

無いとは思うが万が一にも巻き込まれたら大変だ。

1年生の時に山火事事件が起こったが、その他は目立たないようにこっそりと学院生活を送っていたのでのんびり楽しく暮らせた5年間だった。



「これからどうするつもりだ?」

「奥様達とポーションを作りながら王都でのんびり暮らすつもりです。」

「そうか、そうか。」

何故か宰相は嬉しそう。

「卒業までというお約束でしたのでこれはお返しいたします。」

禁書庫の閲覧証を宰相に渡した。

「陛下とも相談したのだが、実はキラに謝らなければならぬ事がある。」

「?」

思い当たる事が無くて首を傾げた。

「キラが軍部に納入してくれたポーションを横領している者がおる。キラの好意で納入して貰っているポーションが横領されたのは国の責任。申し訳ないと思っている。」

「確かですか?」

「キラがポーションを納めているのは辺境伯家、軍、薬師ギルドの3か所。ドリーナの実家であるキュラナー辺境伯家は常にポーション不足の状態なので辺境伯家から流出する事は無い。薬師ギルドに納入されているのは極少量で販売先は全て把握出来ている。つまり出所不明のキラ家製ポーションは全て軍部から流出したものとなる。王国の商会だけでなく、ウスラ公国や帝国の商会でもキラ製ポーションが確認された。」

「はぁ。」

溜息しか出ない。

「以前より軍部の腐敗には気付いていたが、確たる証拠が掴めなかった。数字のごまかしを追及してものらりくらりと躱されてしまったのだ。ところキラのポーションは鑑定師が見れば即座にキラ家で製造されたものと判る。大陸広しと言えども光属性のポーションを作れるのはキラ家だけだからな。お陰で軍部腐敗の証拠が掴めた。今、監察部と公特を総動員して配布されたキラ製ポーションの保管状況を調査している。このような事態とはなったが、今後はポーション管理を厳重にするので今まで通りに納入して貰いたい。」

「はあ。」

「その代償として、王都に住んでいる間は禁書庫の閲覧を今まで通りとしたい。それで良いか?」

「はい、ありがとう御座います。」

今まで通り禁書庫の本を閲覧出来る事になったのは嬉しい。

「それと、婚姻の申し込みが来ておる。」

宰相が目配せすると侍従長のおっちゃんが大きな箱を持って来た。

覗いてみると沢山の書状が入っている。

訳が判らない。

「婚姻って、誰の?」

「キラの子供達だ。」

「はぁあ? まだ生まれたばかりですよ。」

0歳児に結婚を申し込むって、変態を通り越して虐待だ。

お巡りさんこいつですって叫ぶぞ。

「生まれてすぐから嫁に望んでいたという証拠作りだ。」

「意味が判らないのですが。」

「キラと誼を結びたいと言う意思表示だな。」

「いやいや、いくら何でもこれはおかしいでしょ?」

「貴族とはそんなものだ。」

「ともかく娘達の結婚相手は娘達に任せるつもりですのでお断りして下さい。」

「慣例なので申し込みのあった貴族のリストだけ渡しておく。申し込んで来た貴族はリストに記載したという事実が欲しいだけなのでそれで納得する。」

「はあ。」

貴族という種族は俺には全く理解不能な生き物だった。



「赤ん坊というのは思っていた以上に柔らかいな。」

俺の腕の中には次女のリヌが抱かれている。

産婆が漸く赤子を抱く事を許してくれた。

「女の子は特に柔らかいのです。」

「姉が男の子を産んだ時に抱かせて貰いました。その時は凄く柔らかいと思いましたが、ドナはもっと柔らかいです。」

最初はおっかなびっくりだったが、毎日1度は4人の子供を抱くようにしているので少し慣れて来た。

もっとも俺が落としてもすぐに受け止められるように侍女がすぐ近くで中腰の姿勢になって真剣な目で赤子を見つめながらスタンバイしている。

まさに厳重警戒即時対応臨戦態勢。

俺は何なんだ?

侍女達からすると俺に抱かせるのは不安が大きいらしく、いつも1~2分で取り上げられる。

妻達の両親がしょっちゅう孫の顔を見にくるので屋敷は随分と賑やかになった。

辺境伯だけは年1回の拝謁以外は領地在住なので孫の顔が見られないと悔しがっていると辺境伯夫人が笑いながら教えてくれた。

大勢の家族に囲まれてのんびり暮らす、俺の理想以上の生活。

俺は幸せ一杯だ。



「エドが呼んでる?」

厩務員が鈴を持って執務室にやって来た。

俺以外とは話せないので用事が有る時はエドが厩舎の壁に掛けてある鈴を咥えて厩務員に渡せば、すぐ俺の所へ届けるよう申し付けてある。

すぐに厩舎に行った。

「どうした?」

「ヨメガホシイ」

俺には言葉として聞こえるが、厩務員にはヒンヒンとしか聞こえないらしい。

「どんな娘がいい?」

「オオキク、タテガミナガイ」

「大きくて鬣の長い娘だな。」

「4ニン」

「4頭?」

「キラ4ニン、オレモ4ニン」

「・・・・」

「キラノヨメタチトトオノリ」

「成程。エドの嫁達が俺の奥様達を乗せて遠乗りか。それも良いな。」

早速奥様達の実家に牝馬1頭ずつを分けてくれるようお願いした。



1ヶ月程後、朝食後にそれぞれの実家から5頭ずつの牝馬が屋敷に来た。

シバスチャンに相談したら、馬にも相性が有るのでエドに選んで貰う方が良いという事になったのだ。

20頭のお嫁さん候補とエドのお見合い。

どの馬も立派な体格だし、綺麗にブラッシングされ鬣も編み込まれている。

お見合い用に磨き上げられたらしいが、俺には馬の目利きは出来ないので全てはエド任せ。

エドはお嫁さん候補達とヒンヒン、フンフン、ブフブフと嬉しそうに話をしている。

屋敷での暮らしを説明しているようで、厩舎を案内したり一緒に馬場を走ったり、飼葉や水の試食・試飲もして貰っている。

牝馬には優しいようで、人間なら立派なチャラ男になりそう。

俺はエド達を眺めながら魔法の練習。

「コノコタチニキメタ」

夕方近くになってエドが4頭の牝馬を連れて俺の前に来た。

4家から1頭ずつ。

賢いエドは実家の事も考えてくれたらしい。



子供達がハイハイからヨチヨチ歩きになると屋敷の中が一層賑やかになって来た。

4人共元気が良く、常に誰かが廊下を歩き回り侍女が後ろを付いて歩く。

俺は毎日子供達の健康チェック。

魔力量の多い子供が生まれやすい王家では、乳児期や幼児期は魔力量が大きくなり過ぎないよう日頃から注意を払い、大きくなりすぎた時は吸魔草を服用させる。

また、魔力量の多い幼児には早めに魔法を使わせて魔力量をコントロールするのが良いと禁書庫の本に書かれていた。

一番怖いのは魔力過多症なので毎日の魔力チェックは欠かせない。

魔力過多症は魔力量の多い者同士が結婚する事が多い高位貴族の幼児に多く発症する病気。

どんどん増大する魔力に体の成長が追いつかず、増えすぎた魔力が臓器を溶かしてしまうという恐ろしい病だ。

軽い食欲不振などの兆候が見られた事もあるらしいが、本当に魔力過多症の初期症状だったのかは不明。

殆どの場合は体のあちこちに黒い痣のようなものが広がって初めて気が付く。

放置すれば1年以内の致死率は100%、特効薬の吸魔草を飲ませても生存率は3割程度。

しかも吸魔草は希少な薬草なので貴族でも低位貴族ではなかなか手が出し難い程高価な薬。

いざという時の為にアイテムボックスに吸魔草を収納してあるが、生存率が3割程度なので掛からない事が第一。

俺の魔力量は恐らく大陸1,ほぼ無尽蔵に近い。

奥様達の魔力量も今では魔術師長並み。

両親共に魔力量が前代未聞級なので子供達の魔力量が少ない筈が無い。

子供達の魔力量チェックは欠かせない。

以前からおおよその魔力量は感じ取れていたが、1年間毎日4人の魔力チェックをしているとかなり正確に魔力量が判るようになった。

ただ、どれくらいが適正なのかが判らない。

幸いなことに魔力が見えるので臍下の靄の色を毎日チェックしてノートに記録している。

毎日娘の臍下を凝視する父親、前世ならお巡りさんを呼ばれそう。

母親が2属性持ちなせいか一番魔力量が多いのは3女のドナ、次いで王家の血を引く長女のルナと魔法貴族の父を持つ4女のリラ、一番少ないのは次女のリヌだがそれでも既に王立学院魔法科の学生並みの魔力量がある。

これからどんどん魔力量が増える筈なので、子供達の魔力過多症が心配になって来る。

8か月を過ぎるころから子供達の体内にある靄が黒っぽくなって来た。

大人の靄の色は魔力量に係わらずほぼ同じ。

黒っぽいと言うのは魔力過多症の兆候かも知れない。

奥様達と相談した。

「私達にバリアを教えた時、私達の魔力を操ってバリアを発動させたわよね。」

「おう。」

「だったら子供達の魔力を操って体外に出せるんじゃない?」

リューラに指摘されて、目から鱗だった。

何度もやった事だから効果の判らない吸魔草よりも確実に大量の魔力を体外に出せる。

「リューラ凄い。」

「そのまま放出すると危なくない?」

「術式で制御されていない魔力は危険ね。」

「最悪の場合は魔力暴走の恐れもあるわよ。」

「たしかにそうだな。」

「でもバリアを発動したら、一気に魔力が出過ぎるから危ないわ。」

奥様達と知恵を出し合い、色々と試した結果、1番安全性が高いのは魔力水作りとなった。

魔力水作りなら、ゆっくりと長い時間をかけて魔力を出すので魔力暴走の恐れは低い。

今日は初めて子供達の魔力を操作して体外に出す日。

少し緊張しながら一番靄の濃いドナの両手を握ってドナの体内に意識を集中する。

「体の中で何かが動いているのが判るかな?」

一歳児なので俺の言葉は判っていないだろうな。

「と~。」

「うん、父さんだよ。大丈夫だからね。」

ドナの体の中の魔力に俺の魔力を混ぜて循環速度を上げる。

臍下に凝縮していた魔力が少しずつ解けて体内に広がる。

「と~。」

「うん、父さんだよ。大丈夫だからね。」

ドナの魔力を掌へと向かわせる。

掌に集まったドナの魔力をゆっくりと用意した樽の中に流し込む。

ゆっくり、ゆっくり、慎重に魔力を樽の中に流す。

少しずつ靄が薄くなって来たような気がする。

慌てずに、ゆっくり、ゆっくり時間を掛けてドナの魔力を水へと流し込む。

水が光り、魔力水へと変わった。

「きゃきゃ。」

ドナは水が光ったのを無邪気に喜んでいる。

「少し疲れた。果実水をくれ。」

メイドが持って来た果実水で喉を潤す。

万が一の事も考えて、些細な変化も見逃さないようにずっとドナの体内魔力の動きに神経を集中していたのでさすがに疲れた。

「靄は薄くなりましたか?」

「薄くはなったがまだ少し黒っぽい。時間を空けてもう一度やった方が良いと思う。他の子の処置を先にする。」

他の3人は1回で、ドナは2回目で程よい色に戻った。



少し暑くなって来た頃、お嫁さん達に子供が生まれた。

お父さんのエドがヒンヒン嘶きながら走り回っている。

「おめでとう。」

「ミンナカワイイ」

「うん、判る判る。」

自分の子供は嬉しいものだ。

仔馬はもう立ち上がって母馬の乳を飲んでいる。

クリクリッとした目がめっちゃ可愛い。

優しい性格に育ってくれたら娘たちの愛馬になりそう。

「大事に育ててね。」

エドの頭をガシガシと掻いてやる。

「トウゼンダ」

ふんすと鼻息を掛けられ鼻水だらけにされた。



娘達が1歳になった。

3日に1回のペースで娘達の魔力抜きを続けている。

娘達の魔力量が日に日に伸びるので1回に作る魔力水の量も増やしているが、大体3日で靄の色が黒っぽくなるのは変わらない。

毎日の状態は克明に記録している。

文献を調べると、大きな魔力量に体が慣れると受け入れられる魔力量も増えるらしい。

このまま無事に育ってくれることを祈るばかり。

4回目の魔力抜きからは奥様達も一緒に手を握って魔力抜きの感覚を覚えようとしてくれた。

皆で話し合った結果、2人目、3人目が生れた時に魔力抜きを出来るのが俺だけでは手が足りなくなるのが予想されたから。

3~4回目で奥様達も魔力抜きのコツを覚え、奥様達だけでも魔力抜きが行えるようになった。

残念ながら奥様達には靄の色が見えないので毎回俺が確認するが、出来上がる魔力水の量と時間でおおよその所は奥様達にも判断できるようになった。

大量の魔力水が出来るので薬草畑に撒いたら、薬草の育ちが一層良くなってポーションの品質も上がった。


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