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20 俺には高嶺の花過ぎる 

気が付いたら今迄最長の”馬丁爵”の文字数を超えていました。

これも継続して読んで下さっている皆様のお陰です。

頑張って書き書きするので、これからも宜しくお願いします。

免独斎頼運

今日は休日なので朝から禁書庫に籠って通信の魔道具について調べていた。

お昼になったので飲食コーナーでサンドイッチを注文する。

いつも夕方前から閉館迄の利用なので飲食コーナーを使うのは2回目。

王宮の料理人が作っているのでめっちゃ美味しい。

「少し宜しいですか?」

時々見かける女の子が声を掛けて来た。

学院で狼女子学生達に追い回されたトラウマがあるのでちょっと警戒してしまう。

「はあ。」

何故話し掛けられたかは判らないが、禁書庫に居るので怪しい人ではない。

とりあえず返事をした。

「大賢者様の書かれた本で魔道具について調べているのですが、難しくて良く判りませんの。」

「はぃぃ?」

何で俺に聞くんだ?

「あなた様は大賢者様の本をよく読んでいらしたので少しでも教えて頂けるのではないかと思いました。」

声を掛けて来た理由は判った。

「・・どのような魔道具を考えておられるのですか?」

「通信の魔道具です。お姉さまが外国に嫁ぐことになりそうなので、離れているお姉さまと話せる魔道具を作ろうと思ったのです。」

「はあ。」

「今日読んでいらした本が先日私も読んだ通信の魔道具の本でしたので思い切って声を掛けさせて頂きました。」

「通信の魔道具に関してはまだ勉強中なのでご期待には沿えません。」

通信の魔道具はまだ研究を始めたばかり、人に教えられるような知識は無い。

きっぱりと断った。

「私は指向性を持たせた強力な魔力を発動する方法を考えています。」

俺の断りの言葉は女の子にスルーされた。

宰相も俺の言葉をスルーする事が多いけど、王宮にいるとスルー力が高くなるの?

「えっと・・・、数千㎞離れた所に届く程強力な魔力は難しいと思います。魔力は離れる程拡散するのでその対策が難しい事、仮に収束に成功してもこの大地は丸いので、直進すれば空に消えてしまいます。その点はどうなさるおつもりでしたか?」

「そこです、そこが私の行き詰った所です。あなた様はどのように解決しようと思っているのですか?」

拙い、つい話に乗ってしまった。

「えっと、基本的には固定した亜空間に二つの通信機を繋げる形? 亜空間の内部に魔法陣を描いて通信機と接続、同じ性質を持つ魔法陣にもう1つの通信機を接続する形です。問題は亜空間内にある二つの魔法陣の接続法ですね。」

「亜空間ですか。」

「大魔導師様の書籍やメモには亜空間についての記述が沢山残されています。」

「大魔導士様のメモですか?」

しまった。お祖母さんのメモは伯爵家の錬金場だった。

「えっと、・・以前、・・とある場所で、見た?」

「とある場所とはどこですか?」

拙い、墓穴を掘った。

この人はきっと王族。

嘘を吐くわけにはいかないけど本当の事も言い難い。

「えっと、戸がある場所?」

自分でも何を言っているのか判らなくなって来た。

「私もそのメモが見たいのです。教えて下さい。」

「えっと、・・保管箱は大魔導士様の魔力登録がされているから見れない?」

「あなた様は見たのですよね。」

ダメだ、どんどんと深みにはまっていく。

「えっと、何となく開いた?」

「魔法登録は何となくでは開きません。」

俺が解除したとは言えない。

魔法登録が解除できる魔法使いはお祖母さんだけだと聞いた事がある。

「・・・俺が大魔導士様の血筋だから?」

やけくそで伯爵家の人間だと打ち明けた。

「成程、大魔導師様の血筋のお方なのですね。そうか、だから禁書庫にも入れるのですね。確かに大魔導士様の研究には禁書庫の本は必要ですわ。」

なんでかは判らないが妙に納得している?

「はあ。」

「あなた様が大魔導士様の魔法登録を解除出来るなら、是非調べたいです。あるのは伯爵家ですか侯爵家ですか?」

「侯爵家?」

「大魔導師様はドラン侯爵家と親しく、領館には専用のお部屋もあったそうです。領内に幾つもの結界をお造りになったとも聞いています。」

以前護衛依頼で行ったお祖母さんの結界があった訓練場がドランだったような気がする。

俺はもう13歳、男が女性に勝てる筈が無い事位判っている。

諦めた。

「・・伯爵家の錬金場です。」

「伯爵家に献上させるよう父上に頼んでみます。献上されたら開けて下さいね。」

女の子は嬉しそうに書庫を出て行った。

献上って言っていたから、父上って陛下だよな。

という事はあの子は王女殿下。

めっちゃ不味い事になった?

「はぁ。」

溜息を吐いて、がっくりと項垂れた。



2週間後、王宮から呼び出しが来た。

この2週間、めんどうなことになりそうだったので禁書庫には行っていない。

俺が行かなければ、まあそうなるな。

「ソランダ伯爵から大魔導師殿の遺品献上の申し出があった。」

いやいや無理やり献上させたんでしょうが。

「はあ。」

「キラは大魔導士様の魔法登録を外せると聞いたが本当か。」

「えっと、大魔導師様の血筋の者なら比較的楽に解ける様な仕様になっていた?」

「・・・まあそう言う事にしておこう。」

完全にバレている感じだけど、そう言う事にしておかないと拙すぎる。

「魔法登録がされている大箱については隣の部屋に運び込んである。魔法登録を解除せよ。」

「一応魔術師の秘伝ですので人目は憚ります。私一人でという事で宜しいでしょうか。」

「よい。解除にはどれ程の時間が掛かる?」

「1つ2時間程かと思います。」

大箱は3つあったので6時間程、簡単には解除出来無いと言うアピールにはなる筈。

隣の部屋に籠り、結界に掛かっている魔法登録を解除する。

1つ5分程。パズル感覚で何度も解いたり付与したりを繰り返したので慣れた。

箱の中身を取り出して中の本や資料を確認、もう一度読みたかった資料を読む。

2時間程読んだら次の箱。

本や資料を読んで時間を潰す。

3つ目の箱を解除して予定時間まで資料を読んで暇をつぶすと扉を開き、廊下で待機していた騎士に終了を告げた。

すぐに飛び込んで来たのは禁書庫で出会った女の子。

部屋に入ったとたんに箱に飛びついて本やメモを調べ始めている。

少し遅れて魔術師長のおっさん、その後に陛下と宰相が入って来た。

「魔術師長が3日掛けて手も足も出ず、騎士団長が大剣で叩いてもびくともしなかった箱がこうも簡単に開くとはな。」

「偶々です。」

「「はぁ。」」

陛下と宰相が何故か溜息を吐いている。

「凄い、凄いです。」

王女殿下?は大興奮。

「もう帰っていい?」

「箱の中身に興味は無いのか?」

「今読みたいとは思いませんので。」

王女殿下と魔術師長に視線を送る。

興奮しながら箱の中身を出しては分類している二人の邪魔をする程の勇気は無い。

「キラが伯爵家を出たのは7歳であったな。」

「はい。」

「伯爵家を出る前にこれらに目を通したのか?」

「凡そですが。」

「そうか。以後この資料は王宮の禁書庫で管理する。いつでも読みに来るが良い。」

「有難う御座います。」

とりあえず解放された。





王宮の1室


「7歳で魔法登録を解除してあの難解な本を理解したとは・・・。」

「血筋の者なら解除し易いと申しておったが違うのか?」

「大賢者様の直系であるキラの父親は手も足も出なかったと言っております。」

「伯爵は魔術師の塔所属であったな。」

「魔術師の塔でも5本の指に入る優秀な魔術師です。大賢者様が亡くなられて暫くは魔法登録の解除に取り組んでいたために結婚が遅れたと聞いております。」

「大賢者を超えるかも知れぬな。」

「既に大賢者様の領域に達しているやも知れませぬ。」

「益々手放せぬな。」

「御意。」





そろそろ王女殿下?の狂喜乱舞も落ち着いたかと思って禁書庫に行くと、王女殿下に捕まった。

魔術師長と何やら話し込んでいた王女殿下が俺の姿を見るや否や入り口で手続きをしていた俺の腕を掴んで本を広げてあるテーブルへと連行した。

この世界では王族や貴族の女性は男の都合を考えないのが常識なの?

学院の女子学生と王女殿下しか知らんけど。

「この魔法陣とこの魔法陣の効果の違いは何ですの?」

「・・えっと、こっちは空間作成で、こっちが空間の固定。この3つの文字が光属性の魔力を増幅させて亜空間を凝縮する効果、魔力を切ると亜空間は消滅します。こちらの魔法陣にある3つの文字は既に存在する亜空間を固定化する効果です。こちらの魔法陣を発動中にこちらの魔法陣を発動すれば凝縮した亜空間を固定出来るので魔法袋などに利用出来ます。ただ、二つの魔法陣を同時に発動させなければならないのでかなりの魔力が必要となります。」

「二人の魔術師で同時に発動させれば宜しいのではなくて。」

「亜空間は魔力の質によって違う亜空間となりますから1人で作業する必要があります。」

「この文字は今まで見た魔法陣には使われていなかったのですがどのような意味なのですか?」

「この文字は光属性を示します。他の属性でも可能なのかは知りませんが、大賢者の空間魔法や結界魔法は全て光魔法なのでこの文字が使われています。」

「キラ閣下は光属性なのですか?」

横で聞いていた魔術師長が口を挟んだ。

「キラ閣下って、あの飛行魔法のキラ閣下ですか?」

王女殿下?は俺の名前を知らなかったらしい。

王族から見れば只の冒険者なのでそんなものだろう。

「閣下は苦手なのでキラと呼んで下さい。一応飛行魔法は使えます。光属性かどうかは自分でも判りませんが、大魔導師様の遺した光属性の術式は殆ど使えます。」

「存じ上げず失礼致しました。名乗り遅れましたが、私は第2王女のテリアール=ミュールで御座います。テリアと呼んで下さい。キラ様の飛行魔法も光属性なのですか?」

「飛行魔法は無属性です。詳しくは大賢者様の本に載っています。」

「これからも判らない所は質問させて頂いても宜しいですか?」

「私もまだまだ勉強中の身。お役に立てるか判りませんが、一緒に考えさせて頂きます。」

「学院でもお話させて頂けますか?」

俺の事は知らなかったがAランク冒険者のキラが学院生という事は知っているらしい。

「済みません。目立つのは嫌なので急ぎの用事でなければお控え下さい。」

「判りました。」

あっさり引き下がってくれたのでホッとした。

その後はいつも通りに本を読み、時々テリア殿下や魔術師長の質問に答えて禁書庫を出た。

その後は時々質問されたものの、特に問題無く禁書庫での読書を楽しめた。



驚いたのは翌週の魔道具Ⅰ。

王女殿下が魔道具Ⅰの授業に現れた。

学院の選択授業は年度始まりの1ヶ月は変更可能。

その制度を使って魔道具Ⅰに選択科目を変更したようだが、貴族科の生徒は殿下だけ。

注目を浴びているのをひしひしと感じる。

殿下は俺の前に次々と質問のメモを差し出す。

週末の2日間に俺への質問を書き出したらしい。

全て通信の魔道具に関しての質問なので協力してくれている教授も含めて3人で色々と意見を出し合った。

めっちゃクラスの視線が気になる。

突然王女殿下が現われたと思ったら俺の傍にずっと張り付いている。

他の生徒から見れば奇異に映るのも仕方が無い。

しかし、話の内容が魔道具の話ばかり、教授も時々意見を出しているのを見て関心が無くなったようで皆自分の研究に集中するようになった。

流石に入学試験も学年成績も主席なだけあって王女殿下は理解力が凄いし質問も鋭い。

俺も通信の魔道具が結構早く作れるような気になってくる。

平日は授業が終わったら禁書庫に行き、殿下と同じテーブルで資料を見ながら魔道具の検討をする。

週末は屋敷での作業と冒険者活動だが、週明けには殿下の質問攻勢。

休日も禁書庫に行っているらしい。



前期試験が終わった試験休み、殿下に誘われて冒険者ギルドの通信魔道具の見学に行った。

非公開である通信魔道具の見学許可を王女の権威を活用して無理やり取ったらしい。

俺としては大歓迎。

一度見たいとは思って聞いてみたが、冒険者ギルドは独立組織なので陛下でもごり押しは出来ないと宰相に断られた。

立場上陛下はダメでも王女殿下なら大丈夫らしい。

判らん。

多分王女殿下が相当な無茶をしたのだろう。

冒険者ギルドの最高機密なのでギルドマスター直々の案内で俺と殿下の2人だけが通信室に入れて貰えた。

40畳くらいある大きな部屋の殆どを通信機が占め、手前にある操作盤で通信相手を選択して通信するすると説明された。動力は魔石で、全ギルド同時通信だと1回で大きな魔石が空になるらしい。

メンテナンス用のドアから通信機の内部に入れて貰う。

構造的には1対1で話す小型の通信機が沢山あり、操作盤からの音声が通信相手に繋がる回線へと流れ、対応する子機へと送られるようだ。

全ての通信機は待機状態なので弱い魔力が流れている。当然魔法陣も稼働している。

稼働中であれば俺には魔法陣を観る事が出来る。

小型の通信機に使われている魔法陣をじっくりと眺めて頭に刻み込む。

やはり亜空間を使った魔法陣だった。

基本的には音声を魔力信号に変えて亜空間に送り、対になる通信機から送られてきた魔力信号を亜空間内の魔法陣で受信して亜空間の外に出して通信機に伝える。

亜空間内の魔法陣には待機状態を維持するための魔力が魔石から供給されている。

作った時期が違うのか同じ機器なのに幾つかの違う魔法陣が使われている。

1つの機器には大体5種類の魔法陣が使われていてそれぞれで機能を補完し合っているらしい。

「もう宜しいでしょうか。」

魔法陣を見つめていたらギルドマスターから声を掛けられた。

集中しすぎてかなりの時間が経った事に気が付かなかった。

「ありがとうございました。凄く勉強になりました。」

礼を言ってギルドを後にした。

「随分と熱心に見ていましたが、何を見ていたのですか?」

魔力や魔法陣が見えるのは秘密、普通は箱が沢山並んでいる事しか見えないのだ。

「えっと、・・おれは魔力の流れ的なものを感じる事が出来るので、装置の中で魔力が動いているかを感じ取ろうと神経を集中していました。」

「感じ取れましたの?」

「待機状態でも魔石から魔法陣に魔力が流れている感じがしました。待機状態の事は考えていなかったので新しい発見です。」

「詳しい事はまた教えて下さいね。」

「はい。」



学年末試験を控えた初夏、通信魔道具の試作品が完成した。

待機状態の機能は無いし、大きさもギルドの機器よりもかなり大きい60㎝近い箱型。

テリア殿下と1緒に何度もテストと改良を重ねた苦心作。

構造的に距離は関係ない筈だが、とりあえず高位貴族寮にあるテリア殿下の部屋と俺の部屋とで通信が出来た。

待機機能が無いと決まった時間にそれぞれが魔力を流さなければならないが、試作品なので問題は無い。

教授に提出したら二人とも魔道具作成Ⅰの単位が貰え、続きは魔導具Ⅱで行うよう申し渡された。

前期試験は程々だったので学年末試験も程々を目指す。

選択科目の魔道具作成Ⅰと帝国語が満点なので問題は無い。

後期試験も程々の線を維持出来た。

担任のマッスル先生がジロッと俺を睨んだが無視無視。

俺は1組には上がりたくない。

昨年起こった殿下の森林火災事件の影響で今年の冒険者演習は中止。

俺にとっては有り難い。

夏の長期休暇が終わると俺は14歳。

それまでに14歳なりの実力を付けなければならない。

今重点的に取り組んでいるのは筋力アップ。

前世で使っていたダンベルを魔法成形で作ったし、体に重力魔法で負荷を掛けるトレーニング法も開発した。

勿論転移魔法の発動時間の短縮や長距離転移の練習もしている。

でもそれだけでは14歳として相応しいとは言えない気がして悩んでいる。

前世とは違いこの世界では年代別の平均というような統計が無い。

魔法を使えるか使えないかで能力値が大きく変わるので平均は意味が無い。

属性攻撃魔法が全く使えない分、それ以外の分野で力を付けねばならないが何をどう頑張れば良いのかが判らなくなっていた。

前世なら14歳の時は志望高校を目指した模擬試験とか所属していた陸上部の記録会があった。どちらも結果が数字となって現われるし、同世代の生徒との比較が出来たので14歳としての自分の位置が判り易かった。

王立学院内での成績順位は出るが、大陸全体での位置は判らない。

剣と魔法の世界にはめっちゃ凄い14歳が大勢いる筈。

うだうだと考えてもしょうがない。

俺に出来る事をやるだけと、いつもの岩山に向けて飛んだ。



1ヶ月半の集中訓練を終えて王都に戻ると王宮からの呼び出し状が来ていた。

“王都に戻ったら王宮に来なさい“

去年も学院が始まる数日前に王都に帰っていたのでそろそろ帰ってくる頃だと予想されていたらしい。

「昨年の火災事件で命を救われた令嬢から直接会って礼を言いたいという嘆願が出ている。」

嫌な予感がする。

貴族の女性は苦手。

「特に元第2王子に森の奥まで無理に連れて行かれ、間近で魔力暴走に巻き込まれて大火傷を負ったにも拘らず、逃げるのに邪魔だと置き去りにされた高位貴族令嬢達の願いについては王家としても無碍に断る事は出来ぬ。嘆願を受けた王妃は茶会であればキラも気を張る事無く出席出来る筈と申しておるがどうだ?」

いやいや、茶会なんて出た事無いし気を遣いますって。

「冒険者ですから作法も知りませんし、服もありません。」

「礼儀作法は97点であったと聞く。服は既に用意してあるので問題は無い。」

何で陛下が礼儀作法の点数迄知ってんだよ。

服は既に用意ってあるって何なんだ?

問題大有りだぞ。

「・・しかしながら面識の無い女性に何を話せば良いのか判りません。」

何とか危険を回避しようと断る理由を捻りだす。

「主催は女性達と同じクラスのテリアールである。テリアールとはよく話をしておるようだから問題は無いであろう。キラは気楽に相槌を打っていれば良い。」

逃げ出す理由が次々と潰されて行く。

「・・・・」

「開催は今度の週末。執事のシバスチャンには既に伝えてある。良いな。」

外堀も内堀も埋められていた。

「はぁ。」

溜息しか出ない。



週末、シバスチャンに貴族服を着せられて屋敷を追い出された。

馬車が向かう先にあるのは王宮。

はぁ。

「お招き頂き光栄です。」

「今日は気楽な会ですので、学生言葉で宜しいですわ。皆様にもそう伝えておりますので気楽にお過ごし下さい。」

テリア殿下が珍しく気を遣ってくれた。

「助かります。」

「ここにいらっしゃる皆様はキラ様の事をよ~くご存じですから、キラ様の紹介は無しで皆さまを紹介ますね。こちらはアシュリー公爵家のルアレイナ様、私の従妹に当たります。」

“よ~くご存じ“って、どゆこと? 

「ルアレイナ=アシュリーです。昨年は本当にありがとうございました。」

「こちらはドラン侯爵家のシャリーヌ様。私の婚約者はドラン家の嫡男ですから義理の妹になる予定よ。」

テリア様はもう婚約者が決まっているんだ。

そう言えばこの国の王族は5歳~10歳で婚約者を決めるって聞いた事がある。

「シャリーヌ=ドランです。祖父がキラ様のお祖母さまと仲良くさせて頂きました。」

ドランと言えば、お祖母さんの張ったギルドの結界がある街だ。

「こちらはキュラナー辺境伯家のドリーナ様。」

辺境伯家は独自の軍を持つ侯爵格の貴族って学院で習った。

「ドリーナ=キュラナーです。おかげさまで傷一つ無く戻る事が出来ました。」

「こちらはステルン伯爵家のトリューラ様。」

「トリューラ=ステルンです。キラ様の御恩は一生忘れません。」

4人のお嬢様は皆高位貴族の御姫様。

めっちゃ美人だけど俺には高嶺の花過ぎる。

イエローに色々と聞いたお陰で、貴族と俺とでは住んでいる世界が全く違うと言う事が良く判った。

無礼にならない様に視線を下げる。

「偶々皆さんを見つけて自分に出来る事をしただけです。気にしないで下さい。」

「キラ様は目立たないように穏やかに過ごすのがお好きと伺いましたが本当ですか?」

「学院を卒業したら田舎の街でのんびり過ごそうと思っています。」

予定では学院に通わずストンに帰る筈だった。

少し遅れたけど学院を卒業したらストンに帰ってひっそりと暮らす予定だ。

「王都はお嫌いですか?」

「不調法なので貴族との付き合いが苦手です。」

貴族のお嬢様には失礼かもしれないが、はっきりと言った。

貴族とは出来る限り付き合いたくない。

「確かにいつもは“困った時は俺を頼れ”なんて言っていた貴族の方々が演習の時には自分が逃げる事ばかり、私達には何もして下さらなかったわね。」

「助けてくれたのは平民出身の生徒ばかりでしたわ。」

「人にもよるのでしょうが、貴族の子弟は殆どが自分の事だけ。冒険者さんが食料を平等に分けようとした時も貴族に多くすべきだと苦情を言っていましたわ。」

「キラ様がたった一人で命を懸けて運んで下さった食糧なのにね。」

「冒険者達が“非常時なので貴族も平民も平等にする”って言った時、王都に帰ったら父上に言いつけてやると言い出したのには呆れましたわ。」

「“俺も言いつける”と賛同した者達が多かったですよね。」

「貴族の中にもイエロー様のように貴族を追い出して女生徒の班や怪我人に平らな良い場所を確保して下さった方もおりますわ。」

「“伯爵家風情が侯爵家に逆らうのか“と喧嘩になり掛けましたけどね。」

「あの時冒険者のジャムさんが割って入らなければ大変な事になりましたわ。」

俺の知らない所で色々と起こっていたらしい。

「ジャムさんが貴族のテントを取り上げてテントを無くした女生徒達の班に渡して下さった事には驚きました。」

「あれには驚いたわね。”貴族の事は知らないが、冒険者の世界では女性を守るのは男の義務、この場の責任者は冒険者の俺だ。文句がある奴は俺に決闘を挑め。決闘なら堂々と貴族を殺せるからな“でしたっけ。」

「そう、そんな感じ。睨まれた貴族がお漏らししたのはちょっとあれだってけどね。」

何やかやで茶会は結構盛り上がった。

「学院を卒業した後、王都のお屋敷はどうなさるのですか?」

「時々は王宮に呼ばれると思うのでその時は屋敷に泊まります。こんな俺に精一杯尽くしてくれている使用人達を放り出す訳には行きませんから。」

「キラ様はお優しいのですね。」

「お屋敷の使用人は週に二日お休みを頂けるそうですよ。」

何でお嬢様が知ってるんだ?

「でもお休みの日は警備員の方々に武術の訓練をして頂いているのですって。」

「そうなの?」

まあ護身術を習って置けばいざという時は役立つよな。

「いざという時にキラ様を守る為ですって。」

知らなかった、ってお嬢様達は何で知っているんだ?

それじゃ休日が休日になってないじゃん。

というより俺を守るって? 

俺Sランク、自分の身は自分で守れるから。

「週末にはキラ様が狩って来た魔獣のお肉を振る舞って頂けるのですよね。」

「自分で狩った魔獣なので仕入れにお金が掛かりませんから。」

タダなのもあるけど、アイテムボックスの整理が出来るので食べてくれたら有難い。

「王族でもめったに食べられない貴重なお肉で、週明けには陛下や宰相も食べに行くことがあるそうですわ。」

あのお肉は高級肉なの?

誰も教えてくれなかったぞ、確かに美味しいけど。

ってゆうか、陛下と宰相が屋敷に来ているの?

聞いてねえよ。

「料理長は元王宮料理人ですから凄く美味しい料理を作って下さるのですって。」

料理長は元王宮料理人なのか?

それも聞いてねえよ、そうならそうと教えてくれよ。

何でみんな俺よりも屋敷の事に詳しいんだ? 

「私達も食べてみたいですわね。」

「そうですわね。」

「キラ様が狩って来たお肉ですから。」

「私も食べたいわ。父上ばかり食べているのはズルいです。」

テリア様まで言うか?

「まあ、美味しいのは確かですが、皆様は学院が始まったばかりでお忙しいですよね。」

何となく危険な匂いを感じて話を逸らす。

「来週の週末で如何かしら。」

テリアさん、俺の話を聞いてた? 

こんな所でスルー力を発揮しないで。

「週末の二日目のお昼なら空いております。」

「私もですわ。」

「大丈夫です。」

「必ず空けます。」

「決まりね。シバスチャンには伝えておくからキラはお肉を頑張ってね。」

テリアさんはシバスチャンの知り合いなのか?

何故か俺の都合は1度も聞く事無く俺の屋敷で昼食会を開く事が決定した。

何でそうなるんだ。


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