22 問題無いどころか大有りだ
1ヶ月半の訓練を終えて屋敷に戻ると、王宮からの呼び出し状が来ていた。
今回は思い当たる節は無い。
首を傾げながらいつもの部屋に行くと、いつもの陛下セット。
「貴族社会では王立学院卒業までに婚約者が決まるのが普通だ。」
「はあ。」
貴族社会?
貴族じゃない俺に何の関係があるんだ?
判らん。
「キラも卒業まであと2年、そろそろ婚約を考えても良い年頃だ。」
「へっ?」
婚約なんて頭の片隅にも無かったので宰相の言葉に唖然とする。
俺はまだ15歳になったばかり、前世なら高校1年生。
結婚は勿論、如何わしい事をしたら犯罪になる年齢だぞ。
俺としてはストンに帰って冒険者活動をしながら資金を溜めて薬屋を開き、30歳位までに優しい奥さんを探すというのが人生設計。
ただソロの冒険者は殆どが独身だから奥さんは無理だろうなと諦めてはいるが、ひょっとしたらというごく僅かな可能性に希望を繋いでいるだけ。
それにしても婚約を考えても良い年頃というにはまだまだ若すぎる。
どうして突然婚約話が出たのかと首を傾げた。
「特に最上級生となる女性にとっては深刻な問題で、卒業までに婚約者が決まらないと何か瑕疵があるのではと疑われる。」
「はあ。」
どうにも話が見えない。
「2年前の火事事件の折に、男性に肌を見られた女子学生がいる。未婚の貴族女性にとって、肌を見られたという事は同衾したに等しい瑕疵となる。」
そう言えばイエローは同じ部屋に二人きりになっただけで既成事実になると言ってた。
貴族って面倒だな。
「あの火事については原因が原因だけに王家としても責任を感じている。」
警備の冒険者が止めたのに殿下が無理やり森の奥まで入り込んでの魔力暴走だから王家が責任を感じるのは当然。まともな子育てを出来なかった王家の自業自得だ。
「はあ。」
「肌を見られたとは言っても火傷の治療の為で、治療した男が持っていた服を渡したので他の男に肌を見られた訳では無い。それでも瑕疵は瑕疵だ。」
待った、火傷の治療?
服を渡した?
物凄く身に覚えがあるんですが。
何となく嫌な予感がする。
「・・・・」
「その女子学生達が秋には5年生、つまり最高学年となる。」
嫌な予感が膨れ上がって来る。
「・・・・」
「女子学生達と両親から是非ともキラに娶って欲しいと言う申し出があった。」
ちょっと待った。
今めっちゃ不穏な事を言わなかったか?
俺は15歳、違いが判り掛けている男。
宰相の言葉を聞き逃すほど子供ではない。
「女子学生・達ですか?」
ここは大事。
女子学生と女子学生達では大違いだ。
「女子学生達だ。」
「・・二人の女性という意味ですか?」
「4人だ。」
「はあぁ?」
驚いて変な声が出た。
4人と言えばあの4人しか思い当たらない。
あの中から選べと言う事か?
4人共高位貴族の御姫様。
美人で優しくて気配りも出来る。
しかも1歳年上のお姉様。
前世でも“年上女房は金の草鞋を履いてでも探せ”と言われていた様に年上のお嫁さんは苦労してでも探すだけの価値がある事は俺も知っている。
特に話下手で世間知らずの俺にとっては、頼れる年上のお嬢様達は願っても無い最高のお嫁さん。
それは確かだけど、あまりにも身分が違い過ぎる。
冒険者は平民よりも身分の低い流人扱い。
とてもでは無いが高位貴族のお姫様を嫁に貰えるような身分では無い。
ましてや高位貴族のお姫様達の中から俺が1人を選ぶなんてとんでもなく不埒な事。
貴族社会に疎い俺でもそれ位の常識は有る。
「・・・・。」
言葉に詰まってしまった。
「4家の話し合いで、正夫人はルアレイナ=アシュリー嬢、第2夫人がシャリーヌ=ドラン嬢、第3夫人がドリーナ=キュラナー嬢、第4夫人がトリューラ=ステルン嬢という事になった。4家の両親と令嬢達とが納得して正式な書類にし、陛下が承認の署名をされたので全く問題は無い。」
「はぁいぃ?」
驚き過ぎて頭の天辺から声が出た。
4人の中から選べと言う事では無く4人全員?
待て待て、嫁が4人って何なんだ。
全く問題無いどころか大有りだぞ。
ハーレム?
俺にそんな甲斐性は無い。
しかも4人共高位貴族のお姫様。
前世の江戸時代なら格式的には紀州家と毛利家、伊達家に井伊家の御姫様。
俺はしがない傘張り浪人。
身分が違い過ぎるし、そもそも俺にはお姫様4人を養えるような稼ぎは無い。
「多くの貴族からキラへの婚姻申込書が山のように来ておる。今迄はまだ若いと言う理由で突き返せたが、これからはそういう訳にはいかん。4人共冒険者という職業に理解があるし、平民を差別する事も無い。贅沢も求めてはいないし、実家もキラに無理を言う家では無い。これ程の良縁は無いぞ。」
確かに断るのは色々と問題が起きそうだし、会った事も無い令嬢と結婚するのは怖い。
かといって俺がこの先の冒険者人生で伴侶となる女性に出会える可能性は殆ど無い。
素敵な女性に巡り合えたらいいなと思ってはいるが、現実には殆ど可能性の無い只の願望だと自分でも判っている。
降って湧いたような結婚話に驚いたが、いつか結婚したいという願望はある。
しかも相手はめっちゃ美人で優しいお姉様。
宰相の言う事は尤もで、2度とない良縁なのは事実。
その上既に陛下の承認済み。
返答は“はい”か”よろこんで“の二者択一だった。
「・・・宜しくお願いします。」
「うむ、これで王家の面目も立つ。早速各家に伝達しよう、うん目出度い。」
俺が答えるや否や、宰相が満面の微笑みで決定したことを告げた。
陛下も笑顔で頷いている。
どこでどうなったのかは判らないけど、いつのまにか4人の嫁を貰う事になった。
ちゃんと食べさせて行けるかな。
優しくて気配りの出来る4人がお嫁さんになってくれるのは凄く嬉しいけど不安も一杯だった。
4年生の授業が始まったが、俺は授業どころでは無い。
婚約者候補となったお姫様の実家に挨拶に行き、当主に認められて初めて婚約が正式なものとなる。
俺にとっては2度とない結婚のチャンス。
しかもお嫁さんは美人で優しくて気配りの出来る年上のお姫様。
気合を入れて挨拶の準備に取り掛かった。
俺は伯爵家の籍を離れているので後見役の宰相が父親代わり。
宰相と4家の当主は既に挨拶を澄ませているので挨拶に行くのは俺と執事のシバスチャン。
高位貴族家当主への挨拶なので式典用の礼服を新調した。
学院の制服か冒険者の服装ばかりだったので、鏡を見ても服に着られてる感が半端ない。
前世でも着こなしのセンスが無いと言われていたので今更どうこう出来る筈も無い。
せめて作法くらいは頑張って覚えようと思ったが、難しくてなかなか覚えられない。
気分を変えようと気合を入れる事にした。
「気合いだ! 気合いだ! 気合いだ! 気合いだ!」
前世の鉢巻きを巻いた元気なおっさんの真似をして声に出してみたが、何となく空しい。
「元気が有れば何でもできる。1・2・3、ダーッ!」
顎の長いおっさんの真似をして拳を突き上げるが、元気は出ない。
赤いマフラーをしていないから?
禁書庫の司書さんに礼儀作法が身に付く魔法について聞いてみたが鼻で笑われた。
学問に王道無し。今は面倒な作法を1つ1つ地道に覚えるしかない。
「ユークリッドのバカぁ~。」
色々と頑張ったのに、シバスチャンに白い目で見られた。
今日は挨拶の練習。
「背筋を伸ばして。視線はもう少し上に。」
シバスチャンの指導が入る。
侍従長のトーマスが当主役、侍女長のマドレーヌが当主夫人役としてソファーに座っている。
「Sランク冒険者のキラです。」
「拳は親指の第1関節が乳首を擦る感じで。」
シバスチャンの指摘が飛ぶ。
貴族の挨拶は思っていた以上に複雑でめんどくさいけど、今は頑張るしかない。
Sランク冒険者は大陸ギルド本部の認定なので相手が王であっても同格を示す拳を胸に当てる挨拶が大陸共通の礼儀らしい。
知らなかったので今迄陛下の前では普通に膝を付いていたが、ギルド本部長に怒られた。
敬称も同格以下の殿。伯爵家以下がSランク冒険者に声をかける場合の敬称は閣下。
将軍の時は王の代行という立場だったので公爵家であっても俺に対しての敬称は閣下。俺が公職家を呼ぶときは殿だった。
公式の場で先に声を掛けるのは格上の者だが、Sランク冒険者は侯爵格ではあるが王に次ぐ格として公爵相手でも先に声を掛ける事になっている。
めっちゃややこしくて暴れそうになる。
好きな事はすぐ覚えられるのに、作法はなかなか覚えられない。
公式の作法は複雑なので下級貴族が公式の場に出る際は、礼法に詳しい貴族家に謝礼を払って教えを請うらしい。
赤穂家が吉良家に教えを請うたのと同様。
幸いシバスチャンが作法に詳しかったので教えて貰えたが、王国にも吉良家の様な礼法に詳しい家が幾つかあり、爵位は子爵だが格式は高位貴族らしい。
貴族の礼法はややこしいから嫌いだが、素敵なお嫁さんを貰う為には頑張るしかない。
新しい魔法を考える時以上に頑張った。
練習を重ねているうちに、いよいよ挨拶の当日が来た。
シバスチャンから何度も手順を教えられたので大丈夫、だと思う。たぶん。
半ば諦めていた結婚が現実のものになるかも知れないので気合が入るが、気合で話下手が直る訳ではない。
自慢じゃ無いが自信なんて欠片も無い。
手土産はシバスチャンのアドバイスで冒険者らしい魔獣肉と素材。
元手が只なのでちょっと気が引けたが、シバスチャンに言わせると下手な贈答品よりも良いらしい。
目立たないように冒険者ギルドに納品する量を抑えているので俺とすればアイテムボックスの整理も出来て一石二鳥。
最初に挨拶に行くのは4家の中で1番格式が高いアシュリー公爵家。
貴族街で最も王宮に近い所にあるお屋敷。
これが門?
豪邸のように巨大な門を潜ると馬車は林の中を進む。
馬車の窓から屋敷が見えたのは、門を潜ってだいぶ経ってから。
デカい。
石造り3階建てで両脇には巨大な塔。
まさにお城。
俺の屋敷も石造り3階建てでめっちゃ大きいと思っていたが、スケールが全然違う。
ルアレイナはこんなに凄いお城の御姫様だったのかと今更ながら驚いた。
シバスチャンの話では、アシュリー公爵家当主は代々王都常駐が決まりなので屋敷も立派とのこと。
正面入り口で馬車を降り、待っていた執事に案内されて客間に向かう。
「キラ閣下のご到着で御座います。」
扉が開かれて客間に入ると、公爵夫妻が並んで立っていた。
「Sランク冒険者のキラです。」
胸に拳を当ててご挨拶。
「ようこそお越しくだされた。フィランデル=アシュリーだ。これは妻のマリアレーヌ、まずはお掛け下さい。」
「ありがとう御座います。」
ソファーに腰を降ろした。うん、予行演習通り。
「早速ですがこの度の婚姻申し出、心より有難く思い、謹んで御受け致します。」
「それは重畳、感謝する。まあ堅苦しい事はこれくらいにして、冒険者風に胸襟を開いては無そうでは無いか。」
「助かります。」
貴族風の会話は苦手なので有難かった。
「ルアレイナが今あるのはキラ殿のお陰。緊迫した状況の中でよくぞ娘を救い、丁寧な治療を施してくれた。改めて感謝する。」
「当然のことをしただけです。偶然出会えたお陰で素晴らしい伴侶を得られたのですからすべては神の思し召しと感謝しております。」
これも創造神様の祝福のお陰だと思う、ちょっと人数が多すぎるけど。
「陛下から伺ってはいたが、キラ殿は本当に謙虚な男だな。多くの者を救いながら、少しも奢った所が無い。良き夫を得られたことを嬉しく思うぞ。」
「ルアレイナ様に相応しい夫となれるよう精進致します。」
お姫様に相応しい男になるのは難しそうだが、誠心誠意大切にするつもりはある。
「今年の夏も岩山に籠って訓練しておったそうだな。」
「15歳になりましたのでそれなりの力を付けねばならないと頑張りました。ただ、果たしてどれ程成長できたのかは自分でも判りかねます。」
「キラ殿は王国が認める大陸1の15歳である。にも拘らず常に精進を怠らぬ姿は貴族やその子弟達にも見習って欲しいものだ。」
「自由気儘に過ごせた今迄とは違い、私にも守るべき家族が出来ます。これからはルアレイナ様達を守れるよう一層精進するつもりです。」
うん、シバスチャンの想定問答集通りに言えた。
「高位貴族4家の令嬢と婚約となれば煩く言う貴族もおるであろう。キラ殿の後ろ盾は宰相閣下、実質は王家であるが、私を含めた4家も全力でキラ殿を盛り立てて行く事で意見が一致している。私達はキラ殿の親となる、何かあれば遠慮なく私達を頼って欲しい。」
「ありがとう御座います。」
何とか挨拶を終えた。
王国貴族の礼式に則ったものなのでルアレイナと顔を合わせる事は無かった。
他の3家でもほぼ同じ挨拶。
結論を言えば、今後は4家が俺の後ろ盾になってくれる事になった。
つまり、俺に手を出せば高位貴族である4家を敵に回す、江戸時代なら紀州家と毛利家、伊達家に井伊家が一度に敵になると言う事。
うん、頼もし過ぎる味方が出来ちゃった。
大丈夫かな、俺。
味方が強すぎてちょっと不安になる。
年が明け、前期試験が終わった直後に王家から俺の婚約が発表された。
結婚式はお嬢様方4人が卒業する今年の夏。
高位貴族の場合、婚約期間は1年~3年、王家などは10年を超える場合もある。
俺は婚約発表から半年。
どうしてそんなに早いのかとシバスチャンに聞いてみたら、俺が卒業すると王都を出る可能性があるので、俺の卒業まで待たない方が良いというのが王家や4家の考えらしい。
判らん。
試験休みと言えば恒例のお食事会。
婚約が発表された直後だけど、お食事会は予定通りに開催された。
何故かは判らないが、今回は馬車の数が多い。
お嬢様方はいつも通り客間でお茶を楽しんでいる。
「招待状の手配は済ませたの?」
テリア様がお嬢様方に聞いた。
「結婚式の招待者は簡単に決まったらしいけど、披露宴が大変みたい。4家の執事達が集まって話合っているけど、爵位は低いけど縁の深い貴族とかいるでしょ。」
「要するに何回目のパーティーに招待するかで揉めている訳ね。」
「そう。1回目は高位貴族だけなので問題は無いけど、2回目と3回目のどちらに招くかは縁の深さと序列の高さの違いがあって難しいみたいだし、取引先の大商人が多いから3回目と4回目の振り分けも難しいらしいわ。」
「4家合わせると相当な数の縁者がいるものね。」
待て待て、2回目と3回目に4回目って何だ?
心の中で思ったけど、賢い俺は黙っていた。
「一つの家だけなら問題は無いけど、4家同時だからね。」
「Sランク冒険者の結婚披露宴に招かれたと言うだけで社交界の話題になるから下位貴族や商人としては家格や序列、信用度に係わるのよね。」
なんなんだ?
Sランク冒険者の結婚式ってそんな重大事なの?
恐いので聞かなかった事にした。
女性が話している時に口を挟むのは、開いた鰐の口に頭を突っ込むのと同じ。
俺は勇者では無く経験から学べる15歳だ。
「まあ大変なのは振り分けをする執事で私は招待状を書くだけですけどね。」
「招待状は私達が書きますが、連名の招待状ですからキラ様もサインをお願いしますね。」
「お、おう。」
サインだけなら面倒では無い。
「キラ様、ギルド関係の招待状はもう出来ましたの?」
俺も書くの?
シバスチャンを見ると呆れた顔をしている。
「俺が招待するのって誰?」
シバスチャンに聞いてみた。
「冒険者ギルド本部長、薬師ギルド本部長、王都冒険者ギルドのギルマス、王都薬師ギルドのギルマス、お友達のアルト様、イエロー様、ジュリア様の7名です。ストン関係者については後日皆様で挨拶に向かう事となります。」
世話になったストンの街へも行けるように考えてくれている。
さすがは出来る執事。
7人なら招待状もすぐに終わりそうだ。
って、俺の関係者は7人だけ?
4人が招待する人数は聞かない方が良さそうな気がした。
学院では周りの学生達が聞き耳を立てているから当たり障りのない話しか出来ないと嘆いていたお嬢様方が話しに夢中になっている間に昼食の準備が整った。
今日のメインは魔獣肉のガーリックステーキ、ポテトフライ添え。
婚約が決まったからか遠慮なくお替りをしている。
いや、前の時もお替りしていたか。
慎ましやかに食べていたのは最初の時だけだったような気がする。
ドレスのサイズが心配になった。
恐いから何も言わないけど。
食事後はお嬢様方が連れて来た職人達の報告会。
屋敷の雰囲気や部屋からの景色などに合わせて部屋の内装や必要な衣装を考えるために多くの職人が同行して来たらしい。
4人の個性が出て尚且つお嬢様方が快適に過ごせるよう、部屋の色合いや雰囲気・家具配置を4家の職人達で話し合い、他家とコンセプトが被らないよう調整したそうだ。
冒険者の家なので基本コンセプトは簡素。
4家の財力には差があるが、部屋については出来るだけ同程度の費用で内装を施すらしい。
4家からはそれぞれの家が費用を負担するので、内装に関してはお嬢様方の自由にさせて欲しいとの申し出があった。
インテリアセンス皆無の俺にはまるで判らない事なので即座に了承している。
今迄は使用人任せだったが、結婚したら屋敷の差配はお嬢様達の役目。
お嬢様達が暮らしやすい様に手を入れるのは当然の事。
俺の寝室も職人さん達のアイデアを基にお嬢様方が色々と意見を出し合っている。
俺の寝室だからなのか、時々俺の意見も求められるが、拙い事を言わないよう頷くだけで口は挟まない。
俺が私室と寝室に入ったのはお嬢様方を案内した1回だけ。
執務室と隣の寝室しか使った事が無いので奥にある私室や寝室の事はまるで判らない。
俺が屋敷について自信を持って言えるのは、知らない廊下を歩けば迷子になると言う事だけ。
俺は自分の出来る事と出来ない事をわきまえた15歳だ。
職人達との打ち合わせを聞いていると、部屋着や寝間着、下着まで部屋の雰囲気や色を考えて作るそうで、いつも同じ服・同じ下着の俺としてはビックリとしか言いようがない。
半年後の結婚式までに部屋の準備や細々としたものの手配を済ませなければならないからと職人さん達は打ち合わせが終わったら飛ぶように帰って行った。
結婚式は王国大聖堂。第1回披露宴は王宮の大ホール。第2回からはアシュリー公爵邸の大ホールで開かれる事に決まっているらしい。
お嬢様方は知っているのに俺は知らなかった、何でだろう。
細かい事はお嬢様達に任せておけば安心なのでいいけど。
結婚式で着る服は王宮に行く時の服で良いと思っていたら、高位貴族の場合は結婚式専用の礼服が必要らしい。
さらに披露宴にはSランク冒険者の正装があるそうだ。
青いシャツで胸に大きくSの字が描かれている物じゃ無いよなとシバスチャンに確認したら、正式の決まりは王国の紋章が金糸で刺繍された黒のマントだけらしい、良かった。
将軍の時は国王の代理という事で王家の紋章だったが、今度は王国の紋章。
どっちが上?
判らん。
ともかく王国にSランク冒険者が住んでいると言う事が大切らしい。
後期の授業が始まったが、学園内を歩いて居るだけで痛い程視線が飛んで来る。
教室に入るとすぐにアルト・イエロー・ジュリアの3人組が寄って来た。
「いつの間に決まったんだ?」
「4人と結婚だと、どういう事だ?」
「何で王家から発表されたんだ?」
皆顔が近い。
教室にいる学生達が皆俺の方を見て耳をそば立てている。
そもそもこんな所で説明できる筈も無い。
「どうどう。」
3人を落ち着かせ、昼休みに話すからと席に戻らせた。
昼休み、人気のない校舎裏に集まって4人で話をした。
「あの時殿下に無理やり連れて行かれた班か。」
「しかも大火傷を負っていたのに殿下達に置き去りにされた、王家も気を遣うよな。」
「しかし4人同時に婚約は無いぞ。しかも4人共高位貴族のお嬢様だ。」
「俺はしがない冒険者、相手は大貴族の御姫様。身分違いだと言う事はアホな俺にだって判る。だけど俺に話が持ち込まれた時には、4家の間で嫁の順位まで決まっていて、陛下の承認も済んでいた。その時点で俺に出来るのは、“はい”か”よろこんで“の二者択一だ。」
「・・・まあそうなるな。」
「確かにその状態で断れる奴は王国中どこを探しても居ないな。」
「幸いなことに4人は仲が良いから何とかなるとは思う、たぶん。」
「しかし15歳で4人の高位貴族令嬢と婚約か、当分の間煩くなるぞ。」
「表立って何か言うとは思えないが、妬みや羨みの視線は向けられるな。」
「Sランク冒険者だから視線を跳ね返す魔法くらい使えるだろ。」
「有るかい!」
そんなものが有ったら、とうの昔に使ってるわ。
どれだけ貴族達の棘のある視線を浴びたことか。
ストンのギルマスは“痛いのは最初だけ”と言っていたけど、ずっと痛いままだったぞ。
久しぶりにお星様を戴きました。
ポイントがめっちゃ増えたのですっごく嬉しいです。
執筆が難航していましたが、お星様の期待に応えようと頑張りました。
読んで下さる方が少しずつ増えている事も元気の源になっています。
拙い作品ですが、これからもお付き合い宜しくお願いします。




