13 鳥さんも俺に会えて嬉しそう?
「もうやだ、ストンに帰る。」
毎日が書類仕事と新隊員候補の面接。
魔法の考案も訓練も全くする暇が無くてイライラが溜まっていた。
「もう少しです、これが終わったら休暇を貰えるように交渉しますから。」
「ぷうぅ。」
「もう疲れた、ストンに帰る。」
「もうちょっとです、これが済んだら休暇を貰えるように交渉しますから。」
「休暇は半年ね」
「宰相に提案はしてみます。」
「ぷうぅ。」
「もう無理、ストンに帰る。」
「後僅かです、これが済んだら1ヶ月の休暇を貰えます。」
「休暇は3か月。」
「宰相に交渉します。」
「ぷうぅ。」
「キラちゃん久しぶり。」
「ただいま。」
ギルドのお姉さんは久しぶりでも平常運転。
ストレス一杯の王都を抜け出し、1年ぶりに懐かしいストンの街に戻って来た。
「キラ、将軍になったんだって?」
「おい、キラ閣下と呼ばないと不敬罪で死刑だぞ。」
「あはは、閣下なんて嫌です。いつも通りにキラでお願いします。」
「な、キラはキラなんだよ。」
「まあそうだな。」
顔見知りの冒険者さん達が笑顔で迎えてくれた。
この暖かい雰囲気が好き。
早く首になってストンに戻ろう。
「王都は大丈夫なの?」
「ちゃんと休暇を取ったよ。だって俺はもう10歳だから。」
入学試験公正化の褒美として無理やり2か月の休暇を奪い取った。
「そうか、キラちゃんはもう10歳になったんだ。」
「でも忙しくて訓練出来なかったから実力はまだ9歳。ストンで訓練を頑張って10歳に相応しい実力を付ける。」
この1年、狭い訓練場で練度が落ちない程度に魔法を撃っただけ。
思い切って魔法を撃った事は1度も無い。
「・・ま、まあ頑張りなさい。」
お姉さんに応援された?
「そうだ、この間から怪しい二人組がキラちゃんの事を調べているみたいだから注意してね。」
「二人組?」
「他人の振りをしているけどあれは仲間ね。25~6の痩せた茶髪の男と20前後の小柄な赤髪の男。」
「ありがとう、気を付ける。」
俺の休暇は3日前に許可が出たばかり。
飛行魔法があるので1日でストンに戻れたが、王都から追いかけて来るには早すぎる。
訳が判らないので気にしない事にした。
冒険者ギルドを出ると以前と同じように森へと向かった。
「今日も薬草採りかい?」
「うん。」
「気を付けて行くんだぞ。」
「うん。」
門番のおっちゃんに見送られて町を出る。
いつも挨拶してくれる優しいおっちゃん、昨日も1年ぶりなのに“お帰り”って言ってくれた。
おっちゃんの声を聞くだけど何となく癒される。
やっぱりストンの街が好き。
走って草原を抜け、森に入った。
森の様子も昔通り。
大きく深呼吸して懐かしい森の匂いを胸一杯に吸い込むと、帰って来たんだなって思えた。
昔通り薬草採取と魔獣討伐でのんびりと過ごす。
元気に飛んでいる鳥さんとカウンターバリアで遊ぶ。
鳥さんも俺に会えて嬉しそう、な事にしておこう。
懐かしい森猪や森蜥蜴さんとは剣や気弾で遊ぶ。
ブヒブヒ、ギャァギャァ楽しそうに立ち向かって来る。
森の果実が丁度熟れ頃だったので飛行魔法で浮かんで大量に収穫。
思わずニコニコしてしまう。
料理が出来ないのでそのまま食べられる果実は嬉しい。
上級薬師の資格を取ったので、薬師ギルドには中級と上級のポーションを売った。
上級ポーションは高すぎてあまり売れないらしく、在庫が売れてから次の納品をするように言われた。
上級ポーションが売れないという事は重傷者が少ない事だから良い事。
今日もいつも通りに森に入った。
薬草採取していたら探知魔法が反応した。
俯瞰で見ると1㎞程先の丘にある高い木の上に赤髪の男がいる。
こちらに向けた筒のような物を覗き込んでいる。遠眼鏡?
王都の露店で見た“服が透けて見える眼鏡”を思い出す。
カリナさんに止められて買えなかった事が未だに心残り。
って、今は遠眼鏡だ。
森に入ったから見失ったようで遠眼鏡が有らぬ方向に向けられている。
特に害は無いので放置。
いつも通りに剣や気弾を使って魔獣を倒す。
剣が折れた。10歳になったからか、剣の折れる頻度が上がっている。
カウンターバリアで鳥さんを落とす。
不審者よりも訓練。
今は10歳に相応しい力をつける事の方が大事。
あまりにも剣が折れるので自分で作る事にした。
アイテムボックスにあった赤竜の牙を取り出して結界で包み、結界に魔力を注ぎ込んで剣の形に成形する。
錬金術の魔法成形。
硬い。
なかなか変形が始まらない。
魔力を少しずつ増やしていく。
お祖母さんの本にあった記述だと急に魔力を高めると素材が割れてしまうらしい。
焦らずにゆっくりと注ぎ込む魔力を増やす。
牙が少しずつ形を変え始めた。
形が変わり始めた所で同じ魔力量を保つ。
同じ魔力量を長時間流し続けるのが魔法成形の胆。
ゆっくりと変形していく牙を注視しながらイメージしている完成形になるまで魔力を送り続ける。
少しずつしか変形しないのでめっちゃ時間が掛かる。
焦って魔力を増やすと割れそうな予感がするので我慢して今まで通りの魔力を流す。
じっくりゆっくり、焦らず諦めず。
漸く小剣に近い形になって来る。
滑らないよう柄に凹凸を付け、切れ味が増すように剣身の刃を立てる。
血を流す溝を作る。
疲れて来たけどもう少し。
頑張れ俺。
出来た。
「ふぅ。」
窓の外を見ると太陽がだいぶ傾いている。
昼過ぎに始めたけど、一度暗くなった覚えがあるので1日と4~5時間?
魔力連続放出の新記録達成。
10歳になったから出来たのかもしれない。
お腹が空いたので1階に降りて食堂に行った。
「ずいぶんと疲れているようだけど、大丈夫かい? いつまで経っても降りてこないから心配したよ。」
「済みませんでした。ちょっと手が離せない作業をしていて食事にも来れませんでした。」
「若いからって無茶してはダメよ。食事をしっかり摂らないと大きくなれないわよ。」
いつも優しくしてくれる宿のおばちゃんにも心配を掛けてしまった。
「はい、これからは気を付けます。」
働き過ぎはダメ、絶対。
反省。
初めて作った剣なので付与魔法も付けようかと思ったが、今日は寝る事にした。
働き過ぎはダメ、絶対。
俺は自制の出来る10歳だ。
朝食を摂ってから再び作業に入る。
魔法袋の作成で色々な付与魔法を使ったからある程度は慣れたけど、武器に付与魔法を付けるのは始めて。
今日はお祖母さんの本にあった付与魔法を付ける予定。
以前挑戦してみたが、ギルドで買った小剣では材質が悪くて付与が出来なかった。
赤竜の牙なら出来る筈。
お祖母さんの本をもう一度思い出して魔法陣を確認する。
まずは武器の基本的な付与魔法である武器強化。
テーブルの上に小剣を置き、粘土と紐を使って固定する。
指先から魔力を出して細く尖らせる。
作業開始。
刀身の根元に細く尖らせた魔力で魔法陣を刻み込む。
いつも感謝、冷静に、丁寧に、正確に。
みんなの夢が叶いますように。
昔好きだったアイドルグループの掛け声を思い出しながら、ゆっくりと時間を掛けて丁寧に魔法陣を刻んでいく。
「ふぅ。」
出来上がった魔法陣を確認する。
うん、大丈夫。
魔法陣を定着させる沼蛙の粘液の入った瓶を出し、魔法陣の上に丁寧に垂らす。
完全に魔法陣が隠れたら、ゆっくりと無属性の魔力を注ぐ。
粘液が光った。
布で粘液を拭い取ると魔法陣が消えていた。
小剣を両手で持って魔力を流す。
うん、成功してる。
付与魔法の付いた武器は魔力を流すと自己主張してくれ、何の付与かが持ち手に伝わる。
魔法の不思議。
鑑定魔法があれば1発で判るのだが、まだ何となくこんな感じというのは判ってもはっきりとした鑑定が出来た事は無い。
鑑定の練習もしているのだが、まだまだ練度が足りないのだろう。
剣を持った感じからもっと付与出来る感じがする。
うん、予想通り。
窓の外を見るともう夕方。
働き過ぎはダメ、絶対。
食堂に降りた。
今日も付与魔法。
魔法陣の文字は違うが手順は一緒。
大切なのは冷静、丁寧、正確。
今日の付与は自動修復。刃こぼれを自動的に修復する魔法。
覚えている魔法陣をもう一度確認して作業開始。
2度目なので作業が早くなっている。
練度が上がったのかもしれない。
魔法陣を刻み終えてじっくりと確認する。
うん、大丈夫。
粘液を塗って魔力を注ぐ。
光ったら粘液を拭い取って手に持ってみる。
うん、出来た。
まだお昼を少し過ぎた所。
食堂に行って昼食を頼んだ。
食後は宿の裏庭で素振り。
うん、いい感じ。
何度も素振りを繰り返すとどんどんと手に馴染んで来る。
素振りは今までも好きだったが、素振りでこんなにテンションが上がるとは思わなかった。
夕方まで素振りをし、夕食を摂って寝た。
今日は試し切り。
いつもの森に入る。
突っ込んで来た森猪に向かってすれ違いざまに剣を振り抜いた。
あれ?
振り向くと森猪が真っ2つになって倒れている。
手応えを殆ど感じられない程の切れ味だった。
切れ味に慣れるため森の木や魔獣を切りまくる。
かなり硬い筈の岩蜥蜴も一閃だった。
ん?
探知魔法が反応した。
俯瞰で見ると赤髪が先日と同じ木の上からこちらを見ている。
試し切りに夢中になってここが赤髪の監視領域という事を忘れていた。
失敗。
離れようとして方向を変えるとまた反応がある。
俯瞰で見ると茶髪。
足音を立てないようにゆっくりと慎重にこちらに向かって来る。
「はぁ。」
2人を迂回してストンに戻った。
冒険者ギルドでお姉さんに2人の事を報告。
報連相は大事。
ギルドでも警戒してくれるらしい。
部屋で寝ていると探知魔法に反応があった。
探知魔法は常時発動しているので寝ていても判る。
反応は2つ。
恐らく茶髪と赤髪。
ベッドの中でじっと待機する。
一人が向かい側の屋根の上に登った。
恐らく監視役の赤髪だろう。
もう一人は壁を登って俺の部屋に近づいて来る。
窓を開けて部屋に入って来た。
”結界“
ドタッ。
男の体を筒状の結界で包んだら俺の目の前に倒れた。
板状の結界を相手に巻き付けて筒状にする練習をしていたのが役に立った。
練習していた魔法が実戦で役に立つとめっちゃテンションが上がる。
手足が結界で拘束されているから動けない筈。
屋根の上の赤髪はまだそのまま。
結界で拘束するにはこの距離は遠すぎた。
長距離で気絶させる魔法も考えた方が良いのかな、そんなことを思っていたら赤髪が急速に離れて行った。
茶髪が捕まったと判ったのだろう。
アイテムボックスから出したロープで茶髪を縛り上げ、身体強化した腕で抱えてギルドに向かった。
ギルドは24時間営業なので誰かいるはず。
ギルドの夜間用呼び鈴を鳴らすとギルマスが出て来た。
「例の男か。もう一人は?」
「逃げた。」
「中に入れ。」
ギルマスに状況を説明する。
「暗殺のプロだな。」
男の持っていたナイフを見ていたギルマスが呟く。
「プロ?」
「毒が塗ってあるのは普通だが、このナイフは何度も研ぎ直してある。つまり、何年もこの仕事をしているという事だ。後は俺に任せろ、判った事があれば知らせる。」
「お願いします。」
取り調べはギルマスに任せて宿に戻った。
翌日、ギルマスに呼ばれた。
「奴は王都の裏ギルド”蒼い梟“の構成員だ。キラが将軍だと知って腰を抜かしてべらべらとしゃべってくれたよ。依頼主はソランダ伯爵夫人の侍女長。伯爵夫人の依頼かどうかは知らなかった。只の子供だと思って引き受けたらしい。赤髪は仕事の相棒で偵察役、茶髪が暗殺役だ。今回の件に関しては”蒼い梟“は関知していないらしいが、侍女長の依頼は何度も受けたことがあるらしい。今回はたまたまボスが居なかったので侍女長と面識のあった茶髪が小遣い稼ぎをしようと独断で引き受けたそうだ。」
「そうですか、ありがとございます。」
「あまり危ない事はするなよ。」
「はい。」
赤髪が王都に戻るのは10日以上先の筈。
それまではストンでのんびり休暇を楽しもう。
赤髪で思い出したのは遠距離で相手を気絶させる魔法。
イメージは前世のスタンガン。
俺には使えない雷撃魔法だが、魔法の付与なら出来る筈。
魔法の色を研究しているうちに魔法の色を変える事が出来ると気が付いた。
攻撃魔法としては使えないが、魔道具を作る時に流す属性魔力としては使える。
雷属性は黄色。
細く先を尖らせた黄色の魔力で魔法陣を刻む。
3度目なので武器への付与にもだいぶ慣れて来た。
4時間程で魔法陣を刻み終え定着させると早速実験。
宿の食堂で昼食を食べていつもの森に向かった。
木に向かって剣を差し出す。
”雷撃“
バリバリッ!
木に雷が直撃して折れて燃え上がる。
やばい、やばい、やばい。
慌てて結界で囲む。
はぁ。
何とか火が消えた。
岩場まで走り、岩に向かって“雷撃“を撃つ。
コントロールが結構難しい。
何度も撃って命中精度を上げながら魔力量の調整もする。
気絶させるつもりが殺してしまっては意味が無い。
夕方まで練習して宿に帰った。
翌日も岩場で練習。
命中精度は上がったが、岩は死んだり気絶したりしないので魔力量の調整が良く判らない。
一旦宿に帰り、翌日からは森の中で魔獣相手に魔力量の調整。
火事にならなくて相手を気絶させる魔力量を探る。
自分の魔法なら調整し易いが剣を通した魔法だとめっちゃ難しい。
慌てて結界魔法で消火したり、弱すぎて魔獣に逃げられる事を何度も繰り返す。
魔法の上達法は粘りと頑張り。
ある程度納得出来るまで更に3日掛かった。
いつものようにギルドに戻った。
ふと気が付くと顔見知りの冒険者達が俺の剣を見ている。
「どうしたの?」
「剣を替えたのか?」
「うん。」
「白い剣は珍しいからみんな素材を知りたがっていたんだ。ただちょっと聞き難くてな。」
聞き難い?
普通に聞けばいいのに。
「赤竜の牙だよ。」
素材なんてどうでも良いので普通に答えた。
「「「やっぱり。」」」
みんなが白い目で見ている。
「どうかした?」
「あのなぁ、そんな貴重な剣を見せびらかしてたらキラの事を知らない奴らに絡まれるぞ。」
「貴重?」
「赤竜の牙1本の値段でストンなら豪邸が5~6軒買えるぞ。」
「そうなの?」
「常識だ。しかも赤竜の牙を加工出来る鍛冶師は殆どいない。」
「まあ国宝級、いやそれ以上だろうな。」
そう言えば赤竜の牙って王家への献上品にも入っていた。
という事は貴重品なんだ。
「気が付かなかった。教えてくれてありがとう。」
「おう、くれぐれも気を付けるんだぞ。」
「うん。」
柄が真っ白な剣は珍しいから目立ったらしい。
俺の目標は目立たないようにこっそり生きる事。
剣身の方はどうしようもいないが、柄が白く無ければ佩いているだけなら目立たない。
色々と考えた結果、柄に薄くて滑り難いワーバーンの革を巻く事にした。
ずれないように接着剤の効果があるベト草の汁を塗り、白い柄全体にしっかりと革を巻く。
滑らない様、柄に凹凸を付けていたので結構な時間が掛かったけど何とか綺麗に巻けた。
色々な角度から見るが白い所は見えない。
黒い革だから派手さも無い。
うん、完璧。
出来上がった剣を持って宿の裏庭で素振り。
今までより柄がしっとりして手に馴染む。
良い感じで素振りが出来た。
翌日もいつもの素材採取。
薬師ギルドに納品して冒険者ギルドにも納品。
昨日教えてくれた冒険者達が居たので剣を見せた。
「白い柄だと目立つって教えて貰ったから黒い革を巻いてみた。これなら目立たないから大丈夫だよね。」
「「「・・・・。」」」
みんなの反応がおかしい。
「どしたの?」
「この漆黒の革って、・・何だ?」
「ワイバーン。」
「「「やっぱり。」」」
「キラ、ワイバーンもドラゴンだって知っているか?」
「あっ。」
「やっぱり気付いてなかったか。まあ白よりは目立たないからましだ。」
「国宝級が超国宝級になっただけだ。とんでもなく凄いのは一緒だからな。」
「鞘は安物だから多少はましだろう。」
「キラから剣を奪おうとする馬鹿が痛い目に合うだけだ。」
「そうだな、絡んでくるのはどうせよそ者だ。」
「絡んで来たら倒せば良い。」
「まあキラだからな。」
「うん、キラだな。」
みんなは納得してようだが俺には良く判らなかった。
2ヶ月の休暇を堪能して王都に戻った。
とりあえずストンのギルマスに教えて貰った”蒼い梟“のアジトに行くと、入り口に赤髪がいた。
「済みませんでした。」
俺を見つけた赤髪がジャンピング土下座。
この世界にも土下座があったのかと驚いた。
お祈りの姿勢も土下座に近いから不思議では無いか。
「・・・。」
「キラ閣下とは知らなかったのです。仲間が捕まった事をボスに報告した時にボスから相手がキラ閣下だと知らされました。閣下が王都に戻れば恐らくここに来るからそれまでずっと入り口で待っていろと命じられて昼も夜もここでお待ちしておりました。ボスがお待ちですのでどうぞ中に入って下さい。」
何か良く判らない事になった。
「キラ閣下がいらっしゃった。」
赤髪が建物の中に向かって大声で叫ぶ。
「キラ閣下がいらっしゃった。」
赤髪が大声で叫びながら俺を案内する。
後について、警戒しながらビルの中に入った。
「キラ閣下がいらっしゃった。」
赤髪が大声で叫びながら俺を案内する。
赤髪の後ろを歩いて2階への階段を上った。
探知魔法にはかなりの人数が見えているが、皆ドアから離れている。
2階奥の部屋の前に案内された。
中には3人、ドアから離れた奥にいる。
「キラ閣下をご案内しました。」
「入って頂け。」
赤髪が大きな声を上げると中から声がした。
赤髪がドアを開けると奥の机の前で土下座する3人が見えた。
中に入った。
「申し訳ありませんでした。」
「「申し訳ありませんでした。」」
真ん中のボスに続いて両脇の男も頭を床に付ける。
「頭を上げて下さい。それでは話が出来ません、向こうのソファーを使って良いですか?」
「勿論です。」
とりあえずソファーに座り、ボスに向かい側に座るよう手で促した。
ボスは奥の机から何枚かの紙を持って向かい側に座った。
「これが今までに伯爵家から受けた依頼です。」
そこには数人の使用人暗殺、数回にわたる毒薬の入手。3年前の即死毒の入手が書かれていた。依頼人は侍女長が殆どだが伯爵夫人の名もあった。
「依頼人というのは直接会ったと言う事ですか?」
「裏ギルドでは直接会った相手を依頼人とします。伝聞では何とでも言い訳出来ますのでどこの裏ギルドも同じやり方を採っております。」
「判りました。この書類は頂いても良いですか?」
「勿論です。知らぬこととはいえ、配下の者が閣下を暗殺しようとしたのです。これは配下の監督が不十分であった私の責任。私はどうなっても良いので、仲間の命は助けて欲しい。“深淵の闇”とは違って”蒼い梟“は構成員が多いのです。全員処刑となったら王都が混乱します。」
「“深淵の闇”?」
「王立学院の入学試験の後閣下が乗り込んで壊滅させた裏ギルドです。」
そう言えばそんなこともあった。“深淵の闇”っていう名前だったのか。
「判りました。話の分かる人を殺す気は有りません。もし今後何か有用な情報が耳に入ったら教えて下さい、勿論相応の謝礼は出します。」
「手打ち金については如何ほどになりましょうか。」
「要りません。情報を教えて貰えればそれで結構です。」
「本当にそれだけで宜しいのですか?」
「”蒼い梟“を潰しても他の誰かが縄張りを奪うだけでしょ。話し合いの出来るボスが統括している組織を潰す気は無いです。」
「有難う御座います。情報が入った時の連絡はどのようにすれば宜しいでしょうか。」
「この部屋にいる4人の誰かが俺の近く、まあ500m以内に来れば感知出来ます。出られる時だったなら俺の方から出向きます。忙しい時は後日ここに来ます。」
「判りました。これから宜しくお願いいたします。」
「こちらこそ。」
とんとん拍子で交渉が終わった。
特務部隊に戻りKさんに書類を手に入れた経緯を話して処置を一任した。
これ以上実家には係わりたくない、そんな気持ちだった。
継続して読んで頂きありがとうございます。
なるべくストレスを感じない物語を目指して頑張りますのでこれからも宜しくお願いします。




