25 キラちゃんは私が育てたの
前回は投稿日の朝、ごみ捨てに外に出た所を突然襲撃を受けたせいで投稿が遅れました。
いつも真っ先に読んで下さっていた方々に迷惑を掛けた事を申し訳なく思っています。
襲われてショックを受けたせいか、今も涙が止まりません。
鼻水もくしゃみも止まりません。
現在新魔法”花粉消滅”を研究中ですが、術式が難しくて苦戦しています。
花粉なんか大っ嫌いだ!
夏の長期休みも半分近くが過ぎた頃、結婚のお披露目でストンに向かった。
ストンでのお披露目会が平服参加になったので冒険者達に気を遣わせないようにと奥様達が簡素なドレスを仕立てたので少し遅れた。
ただ単に新しいドレスが欲しかっただけの気もするがそれを言う勇気は無い。
奥様達が喜んでくれることが何よりも大事。
ストンに行く事を公表していたので途中に領地がある貴族達から晩餐会や祝賀会の申し込みが来ていたが、夏の長期休みが残り少ないという事で全て辞退した。
尤も同行するのが高位貴族令嬢達なので、宿泊するのは各街の領主や代官の館。
当然のように俺のアイテムボックスには奥様達の衣装を山盛り入れさせられた。
どうしてこんなに沢山必要なのかは判らないが、それを聞けるほどの勇者では無い。
俺は1人、奥様方は4人。
俺の1言は4倍になって返って来る。
俺は経験から学べる15歳、いやもうすぐ16歳だ。
Sランク冒険者は侯爵待遇なので、馬車1台という訳には行かないらしい。
奥様達と俺は先頭の大型馬車、侍女達は後続の2台に分乗する。
長距離の移動になるので乗り心地の良い大型馬車をアシュリー公爵が貸してくれた。
従者3人が御者を務め、冒険者4人の護衛付き。
護衛無しだと、只の豪華な馬車と思って襲う盗賊が居るかも知れないかららしい。
襲われた所で返り討ちに出来る自信はあるが、後始末がめんどくさい。
護衛を見せつければ盗賊も襲って来ないだろうというシバスチャンの配慮。
なんと護衛はBランクに昇格した神速の翼。
護衛が専門のパーティーだが、商隊の待ち時間には黒い森で魔獣狩りしているので北門ギルドで何度か会った事がある。
「お世話掛けます。」
「俺達よりもキラの方が遥かに強いんだけどな。」
ジャムさんが笑っている。
「あははは。」
「Sランク冒険者の護衛をしたって一生自慢できるわ。」
「そうそう“神速の翼”にとっても名前が売れるから有難いぞ。」
「まあ普通ではSランク冒険者の護衛なんて有り得ないからな。」
「それに護衛対象がSランク冒険者だとギルドポイントが沢山貰えるのよ。」
それは知らなかった。
「もう少しでAランクに昇格出来るから盗賊にはどんどん襲って欲しいわ。」
いやいや襲われないための護衛だぞ。
「どうせキラ君一人ですぐに片付けてくれるしね。」
「あははは。」
“神速の翼”が喜んでくれているので俺も嬉しい。
奥様方との長距離移動は初めてなので気心の知れた“神速の翼”の護衛は心強い。
ジャムさんとペーストさん、バターさんは馬で並走。
マーマレードさんとトーストさんは御者席に乗った。
移動中は暇なので奥様達は探知魔法の練習。
極僅かな魔力を薄く広く流すのは魔力操作の練習になる。
最初は奥様の手を持って奥様の魔力で発動するのはバリアの練習と同じ。
すぐにコツを掴んだ奥様達は数日で探知魔法の常時発動が出来るようになった。
夕方街に着き、領主や代官の家族と夕食を摂って朝出発という忙しない旅。
領主館や代官館に着くと、毎回大層なお出迎え。
目的は俺ではなく奥様方。
ストンは王国の西部地区にある。
奥様方の実家の4家は西部地区に広大な領地を持つ高位貴族。
西部地区の有力貴族のお嬢様なので、お父様に宜しくという事らしい。
貴族はめんどくさい。
馬車を急がせたものの、ストンに到着したのは王都を出発して12日後。
毎日練習していたので奥様達の探知魔法も練度が上がり、魔獣の強さを赤い点で表示する改良版の探知魔法も使いこなせるようになった。
先触れを出したのでストンの門前には顔見知り達が大勢集まっていた。
「キラちゃ~ん!」
両手を大きく振りながら叫んでいるのはギルドのお姉さん。
横にはギルマスや解体場のおっちゃんもいる。
「ただいま~!」
馬車から身を乗り出して叫んだ。
「「「お帰り~!」」」
門前の顔見知り達が一斉に声を上げてくれた。
「明日はよろしくね。」
明日の披露宴はギルマスが全部引き受けてくれている。
「おう、楽しみにしておけ。」
俺達は平服参加としか伝えられていないので、どんな形になるかが楽しみ。
みんなに手を振りながら街門をくぐる。
「お帰りなさい。」
門番のおっちゃんが笑顔で声を掛けてくれた。
おっちゃんの声を聞くとストンに帰って来たんだと実感出来て、心がほっこりした。
門を抜けるとすぐにある薬師ギルドの前にはギルマスや職員のおっちゃん達が総出で手を振ってくれた。
「皆さん素敵な笑顔ですわ。」
「キラ様はストンの人達に愛されているのね。」
「本当。皆さん目が嬉しそうでしたわ。」
「貴族と違って下心も何もなく、心からお祝いしてくれているのが良く判るわ。」
奥様達も喜んでくれた。
馬車列は真っ直ぐに街の奥にある代官屋敷に向かった。
ストンでは平民として暮らしていたので代官屋敷に入るのは初めて。
勿論代官には会った事も無い。
冒険者ギルドのギルマスによればソランダ伯爵家との繋がりを知られないように距離を保ってくれていたらしい。
俺の様子は冒険者ギルドや薬師ギルドが折に触れて伝えていたそうだ。
代官屋敷の前には貴族服を着たお爺さんを先頭に使用人達が並んでいた。
馬車を降りてお爺さんの前に立つ。
「初めてお目に掛ります、Sランク冒険者キラです。」
胸に拳を当てる冒険者の挨拶。
掌を当てれば上位貴族としての挨拶になるので男爵は跪かねばならないが拳なら立ったままでいい。
「ストンの代官、チャール=ストン男爵です。立派になられての御帰り、祝着至極に存じます。」
言葉使いは上位者へ向けてのものだが、拳を胸に宛てて同格としての挨拶を返してくれた。
「ありがとうございます。男爵の配慮あってのことと感謝しております。私の妻達を紹介します。第一夫人のルアレイナ、アシュリー公爵家の長女です。」
「ルアレイナで御座います。」
レイナが綺麗なカーテーシーを見せる。
Sランク冒険者は侯爵格なので第一夫人は侯爵夫人格として遇される。
「チャール=ストン男爵です。」
「第2夫人のシャリーヌ、ドラン侯爵家の3女です。」
「シャリーヌで御座います。」
「チャール=ストン男爵です。」
「第3夫人のドリーナ、キュラナー辺境伯家の3女です。」
「ドリーナで御座います。」
「チャール=ストン男爵です。」
「第4夫人のトリューラ、ステルン伯爵家の長女です。」
「トリューラで御座います。」
「チャール=ストン男爵です。」
良かった、ちゃんと言えた、・・よね。
レイナを見ると頷いてくれたので間違ってはいなかったらしい。
いつもは愛称で呼ぶので、本当の名前がうろ覚えになっていた。
馬車を降りる前に念のために確認して、奥様達に白い目で見られたのは内緒。
皆が上位者に対する綺麗なカーテーシーで挨拶し、男爵は拳を当てて同格の意思表示をしてくれた。
屋敷に入ると奥様達は案内された部屋に入り、湯あみやドレスの着付け。
侍女さん達が有能なので俺の出る幕は無い、というより邪魔だと追い出された。
俺は案内された部屋で風呂に入り、夕食会用の服を着る。
部屋のドアがノックされた。
「入っても宜しいでしょうか。」
執事らしい声が聞こえた。
「どうぞ。」
「失礼致します。」
男爵の後ろに控えていた執事だった。
「男爵様がお食事前にお会いしたいと申しております。ご都合は如何でしょうか。」
「いいよ。」
執事に案内されて男爵の私室に入った。
「お呼び立てして申し訳ない。現在のソランダ家について内密にお話させて頂きたいと思いお呼びした。」
「ソランダ家ですか。」
ソランダ家についてはあまり聞きたくない。
「はい。5年ほど前に王宮から伯爵に呼び出しがあり、侍女長が伯爵夫人の指示で裏ギルドから入手した毒をキラ様と母君に飲ませていた事、さらに即死毒によって母君を殺害した事が宰相閣下から直接伯爵に伝えられました。」
そう言えばそんな事もあった。
確か裏ギルドの”蒼い梟“と手打ちになった時だったかな。
すっかり忘れていた。
「宰相閣下からキラ様は伯爵家と係わりたくそうだと伝えられ、処罰についても報告する事が出来ませんでした。」
「もう終わった事ですから。」
「恐れ入ります。一応報告だけさせて頂きます。王宮から通告を受けた伯爵は譜代の家臣3人を集めて相談し、合議の結果夫人と侍女長、直接毒に係わったメイドは病死、夫人が実家から連れて来た使用人は全員解雇となりました。夫人が嫁いで以後に解雇された使用人には再雇用の希望があるかどうかを確認し、7名を再雇用致しました。」
貴族家では問題の有った者を”病死“させると言う事は聞いた事がある。
伯爵がきちんと処罰した事は理解したが、正直にいって関心は持てなかった。
「承知した。異存は無い。」
「ありがとう御座います。それからクランドール様についてもお話しして宜しいでしょうか。」
「・・まあついでだから聞いておこうか。」
「あの事件以前のクランドール様は少し我儘で鍛錬や学問を嫌がる若様でした。学院長と伯爵からキラ様が弟と伝えられたクランドール様は酷く落ち込まれました。謹慎で領地に戻ったクランドール様は、“メイド達の酷い仕打ちに耐え、体を鍛える為に痣だらけになっても屈することなく立ち向かってSランクまで駆け上った”という騎士団長の言葉で奮い立ち、猛勉強の末無事2年生に進級致しました。進級後も勉学や鍛錬に励み、長期休暇中は自ら申し出て領都ソランダに赴いて領地経営を学んでおります。事情を知る譜代の家臣一同はこれもキラ様の温情あっての事と感謝しております。誠にありがとう御座いました。」
「そうですか。俺はストンが大好きなので良い領主となってくれれば有難いです。」
誰でも間違いは犯すし、1つの失敗でその人物の全てがダメと決めつける事は出来ない。
1度の失敗で一生懸命頑張って来た過去の人生迄全てを否定された前世の有名人達を思いだす。袋叩きにしている人間はそんなに偉そうに言える程立派な人間なのかと憤った覚えがある。
まあ前世も今世も失敗だらけの俺だから失敗した人には甘いのかも知れないけど。
問題は失敗から学べる人間か、某王子のように全く学べない人間かだと思う。
弟君が良い領主になってストンの人達を幸せにしてくれたら嬉しい。
「キラ様に大好きとおっしゃって頂けるのはストンの代官としての誉れです。これからも良い街であり続けるよう努力致します。」
「くれぐれも無理はしない様にして下さいね。働き過ぎはダメですよ。」
男爵は高齢なので無理はして欲しくない。
「胆に銘じます。」
廊下が騒がしくなった。
ドアがノックされた。
「お食事の用意が出来ました。皆様はもうお揃いになられました。」
廊下からメイドさんの声が聞こえた。
「判った。」
男爵が応え、連れ立って食堂に向かった。
長いテーブルの左側に奥様達、右側に男爵の家族らしい人達が座っている。
左側奥に俺が座り、右側奥に男爵が座った。
あれ?
男爵の隣にいるのは薬師ギルドのギルマス、女性を挟んでギルドのお姉さん、執事、女性。
ギルマスが“俺の様子は冒険者ギルドや薬師ギルドが折に触れ伝えていた”って言っていたけど、薬師ギルドのギルマスとギルドのお姉さんが男爵の家族なら“折に触れ”じゃなくて筒抜けじゃん。
「キラです。こちらから順にルアレイナ、シャリー、ドリーナ、トリューラ、俺の大切な奥様達です。」
食事前の紹介は簡潔に行うのが作法。
「ストンの代官チャール=ストン男爵です。こちらから長男のラリーパ、嫁のパッパ、ラリーパの長女シーツ。その隣は次男で執事のタンゴと嫁のジルバです。本日は身内だけの食事会ですので無礼講でお願いします。それではキラ閣下のストン帰還を祝して乾杯!」
踊り出しそうな家族にラリパッパ、男爵家は大丈夫か?
「「「乾杯!」
食事が始まった。
無礼講なのでワイワイと話しながらの楽しい食事。
「キラは薬師ギルドの希望の星だったのに冒険者ギルドに搔っ攫われたんだ。」
「あはははは。」
「人聞きの悪いこと言わないでよ。キラちゃんは登録前から冒険者ギルドに素材を納めていたんだから。キラちゃんは私が育てたの。」
「まあそうでしたの。」
「ストンでは私がキラちゃんの母親なのよ。」
「ストンでの事は聞いておりませんので教えて下さいませんか。」
「キラはストンに来た翌日に薬師ギルドに来て、その日のうちに初級薬師試験に合格したんだ。」
「私も父さんから聞いて驚いたわ。その時はまだ7歳だったからね。」
「半年で中級薬師の試験にも合格したから将来は特級薬師かと思ったらSランク冒険者だ。薬師ギルドのお偉いさん達がどれだけ悔しがったか。」
奥様方は嬉しそうにギルマスの話を聞いている。
「冒険者ギルドではいきなり3人組の男をボコボコにしたし、ワイバーンを拾って来るしで大騒ぎだったわ。」
「ワイバーンを拾った、ですか?」
「落ちて来たから拾ったんだって。ワイバーンが街の近くで急に姿を消したから捜索隊が探し回っていたのに、キラちゃんはワイバーンを魔法袋に入れたまま翌日ものんびり薬草取りをしていたのよ。落としたのはキラちゃんなのに。」
「それは儂も覚えている。街の警備兵を総動員して探し回ったからな。」
男爵も楽しそうに笑って話す。
奥様方は俺との出会いとなった火事事件のことを嬉しそうに話す。
俺の昔話で盛り上がっているけど、話題の本人としては近所のおばちゃんに“私がおしめを替えてあげたのよ”と言われているみたいでめっちゃ恥ずかしい。
ただ黙々と食事を口に運んだ。
今日はストンの冒険者ギルド主催での昼食会を兼ねた結婚祝賀会。
チャール男爵や家族も参加するという事で一緒に冒険者ギルドに向かう事になった。
ギルドに近づくにつれて人が増えて来て、俺達を見ると“おめでとう“の声を掛けてくれる。
道のあちこちに簡易竈のような物が作られ、酒樽が山積みされている。
「お祭り?」
「キラ閣下の結婚祭りだ。」
薬師ギルドのギルマスが教えてくれた。
「へっ?」
「伯爵は王家からキラ閣下との接触を遠慮させられているので公に祝う事は出来ない。そこで寄り子達が伯爵の代わりに伯爵夫人やクランドール様の件を穏便に済ませてくれたキラ閣下に感謝の意を示そうとストンの街での祝賀会用の酒を用意した。それならばとストンの冒険者達が肉を用意して街の住民総出で祝う事になった。まあ殆どの者は飲み放題食べ放題の方が本命だが、キラの結婚を喜んでいるのは確かだ。」
「キラちゃんのお陰でタダ酒が飲めるんだから喜ぶわよね。」
ギルドのお姉さんが笑ってる。
結婚祝賀会のメイン会場は冒険者ギルドの解体場だが、町中で祝ってくれるらしい。
解体場に近づくにつれて竈の数も酒樽の数も増えている。
冒険者ギルドの建物の周囲にはあちこちに大きな酒樽の山が出来ていた。
解体場に入って見ると、周囲の扉が開け放たれストンの住民達が皿と木鉢を持ってワイワイ騒ぎながら解体場を取り囲んでいるのが見える。
解体場のあちこちにも竈が作られ、俺達が入ると同時に火が着けられた。
俺達5人が解体場の中央に作られた一段高い壇上に登らされる。
解体場には冒険者や顔見知りのギルド員、商人達が大勢いた。
「静粛に!」
ギルマスの言葉で一斉に話し声が止んだ。
「我がストンの英雄、Sランク冒険者キラが素晴らしい奥様方を連れてストンに里帰りしてくれた。この場でキラから奥様方を紹介して貰う。」
いきなり俺が紹介するの?
昨日代官邸でやったからまだ覚えている筈、たぶん。
「えっと、第一夫人のルアレイナ、アシュリー公爵家の長女です。」
「ルアレイナで御座います。」
レイナが綺麗なカーテーシーを見せる。
「次は第2夫人のシャリーヌ、ドラン侯爵家の3女です。」
「シャリーヌで御座います。」
「第3夫人のリーナ、ィテッ。」
レイナに足を踏まれた。
ついいつもの呼び方で呼んでしまった。
「えっと、第3夫人のドリーナ、キュラナー辺境伯家の3女です。」
「ドリーナで御座います。」
ドリーナに睨まれた。
今度は慎重に紹介する。
「第4夫人のトリューラ、ステリュン伯爵家の長女でシュ。」
慎重に紹介したら噛んだ。
「ス・テ・ル・ン・伯爵家の長女、トリューラで御座います。」
「御覧の通りキラは口下手だが、優しい男だ。奥様方どうか末永く宜しくお願い致します。」
ギルマスは俺の父親か?
「皆がもう待ちきれないという顔をしているから、皆の木鉢に酒を注いでやれ。」
ギルマスの言葉に職員達が樽を持って参加者の持った木鉢に酒を注ぐ。
俺達にも酒の入った木鉢を渡された。
外を見ると周囲にいた住民達の木鉢にも酒が注がれている。
火の点いた竈には鉄板が敷かれて肉が焼かれ始めた。
扉の外にも竈があるらしく肉を焼く煙が上がっているのが見える。
「それではキラの結婚祝賀会を開催する。乾杯の音頭はキラにとってはストンの母、シーツだ。」
ギルドのお姉さんが壇上に上がった。
「御指名により音頭を取らせて頂きます。本日は無礼講、Sランク冒険者閣下を呼び捨てにしても不敬罪には問いません。高位貴族の御令嬢にも敬語は不要です。但し不埒な事をすれば袋叩きに合わせますからね。今日は飲み放題食べ放題で楽しみましょう。それでは酒を掲げて下さい。行きますよ、乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
解体場の中だけでなく外でも大きな歓声が上がった。
拍手が鳴り響く。
「「「「キラおめでとう。」」」」
あちこちから大きな声を掛けられる。
ストンのみんなに祝われると、心がジワ~ンと温かくなる。
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
礼を言いながら壇を降り、奥様達の手を取って一人ずつ壇から降ろす。
すぐに奥様達と一緒に冒険者達に囲まれた。
「ダンさん、有難う御座います。」
「キラの祝いに欠席する訳にはいかないからな。」
「あはははは。」
「奥様方、俺達はキラが冒険者登録をしたその日に危うい所を助けられた”赤い稲妻“というパーティーです。キラと最初に仲良くなったパーティーとして今ではこの辺では俺達の名を知らない者はいない有名なパーティーなんですよ。」
「最初は冒険者ギルドに登録したばかりのキラに助けて貰った間抜けパーティーって随分バカにされたけどな。」
ギルマスがまぜっかえして笑いながらダンさんの肩を叩いている。
「そうそう、みんなに大笑いされた。だがすぐにキラがBランクになってくれたので俺達はキラの事を一番知っている冒険者だとみんなにキラの事を聞かれるようになった。お陰であっという間に有名になったな。」
奥様方もニコニコしながらダンさん達と話をしている。
高位貴族の御姫様なのに全然気取った所が無い。
やっぱりこの4人と結婚出来て良かった。
これからは奥様達に捨てられない様に精一杯頑張ろう。
貴族相手の披露宴は疲れただけだったが、今日の結婚祭りは楽しくて次々に注がれる酒を飲み干すうちにいつの間にか意識を失った。
喉が渇いて目が覚めた。
頭がガンガンする。
”治癒“
横になったまま治癒魔法を使ってみた。
・・・。
治癒が二日酔いには効かない事が判った。
ぐぬぬ。
ガンガン痛む頭で考える。
閃いた。
”解毒“
効いた。
この世界に来てからまともに酒を飲んだのは初めて。
楽しかったので前世の調子でぐいぐい飲んでいた所までは覚えているがそこからの記憶が無い。
創造神様に頂いた状態異常耐性は酒には効かなかったようだ。
拙い。
奥様達はどうなった。
慌てて起き上がって周りを見ると、どうやら昨晩泊まった男爵家の客間らしい。
服を脱がされて下着1枚。
ベッドを降りてテーブルに置いてあった服を着た。
暫くぼーっとしていたら、ドア越しに声を掛けられた。
「お目覚めになりましたでしょうか。」
物音で起きたと判ったらしい。
「はあ。」
「朝食の用意が出来ております。お支度が出来ましたら食堂へお越し下さい。」
「判った。」
とは言ったものの、朝食?
結婚祝賀会は昼前から始まった筈・・・。
今は朝?
何となく拙い事になった気がする。
大丈夫だよな。
酔って変な事はしていないよな。
昼前からの披露宴だったので夕方には終わった筈?
今は朝という事は、ずっと寝ていた?
結婚祝賀会で主役の新郎が寝たままって拙いよな。
昨日の事を思い出そうとするが、記憶が全く無い。
鏡を見て髪を撫ぜ付けると食堂に降りた。
食堂に入ると皆がニヤニヤしている。
何となく嫌な予感。
「「「「おはようございます。」」」」
「えっと、おはよう。」
皆に見つめられながら席に着くと、メイド達が朝食を運んで来る。
「神に感謝を。」
男爵がこの世界の食事開始の挨拶を言う。
「「「神に感謝を。」」」
皆が唱和して朝食が始まった。
皆が楽しそうに俺の顔を見ながら食事をしている。
何となく跋が悪い。
小声で隣のレイナに聞いてみた。
「俺、なんかした?」
「うふふ。」
笑いながら首を傾げる。
うん、可愛い。
って、そうじゃない。
この顔は絶対に面白がっている顔。
レイナ超しにその隣のシャリーを見ると目があった。
「うふふ。」
シャリーは両肩をちょっと上げて笑う。
うん、可愛い。
って、そうじゃない。
どうしてみんなが笑顔なのか判らないまま食事が終わった。
朝食を終えたらすぐに出立。
男爵達に挨拶して馬車に乗り込んだ。
大門までの大通りの両側には見送りの人達が大勢いて俺達に笑顔で手を振ってくれる。
「ありがとう。」
俺も手を振り返す。
奥様達はちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめている。
判らん。
花粉症が酷くて苦戦中です。
毎年の事とは言え、今年は突然酷い症状が出て驚いています。
厳しい状況が暫く続きそうですが、何とか隔日投稿を続けられるように頑張ります。
引き続き読んで下さると嬉しいです。




