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12 ひょっとして夜這い?

少し残酷な表現があります。

なるべく穏やかに書きましたが、描写が下手な作者なので気分を害するかもしれません。

気楽に楽しく読んで頂くのがコンセプトなので敏感な方は12話を飛ばして下さい。

13話は明後日投稿予定ですのでこれに懲りずに引き続き読んで下さると幸いです。

学院は夏の長期休暇に入ったが、長期休暇が終わるといよいよ本命の入学試験。

夏の暑さの中で特務部隊は最後の追い込みに入った。

学院には例年通りの準備を命じているので今頃は試験問題の作成で大忙しの筈。試験問題は理事会で選ばれた教授が問題を作成し、学院の職員が受験者分のコピーを作成する。

毎年問題漏洩があったのは明らかなので漏洩対策は万全にしなければならない。

問題漏洩を防ぐには学院職員に問題を作らせない事が最善。

準備を整えていよいよ試験問題の作成。

俺達が作るのは事前に陛下の裁可を得た正式の入学試験問題。

俺1人で作った問題なので漏洩する筈が無い。

もっとも、俺に全科目の問題を作れる筈は無いので、全て過去問のパクリ。

過去10年間の試験問題から採点し易い問題を選んで作った俺の苦心作。

採点も公特で行うので採点し易い問題でなければならないので選ぶのに苦労した。

宰相に頼んでコピースキルを持つ職員数名を1ヶ月借りる。

特務部隊幕舎から特務部隊司令部と名称を変えた大型テントにコピースキルを持つ官吏を寝泊まりさせ、外部との接触は一切出来ないようにして試験問題の原本をコピーした。

出来上がった試験問題は俺のアイテムボックスに保管するので漏洩の心配は無い。

コピー要員は予想外に受験者が増えた場合に備えて、試験終了まで特務部隊にお泊りして貰う事になっている。

入学試験の受付開始までに全ての準備が整った。

試験当日がちょっと楽しみ。

試験問題を入手したと思い込んでいる不正受験者は俺の作った問題を見たとたんに引っ繰り返る筈。

うん、試験の時は驚く受験生の顔を見に行こう。



準備が進む中で大事件が勃発した。

なんと俺が10歳になったのだ。

10歳に相応しい実力を付けたいが、訓練する余裕が無い。

新しい魔法を考える暇も無い。

広い大陸には日夜頑張って力を付けている10歳が大勢いる筈。

ちょっと悔しい。

ぐぬぬ。



いよいよ入学試験の受付が始まった。

今年の入学試験の受付は例年のように貴族と平民を分けていない。

受け付け順が受験番号なので各受験室は貴族と平民が混じっている。

これも採点時に貴族子弟に甘い採点をさせないための措置。

入学試験当日の朝、職員全員が集まった連絡会で入試問題の差し替えを発表すると非難轟々だったが、ずらりと並んだ公特隊員による威圧を背景に王剣を翳し、“陛下の裁可である”と言って職員達の反対を押し切った。



「何だこれは。」

「ふざけるな。」

「責任者を呼べ。」

俺のいた教室は試験開始の合図と同時に阿鼻叫喚。

やった~!

あちこちの試験場からも悲鳴が上がっているのが聞こえる。

「静かに! 私語は禁止だ。声を上げる者は即刻退場させる。」

王剣を翳して怒鳴りつけたら静かになった。

ざまあ!



翌日の実技試験はギルドから派遣された専門家も同席。

学院の試験担当官とは別に採点して貰っている。

あまりにも得点差が大きい場合は別の試験官が再試験をする。

例年に比べると3倍近い費用が掛かったが、不正教授を排除するための必要経費。

結果として、貴族科・騎士科・魔法科・官吏科の4科それぞれ120名、合計480名の合格者のうち平民は3分の1に当たる157名、前年の72名に比べると倍増以上だった。

Kさんによると問題作成に当たっていた教授の所には貴族家の使用人らしい男が頻繁に出入り、数人の理事と学院長の所には貴族家当主数人が訪れたらしい。



流石に俺の所には不合格となった息子を合格させろというバカ貴族は来なかったが、いつものお客さんがやって来た。

執務室の隣にある寝室で寝ていた時に常時発動中の探知魔法に何かが掛かって目が覚めた。

森の中で野営する時用に寝る時も探知魔法が切れないように訓練していたので、誰かが近づけば寝ていてもすぐに判る。

これで襲われるのは6回目、もう慣れた。

どうやって入ったかは判らないが、幕舎の奥にある俺の寝室近くまで2人が来ている。

暗視とまではいかないが、俺は暗闇でもかなりはっきりと動きが見える。

暗闇の中でじっと様子を伺っていたら、仕切りの布が跳ね上げられ、2人同時に瞬足を使って飛び込んで来た。

”気弾” ”気弾“ ”気弾” ”気弾“

今迄同様に賊を捕らえようと小さな気弾を撃ったのが間違い。

余程の熟練者なのかとっさに体を捻り、片手片足を撃ち抜くつもりが全て骨を外された。

瞬時に2人が反転して幕舎の外に飛び出す。

ポヨン。

暗闇の中で反転した侵入者の胸が揺れた。

「えっ。」

侵入者が女とは思わなかったので驚いた。

ひょっとして夜這いだった?

俺に思いを寄せている女の子?

めっちゃポヨンってしていたってことは・・・。

男の本能に惑わされて、反応が一瞬遅れた。

床に落ちているナイフには明らかに毒が塗ってある。

そうだよな、夜這いの筈はないよな。

って、そんな事を考えている場合か。

我に返り慌てて幕舎の外に出たが、片足を引き摺りながらも凄い速さで逃げる2人が遥か彼方で建物の陰に入る所だった。

今迄襲って来た者達とは力量に格段の差がある、相当な腕の暗殺者なのだろう。

気配探知で2人を追うが、周りには分厚い石造りの建物が多いので見失ってしまった。

手練れだけに逃す訳にはいかない。

魔力視で見ると路上に点々と血が落ちている。

人間の血には微量の魔力が含まれているので魔力の見える俺には暗闇でも血が見える。

血痕を辿って行くと、1軒の建物に襲って来た2人の魔力波動が有るのを見つけた。

遠聴で会話を聞くと傷の手当をしているらしい。

「少し様子を見て、大丈夫そうなら報告に行く。」

「判った。」

まともな会話はこれだけで、後は“クソ”とか“ガキが”といった罵りばかりだった。

アジトに行くなら待つのも一つの手。

いつもKさんに後始末を任せていたが、自分で暗殺者のアジトを見るのも経験になる。

気配探知をして待つ事2時間、2人が動き出した。

俯瞰魔法で2人を追う。

怪我のせいか、回り道をせずに真っ直ぐスラム街に向かっている。

スラム街に入るとそのまま進み、中程にある2階建ての建物に入った。

建物の近くまで行って探知魔法で2人を確認する。

遠聴魔法で中の会話を聞いた。

「失敗しただと!」

丁度ボスの部屋に着いたところだったようだ。

「縮地を使って同時に飛び込んだが、床に足が着いた瞬間に二人とも2発ずつ魔法を食らいやした。」

「足が着いた瞬間だと、そんなに早く魔法が撃てる筈あるか。何かの魔道具だ。」

ボスらしい声を聴いて索敵を強め、ボスの魔法波動を覚える。

万が一逃げられた時の保険。

「二人とも一瞬でナイフを持った手と片足を撃ち抜かれたのは事実だ。魔道具にナイフを持った手が撃ち抜けるか? ふざけるな、あんな化け物は見た事も聞いた事も無い。」

「あたしも降りるよ。とっさに反応したけど、あたし達で無ければ骨をやられてあの場で捕まってたわ。相手が悪すぎる、あれは人間じゃ無い。」

人を化け物呼ばわりするな、襲ったのはお前らだ。

俺は目立たない様にこっそりと生きているんだ。

「まあその傷では当分無理は出来ねえな。次の手を考えるしか無いか。」

そこまで聞いてから探知魔法を強化しながら建物に乗り込んだ。

”気弾” ”気弾“ ”気弾” ”気弾“ ”気弾” ”気弾“ ”気弾” ”気弾“

部屋の中で寝ている敵に向かって気弾を撃ちながら奥へと進む。

襲って来た2人がめっちゃ強かった事を考えていつもより少し強めの気弾。

奥の階段を上った所で2階のドアが次々と開いて男達が飛び出して来た。

”気弾” ”気弾“ ”気弾” ”気弾“ ”気弾” ”気弾“ ”気弾” ”気弾“

ボスの部屋に行くのが遅れるのは拙いので、強めの気弾で男達を爆散させた。

早くしないと肝心の相手に逃げられる。

ムッとする血の臭いで吐きそうになるが息を止めて進む。

2階奥の部屋に大勢の気配があった。

息が続きそうも無くなったので急いで決着を付ける事にした。

”気弾” ”気弾“ ”気弾” ”気弾“ ”気弾” ”気弾“ ”気弾” ”気弾“

部屋の外からドア越し、壁越しに中の気配に向けて気弾を撃ちこむ。

ドアを蹴破って中に入ると、中は血の海で生きている者はいなかった。

ちょっとやり過ぎちゃった?

まああいいか。

探知魔法で生存者がいないのを確認して息を止めたまま、吐き気を堪えて建物の外に走り建物から離れる。

「はあ、はあ、はあ。」

ずっと息を止めていたので大きく深呼吸した。

やばい、まだ気持ち悪い。

血の匂いは苦手。

すぐに後始末する必要があるものの、走ったら吐きそう。

ゆっくり歩いて警備隊の詰め所に向かった。



「こんばんは。」

挨拶は大事。

「こんな夜中に何の用だ。」

「子供が夜中に出歩いては危ないぞ。」

「えっと、公正化特務部隊のキラです。」

「公正化特務部隊? なんだそれ。」

まだ名前が売れていないらしい。

困った。

魔法袋から将軍のマントを出して羽織る。

「えっと、一応公正化特務将軍をやっています。これが陛下に戴いたマントです。」

ゆっくり回って背中に付いた紋章を見せる。

王家の紋章が刺繍された真っ赤なマントを見て警備隊の態度が変わった。

「しょ、将軍閣下でありますか。」

「まあ、とりあえずそうらしいです。」

「将軍閣下がどのような御用でしょうか。」

「えっと、寝てたら暗殺者に襲われた? 魔法で撃退したけど逃げられて、アジトに戻ったから殲滅した?」

偉そうにしている貴族相手ならペラペラしゃべれるのに平民同士だとうまく話せないって何なんだ?

腹が立つと弁も立つ?

殲滅が終わって落ち着いたから口も回らなくなった?

判らん。

「はあ?」

「現場の見分と捜索に数人? 公正化特務部隊にも来るように連絡。」

「承知致しました。お前は寝ている隊員を起こせ。お前は公正化特務部隊に連絡だ。」

連絡に行けと言われた兄ちゃんが跋が悪そうにしている。

「・・隊長、公正化特務部隊というのはどこにあるのでしょうか?」

隊長さんも跋が悪そうに周りの隊員を見回した。

隊員達が一斉に目を逸らす。

「・・・恐れ入りますが、公正化特務部隊とはどこにあるのでしょうか。」

隊長さんも知らなかったようだ。

まあ出来たばかりだから仕方ないよな。

「王城広場。」

「王城広場だ、馬を使って良いから急げ。」

「はっ。」

兄ちゃんが慌てて外に出て行った。



準備を整えた警備隊と一緒にアジトに戻った。

「ちょっと血の匂いがするけど我慢してね。とりあえずは各部屋の人数確認? 書類が有ったら確保して。」

「承知致しました。」

隊長が6人を連れて建物に入り、すぐに3人が戻って来て建物の陰で吐いている。

まあそうなるな。

俺?

入り口からかなり離れた所にテーブルと椅子を出してお茶を飲んでいる。

中には入りたくないもん。

入り口の近くは血の匂いが酷いから離れた所にした。

魔獣の解体も血抜き魔法を使うので血の臭いには慣れていない。

もう一度建物に入ったら絶対に吐く自信がある。

そうこうしているうちに副官のアウトマンが特務部隊8人を連れて到着した。

警備隊の増援も来たので作業が捗る。

「暗殺屋さんに襲われた。2階奥の部屋にあるボスの机の後ろに隠し部屋がある。棚をどければ入れる? ここにいるからダメだったら呼んで。」

重要な作業はアウトマンに丸投げ。

俺はアイテムボックスからクッキーを出して2杯目のお茶。

騒がしいからかスラムの住民達が出て来て遠巻きに眺めている。

警備隊によって次々と死体?が表に運び出される。

爆散しているので大きな袋やシーツにくるまれた何かにしか見えないが、袋も布も血だらけ。

こっちに近づけるな。

血の匂いが漂って来たので風魔法で追い払った。

テーブルを離れた場所に出した俺を褒めてやりたい。

うん、気絶させる魔法が欲しいな。

夜が明けた頃、漸く捜索が終わったアウトマン達特務部隊員が大きな袋を幾つも抱えて出て来た。

「捜索が完了しました。隊に戻って書類等を精査しますので閣下も一緒にお戻りください。」

「うん、お疲れ。」

後日、見つかった書類をKさん達が精査した結果、幾つかの貴族家が無くなったらしい。





国王の執務室


「キラ将軍が暗殺者に襲われました。」

宰相から驚きの一言があった。

「なんと。将軍はどうした、無事だったのか?」

「暗殺者に手傷を負わせ撃退したそうで御座います。」

「そうか、それは重畳。」

ほっと一息ついた。

「将軍は撃退した暗殺者の後を付け、暗殺者を送り込んだ裏ギルド“深淵の闇”の本部を急襲、これを殲滅致しました。」

「特務部隊で乗り込んだのか?」

「いえ、単身で乗り込んだそうです。」

「なんだと?」

「本部にいた裏ギルド構成員43名を殲滅したそうです。」

「一人で43人?」

「通報を受けて現場検証を行った警備隊長によりますと、裏ギルド員は全員が粉砕されており鑑定魔法によって漸く名前や経歴が判明したそうです。ボスと幹部3名を含め指名手配されていた者が6名、その他の者の全員が殺人などの凶悪犯でした。」

「粉砕?」

「壁にも肉片がこびりついていたそうですから、爆散と言った方が適切かもしれません。」

「一人で凶悪犯43名を爆散、・・・。」

「廊下を歩きながら魔法を使い、部屋にいたギルド員を壁越しに倒したようです。」

「・・・・。」

驚いて言葉が出ない。

「こちらが現場検証を基に作られた現場の絵図で御座います。こちらが1階でここから入ってここを歩きながら両脇の部屋にいたギルド員を殺害しました。奥の階段を上がると2階で、こちらの絵図になります。登り口からこの4つの部屋のギルド員を殺害。奥の部屋にいたボスと幹部3人、将軍を襲った暗殺者2名他3名のギルド員をボス部屋前の廊下から壁や扉越しに殺害しております。壁や扉には3㎝程の穴が無数にあったそうです。」

「廊下から壁越しにか。」

「精度の高い探知魔法を使いながら攻撃魔法を発動したものと思われます。」

「将軍の魔法属性は何だ?」

「判りません。」

「どういうことだ?」

「冒険者の秘匿と言う事でギルド長も口を噤んでおります。恐らく今回使ったのは以前盗賊27人を殲滅した時に使った魔法の上位魔法かと思われます。」

「そうか。」

冒険者の秘匿ならば仕方が無い。

「ボスの部屋の奥に隠し部屋が有りました。金や宝石と共に見つかったのがこちらの書類です。」

宰相が書類の束を差し出した。

書類を見ると侯爵家や伯爵家の当主や執事、王家御用達大商人達の署名入り契約書類。

依頼内容は暗殺や誘拐、放火などのほか毒の調達や宝飾品や書類の盗み出しなど。

「貴族の名前が多いな。」

「壊滅した裏ギルド“深淵の闇”は超一流の暗殺者が大勢所属する王都でも1、2を争う大きな組織で、警備隊が長年追い続けながらもいつも今一歩の所で捕り逃していた因縁の相手だそうです。」

「それ程の組織を一瞬で壊滅させたか、・・・。」

「はい。」

「将軍は知力や組織力だけでなく戦闘力も凄まじいという事か。」

「御意。」





今年度入学試験の報告書を持って王宮に行った。

いつもの部屋にはいつもの4人組。

「おう、43人ぶち殺したって?」

部屋に入るなり騎士団長に笑顔で声を掛けられた。

「物騒な言い方しないで下さい、襲われたから反撃しただけです。」

「壁越しにミンチにする魔法って奴を見せてくれんかのう。」

魔術師長が興味津々の様子。

「冒険者の秘匿です。」

「それは残念じゃ。どころで、キラの魔法属性は何なんだ?」

「ストンのギルマスには秘密にしておけと言われていますので、ここだけの話にして貰えますか?」

魔術師長が陛下を見る。

陛下が頷いた。

「実は加護無しなので属性魔法は使えないんです。」

「「「何だと!」」」

「いや、まったく使えない訳では無いのですが、火魔法は枯葉に火が着けられる程度、水魔法はチョロチョロと流れる程度、風魔法は細い枝切れる程度で土魔法は小さな土壁程度なんです。」

「ではどうやって裏ギルドの連中をミンチにしたのだ?」

「何とか攻撃魔法が使えないかとお祖母さんが遺した魔法書を参考に無属性の魔法を色々と組み合わせながら試していたら、何となく出来そうな気がする組み合わせを見つけたんです。発動出来るまでには何万回も失敗しましたが、諦めずに頑張って漸く使えるようになった魔法です。それ以上詳しい事は冒険者の秘匿ということでお願いします。」

この4人が相手だとすらすらと言葉が出る。

何で? 

俺に仕事を押し付ける4人だから呼びつけられただけで腹が立っていた? 

うん、納得。

「無属性の組み合わせという訳か。キラは天才だと思っていたが努力家でもあったのだな。」

努力するのは前世から好きだったけど、楽しいから頑張れるだけで嫌な事はやらないよ。

努力家というよりは好きな事に熱中する遊び好きの方が近いと思う。

「それはともかく、入学試験で不合格となった受験生の中には高位貴族の嫡男や大商人の子弟が数多くいた。学院長や理事の所だけでなく儂の所まで苦情が来た。」

「あははは。暗殺者よりはましだと思いますよ。」

「それはそうだが、殆どが“急に試験問題を変えるのは不適切“だとか”試験をやり直せ“だ。全くどの面下げて文句を言うのかと腹が立って仕方なかったぞ。」

「それはそれは。」

「しかもそれを陛下にお話したら大笑いされた。直接苦情を言われた儂の身にもなって貰いたいものだ。」

「ご愁傷さまです。」

「ともあれ今回の入学試験公正化は大きな成果を上げた。そこでキラに陛下から褒美が与えられる事となった。」

褒美はいらない。

「これ以上目立ちたくないので辞退します。」

「そう言うな。褒美は官吏の任免権じゃ。」

「はあ?」

「キラに官吏の昇格、降格、罷免の権限を与える。これを使って官吏登用試験の公正化に取り組めとの仰せである。」

何じゃそれ、全然褒美になってないじゃん。

俺の仕事を増やすな。

「謹んで辞退し・」

「心配ない。王立学院の公正化は今まで通り続けて貰う。」

「いや、そうじゃな・・」

「大丈夫だ、隊員には報奨金を与える事が決まった。公正化特務部隊の増員も検討している。何の心配もいらぬ。」

ダメだ、このおっさん俺の言葉を聞く気が無い。

「はぁ。」

溜息しか出ない。

「まずは何から手を付けるのが良いであろうか。この場であれば何を言っても咎める事はせぬ。キラの考えを述べて見よ。」

「・・・まずは官吏登用試験の公正化に取り組むという姿勢を周知させる事が肝心かな。最初は王立学院の持っている成績上位100人の推薦合格枠から定期試験の公正化後急激に成績を落とした生徒を外す?」

「成程、王立学院公正化を使うか。良い考えだ。次はどうする。」

「えっと、・・今後は能力に応じて昇進出来る事を官吏全員に知らせる為に1年後に入殿5年以上の希望者と係長級全員に試験を行うと通告する。試験は過去10年間の官吏登用試験問題から抜粋して、優秀だった者は係長級に昇進、過去の合格者平均点の5割以下や試験を受けなかった係長級は降格する?」

1年の準備期間があれば能力の有る官吏なら余裕で5割以上は取れる筈。

「無能な官吏を降格して有能な官吏を昇進させる事を知らしめるのだな。」

「昇進における貴族や上司の介入を無くすため。」

「貴族や上司の推薦では無く、高得点の者から順に昇格させるということか。」

「はい。いずれは課長級、部長級へと試験を拡大する。各殿の卿や次官は陛下の任命ですのでお任せします。」

「首にしたい奴は山ほどおるが、なかなか難しくて困っておる。いよいよとなったら方策を相談させてくれ。」

「はぁ。」

それこそ陛下や宰相が何とかしろ。

10歳児を当てにするな。

「それから官吏登用試験の問題作成と試験監督を特務部隊で行う。受験番号も申し込み順で答案用紙には受験番号だけで名前を書かせない。」

「どういうことだ?」

「どの答案が貴族子弟の答案かが判らないようにする。」

「成る程。受験番号だけでは改ざんの仕様が無いか。」

「受験番号と名前の照合、合格者名簿作成を特務部隊で行って合格者発表日まで保管、当日の朝発表場所である総務殿に届ける。」

「承知した。各殿と相談してみよう。」

係長級に試験を受けさせることについては各殿から色々と反対があったらしいが、陛下の裁可で俺の案が採用された。

特務隊の増員も認められ、アウトマンを中心とする現公特隊員達にも手伝って貰って人選が開始された。

官吏登用試験は数万人規模なので現状の公特隊員だけでは手が回らない。


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