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23 魔王が即位する事に決まった

春になった。

いつも通りに定例の見回りをしていたら、ミュール王国の東南部で国境を挟んで睨み合っていた筈のコマール王国軍が、国境を超えてミュール王国に侵攻しているのを見つけた。

総勢およそ10万、装備から見ると精鋭部隊らしい。

後方には兵站を積んでいるらしい多数の馬車を従えている。

不思議な事に、ミュール王国側防衛拠点であるフロズン侯爵領の国境砦は、門を大きく開けてコマール兵を通している。

すぐに通信で魔王に報告した。

“そのまま偵察を続けて頂戴。 特に東南部の街とドウデルの動きに注意してね。 こちらで何か掴めたら連絡するわ。”

“はい”



コマール軍の先頭を見るとミュール国王のいるアイスを目指しているらしい。

途中にはフロズン侯爵の領都があるが、門を閉じたままで、コマール軍を迎え撃つ気配は無い。

ミュール王とコマール王の間で何らかの取引が行われたのかも知れない。

食糧などの兵站を乗せたらしい多数の馬車は、緊張感も無く堂々とミュール王のいるアイスに向かっている。

コマールと仲が悪いと聞いていたフロズン侯爵が、領都の門を閉じたまま一切兵を出さずに見逃している事自体が異常だった。



ドウデルの様子を見に南へ飛んだ。

ドウデル国境に配備されているコマール軍には殆ど動きは無い。

どうやらコマール王国はドウデル国境に配備された軍はそのままにして、ミュール王国との国境に配備されていた部隊の半数程度で進攻したらしい。

ミュール王国を攻めるにしてはあまりにも数が少ない。

判らん。

コマール国境に配備されているドウデル軍にも動きは無い。

コマール王国がミュール王国に侵攻した事に気付いていない?

難しい事は判らん。



1ヶ月後、コマール軍がアイスの街に到着した。

アイスの大門が大きく開かれていたので、やはりミュール王とコマール王の間で何らかの取引があったのだろう。

普通の行軍よりも兵站を積んだ馬車の数が多かったのは取引の為かも知れない。

ドウデル王国が気になって見に行ったが、コマール国境やミュール国境に配置された軍に動きは無かった。



2ヶ月後、夏の盛りに驚愕の知らせが届いた。

“前王を殺害して王位を簒奪したブーツに天誅を下し、ミュール王家を滅ぼした。 これより先、旧ミュール王国はコマール王の支配下に入る。 コマール王に恭順の意を表したミュール貴族には領地を安堵しコマール王国の爵位を授ける。 恭順の証として侯爵家以上は白金貨10万枚、伯爵家は白金貨5万枚、子爵家は白金貨1万枚を献上せよ。 半年以内に献上しない場合は反逆者として処刑する。 コマール国王オレガ=モット=コマール”

渡船を使ってミュール川を渡った使者達が西部貴族連合の貴族達にも届けたらしい。



「多分家族会議になるけど、その前に東部の様子とドウデルの様子を見て来て頂戴。」

魔王から命令が下った。

「うん。」

キラの領館に転移して飛行魔法でドウデル国境に跳ぶ。

ドウデル軍には動きが無い。

コマールに飛ぶと、ドウデル側にいた兵の半分程がミュール側の国境砦に向かって移動している。

ミュール側のフロズンの街には周辺から兵を率いた貴族が集まりつつあった。

フロズンの西にある交通の要衝、要塞都市のファンにも周辺から寄り子らしい貴族が兵を率いて集まって来ている。

どちらも臨戦態勢だが、戦いか恭順のどちらお選ぶのかは今の所判らない。

ミュール王ブーツが殺害されたアイスは、門を閉ざして軍備を固めており、街壁にはコマール王国の旗が並んでいる。

城壁の上に立つ兵の数が以前より増えていた。



北に向かって飛んだ。

短い間だが王都となっていたクーラーの街の外に、クーラーに侵攻して来た帝国軍と北東部貴族であるストーブ派らしい貴族軍が同じ陣に布陣して居た。

およそ10万位? 

ミトン経由の軍とヒート経由の軍が合流したらしい。

元々は合計48万だったので相当減ってはいるが、まだ結構な数が残っている。

伝令らしき馬が幕舎を出てクーラーの街に入って行く。

クーラーの街には大勢の伝令が出入りしている。

30分程すると、伝令がクーラーの街から帝国軍の陣へと走って来た。

何らかの交渉中らしい。

幕舎の中は厳重な遮音結界が張られているようで遠話でも話を聞けなかった。



東北に飛び、東部の大貴族コータツ侯爵の領都を見る。

北側にポツポツと魔獣が姿を見せているが、まだ囲まれる程ではない。

ここにも伝令が激しく出入りしている。

とりあえずソランダに転移した。

「ハリー、みんなを運んで。」

魔王は俺使いが荒い。

帰った途端に“ヘイ、タクシー”だった。



「貴族連合の幹部には明日迎えに行くと早馬を出した。」

明日も“ヘイ、タクシー”らしい。

西部貴族連合の幹部貴族の領館でも、まだ通信の魔道具は設置出来ていないので不便。

通信の魔道具はめっちゃ希少な素材を使っているので、高価な上に作るにも時間が掛かる。

その上作れるのは俺と父さんだけなのに、父さんには作る気が全く無い。

魔導具作りより、母さん達の膝枕の方が良いらしい。

父さんは、魔法でも魔道具でも新しいものを作るのは好きだが、同じものを幾つも作るのは嫌い。

その辺は俺も父さんと一緒。

その上、俺には工房に籠って魔道具を作る程の暇は無いので不便だけど仕方がない。

偵察のお仕事は結構時間が掛かるのだ。



「ハリー、東部の様子はどうだ。」

いつものように進行役はアシュリーお祖父さん。

状況説明の前に、各勢力の情報を知らせておきたいらしく、偵察の報告を求められた。

「ドウデルは動きなし。 コマールは追加の軍を送る準備? ファンとフロズンは兵を集めている。 アイスは臨戦態勢。 クーラーは街の外に帝国軍と東部貴族軍10万が布陣してクーラーの街と連絡を取っている。 コータツ周辺には、まだ魔獣が少ないから兵を出すかもしれない。」

「ソランダ殿の方はどうだ?」

前ソランダ伯が立ち上がった。

「息子は前線で指揮を執っているので、私が代理で来させて貰った。 ミトン領に入った帝国軍10万がソランダ領との領境に陣を構え始めた。 遠くから見た所だが、半数は帝都守護兵を中心とした精鋭部隊と思われる。 領境の川を挟んではいるが、浅い所なら渡河が可能なので、態勢が整い次第侵攻して来ると思われる。 ソランダ軍は領兵5千と寄り子の領兵6千の1万1千。 シャリー殿とリヌ殿が警戒に当たってくれているが、出来るなら援軍を要請したい。」



前ソランダ伯爵は父さんの国外退去に抗議して王家の不興を買い、隠居して嫡男のクランドールに爵位を譲っている。

今は領父として領地経営の助言をしていると聞いた。

父さんは子供の頃に除籍されたので貴族籍上の繋がりは無いが、父さんの実父なので俺のお祖父さんでもある。

魔法貴族なので戦略は苦手らしいが息子の現伯爵は極めて優秀らしい。

まあ、シャリー母さんとリヌ姉がいれば大丈夫だと思う。

下手に手助けに行ったら怒られるような気がした。



「ソランダ殿には苦労を掛ける。 今日集まって貰ったのはコマール王の書簡について明日西部貴族連合の幹部会を開く為の打ち合わせだ。 一番の問題は、ミュール王家が滅びたという事は我々の爵位には何の価値も無くなったと言う事だ。」

いつも通りアシュリーお祖父さんの状況説明で始まった。

「そうなの?」

魔王が首を傾げる。

「寄り子はともかくとして、高位貴族は王家の直臣。 王家が無くなればそれぞれの地方を支配しているだけの豪族領主、つまり土豪となる。」

「・・・。」

判らん。

姉さん達も判っていないらしい。

「要するに、周辺国の草刈り場という事だ。」

ドランお祖父さんが口を挟んだ。

「どゆこと?」

魔王がまた首を傾げる。

「我が国の爵位を与えるから傘下に入れと言う誘いが周辺国から殺到する。貴族は爵位にこだわりがあるから応じる貴族も出る筈だ。」

「どうすればいい?」

「ルナが新しい王家を作って西部貴族連合の貴族達を改めて貴族に任命すれば良い。」

「私が? アシュリーお祖父さんの方が良いと思うわ。」

「儂はミュール王家に近すぎる。新しい王家を作るなら西部貴族連合の盟主であり、最強の12人姉弟の長女として戦功をあげたルナが適任だ。」

「領配もドウデルの第3王子、ルナが王となればドウデルとの関係も良くなる。」

辺境伯もアシュリーお祖父さんの意見を支持した。

「私が王?」

「学院にいる時も魔王だったじゃない。」

リヌ姉が口を挟んだ。

「誰が魔王よ。学生達が勝手に呼んでただけでしょ。」

「みんな魔王で納得してたわ。」

「そうか、魔王か。 新王に相応しいじゃないか。」

辺境伯迄納得して、うんうんと頷いている。

「ともかく王が必要な事は確かだ。そして一番ふさわしいのはルナという事も間違いない。」

皆も頷いて、魔王が即位する事に決まった。


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