14 プライドって美味しいの?
学院の方はだいぶ落ち着いて来た。
何人かの貴族子弟が平民に暴言を吐いて停学になったり、頭に乗った平民が貴族子弟に暴言を吐いて停学になると言うようなことはあったらしいが大した問題では無い。
警備員達が貴族の子弟であっても遠慮なく捕縛するようになったので、無茶な事をする貴族子弟は少なくなっている。
問題なのは各殿、前世の中央省庁。
能無し係長達が仲間を集め、何とか試験を止めさせようと未だにあちこちの貴族に頼みまわっているらしい。
貴族に何かを頼むには金が要る。
当然のように金蔓となっている商人を呼び寄せる。
大抵が汚職絡みなので汚職官吏と贈賄商人をあぶりだせるのは有り難いが、あまりにも数が多くてせっかく増員したのに特務部隊がブラック企業化していた。
このままでは公特隊員が倒れかねない。
役所関係は宰相に丸投げすることにした。
「という訳で、特務部隊では手が回らないのです。」
「それ程にも役人達は腐っておったか。」
他人事の様に言うな。
役人を任命したのは陛下だし、昇格候補者名簿を承認したのは宰相だぞ。
過去の辞令を調べたから間違いない。
宰相や陛下が相手だと話しているだけで腹が立って来る。
「ともかく部下達は休む間がありません。このままでは倒れる者が出ます。」
「判った、そう怒るな。役人の件は監察殿に調べさせよう。」
「お願いします。」
「ついでなのでキラに頼みがある。」
何となく嫌な予感。
宰相や陛下の頼みはいつも碌でも無いものばかりだった。
「一応伺います。」
「軍部の不正を正して貰いたい。」
「い~やっ!」
「即答で断るな。軍部でも家柄だけの貴族が幅を利かせて能力有る平民が辛酸をなめているようだ。物品の調達や給与の支払いでも不正が行われているようなのだが証拠が掴めない。キラなら良い知恵が出せる筈だ。」
学校に役人に軍部?
王宮以外の全部じゃん。
知らんがな。
10歳の子供に頼るなボケェ。
宰相と話をしているとどんどん腹が立って来る。
「俺は10歳の子供。政治は大人の仕事。少しは自分達で解決して下さい。」
宰相を睨みつけて部屋を出た。
俺が睨んだのに宰相がクスッと笑ったのは何故だ。
特務隊に戻ってアウトマンに報告したら、喜んでくれた。
ただ、最後に宰相がクスッと笑ったと言ったら、“閣下が睨んだので思わず笑ってしまったのでしょう”と言われた。
ぐぬぬ。
ともかく役所関係の調査を宰相に押し付けたので隊員達からめっちゃ喜ばれた。
ブラックはダメ、絶対。
建設を急いでいた新隊舎が完成した。
大きな体育館程ある石造り2階建ての立派な建物。
2階は仮眠室付きの広い作業室と俺や幹部の執務室と私室。
1階には隊員達の執務室と私室に食堂。
食堂には専属の料理人が常駐して、いつでも食事が出来る。
隊員達も私室が貰えて嬉しそうだった。
福利厚生は大事。
王立学院では学年末試験が始まり、ピリピリとした雰囲気になっている。
試験が正常化してから急に成績の下がった卒業生は王立学院の持つ官吏登用試験における100人の推薦合格枠から外すと通告しているから生徒達も必死。
卒業成績は5年間の合計点数で決まるが、今年度に限っては4年時と5年時2年間の成績が重視される。
4年時に成績が大きく下がった生徒は最終学年である5年時にも4年時同様の成績であれば不正に関与していたとみなされ100位以内であっても推薦枠に入れない。
王立学院生なら一般枠で官吏登用試験を受けても合格出来る筈なので試験自体は問題無い。
ただ本人もしくは関係者が不正行為に関与していたという評価をされるので名誉を重んじる貴族社会では肩身が狭くなるだろう。
結果として3年時までの成績で100位以内だった者のうち4年時、5年時の成績合計が100位以内だったのは42名、3年時までの成績が400位以下だった生徒で4年時、5年時の成績合計で100位以内に入った生徒が27名もいた。
学年末試験が終わると官吏登用試験。
試験問題は特務部隊で作成する事になっている。
殿出身の特務部隊員は全員が官吏登用試験を受けた事があるので、比較的若い14人に問題作成を依頼した。
2階の作業室を試験問題作成スペースとして他の隊員からも隔離、作成員に接触できるのは責任者である副官のアウトマンと俺のみ。
食事についても、食事を乗せたワゴンを隔離スペースの入り口に置いて合図の鐘を鳴らす。食事を運んだ特務隊員はすぐにその場を離れ、誰もいない事を確認した問題作成員が受け取るという形を徹底した。
仲間を疑っているのではなく、接触できる可能性があると隊員の縁者が拉致されて脅されるといった問題が起こる可能性があったから。
問題作成中は特務隊員であっても試験問題を作成している隊員には接触できないと外部に知らせる事での安全確保。
貴族相手だと油断はダメ、絶対。
能力は低くても悪知恵だけは超一流なので侮ってはならない。
問題漏洩を無くし、採点の監視員を特務隊員にしただけで平民の合格者が2.5倍になった。
いよいよ2回目の入学試験の準備。
なんと俺は11歳になった。
好きな魔法の研究や体を鍛える訓練も出来ない状態でイライラが溜まっているが一生懸命頑張っている公特の隊員達を見ると弱音は吐けなかった。
過労死した前世の反省が無い?
大丈夫、今世では死ぬ前に逃げる。
俺は経験から学べる11歳だ、と思う。たぶん。
前回は学院には伝えずに極秘で試験問題を作ったが、今回は特務部隊が中心となって試験問題を作ると学院に伝えた。
今迄不正に関与していなかった教授11人を同時に呼び出して問題作成を依頼、研究に専念したいという3人を除いた8人が問題作成に当たる事となった。
引き受けてくれた教授は特務部隊員が付き添って必要な書籍等を研究室に取りに行き、そのまま特務部隊司令部に拉致、いや招待して試験当日まで監禁、じゃない宿泊して貰った。
問題が完成したら学院に手配させたコピー要員も特務部隊司令部に招待して、問題のコピー後も試験当日まで宿泊して貰って外部との接触を絶った。
2回目なので学院側も新しいやり方に慣れて来た、というよりも不正行為を行おうという職員が減って来た。
実技試験においてはまだ多少の問題は残っていたが、おおむね公正が確保された。
結果としては平民の合格者は昨年同様の3分の1。
平民の受験者は増えたが、昨年は高位貴族の子弟が多数不合格となったので受験生の親達が家庭教師を付けて猛勉強させたらしい。
昨年不合格だった高位貴族の子弟も半数が合格した。
学院の入学試験が終わると今度は年明けに実施される係長級の試験。
今や試験作成部隊と化した特務部隊なので皆が手慣れて来た。
入殿5年以上の希望者と係長級全員が対象者。
受験者は係長級2060名を含む4615名。
係長級の受験者は得点が基準点以下の場合には平官吏に降格となり、成績の良かった平官吏はこの先3年間、係長のポストが空くごとに成績順で昇格出来る。
王宮から呼び出しがあった。
いつもの部屋に行くと、いつものメンバー。
奥には陛下が座っていた。
「基準点を告知した所、合格者平均点の5割というのは実務に追われている官吏にとっての負担が大きすぎると各殿から具申があった。」
宰相の言葉に唖然とした。
俺が宰相と相談して提案した基準点は過去5年の官吏登用試験の合格者平均点の5割、平均が300点満点で282点なので141点が基準点。
いくら仕事に追われていても、試験までには十分に勉強する時間が有った。
ちょこっと過去問を調べる程度でも合格者平均点の5割は楽な筈。
「確かに頭が固くなったおっさん係長だと厳しいな。」
脳筋の騎士団長は引き下げ派。
「141点が基準だと100名近い降格者が出るやもしれぬ。降格者が多すぎると殿の職務に支障が出る恐れがあるぞ。」
魔導師長も引き下げに賛同した。
「幾らバカでも100名も降格者が出る事は無いだろう。」
宰相は引き下げに不満気味。
「例年なら有力貴族の推薦で決まる係長昇格が試験で決まる事に意義があります。この際基準点を引き下げても問題はありません。」
正直な所基準点など只の目安、どうでも良い。
「キラの言う通りだ。試験の目的は能力による昇格、殿に混乱が起こるのは拙い。」
「降格が0でもこの先3年間は試験の高得点者が昇格出来る。貴族の力を削ぐ第一歩と考えればそれだけで十分な成果だ。」
「では過去5年の最低合格点平均の5割では如何でしょうか。」
提案した俺自身も呆れる程低い基準点。
ゴブリンでも合格出来る?
流石にゴブリンでは無理か。
「何点になる?」
「過去5年の最低合格点の平均は300点満点で248点なので基準点は124点となります。」
「141点から124点になるか。1科目41点、初等科の生徒でも取れる点数だ。官吏試験としては如何なものかと思うぞ。」
宰相はまだ不満そう。
「バカな係長を降格させるのが目的ではありませんぞ。」
「それはそうだが。」
皆が陛下の顔を見た。
「124点とせよ。」
陛下の裁可で基準点が決まった。
試験まで3か月という時点で公正化特務部隊の定めた降格基準点141点を陛下の裁可により124点に引き下げると公示した。
1年前に141点と公示したので係長級の官吏はそれなりに勉強している筈。
124点に下がれば基準点に届かない者は殆どいないだろうが、少しでも勉強して貰えればありがたい。
「基準点の引き下げを承諾したですと。」
公特の隊舎に戻ると、アウトマンに怒られた。
「うん。」
「キラ閣下のお名前で公示した基準点を今更変えるとは何たること、閣下への侮辱行為ですぞ。閣下は腹が立たないのですか。」
「いや、俺は只の将軍だし。」
「将軍は陛下の代理ですぞ。」
「只の代理で陛下じゃ無いし。」
何でアウトマンが怒っているのかさっぱり判らない。
「閣下はもう少しプライドというものを持って下さい。」
フライドポテトは美味しいけど、プライドって美味しいの?
「俺は貴族じゃないからプライドなんて無い。結果が出ればそれで良い。」
「・・・・。」
アウトマンに呆れられた。
係長級試験の主目的は能力の有る平官吏の発掘。
この先3年間は試験の結果の上位から係長に昇格させると公示しているので、その間は貴族のコネで係長に昇格する無能官吏を撲滅出来る、予定だった。
結果は係長級の半数近い996人が124点に届かず不合格。
合格最低点の半分以下が係長の半数って何だよ。
驚き過ぎて目が点になった。
各殿の長官である卿達からも不満が出たが、陛下の名で出された基準点なので今更変更は出来ない。不合格となった係長が平官吏に降格され、空いたポストは同じ殿の平官吏を成績順に昇格させることになった。
各殿はかなり混乱したらしいが俺には関係ない、事も無かった。
3日に空けず暗殺者が襲って来る。
裏ギルド”蒼い梟“からも低位貴族が弱小闇ギルドに接触しているという情報が入っている。高位貴族の場合は子飼いの裏部隊が動いているらしい。
基本的に俺が特務部隊の隊舎を出る事は無いので殆どは寝室が狙われる。
窓を壊されると修理が面倒なので、最近はまだ寒いのに窓を開けたまま寝ている。
今日は屋上から下げたロープにぶら下がって、足を窓枠に掛けたまま毒矢を撃って来た。
寝室狙いは単独犯か2人組。
散々練習した雷魔法を使いたいが、剣を抜くには時間が掛かる。
仕方なく気弾で足を吹き飛ばす。
下に落ちれば隊舎を巡回警備している兵達が血止めをして尋問してくれる。
今日は部屋が汚れなかったので助かった。
血飛沫が部屋の中まで飛んで来ると浄化魔法でお掃除しないと臭い。
部屋の中に入って来た場合は結界魔法で拘束して壁の所にある紐を引く。
警備室の鐘が鳴って直ぐに警備兵が来てくれる。
後始末はKさん達がやってくれる。
皆が暗殺者に慣れて手際が良くなった。
公特は試験問題の作成だけでなく暗殺者対応も王国1の組織になった?
「もう嫌、辞める。」
「もう暫く我慢して下さい。」
最近は毎日書類仕事と貴族との面会ばかり。
要するに隊員の対応では納得しない傲慢貴族の苦情処理。
殆どが降格された自派の係長を元の地位に戻せという要請。
最近は貴族服を見ただけで腹が立つようになってイライラが溜まっている。
試験のノウハウは特務部隊で共有しているので、俺がいなくても問題無い。
アルトマンに駄々を捏ねる事が多くなった。
「ストンに帰る。」
「宰相閣下が追いかけて来ます。」
「そしたら他の国に行く。ポーション作ってのんびり暮らす。」
「はぁ。」
王宮の1室
部屋にはいつもの王宮メンバーとキラの副官であるアウトマンが集まっていた。
「アウトマン、キラ殿が将軍を辞めたがっていると言うのか?」
「はい。訓練の時間が無いので歳相応の力を付ける事が出来ないと嘆いておられます。」
「歳相応? 有能な官僚達を自在に使いこなす11歳などおらんぞ。」
「本人は歳相応の力が付いていないと苛立っております。このままではこの国を出る事すら有り得ます。」
「拙いな。」
「公正化特務部隊の組織化だけでなく、効率的な運用と部下達の人心掌握。冒険者としてだけでなく為政者としてもその力量は群を抜いておる。公正化が1段落したら軍務卿を任せようと思っていたが無理か。」
「そうなればこの国を捨てると思われます。」
「なんとしてもこの国に留め置かねばならん。」
「もうすぐ12歳、王立学院に入学させるのはどうじゃ。」
魔術師長が案を出した。
「しかし、学院には興味が無いと申しておったぞ。」
騎士団長が否定する。
「以前は貴族子弟が平民を追い出すからという理由じゃった。今の学院ならば興味を持たれるかも知れん。何と言ってもキラは魔法が好きじゃからな。」
「ともかく今のままでは拙いと思われます。貴族の反感も増しているので、一旦将軍職を解いて頂くのが宜しいかと存じます。」
アウトマンが食い下がる。
「貴族の反感か、この2ヶ月で襲われたのは32回。処罰された貴族が26家。王国には3000を超える貴族家がある。バカ貴族を整理するには丁度良い機会なのだがな。」
宰相はキラを不正貴族家を処罰する餌として使いたいらしい。
「打つ手を誤れば、キラ閣下が他国に移りますぞ。」
アウトマンが余を見つめた。
「最も大切なのはキラがこの国、出来るなら王都に留まる事である。その為に手段を尽くせ。」
余の言葉で会議が終わった。
「キラ将軍の任を解く。」
12歳の誕生日、将軍職を首になり王剣とマントを返却させられた。
表向きは各殿混乱の責任を取った形。
魔法学院や官僚組織に大ナタを振るい、その責任を俺に被せて罷免するという国王と宰相の計画通り?
元々任期は3年、もうすぐ期限の3年になる。
憎まれ役は承知していたし、将軍なんて嫌だったので首は大歓迎。
めっちゃ嬉しかった。
特務隊は宰相直属の組織として残った。
漸くストンに帰ってのんびり出来る。
ウキウキして残務処理していた俺に王宮への出頭命令が来た。
「随分と嬉しそうだな。」
「漸くのんびり出来ますから。」
「王立学院に入る気はないか?」
「ありません。」
前回同様に即答した。
「王立学院がどのように変わったか確かめてみたいとは思わないか?」
「思いません。」
何度も視察に行ったからどう変わったかは判っている。
「王立学院の図書館には魔法関係の本が沢山あるぞ。」
「学院長が貸し出し許可をくれたので、面白そうな本はもう読んでしまいました。」
この2年間、学院には何度も足を運んだ。その度に何冊も本を借りたので興味のある本は殆ど読み終えていた。
「「「・・・・」」」
「・・・学院在学中は王宮禁書庫にある魔法関係の本を閲覧出来るとしたらどうだ?」
皆が沈黙する中で陛下が声を掛けて来た。
王族以外閲覧禁止の禁書庫は・・見て見たい。
「・・・・」
ちょっと心が揺れる。
「平民の一般学生として普通の学生生活を送るのも良い経験になるぞ。」
「王立学院は全寮制だから住む所も食事の心配も無い。」
陛下と宰相が畳みかけて来る。
「・・・・。」
住む所と食事がある事でかなり心が揺れた。
「週末は自由だから冒険者活動も出来る。」
「飛び級制度があるからキラなら週に4日は休日に出来るな。」
「学院には最新の錬金機材がある。他では見られない優れものだ。」
「最新の魔道具もある。魔道具を作るのも楽しいぞ。」
「薬草園には大温室があって、珍しい薬草を色々と栽培しているそうだ。」
騎士団長達も口々に畳みかけて来た。
・・・負けた。
「行きます。」
「「「そうか。」」」
宰相が手配してくれた受験者用の宿屋に泊まる事になった。
目立たないように古着屋で買った平民服。
髪を切って髪型も変えた。
持ち物は非常時の持ち出しバック、じゃなくてダミー用のリュック1つ。
キャンディーや羊羹、3日分の水は入っていない。
小剣や革鎧はアイテムボックスの中。
「今の時期は受験生ばかりだから安心してね。」
宿のおばちゃんは親切だった。
学院の近くにある小さな宿屋には俺と同じ年頃の男の子ばかり。
女の子には女子用の宿屋があるらしい。
試験直前なので誰もが食事をしたらすぐに部屋に戻って勉強している。
俺?
試験勉強いる?
2年間試験問題を作る立場だったから試験については良く判っている。
学院の教授達よりも、いや恐らく王国1王立学院の入試問題に詳しい12歳?
問題はどうやって目立たない点数に納めるか。
試験は国語・算数・歴史・魔法実技・武術実技の5科目500点満点
350点前後が合格最低点。目立たないようにするには400点前後がベスト。
気弾と光弾は見せたくないので着火とチョロチョロと出る水にすれば魔法実技は30点。
剣術は普通に戦えば70点。他は全力で解かないとやばいか。
頭の中で得点計算をした。
試験当日。
受験票を手に俯き加減で校門をくぐる。
学院の職員や警備員には俺の顔を知っている者が多い。
髪型と服装は変えているが油断は禁物。
午前中の筆記試験は問題無く終わった。
教室から少し離れた庭の隅にマントを広げて座る。
目立ちのはダメ、絶対。
宿で用意してくれた昼食を食べて午後の実技試験に備えた。
実技試験の最初は魔法実技。
「加護の無い者はこっちだ。」
加護のある受験生は属性の攻撃魔法。
加護の無い者は生活魔法か魔力測定。
火と水の生活魔法を使って魔法実技の試験は終わり。
最後は武術の実技試験。
ここは頑張らないと合格が怪しくなる。
用意された模擬小剣を持って試験官の前に立つ。
試験官は大男で筋肉モリモリ。
剣を弾き飛ばされないように軽く身体強化を掛ける。
正面から打ち込むと剣をはじき返される。
まともに打ち合うと手が痺れそうに感じたので試験官の剣を受け流しながら反動を使った返し技。
剣筋を途中で変えるフェイントを防いだ隙を衝いての突き、と見せかけた切り上げ。
魔法拡大と騎士団長に教えて貰った瞬足や縮地を封印してもそれなりに格好は付いた筈。
「やめ!」
武術の試験が終わった。
「大したものだ。もっと身体強化の練習をすれば騎士団にも入れるぞ。」
「ありがとうございます。」
良い点数が取れたらしい。
今日は合格発表。
総合点と科目ごとの点数が発表されるので校舎の壁は得点の書かれた紙で埋まっている。
受験番号順なので探しやすい。各科上位40名は別の場所にも得点が発表されている。
俺の受験番号は2117番。
国語100点・算数100点・歴史100点・魔法実技30点・武術実技100点合計430点。
筆記試験が満点の科目は飛び級の試験が受けられる。飛び級試験に合格すると2年時の科目から履修出来るので進級した時に時間割に余裕が出来る。
剣術の満点は予想外だったが、430点なら目立たないはず。
魔法科の上位40名を見に行くと主席の492点を筆頭に40位で456点。
例年通りだった。
飛び級試験の申し込みをして宿に帰る。
翌日は午前中が飛び級の試験。
夕方には結果が発表され、満点の者は更に飛び級試験の申し込みが出来る。
飛び級試験も3科目満点。これで国語Ⅰ・算数Ⅰ・歴史Ⅰはパスできる。
次の飛び級試験を申し込んだ。
翌日の飛び級試験も満点。国語Ⅱ・算数Ⅱ・歴史Ⅱも単位が貰える事となった。
「気付かれなかったか?」
「たぶん。」
「平民にはキラという名は多いからな。」
平民は短い名前が多い。
文字を書けない者が多いので、名前だけは書けるようにと短い名前を付ける事が多いから。
「魔法は冒険者の秘匿か?」
魔法の30点も知っているらしい。
「まあそんなところです。」
合格の報告に王宮に行った。
目的は禁書庫の利用許可証。
「時々はここにきて学院の様子を教えてくれ。」
「わかりました。」
「禁書庫を案内しよう。」
王族以外は入れないので陛下自らが案内してくれるらしい。
結構な距離を歩く。
陛下の執務室や私室からは近いらしいが、正面入り口からは遠い。
重厚な扉の前に係員の机があった。
「この者に魔法関連の閲覧許可証を出した。」
「承知致しました。」
係員が大きな扉の鍵を開けると係員の机。その向こうの広い廊下に幾つかの扉があった。
「この者に魔法関連の閲覧許可証を出した。」
「承知致しました、どうぞこちらへ。」
係員に案内されて右端の扉の前に行く。
係員が鍵を開けるとまた机。
机の向こうには閲覧スペースらしく豪華なソファーとテーブル。その向こうに沢山の本が詰まった大きな書架が並んでいる。
「この者に魔法関連の閲覧許可証を出した。」
「承知致しました、どうぞ自由に閲覧下さい。本の名前や内容をおっしゃって頂ければご案内も致します。軽食とお飲み物もご用意出来ますが、飲食はあちらのスペースとなります。」
本を汚さないための決まりだろう。
「ゆっくりするが良いぞ。」
陛下は職務に戻るらしい。
「ありがとうございました。」
陛下が戻ったので書架を回ってみる。
めっちゃ本の数が多い。
どんな本があるかを確かめただけで1日が終わった。
禁書庫を出ると外はもう暗くなっていた。
空を見上げると雲の切れ間にほんの少しだけお星様が見える。
もっとお星様が増えれば明るくなっていいのにな、なんて思ってしまう。
光を、もっと光を!
”ギョエテとは俺の事かとゲーテ言い”、下らない川柳を思い出した。
そう言えば、先日特殊回復ポーションの素材が採れる森熊の上位種、ブクマを見つけた。
ブクマは希少魔獣なのでなかなか見つける事は出来ないが、新しいアイデアを生み出しやすいポーションの素材なのでこれからも探し求めて行こうと思っている。
投稿開始からもうすぐ1ヶ月。
疲れが溜まって来たのか、書き書きの速度が落ちてきました。
段々ヤケクソ気味になっていますが、もう暫く隔日投稿出来るように頑張ります。
読んで下さる方がおられる事が何よりの励みです。
これからも見捨てる事無く読んで頂ければ幸いです。




