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15 目黒のサンマ

今日から寮生活。

必要な物はアイテムボックスに入れているのでダミー用のリュック一つを持って合格発表で指示された魔法科第3男子寮に向かった。

第3男子寮は石造り3階建ての大きな建物。

魔法使いが多い王都では大きな建物は土魔法を使って建てるので石造りが多い。

「新入生のキラです。」

入り口を入った所にある管理人室の窓口に声を掛けた。

「はい、キラ君ね。キラ君は~・・305号室、3階の左奥よ。これが鍵だから無くさないようにしてね。食堂はこの廊下の先、朝と晩だけよ。湯場はそっちの端、お湯の追加は1時間毎に3回でお湯が無くなったらお終いだから早めに行った方が良いわよ。」

管理人のおばちゃんの説明を聞き、鍵を受け取って3階に上がった。

305と書いてあるプレートが掛かった部屋に入ると3畳ほどの部屋。

思っていたよりも広くて綺麗。

大きめのベッドと机があり、机の横に棚が付いている。

ベッドの下にある箱が衣服などの収納らしい。

王立学院の寮は全て個室なので会話が苦手な俺にとっては有り難い。

寮の1階にある食堂は朝と晩だけの営業で、昼は学院の食堂で食べる。

別棟になっている貴族用の特別食堂以外は全て無料でお替りあり。

制服も無料だし、破れたりサイズが合わなくなったら無料で交換してくれる。

もっとも受験料がめちゃめちゃ高いし、授業料も入学時に一括払いなので領主や教会の奨学金を受けられるほど優秀でないと貧乏な貴族や平民には相当大きな負担らしい。

王立学院は大陸1の教育機関なので、入学試験に合格したと言うだけで大変な名誉。

卒業出来れば平民出身者でも貴族や大商人から結婚や養子の話が山ほど来る。

経済的に苦しい家でも、入学試験に合格すれば家門の名誉として親戚一同が学資支援をしてくれるらしい。

だからこそ利権も多く、貴族の利権争いが学院の乱れる原因となった。

今はほぼ本来の姿に戻ったので、学生達は親や親戚だけでなく地域の期待も背負って入学するので、1部の腐れ貴族の子弟以外は必死になって勉強している。

誰にも期待されず、自分の好きな事をする為に入学した俺はちょっと異質なのだろう。

ちなみに俺の学費は自分で払った。

陛下が払うと言ったが断った。

王家や貴族には出来るだけ係わらない方が良い、借りを作るなど以ての外。

それでなくても無理難題ばかり押し付けられていたのだから、借りなんて作ったら何を頼まれるか判ったものでは無い。

幸か不幸か、将軍になってからは買い物をする暇も無い程忙しかったので俸給が丸々残っていたので余裕で支払えた。



夕食を摂りに寮の学生食堂に行った。

結構な広さの食堂で、10人掛けの長テーブルがずらりと並んでいる。

学院には視察で何度も来たが、学院の敷地自体がとてつもなく広いし、建物も多いので寮も学生食堂も中に入るのは初めて。

入り口にメニューが張ってあった。

メニューと言っても、2種類の日替わり定食の内容が書いてあるだけ。

今日の日替わり定食は野菜と肉の煮込みにキノコのパスタ。

それぞれのメニューの前にある色の付いた木札をそれぞれの色の看板があるカウンターに出せば料理を渡してくれる。

貴族の子弟でもセルフサービスなのかと驚いたが、高位貴族は別料金の特別食堂があるのでここで食べるのは貧乏な貴族の次男坊、3男坊なのだろう。

前世の様に写真があるわけでは無いので、どんなものが出て来るのかちょっと不安。

野菜と肉の煮込みの赤い札を持って赤い看板のカウンターに出したら、深めの木の皿に入った料理を渡してくれた。

「そこのお盆に乗せて、あっちのテーブルにあるパンとスープを好きなだけ取りなさい。スプーンやフォークも忘れないようにね。」

料理の皿を持ったままキョロキョロしていたら食堂のおばちゃんが教えてくれた。

パンと日替わりスープは自由に取るらしい。

「ありがとう。」

カウンター横のお盆に料理の皿を乗せてパンとスープを取りに行く。

まだ寮に戻っていない生徒が多いのか、テーブルは結構空いていた。

目立たない様に奥の隅に座って定食を食べる。

野菜も肉も大きいし良く煮込んであって肉も味がしっかり染みていて柔らかい。

スープにも肉が入っているし、パンも柔らかくてストンでお世話になった宿よりも格段に美味しかった。

学生の殆どが貴族の子弟なので美味しいのは当然かもしれないが、貴族の感覚を基準にした料理や設備という事を考えると入学金が高かった理由にも納得がいく。

俺としては毎日この料理が無料で食べ放題は嬉しかった。

前世で身に付いた貧乏性のせいか、無料とか半額という言葉に弱い。



食事を終えたので汗を流す事にした。

高位貴族寮と違って風呂は無いが、代わりに湯場があるとおばちゃんに教えて貰った。

行ってみると、湯の入った大きな壺が2つと水が入った壺が3つ、沢山の手桶が広い洗い場に並んでいる。

おばちゃんによると1時間ごとに3回だけお湯を追加してくれるらしい。

数人の学生が手桶で湯を汲んで体を洗っていた。

知らない人達の前で裸になるのは初めて。

ちょっと恥ずかしいが、この世界には隠す習慣が無いらしく、皆が堂々と丸出しで湯場を歩いている。

同年代のを見るのは始めてなので、つい見比べてしまう。

この世界は基本的に皆体格が良い。

当然、・・・。

これ以上はダメ。俺はまだ12歳、R18はまだ早い。

心の中で誰にともなく言い訳しながら、俺も真似して体を洗った。

浄化で綺麗に出来るが、やっぱりお湯で洗うと気持ちが良い。

ストンの宿には風呂が無かったので汚れたら井戸の水か、銅貨1枚を払って手桶1杯のお湯を貰って部屋で体を拭くしか無かった。

公特の隊舎には風呂があった筈だが忙しくて行く暇がなかったからちょっと嬉しい。

ちょっと贅沢だけど、いつかはストンに家を買って風呂を作ろうと思った。

お嫁さんと一緒に入れたら良いな、グヒヒ。

まあ夢の話だけど、夢は大きい方が良い。



今日は入学式。

在校生代表は学生会長のステファン第一王子殿下。

新入生代表は首席のダクスール第三王女殿下。

流石は王立学院という豪華なメンバー。

来賓席には陛下の顔も見える。

俺は新入生の中程で少し俯き加減に座っている。

来賓席には何度も会った学院の理事達や見た事の有る高位貴族が大勢いる。

目立つのはダメ、絶対。

俺は普通の学生生活を送るのだ。

俯きながら隠蔽魔法が使えない事を残念に感じていた。

学院にいる間にもっと色々な魔法を覚えよう。

そう、俺はもう12歳。

12歳に相応しい実力を付けなければいけない。

将軍をしていた3年間、時間が取れなくて思うような訓練が出来なかった。

これから5年間は宿も食事もある。

学院や禁書庫で知識を身に着け、冒険者活動しながら訓練する。

卒業したらストンに帰って薬屋を作る資金を貯める。

30歳位で優しい人と結婚して薬屋を開き、ポーションを作りながらのんびり暮らす。

うん、人生設計が出来た。

・・・結婚出来るかな。

前世では結婚出来なかったし、ソロの冒険者は殆どが独身なのでちょっと不安。

いや、だいぶ怪しい?

余計な事を考えてはダメ。

夢は大きい程良い、希望を捨てなければいつか叶うと自分に言い聞かせた。



なるべく背の高い生徒の後ろに隠れて講堂を出ると、2組の教室に急いだ。

講堂の近くに居ると顔見知りに出会いかねない。

目立つのはダメ、絶対。

俺の入試成績は魔法科の61位、良くもなく悪くもないベスト順位。

首席から40位迄が1組、41位から80位迄が2組、81位から120位迄が3組なので俺は真ん中の2組。

王立学院は貴族科、騎士科、官吏科、魔法科の4科。

各科の定員は120人なので学年で480人。

全校で2400人の定員だが、成績不良で進級出来なければ退学なのでそれよりも少ない。

特に今の4年生5年生は成績不良で退学した学生が多いので相当少ないらしい。

まあ入学したのが貴族子弟達がやりたい放題していた時期、不正入学した学生が多かった上に入学後もまともに勉強していなかったなら仕方が無い。

不良学生が定期試験の公正化で弾き出されたのは自業自得。

俺のせいじゃない、と思っておこう。



教室に入ると入った所の壁に座席表が張ってあった。

俺の席は教室の丁度真ん中あたりの窓から2つ目。

教室の後ろには広いスペースがあって護衛らしいおっさんが2人いた。

王族・公爵家は2人、侯爵家・伯爵家は一人の護衛が校内に入る事を認められている。

以前は王族4人、公爵家・侯爵家が3人、伯爵家2人、子爵家1人の護衛が認められていたが、多すぎるから俺の権限で減員させた。

俺が初めて学院を視察した時、貴族科1組には護衛が80人位いて教室に入りきらなくて廊下迄溢れて通行の妨げになっていたし、貴族が威張る原因にもなっていた。

減員したせいで教室後方のスペースには余裕がある。

初対面の学生が多いのか、キョロキョロと周りを見渡す学生が目立つ。

俺は目立たない様に席に着き、俯き加減に座ったままじっと教員を待った。



暫くするとがっしりとした体格のおっさんが入って来た。

「俺が2組の担任マッスルだ。風属性の魔法使いで魔法Ⅰの授業を担当する。今日は初日なので、席次順に自己紹介をしろ。」

筋肉達磨が魔法使い? 

嘘だろ。

どう見ても盾役だし名前もマッスルって筋肉そのものじゃん。

一番後ろの学生が立ち上がる。

「魔法の名門マジック伯爵家の嫡男イエローだ。魔法科首席を狙っていたが惜しくも2組になった。父上が激怒して小遣いを半分に減らしたので当分は貧乏生活をする。宜しく。」

あちこちでプッと吹き出している。

「魔道具でおなじみストロー商会の次女ウラルです。正門前に王立学院支店がありますのでどうぞ御贔屓に。」

「ティーサロンアマンドを経営しているアマンド商会の長女カナリーです。休日のデートには是非アマンドをご利用ください。」

これって自己紹介? 

お店の宣伝合戦のような気もするけど。

次々と自己紹介が続く。

「孤児院出身のアルトだ。休日は冒険者をしている。」

冒険者仲間がいた。

魔法科は官吏科に次いで平民が多いと聞いていたが、2組は特に多いようだ。

俺の番が回って来た。

「ストンという田舎町出身のキラです。薬草採りが専門の冒険者です。」

アルトが俺を見ていたが、他は殆ど反応が無かった。

よし、目立ってない。

少し安心した。

「よし、今日はこれで終わりだ。合格発表で配った授業の選択について判らない所が有る者は残れ。解散。」

授業が始まると忙しくなるので今日のように暇な時間は貴重。

走って王宮に行き禁書庫に籠った。



今日から授業開始。

1時間目は錬金学Ⅰ。

大半の1年生は必修科目である国語Ⅰか国語Ⅱの授業を受けているが、ⅠとⅡが飛び級になった者は3年生以上の選択科目や研究科目を受けられる。

新しい素材造りの研究という科目説明に魅かれて錬金学を選んだ。

錬金学は研究科目なので2時間連続。

「錬金Ⅰの授業では二つ以上の素材を混ぜて性質の違う素材を作る作業を行う。混ぜる際には高温で素材を溶かす場合が多く危険も伴うのでくれぐれも注意を怠らないように。」

お祖母さんの錬金場にも錬金釜があったが、すぐに家を出たので使った事が無い。

教授が説明しながら金属を融かして合金を作るが、この世界には温度計が無い。

素材によって融ける温度が違うので全部の素材がきちんと融けているかは魔力反応で確認するか、職人的な勘。

融点の低い金属が先に融け、融点が高い金属は溶けた金属の中に沈んで外からでは確認出来ないので、沈んだ融点の高い金属がきちんと融けているかを確認するのは難しい。

熱し過ぎると冷ました時、製品にひびが入ったり品質が低下するらしい。

色々な素材を使ってきちんと融けているかどうかを確認出来るようになるのが錬金学Ⅰの目標。

固体が液体になると魔力反応が変わるので魔力の見える俺にとっては問題無い。

良い素材が出来れば、小剣を作った時の魔力成形で武器や防具が作れそうな気がした。

禁書庫では錬金関係や魔道具関係の本も読む許可を貰っているので合金についても調べてみようと思った。

周りは上級生ばかりなので皆背が高くて錬金釜を覗き込み難いけど、離れた所から微妙な魔力反応の変化を見極めるのも魔力操作の訓練になりそうだ。



2限連続の錬金学Ⅰが終わると昼休み。

「食堂だろ? 一緒していいか?」

アルトが声を掛けて来た。

午後は俺と同じ剣術の授業だからなのだろう。

「うん。」

「パーティーを組んでるのか?」

「ソロ。護衛依頼で臨時のパーティーを組んだ事はある。」

「薬草の採取だと魔獣に不意を衝かれやすいから注意しろよ。」

「うん。」

「俺は孤児院の仲間達とパーティーを組んでいるんだ。もう少しでDランクパーティーになれるから恰好良いパーティー名を募集中、何か良いのは無いか?」

そう言えばDランクからはパーティー名を付けられるって聞いた事がある。

でもこの世界に来てから聞いたパーティー名って厨二病っぽいのばかり、とてもじゃ無いが俺にパーティー名が思い浮かぶ筈は無い。

「何人のパーティー?」

「魔法使いで弓の俺と、剣士、槍士、盾役、斥候の5人」

「バランス良いね。」

「そうだろ。この間は森猪を倒したんだぞ。もっとも平日は俺がいないから安全な草原で薬草採りだけどな。」

「アルトの属性は?」

「風。得意は探知魔法と風刃。弓もそこそこの腕だぞ。」

「冒険者に最適だね。」

「そうだろ。火魔法が最強とかいう奴が居るけど、森でも草原でも火事を起こしたら洒落にならないからな。」

「でも俺の火魔法は凄いぞ。」

「火魔法が得意なのか?」

「得意では無いけど入学試験で枯葉に火を付けた。」

「何じゃそれ。ひょっとして魔法の試験で30点はキラか?」

合格発表では各科目の点数も掲示されていた。

魔法の試験で30点は魔法科では断トツの最下位。

「コップに水も出したけど30点だった。」

「確かに2属性の生活魔法だと30点だな。」

「おう。」

「生活魔法しか使えないのに、何で魔法科なんだ?」

「錬金と魔道具。」

「成程ね。」

アルトは素直に納得してくれた。



午後はアルトと一緒の剣術。

魔法科は杖術を選ぶ学生が多いが、杖を使う予定の無い俺としては近接戦用の剣術一択。

槍の間合いなら魔法を撃てる。即時発動出来るのが無詠唱魔法の強み。

剣術を選んだのは素の筋力が弱すぎると騎士団長との訓練で思い知らされたから。

素の筋力を付けるために身体強化を封印して全力で剣を振る。

体が小さいので小剣だけど。

身体強化を瞬時に掛けたり外したりして身体強化の練度上げもやっている。

いつか騎士団長とまともに打ち合えるようになりたい。

そんな思いで一生懸命剣を振った。

アルトも隣で剣を振っているが、どう見ても初心者。

学院には弓術の授業が無いので剣術にしたらしい。

素振りが終わったら指導教官の助手達と模擬戦。

指導教官が見回りながらアドバイスをくれる。

助手達は大人なので素の力が強い。

筋力を付けるための練習相手としては丁度良かった。

午後の授業が終わると学院を飛び出して王宮へ。

走れば30分程の距離なので運動がてらに走って通う事にした。

閉館時間まで2時間程本を読んで学院に戻る。

急いで戻らないと夕食を食べ損なうので寄り道は出来ない。



2日目の1時間目は必修科目の礼儀作法。

魔法使いに礼儀作法が要るの?

将軍にされた時に無理やり習わされたおかげで何とかなるけど苦手。

貴族の礼は薬師とも冒険者とも違うし、爵位や場所によっても違う。

話すのも爵位が上の者からとか、入場順や並び方に退出順、めんどくさい事この上ない。

エスコートの作法に食事の作法、全部覚えるのは無理。

というか覚える気にもなれない。

好きな事なら頑張れるが、興味の無い事だと集中力が持たない。

良くこんなつまらない事を覚えられると妙な所で貴族の凄さを実感したが、貴族になる気はますます無くなった。

俺は薬屋になってのんびりこっそり生きる、人生の目標がますますはっきりした。



2時間目は魔法Ⅰ。

担任になったマッスル先生の授業。

魔法科の必修科目で週に2回授業がある。

「魔法Ⅰの授業では魔法の基礎理論と魔力循環の高速化を学ぶ。諸君の殆どは神の加護を戴いた瞬間に呪文が唱えられるようになり、魔法を発動出来るようになった筈だ。」

魔法使いのお姉さんに魔法は上から降りて来たって聞いた事がある。

「この授業では何故魔法が発動するのか、何故呪文を唱える事が必要なのか、何故何度も発動する事で威力が上がるかなど魔法の基礎的な理論を学ぶ。」

ふむふむ。筋肉達磨でも理論的な考えが出来るらしい。

大きな熊が人間の言葉を話しているようで違和感満載だけど。

「属性魔法を使えない者も魔法理論を学ぶ事で生活魔法の練度を上げる事が出来るからしっかり学んで欲しい。」

属性魔法の使えない俺にも役立つ授業らしいからしっかり勉強しようと思った。

1時間掛かって説明したのは丹田に魔力器官がありそこから体内に魔力が流れている事。

魔力が流れる速度を上げると魔法の発動速度と威力が上がる事。

そして使えば使う程魔法の練度が上がって、より早く、より強力な魔法となる、って基礎過ぎるだろ。

俺は0歳からやって来たぞ。

筋肉達磨の脳みそに期待した俺がバカだった。

呆れ果てて周囲を眺めると、みんな真剣にノートを取っている。

ひょっとしてみんなは知らなかった?

ファンタジー小説の常識だよ。

あれ、この世界にはファンタジー小説が無い?

「それでは各自腹に手を置いて、丹田にある魔力を感じてみよう。」

皆が一斉に下腹に手を当てて精神を集中している。

力を入れるとお漏らしするから注意してね。

って、みんなは0歳児じゃないからお漏らしはしないか。

要するに魔法Ⅰの授業は俺が0歳児の時にやっていた訓練法だった。



アルトと一緒に食堂へ行こうとしたら、同じクラスのイエローとジュリアも付いて来た。

「お貴族様が孤児院出身の俺と一緒で良いのか?」

「学院では平等だ。貴族だからと言って差別するな。」

イエローが胸を張る。

貴族は嫌いだが、貴族の中にも平民を差別しない人間がいるのだと感心した。

「要するに小遣いが無いから貴族用の食堂に行けないだけだ。」

ジュリアがイエローの事情をばらした。

そう言えば2組になったから小遣いを減らされたと言っていた。

俺の“感心“を返せ。

「まあ平民の話を聞くのも勉強だからな。」

「はいはい。」

イエローとジュリアは仲が良いらしい。

大食堂には2種類の日替わり定食がある。

食の細い女の子はパスタかサンドイッチの単品メニューも選べるが、殆どの生徒は日替わり定食。

今日の定食メニューは焼肉定食とパスタ定食。

迷った末にパスタ定食にした。

肉とキノコが入ったニンニク風味のパスタにスープとパンが付いている。

他の3人は焼肉定食。

謎肉の薄切りを焼いた物に謎野菜の炒め物が添えてある。

スープとパンはパスタ定食と同じ。

特務部隊の料理よりは落ちるがそこそこ美味しいしボリュームがある。

特務部隊の料理長は王宮料理長の直弟子なのでそこは比べる方が失礼だろう。

「美味いな。」

イエローが本当に美味しそうに言う。

「貴族ならもっと旨いものを食べているんじゃないのか?」

アルトが驚いている。

「家の食事は殆ど冷めているから暖かいだけで美味しく感じるんだ。」

「冷めてる?」

「イエローはマジック家の嫡男だから毒見あるんだよ。毒見役が食べて10分程様子を見てからしか食べられない。」

ジュリアが教えてくれた。

目黒のサンマか!

伯爵家は前世なら城持ち大名。

高位貴族もそれなりに苦労があるらしい。

「ジュリアの所もそうなのか?」

「うちは貧乏子爵家だから毒見役はいないな。」

「貧乏なのか?」

「家臣も100人程度しかいないからな。」

家臣が100人で貧乏なの?

お貴族様は俺が思っていたよりもお貴族様だった。



午後は王国地理Ⅰ

交通機関の発達していないこの世界では自分の生まれた土地から離れる事はめったにない。

生れた土地以外に行くのは王都に行く貴族、街を回る商人、商人を護衛する冒険者、街を回って物語を唄う吟遊詩人くらい。

詳細な地図は軍事機密なので国や軍の中枢にいる極1部の人しか見られない。

大雑把な地図でも非常に高価で普通の人が見る事は無いらしい。

将来この国の中枢を担う事になる学生を育てている王立学院なので地理Ⅰの授業では王国内の領地や都市についての位置や概略を学ぶ。

禁書庫には詳細な地図も有る筈だが、俺が閲覧できるのは魔法関連の書物だけなので見た事は無い。

もっともおおまかな位置については学院図書館の本に書いてあったので知っている。

人の名前を覚えるのは苦手だが、地名なら覚えられる。

地理は何とかなりそうな科目だった。


継続して読んで下さってありがとうございます。

段々と時間に追われるようになって来ましたが、もう少し隔日投稿出来るよう頑張ります。

引き続き宜しくお願い致します。

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