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18 料理が出来ないにもレベルがある

学年末試験が終わったのでのんびりしようと思ったら、1年生と2年生は課外実習の冒険者活動、すっかり忘れていた。

前世のファンタジー小説では魔獣のスタンビートが起きたりドラゴンに襲われたりが定番のめっちゃヤバそうなイベント。

いやな予感しかしない。

1年は3泊4日、2年は4泊5日で王都の南にある森でハイキング。

4~5人で1つの班。組み合わせは交友関係や属性を配慮して担任が決める。

野営の都合で班は男女別。

俺の班は風属性のアルト、火と土属性のイエロー、水と風属性のジュリア、属性無しの俺。

パーティーで何度も野営した経験があるアルトと一緒なので野営も心配が無い。

3泊4日と言っても初日は馬車で南にある森の近くまで行って、森の外の草原で1泊目の野営。

2日目に森に入って少し離れた山の麓にある川辺で2泊目。

3日目は初日に宿泊した森の外の草原に戻って3泊目の野営。

4日目は成績発表、後は馬車に揺られて帰るだけ。

1泊目と3泊目の野営をする草原には本部があって冒険者も大勢いるので安全。

ありていに言えば本当の野営は2日目の1回だけ、それも冒険者達が警護するキャンプ場なので実習というよりも体験型親睦旅行。

貴族科、騎士科、官吏科、魔法科の順に出発したので俺達が付いた時にはテントを張るのに良さそうな場所は既に埋まっていた。

貴族子弟の比率が高い順に出発ってどうなのよ。

公特で学院の平等に関してはかなり頑張ったつもりだったが、完全に平等という訳にはいかなかったらしい。

「キラはテントを張れるか?」

「すまん、張った事は無い。」

「ソロだとそうだよな。焚き火用の焚き木を集めてくれるか。」

「判った。」

アルトとジュリアがテントを張り、俺が焚き木集めでイエローが水汲み。

ジュリアは水魔法を使えるが、水魔法で出す水は不味いそうで、俺のチョロチョロしか出ない水では量が足りないらしい。

俺達のテントは水場から遠いので水汲みも大変だし、周囲の焚き木は既に先に着いた科の学生達が拾ってしまっているので離れた所まで探しに行かなければならない。

焚き木を集めて戻ると既にテントは張り終わっていたしイエローも戻っていた。

「焚き木は?」

「集めて来たよ。」

魔法袋から焚き木を出す。

「魔法袋を持っているのか?」

「薬草は結構嵩張るからね。」

「いやいや、そんな高い物は高ランク冒険者でもなかなか持っていないぞ。」

「これは師匠の遺品だから。そんな事より食事の用意だろ。」

「そうだった。焚き木に火を付けてくれ。」

着火魔法で焚き木に火を付けた。

「料理は作れるか?」

「すまん、解体なら出来るが料理はした事が無い。」

前世でもコンビニ弁当専門だったのを思い出す。

「イエローは?」

「伯爵家の嫡男が料理をする筈が無い。」

それって、胸を張って言うことか?

アルトがため息を吐く。

「一応聞くけどジュリアは?」

「家族で行ったキャンプで料理をした。」

「そうか。」

アルトの顔が綻んだ。

「二度と作るなと言われた。」

アルトががっくりと膝を着いた。

到着時に配られた袋から食材を出し、次々と切り分けては貸し出された鍋に放り込む。

「上手いものだな。」

慣れた手さばきを感心して見ていた。

「料理人と変わらぬ手つきだ。」

イエローも頷いている。

「材料を切るという発想は無かった。」

ジュリアも感心しているが、そこからかい。

料理が出来ないにしても色々とレベルがあると判った。

お前は二度と料理をするな。

肉と野菜の煮込みと配給のパンだけだが、仲間と一緒に野外で食べたせいか美味かった。

周囲は冒険者達が見回りしてくれるので見張りは不要。

4人でテントに入りぐっすり寝た。



翌朝はアルトが削った干し肉のサンドイッチを作ってくれた。

肉の塩味と謎葉っぱの甘みが程よくマッチしてめっちゃ美味い。

「俺の嫁に来ないか?」

ジュリアが真顔で言っている。

「貴様にはもう作ってやらん。」

アルトが本気で怒っている。

ジュリアの嫁になる気は無いらしい。

食事を済ませると出発。

目的地は遠くに見える山の麓にある川辺。

目的地まで移動する間に夕食用の素材を確保するのが今日の課題。

テンプレのイベントが起こるなら今日か明日。

とはいえ、剣と魔法の世界ではあるものの、ここはファンタジー小説に描かれる空想世界とは違う現実世界。

そんな馬鹿げた事が起こる筈が・・、あった。

カンカンカンカン・・・。

緊急事態発生を告げる鐘が鳴り続け、空には非常事態発生の狼煙が何本も上がる。

はぁ。

「何が起こった。」

イエローがあたりをキョロキョロと見回すが異常はみあたら無い。

「判らん。」

アルトも周りを見渡すばかり。

とりあえず俯瞰を飛ばした。

近くには異変が無い。

俯瞰の高度を上げると煙が見えて来た。

俺達の目的地である山の方向で森が火に包まれている。

広範囲の森が一気に燃え上っているという事は、どこかのバカが火魔法を使ったのだろう。

煙の方向から風向きを考えると、今迄歩いて来た森に向かって延焼が広がりそう。

出発点に戻ろうとした学生は戻る前に火に追いつかれるだろう。

危険に見えるが風上にあたる目的地の山に向かう方が良いと判断した。

立ち止まってキョロキョロしている生徒があちこちに見える。

逆にパニックになった魔獣が走り回っている。

「山火事だ。燃え広がってこっちに来る。アルト、みんなを連れて目的地の山に向かってくれ。パニックを起こしている魔獣が襲って来るかも知れないが、弱い魔獣ばかりだ。蹴散らして山を目指せ。途中で学生に出会ったら目的地の山が安全だと伝えて一緒に逃げろ。ごちゃごちゃ言ったらAランク冒険者の指示だと言え。」

「Aランク・・、キラはドラゴンスレイヤーのキラなのか?」

アルトが驚いている。

「まあそう言う事だ、頼んだぞ。」

「キラはどうするんだ?」

「巻き込まれそうな学生を誘導する。」

「誘導って、どうやって。」

「飛ぶ。」

今は目立たぬようになどと悠長な事を言っている場合ではない。

空に飛びあがり、拡声魔法を使った。

「山火事だ。戻るのは危険、目的地の山を目指せ。」

「山火事だ。戻るのは危険、目的地の山を目指せ。」

「山火事だ。戻るのは危険、目的地の山を目指せ。」

拡声魔法で叫びながら学生達の上を飛び回る。

“気弾““気弾““気弾“

生徒を襲っていた森狼を倒す。

「Aランクのキラだ。治療する。」

こんな時は高位ランク冒険者という肩書がものを言う。

“浄化”・“治癒“

地上に降りて怪我をしている学生を治療する。

「目的地の山が安全だ。火事の広がりが速いから急げ。」

再び空に舞い上がる。

煙で視界が遮られるので探知魔法が頼り。

学生らしい魔力を見つけたら拡声魔法を使って叫ぶ。

「山火事だ。戻るのは危険、目的地の山を目指せ。」

「山火事だ。戻るのは危険、目的地の山を目指せ。」

魔獣に襲われている学生を助け、怪我をしている者を治療しながら探知魔法で逃げ遅れている学生を探す。

最初に燃え上った森の近くに4人の女性が座り込んでいた。

全員の服が焦げてあちこちに穴が空き、顔にもかなり酷い火傷を負っている。

「治療します。」

「女性の顔は命です。出来るだけ傷が残らないようにお願いします。」

「出来る範囲で努力します。服が汚れますが地面に横になって下さい。」

丁寧に治療するには患者がなるべく動かない姿勢で無いと難しい。

結界を張って熱と煙を遮断する。

火傷の酷い学生から治療を始めた。

怪我をしている学生が横になると掌を頭から足先まで何度か往復させた。

”スキャン“

”浄化“

爛れた肌が服に癒着している所があって時間が掛かる。

肌に癒着している服を丁寧に剥がしてナイフで切り取る。

肌が見えないと丁寧な治療が出来ずに跡が残る。

良し。

”浄化“ ”治癒“

大きな火傷が何か所もある。

”スキャン“ ”浄化“ ”治癒“

”スキャン“ ”浄化“ ”治癒“

”スキャン“ ”浄化“ ”治癒“

火傷を1つ1つ丁寧に治療する。

「これで治っている筈です。もしも傷が残っていたら学院に戻ってから治療します。俺の着替えで申し訳ないですが、着れそうな物がこれしか無いので我慢して下さい。」

女性達の服がボロボロだったのでアイテムボックスから4人分の冒険者服を出した。

ゆったりとした服だし、俺の方が肩幅も広いから何とか着れるだろう。

「次はあなたの治療をしますので横になって下さい。」

次の生徒が横になると、すぐに治療に取り掛かる。

”スキャン“ ”浄化“ ”治癒“

全員に出来るだけ丁寧な治療を施す。

「一応全員の治療が終わりました。もしも傷が残っていたら学院に戻ってから治療します。今は一刻も早く此処から離れる事が大事なのでもう少し頑張って下さい。」

破れた服の上から俺の服を着た4人を励ます。

「俺の後ろに付いて来て下さい。」

俯瞰で燃えている方向や地形を確認しながら雷剣で邪魔な木を切り飛ばし、女性達が歩ける道を作って森の中を進む。

足取りは怪しいが女性達も何とかついて来てくれている。

獣道に着くと他の班が見えた。

「この女性達は大きな怪我をした直後なので弱っています、一緒に連れてキャンプ地に向かって逃げて下さい。」

「君はどうする。」

「まだ逃げ遅れている学生が居るかもしれません。探して誘導します。」

言いながら空に飛び上がった。

火事の縁沿いに飛びながら拡声魔法で“戻るのは危険、目的地の山を目指せ”と連呼する。

怪我のせいで身動きの取れなくなった班を見つけた。

やはり女性の班。

丁寧に治療して安全な所まで送り届ける。

女性の班4つと男性の班3つを安全な山道に送り届けるともう日が傾いて来た。

最終確認の為、高度を上げて全体を見るとかなりの範囲で森が燃えている。

今の所火事が収まる様子は全く無い。

朝出発した草原も完全に炎に包まれていた。

本部にいた職員や冒険者達が離れた街道の所に固まっているのが見える。

本部には治癒師がいるので大丈夫だろう。

今日の目的地だった山裾にある川辺のキャンプ地に向かった。

川辺には大勢の学生達が集まっていて、俺が降りると先生方や冒険者が駆け寄って来た。

「キラ、状況はどうだ。」

真っ先に声を掛けて来たのはジャムさん。

Cランクパーティー“神速の翼”のリーダーで盗賊討伐を一緒にした仲。

「ジャムさんも参加していたのですね。」

顔見知りが居るのは心強い。

「丁度商隊の出発まで時間があったから小遣い稼ぎのつもりで参加した。それよりも状況はどうなんだ?」

「見えた限りでは逃げ遅れた学生はいないと思います。本部のあった草原も火に飲み込まれましたが、関係者は少し離れた所に纏まっていたので全員無事だと思います。」

「そうか。ここでは学院の先生方が点呼を取っているが、今の所怪我人が20数名。用意してあったポーションを飲ませたので大丈夫だろう。テントや食糧を捨てて逃げた班が多いが、非常用の携帯食糧が十分にあるし、警備の人数も十分なので今夜は大丈夫だ。火事はどれくらい続きそうだ?」

「かなり広範囲で燃えているので、焼き尽くすまで3~4日は掛かるかと思います。」

「ここが燃える可能性は?」

「風向き次第ですが、今の所危険は有りません。時々偵察に出るつもりです。」

「キラ、怪我は無いか?」

アルトが駆け寄って来た。

「大丈夫、みんなはどうだ?」

「全員無傷だ。途中で会った学生も全員ここまで着けた。怪我人もいたがみんなで交代しながら担いで逃げて来た。」

「良かった。」

アルト達の無事が確認出来てホッとした。

「キラ、臨時本部に先生方が集まっている。状況を報告してくれ。」

「ジャムさんに頼んじゃダメ?」

「ダメに決まっている。キラでないと判らない事が多いからな。」

渋々キャンプ地の本部テントに向かった。

「ドラゴンスレイヤーが本校の学生と聞いて私は感激した。」

知らない先生が駆け寄って来て俺の手を両手で握っている。

いやいや、今はそんなことどうでも良いでしょ。

「ヤムチャ先生、今はこれからの対策ですぞ。」

責任者らしい先生が俺の手を握っている先生をたしなめた。

そうだそうだ。

「ここの責任者を務めるグローブだ。キラ殿のお陰で多くの学生が命を救われた。心より感謝する。」

先生が俺に頭を下げた。

「俺に出来る事をしただけ、気遣いは不要です。」

「状況はどうなんだ?」

ジャムさんに伝えた事をもう一度話した。

「火事が収まるまで数日間はここに留まった方が良いと言う事だな。」

「消す手段は無いと思うのでそうなりますね。」

「救援隊が来る見込みは?」

「この野営地から森の外に通じる道は全て火の海です。鎮火する迄は難しいでしょう。」

「キラの飛行魔法で本部に飛ぶ事は出来るか?」

「出来ます。」

「夜でも飛べるか?」

「夜行性の飛行魔獣が居なければ多分大丈夫です。火事で結構明るいですから。」

「ならばここの状況を伝えて、食糧援助を頼んでくれ。本部には魔法袋が幾つかある筈だからそれに入れればキラでも運べるだろう。」

「俺は只の学生ですから、先生方の名前で現状説明と食糧援助の書類を作って下さい。」

「そうだな。そこの君は現状説明の書類を作ってくれ、隣の君は援助要請の書類だ、急げよ。」

「殿下の事はどうします?」

書類を頼まれた先生がグローブ先生に聞く。

「しっかりと書け。目撃者も多いし既に多くの学生が知っている。今更隠す事は出来ぬ。」

殿下と言えば王族。そう言えば新入生代表は王女殿下だった。

王女殿下もこの演習に参加していたらしい。

テントの隅に腰を降ろし、魔法袋から水筒を出して水を飲む。

半日飛び回ったのでさすがに少し疲れた。

「大丈夫か?」

ジャムさんが気遣ってくれる。

「ちょっと疲れたかな。3年間運動不足だったから体力が落ちたみたい。でももうすぐ13歳だから頑張る。」

「もうすぐ13歳か。初めて会ったのはもうすぐ9歳だったからもう4年になるんだな。」

「その節は本当にお世話になりました。」

「俺達もキラのお陰でBランクに昇格出来た。世話になったのは俺達の方だ。」

「そこはお互い様という事で。」

「しかし、今回はキラが参加していて本当に良かった。ここからでは火事の広がり具合が全く判らなかったからな。」

「火事の様子を見ると。かなり強力な火魔法を使ったようでしたね。」

「馬鹿殿下だ。」

「馬鹿殿下?」

「冒険者の警告を無視してコース外に出た貴族科2年の第2王子の班が魔獣に襲われた。第2王子が中級の火魔法を撃ったのだが、パニックになっていたので制御できずに魔力暴走を引き起こした。」

王女殿下では無く王子殿下だった。

「はあぁ?」

森の中で中級火魔法? 

王子殿下ってバカなの?

あまりのバカさ加減に呆れているとグローブ先生が来た。

「本部と連絡できるのは君だけだ。これからも働いてもらわねばならぬが宜しく頼む。」

「出来るだけの事はしますので遠慮せずに言って下さい。」

「すまんな。これが報告書と食糧援助の要請書だ。夜の飛行は危険だが一刻を争う事態なので何とか届けて欲しい。」

「承知しました。」

「くれぐれも無理はするなよ。」

「はい。」

出来上がった書類を持って森の外へと飛んだ。



「Aランク冒険者のキラです。キャンプ地から来ました。」

拡声魔法で声を掛けてから大勢が集まっている所に着地した。

夜中なので魔獣と間違えられて攻撃されてはたまらない。

「ご苦労様です。って、キラはAランクだったのか?」

出迎えたのは俺の担任マッスル先生。

「それは後程。キャンプから緊急の連絡です。」

書類を渡した。

マッスル先生が責任者らしいおっさんに書類を渡すと大騒ぎになった。

近くの街や王都に向かうのか、何頭もの馬が夜の街道に向かう。

夜に馬を走らせるのは凄く危険なので大丈夫かと心配になる。

「夜目が効く者達だから大丈夫だ。それよりも何でAランクを隠していた?」

「聞かれなかったから言わなかっただけ、冒険者とは言いましたよ。」

「・・しかし試験の時も魔法を使っていなかったでは無いか。」

「属性の攻撃魔法は全く使えませんから。」

「本当に使えないのか?」

「本当です。全く使えません。」

「飛行魔法が使えるのに?」

「飛行魔法は属性の攻撃魔法ではありませんから。」

「筆記試験も手を抜いていただろう?」

これは拙い。不正行為と言えば不正行為だ。

「・・・1組は貴族子弟が多いので・・。」

「・・そう言えばキラ閣下は貴族嫌いで有名だったな。」

俺が将軍だった事に気付いたらしい。

「そうなんですか? 別に貴族を嫌っている訳では無い・・、事も無い?」

「それに、貴族達の反感を買って将軍を辞めさせられたのだろ?」

「まあ、・・そう言う事になりますかね。俺的にはもっと早く首になりたかったのですが。」

「おい冒険者、ちょっといいか?」

偉そうな物言いのおっさんに呼ばれた。

「あの書類に書かれていたことは事実か?」

「俺は書類を見ていませんので内容については判りません。」

「王子殿下の火魔法が火事の原因という事だ。」

「俺が気付いた時にはもう火が広がっていました。原因については見ていません。」

「・・そうか。」

おっさんが肩を落とした。

「キラ。」

マッスル先生から声が掛かった。

「はい。」

「食糧を用意するには時間が掛かる。届けるのは明朝という事になった。キラは働き過ぎだ、とりあえず今日は寝ろ。」

マッスル先生に案内されたテントで寝た。



疲れていたようでぐっすり眠ってしまった。

目を覚ましてテントを出るともう日が昇っていた。

マッスル先生がすぐに来た。

「これを運んで貰いたいが、持てるか?」

リュック型の大きな魔法袋3つ。

魔法袋ごとアイテムボックスに入るが、今ここでアイテムボックスを使うのは拙い。

魔法袋ならさほど重くない筈。

持ち上げて見たら軽かった。

そう言えば魔法袋は中身の重量が無い物となる。

アイテムボックスばかり使っていたのですっかり忘れていた。

「大丈夫です。」

「とりあえず今日の分は有る筈だ。昼過ぎには追加が届くのでこの魔法袋を持ってもう一度取りに来てくれ。」

「判りました。」

およそ1000人分の食糧だから集めるのも大変だよな。

魔法袋を抱えて山の麓へと飛んだ。

「どうなった?」

キャンプに着くと同時にジャムさんが駆け寄って来た。

「追加の食糧は昼過ぎに取りに行きます。これは今日の分だそうです。」

魔法袋を渡す。

「助かる。おい食糧が来た、みんなに配ってやれ。」

ジャムさんは冒険者の纏め役だそうで、てきぱきと指示を出して食糧を分配させている。

昼過ぎに本部に飛んだら、またあの高そうな服を着たおっさんが来た。

「冒険者、キャンプに戻ったら火事についてもっと詳しい報告書を送るように伝えておけ。」

「失礼ですが、あなたのお名前を教えて頂けますか。」

「第2王子殿下の執事を拝命しているヒードイ子爵だ。」

「承知しました。」



「ヒードイ子爵か。拙いな。」

キャンプに戻って報告書の話をすると、グローブ先生が顔を顰めた。

「拙いのですか?」

「子爵は第2王子殿下の後ろ盾であるミット侯爵の腰巾着だ。侯爵の威光を笠にして今までも王子殿下の乱行をことごとく揉み消して来た。今回も揉み消そうとするだろうな。」

グローブ先生の言葉を聞いてふと思いついた。

「王宮に直接報告するのはどうですか?」

「出来るのか?」

「王宮に入る許可証を持っていますから入れます。俺なら陛下か宰相に会えると思います。」

「しかし今日はまた食料の運搬をして貰わねばならぬ。」

「すぐに出れば王宮に行って陛下に会っても昼過ぎには本部で食糧を受け取れます。」

「至急詳細を書いた書類を用意する。ヒードイ子爵には書類作成が遅れていると言えばいい。」

「判りました。」



詳細を書いた書類を持って王宮に飛んだ。

禁書庫に行って受付の役人に閲覧証を示す。

「陛下か宰相にキラが急用で来ていると伝えて欲しい。」

「急用と・・」

「王家の一大事と言ってもいい。」

役人の言葉を遮って言葉を重ねる。

「判りました。ここでお待ち下さい。」

受付の役人が小走りで去った。

10分ほどで役人がもう一人別の役人を連れて戻って来た。

「ご案内いたします。」

一緒に来た役人に連れられて将軍の時に使っていた面会室に入った。

面会室には陛下と宰相が待っていた。

「急用とは火事の事だな。」

南の森で起こった大火事は陛下の耳にも届いていた。

「これをご覧下さい。」

グローブ先生が書いた書類を宰相に渡す。

宰相が素早く目を通して陛下に渡した。

「馬鹿が。」

書類を読みながら、吐き捨てるように陛下が呟く。

「鎮火するまでは救援隊も行けぬとは聞いていた。キラ殿が居なければ多くの命が失われていたとの報告は届いている。飛行魔法が無ければ食糧にも困ったであろう。この度の働き宰相として礼を言う。今少しキラ殿には苦労を掛けるが宜しく頼むぞ。」

「出来る限りの事はします。」

「ここに来たことは当分の間内密にしておけ、良いな。」

「はい。」

陛下は苦虫をかみつぶしたような酷い顔をしたままだった。

王宮を出て本部へと飛んだ。

本部に着くなりヒードイ子爵が走り寄って来たが、書類は明日になると伝える。

食糧を入れた魔法袋を抱えて本部を飛び立ち、キャンプ地に戻った。



ジャムさんに食料の入った魔法袋を渡す。

「ご苦労様。」

「どうであった?」

グローブ先生が声を潜めて話しかけて来た。

「陛下と宰相に書類を渡しました。陛下達と会った事は当分秘密にしておけとの事です。」

俺が小声で答えると、グローブ先生はホッとしたようだった。

翌日も本部に食糧を受け取りに行き、その際グローブ先生から預かった書類をヒードイ子爵に渡した。

内容は陛下に渡した書類と全く同じ。ただ、皇子殿下の班員以外は名前を伏せてあるらしい。

4日目になって火事は漸く下火になって来た。

王国第3師団と魔導師隊が火勢の弱い所を選んで道を作る為の消火活動を始め、5日目の昼過ぎに救援隊がキャンプに到着した。

怪我はポーションや俺の治癒で治したが、大火事のショックと碌な装備の無い中、石だらけの河原で4日間野宿した精神的ダメージで学生達は疲れ果てていた。

体調を崩した者も多く、歩くのが困難な者は担架に乗せられて下山した。

俺は上空から魔獣やまだくすぶっている火事の監視。

全員が下山したのは翌日の夜遅くになってから、漸く俺の仕事が終わった。


何とか隔日投稿を継続出来ました。

これも継続して読んで下さっている皆様のお陰です。

明後日の投稿を目指して頑張りますので、これからも見捨てずに読んでやって下さい。

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